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現代数学解説
文献あり

超積分の定義と基本的な定理

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$$\newcommand{id}[0]{\mathrm{id}} \newcommand{ilim}[1]{\displaystyle \lim_{\stackrel{\longrightarrow}{#1}}} \newcommand{qinteg}[0]{\displaystyle \:\cancel{^{}}\!\!\!\:\:\:\llap{\int}} $$

この記事は, 7777777 氏によるタグ 超微分 に関連しています.

はじめに

目標は超積分を厳密に,数学的な意味を持つものを定義することである.
さて,超積分に求められる性質を挙げてみる.

  1. 超積分は超微分の逆にあたる操作である.
  2. 超積分はある範囲の面積である.
  3. 超積分の操作は演算をあまり変えない.

(1)は微分積分学の基本公式の超微分,超積分バージョンである.(2)は定積分は面積を求めることの類似,(3)は積分が加法的であることに関連する.
簡単な証明,計算が複雑になりそうなところは読者に任せたいと思う.
以下$ \mathbb{R}_{>0} := \{ x\in\mathbb{R} \mid x>0 \}$とし,単純化のため関数を$f:\mathbb{R}_{>0}\supset [a,b] \rightarrow \mathbb{R}_{>0}$として話を進める.

超積分の定義

定義のIdea

超微分のモチベーションは演算レベルを上げた微分を考えたいというものであった.[1]
同じように超積分もRiemann積分の演算レベルを上げたものとして定義してみよう.

分割

有界閉区間$[a,b]$の分割とは,
$$a=a_0< a_1<\cdots < a_{n-1}< a_n=b$$
を満たす有限個の点列である.これを$\Delta=\{a_0,a_1,\cdots,a_n\}$と書く.

$\Delta$の幅を$\delta(\Delta):=\max\{a_j-a_{j_1}\mid j=1,2,\cdots,n \}$と定義する.

超Riemann積

$\Delta$$[a,b]$の分割とする.$ \xi_j $を区間$[a_{j-1},a_j]$からとり,それを並べたものを$\xi=(\xi_1,\xi_2,\cdots,\xi_n)$と表し,$\Delta$の代表系という.また,$\displaystyle M_j=\sup_{x\in[a_{j-1},a_j]}f(x)$$\displaystyle m_j=\inf_{x\in[a_{j-1},a_j]}f(x)$とおく.このとき,次の積を定める.
$$P(f,\Delta,\xi):= \prod_{j=1}^{n} \left( \frac{a_j}{a_{j-1}} \right)^{f(\xi_j)} $$
$$ \overline{ P } (f,\Delta):= \prod_{j=1}^{n} \left( \frac{a_j}{a_{j-1}} \right)^{M_j} $$
$$ \underline{ P } (f,\Delta):= \prod_{j=1}^{n} \left( \frac{a_j}{a_{j-1}} \right)^{m_j} $$
$P(f,\Delta,\xi)$$f$ の分割$\Delta$と代表系$\xi$に関する超リーマン積と呼び,$ \overline{ P } (f,\Delta)$$ \underline{ P } (f,\Delta) $を分割$\Delta$に対する上超Riemann積,下超Riemann積と呼ぶ.

定義から$\underline{ P } (f,\Delta) \leq P(f,\Delta,\xi)\leq\overline{ P } (f,\Delta)$である.
$[a,b]$の分割$\Delta'=\{b_0,\cdots ,b_m \}$を任意にとる.$\Delta$$\Delta'$を合併して得られる$[a,b]$の分割を$\Delta''=\Delta\cup\Delta'=\{c_0,\cdots,c_q \}$と表すことにする.$\Delta''$の代表系$\xi''$を一つとる. いま,$a_{k-1}=c_h$$a_{k}=c_p$であったとすると,$[a_{k-1},a_k]$$\{c_h,c_{h+1},\cdots,c_p\}$で分割され,$m_k \leq f(\xi''_j)$$h\leq j\leq p$なので,
$$\left( \frac{a_k}{a_{k-1}} \right)^{m_k}=\prod_{i=h+1}^{p} \left( \frac{c_i}{c_{i-1}} \right)^{m_k}\leq\prod_{i=h+1}^{p} \left( \frac{c_i}{c_{i-1}} \right)^{ f(\xi''_j)}$$
故に$\underline{ P } (f,\Delta) \leq P(f,\Delta'',\xi'')$を得る.同様に考えると$P(f,\Delta'',\xi'')\leq\overline{ P } (f,\Delta')$ となるので,$\underline{ P } (f,\Delta) \leq\overline{ P } (f,\Delta')$が言える.
$[a,b]$の分割$\Delta$に対応する$\underline{ P } (f,\Delta) $の全体の集合は上に有界で,$\overline{ P } (f,\Delta) $の全体の集合は下に有界である.
$\displaystyle\underline{ Q } (f):=\sup_{\Delta}{\underline{ P } (f,\Delta)}$$\displaystyle\overline{ Q } (f):=\inf_{\Delta}{\overline{ P } (f,\Delta)}$とおく.$\underline{ Q }(f) \leq \overline{ Q } (f) $である.

超Riemann積分

記号は上記のものとする.$\underline{ Q }(f) = \overline{ Q } (f) $が成り立つとき,$f$は区間$[a,b]$で超Riemann積分可能,単に超積分可能,超可積分といい,値$Q(f)=\underline{ Q }(f) = \overline{ Q } (f) $を超定積分といい,$\qinteg^{b}_a f(x) \ \mathrm{q}x$で表す.
また,$\qinteg^{a}_b f(x) \ \mathrm{q}x= \left( \qinteg^{b}_a f(x) \ \mathrm{q}x \right)^{-1} $として定める.

任意の$\varepsilon>0 $に対し,ある$\delta>0$が存在して$\delta(\Delta)<\delta$ならば$\Delta$のどの代表系$\xi$をとっても$|P(f,\Delta,\xi)-P|<\varepsilon$が成り立つとき,$\displaystyle \lim_{\delta(\Delta)\rightarrow 0} P(f,\Delta,\xi)=P$と書かれる.またこのとき,$\underline{ Q }(f) \leq P\leq \overline{ Q } (f) $である.このことから次のことが直ちに分かる.

$f$は区間$[a,b]$で超積分可能であることの必要十分条件は$\displaystyle \lim_{\delta(\Delta)\rightarrow 0} P(f,\Delta,\xi)$が収束することである.

$f,g$ は区間$[a,b]$で超可積分とする.

  1. $\qinteg^{b}_a f(x) \ \mathrm{q}x>0$
  2. $f+g$$[a,b]$で超可積分で$\qinteg^{b}_a f(x)+g(x) \ \mathrm{q}x=\qinteg^{b}_a f(x) \ \mathrm{q}x\cdot \qinteg^{b}_a g(x) \ \mathrm{q}x$
  3. $a< c< b$のとき,$f$$[a,c]$$[c,b]$で超可積分で$\qinteg^{b}_a f(x) \ \mathrm{q}x=\qinteg^{c}_a f(x) \ \mathrm{q}x \cdot\qinteg^{b}_c g(x) \ \mathrm{q}x$
  4. $[a,b]$上で$f\leq g$ならば$\qinteg^{b}_a f(x) \ \mathrm{q}x\leq \qinteg^{b}_a g(x) \ \mathrm{q}x$

(1)を非負性,(2)を指数性,(3)を区間乗法性,(4)を単調性と呼ぶことにする.

区間$[a,b]$$f(x)=c$が定数であるとき,超定積分$\qinteg^{b}_a c \ \mathrm{q}x$を定義から求めよ.次に定理1を使い求めよ.

$f$ は有界閉区間$[a,b]$で連続とすると,$f$は超可積分.

$\displaystyle \lim_{\delta(\Delta)\rightarrow 0} \overline{ P } (f,\Delta)-\underline{ P } (f,\Delta) =0$を示せばよい.
任意の$\varepsilon>0 $をとる.$\varepsilon'>0 $$ \left( \frac{b}{a} \right)^{\varepsilon'}-1<\varepsilon $となるようにとる.$f$ は有界閉区間$[a,b]$で連続なので,$[a,b]$上で一様連続かつ有界.よってある$\delta >0$があって$|x-y|<\delta$ならば$|f(x)-f(y)|<\varepsilon'$とできる.また,ある$K$が存在してすべての$x\in[a,b]$$f(x)\leq K$.
この$\delta$に対し,分割$\Delta=\{a_0,a_1,\cdots,a_n\}$$\Delta(\delta)<\delta$を満たすなら$\displaystyle M_j-m_j=\sup_{x,y\in[a_{j-1},a_j]}|f(x)-f(y)|<\varepsilon'$である.よって
\begin{align} 0\leq\overline{ P } (f,\Delta)-\underline{ P } (f,\Delta)=\prod_{j=1}^{n} \left( \frac{a_j}{a_{j-1}} \right)^{m_j} \left( \prod_{j=1}^{n} \left( \frac{a_j}{a_{j-1}} \right)^{M_j-m_j}-1 \right)<\prod_{j=1}^{n} \left( \frac{a_j}{a_{j-1}} \right)^{K} \left( \prod_{j=1}^{n} \left( \frac{a_j}{a_{j-1}} \right)^{\varepsilon'}-1 \right)\\ =\left( \frac{b}{a} \right)^{K}\left( \left( \frac{b}{a} \right)^{\varepsilon'}-1 \right)<\left( \frac{b}{a} \right)^{K}\varepsilon \end{align}
が成立する.以上より$\displaystyle \lim_{\delta(\Delta)\rightarrow 0} \overline{ P } (f,\Delta)-\underline{ P } (f,\Delta) =0$であることが言えた.

微分積分学の基本公式の超微分,超積分バージョンを述べよう.

超積分の平均値の定理

$f$ は有界閉区間$[a,b]$で連続とする.このとき次を満たす$p\in(a,b)$が存在する.
$$\log_{ \frac{b}{a} } \left( \qinteg^{b}_a f(x)\ \mathrm{q}x \right) =f(p)$$

証明は通常の積分の平均値の定理と同様にしてできる.
超積分の平均値の定理から次のことが分かる.

超微分積分学の基本公式

$f$$[a,b]$で連続とする.

  1. 任意の$x\in(a,b)$に対して$F(x)=\qinteg^{x}_a f(t) \ \mathrm{q}t$と定めると,$F^`(x)=f(x)$が成り立つ.
  2. $G$$G^`=f$となるように一つ取るとき,$a< \alpha < \beta < b$ならば$\qinteg^{\beta}_\alpha f(x) \ \mathrm{q}x= \frac{G(\beta)}{G(\alpha)} $
  1. $x\in(a,b)$を固定する.$xh\in(a,b)$なる$h>1$に対して区間乗法性と超積分の平均値の定理から
    $$\log_h \left( \frac{F(xh)}{F(x)} \right) =\log_h\left( \qinteg^{xh}_x f(x)\ \mathrm{q}x \right)=f(p) $$
    となる$p\in[x,xh]$が存在する.$h \searrow 1$のとき,$p \searrow x$なので,$f$の連続性から
    $$F^`_{+}(x)=\lim_{h \searrow 1}\log_h \left( \frac{F(xh)}{F(x)} \right)=\lim_{p \searrow x}f(p)=f(x)$$
    $h<1$の場合も同様にして$F^`_{-}(x)=f(x)$が示され,$F^`(x)=f(x)$を得る.

  2. 定数$C$が存在して$G(x)=C \cdot F(x)$と書けるので区間乗法性より
    $$\qinteg^{\beta}_\alpha f(x) \ \mathrm{q}x=\qinteg^{\beta}_a f(x) \ \mathrm{q}x\cdot\left( \qinteg^{_\alpha}_a f(x) \ \mathrm{q}x \right)^{-1}=\frac{F(\beta)}{F(\alpha)}=\frac{G(\beta)}{G(\alpha)}$$

最後に

この超積分は通常の積分の定義と同じような道筋で定義されている.
$f$に対し,$ F:[\log(a), \log(b) ]\rightarrow \mathbb{R}$$F(x):=\log(f(e^x))$と定義する.変換を$E:(x,y)\in \mathbb{R}\times\mathbb{R}\rightarrow(e^x,e^y)\in\mathbb{R}_{>0}\times\mathbb{R}_{>0}$とおき,グラフ
$ \Gamma(f):=\{(x,y)\in \mathbb{R}_{>0}\times\mathbb{R}_{>0}|y=f(x)\}$
$ \Gamma(F):=\{(x,y)\in \mathbb{R}\times\mathbb{R}|y=F(x)\}$
を考えると,$\Gamma(F)=E^{-1}(\Gamma(f))$という関係があり,超微分において$F'(\log(a))=f^`(a)$が成り立つのであった.
超積分の場合も同じような解釈ができるかを次の記事でまとめたい.


この記事は深夜テンション論法を使っている可能性があるため間違いを指摘してください.

参考文献

[2]
鈴木紀明, 解析学の基礎 ―高校の数学から大学の数学へ―, 学術図書出版社, 2020
[3]
小平邦彦, 軽装版 解析入門 I, 岩波書店, 2020
投稿日:14日前
更新日:11日前
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「ツクツクボーシ、ツクツクボーシ」 ほら、カエルが鳴いてるよ 春の訪れを感じながら 落ち葉で黄色くなった道を歩いてく

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