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大学数学基礎解説
文献あり

二色Circular ladder graphとカタラン数

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この記事でいうCircular ladder graph [1]とは,下図のようなグラフである.
2n個の節点からなるCircular ladder graphをCLnとかく.
!FORMULA[2][623946087][0] CL3,CL4,CL5,

ふつうCircular ladder graphというと,上図のような形の無向グラフのことをいう.この記事では話の都合上,図のように枝に向きがついているものを考える.

Circular ladder graph CLn2n個の節点を,n1個の白色とn+1個の黒色で塗り分けることを考える.
!FORMULA[7][-1105156488][0]の塗り方の例.図が煩雑になるのを避けるために枝の向きは省略した. CL7の塗り方の例.図が煩雑になるのを避けるために枝の向きは省略した.

回転することで互いに同じなる塗り方を,同値な塗り方と呼び,同値でない塗り方が何通りあるかを調べることにする.
本記事では以下の定理を示す.

グラフCLn2n個の節点を,n1個の白色とn+1個の黒色で塗り分ける同値でない塗り方の数は,カタラン数つまり
1n+1(2nn)
通りである.

より正確に述べるために「CLnの節点を塗り分ける同値でない塗り方」を巡回群の作用を使って以下のように言い換える.

集合Xnを,n+1個の+1n1個の1が書かれた二行配列の集合と定義する.つまり,
Xn{(w1,1w1,nw2,1w2,n)|w1,1,,w2,nn+1(+1)n1(1)}
と定める.
巡回群CnaanXnへの作用を
a(w1,1w1,2w1,nw2,1w2,2w2,n)(w1,2w1,nw1,1w2,2w2,nw2,1)
により定める.上でグラフを使って定義した「CLnの節点を塗り分ける同値でない塗り方」は,この作用による軌道と同一視できる.

定理1の証明

二行配列wXn高さ列h(w)=(h0,h1,,hn)Zn+1を,

  • h00,
  • hi+1hi+(w1,i+1+w2,i+1)/2(i=0,1,,n1)

により定める.高さ列の要素が,最初の要素h0を除いて全て正であるとき,その二行配列はdominatingであるという.
以下が成り立つ.

Cycle ladder graph版のcycle lemma

任意のwXnに対して,それを含む軌道Cnwの元であってdominatingであるものが唯一つ存在する.

二行配列wの高さ列をh(w)=(h0(w),,hn(w))とする.
ここで添字i (0in)を,iargmin0inhi(w)かつ,i<jなる全てのj (jn)に対してhi<hjであるような唯一のiととる.

二重配列w~w~aiwと定める.以下,
(1) この二重配列w~がdominatingであることと,
(2) 軌道Cnwに含まれるw~以外の二重配列はdominatingでないこと
を示す.

(1): hi(w)=kとする.添字iの決め方から,hi+1(w),,hn(w)kより大きい.よって,w~の高さ列h(w~)=(h0(w~),,hn(w~))において,h1(w~),,hni(w~)0より大きい.

また,hni(w~)=k+1であることと,h0(w),,hi1(w)k以上なことから,hni+1(w~),,hn(w~)0より大きい.以上から,w~はdominatingである.

(2): ji (0jn1)のとき,ajwはdominatingではないことを示す.まずj<iのとき,iの選び方からhij(ajw)0となるから,ajwはdominatingではない.次にi<jのとき.hi(w)=kとし,hj(w)=r (r>k)とする.すると,hnj(ajw)=r+1である.よってhnj+i(ajw)=r+1+k<1.よってajwはdominatingではない.

補足:Cycle lemmaと呼ばれる定理は色々なバージョンがあり [2,3],上の補題とその証明は他のバーションのcycle lemmaとほとんど同じである.

補題2より,集合Xnに含まれるdominatingな二行配列は,軌道あるいは言い換えると「CLnの節点を塗り分ける同値でない方法」と一対一対応する.

次に,集合Xnに含まれるdominatingな二行配列と,カタラン数で数えられるオブジェクトの間の一対一対応を作る.

二色Motzkin路 [4]とは,四つの基本ステップ
A(1,1),B=B~(1,0),C(1,1),
よりなる上半平面上のパスである.
(0,0)から点(0,n)まで行く二色Motzkin路の集合をMot(n)とかく.
!FORMULA[77][-260848016][0]の元の例. Mot(6)の元の例.

二色Motzkin路のうち,ステップB,B~を使わないものをDyck路という.集合Mot(2n)に含まれるDyck路の集合をDyck(n)とかく.以下のことが知られている [4].

任意の自然数nについて,集合Mot(n1)と集合Dyck(n)の間に一対一対応が存在する.

補題3は有名なので,ここでは図で対応の例を挙げるだけにとどめる.
(上)一対一対応の作り方. (下)この方法で一対一対応する!FORMULA[84][-182755916][0]と!FORMULA[85][-379933206][0]の元の例. (上)一対一対応の作り方. (下)この方法で一対一対応するMot(6)Dyck(7)の元の例.
よく知られているように(例えば[4]を参照)
#Dyck(n)=1n+1(2nn)
なので,補題3から
#Mot(n1)=1n+1(2nn)
がわかる.

最後に,集合Xnに含まれるdominatingな二行配列の集合と,Mot(n1)との間に一対一対応を作ることで,証明が完了する.

集合Xnに含まれるdominatingな二行配列の集合と,集合Mot(n1)との間に一対一対応が存在する.

dominatingな二行配列
(w1,1w1,nw2,1w2,n)
が与えられたとする.dominatingという条件から一列目は必ず
(w1,1w2,1)=(+1+1)
である.二列目以降,i列目の情報(w1,i w2,i)Tから,二色Motzkin路のi1番目のステップを決める.
二行配列のi列目が(+1 +1)T,(+1 1)T,(1 +1)T,(1 1)Tのとき,それぞれ二色Motzkin路のi1番目のステップをA,B,B~,Cと定める.
こうして長さn1の二色Motzkin路ができる.この対応は一対一である.

(証明終わり)

やったことを纏めた図

結局何をしたのかよく伝わらない感じがしたので,上でやったことを図にしてみた.
(1)Cyclic ladder graphの (同値でない)彩色.(2)集合!FORMULA[102][35963105][0]に含まれるdominatingな二行配列.(3)二色Motzkin路.(4)Dyck路. (1)Cyclic ladder graphの (同値でない)彩色.(2)集合Xnに含まれるdominatingな二行配列.(3)二色Motzkin路.(4)Dyck路.

(1)と(2),(2)と(3),(3)と(4)の一対一対応をそれぞれ作ることで,(1)と(4)が一対一対応することを示して,よって(1)の数がカタラン数であることを示した感じである.

参考文献

[2]
N. Dershowitz, S.Zaks, The cycle lemma and some applications, European Journal of Combinatorics Volume 11, Issue 1,, 1994, 35-40
[4]
R. P. Stanley, Catalan Numbers, Cambridge University Press, 2015
投稿日:2024519
更新日:2024519
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  2. やったことを纏めた図
  3. 参考文献