この記事でいうCircular ladder graph [1]とは,下図のようなグラフである.
$2n$個の節点からなるCircular ladder graphを${\rm CL}_n$とかく.
${\rm CL}_3,{\rm CL}_4,{\rm CL}_5,\ldots$
ふつうCircular ladder graphというと,上図のような形の無向グラフのことをいう.この記事では話の都合上,図のように枝に向きがついているものを考える.
Circular ladder graph ${\rm CL}_n$の$2n$個の節点を,$n-1$個の白色と$n+1$個の黒色で塗り分けることを考える.
${\rm CL}_7$の塗り方の例.図が煩雑になるのを避けるために枝の向きは省略した.
回転することで互いに同じなる塗り方を,同値な塗り方と呼び,同値でない塗り方が何通りあるかを調べることにする.
本記事では以下の定理を示す.
グラフ${\rm CL}_n$の$2n$個の節点を,$n-1$個の白色と$n+1$個の黒色で塗り分ける同値でない塗り方の数は,カタラン数つまり
$\displaystyle\frac{1}{n+1}\binom{2n}{n}$
通りである.
より正確に述べるために「${\rm CL}_n$の節点を塗り分ける同値でない塗り方」を巡回群の作用を使って以下のように言い換える.
集合$X_n$を,$n+1$個の$+1$と$n-1$個の$-1$が書かれた二行配列の集合と定義する.つまり,
\begin{align}
X_n\triangleq \left\{
\left(
\begin{array}{ccc}
w_{1,1}&\cdots &w_{1,n}\\
w_{2,1}&\cdots &w_{2,n}
\end{array}
\right)
\middle| w_{1,1},\ldots,w_{2,n}{\text は}n+1{\text 個の}(+1){\text と}n-1{\text 個の}(-1){\text からなる.} \right\}
\end{align}
と定める.
巡回群$C_n\triangleq \langle a\mid a^n\rangle$の$X_n$への作用を
\begin{align}
a\cdot\left(\begin{array}{cccc}
w_{1,1}&w_{1,2}&\cdots &w_{1,n}\\
w_{2,1}&w_{2,2}&\cdots &w_{2,n}
\end{array}\right)\triangleq
\left(\begin{array}{cccc}
w_{1,2}&\cdots &w_{1,n}&w_{1,1}\\
w_{2,2}&\cdots &w_{2,n}&w_{2,1}
\end{array}\right)
\end{align}
により定める.上でグラフを使って定義した「${\rm CL}_n$の節点を塗り分ける同値でない塗り方」は,この作用による軌道と同一視できる.
二行配列$w\in X_n$の高さ列$h(w)=(h_0,h_1,\ldots,h_n)\in \mathbb{Z}^{n+1}$を,
により定める.高さ列の要素が,最初の要素$h_0$を除いて全て正であるとき,その二行配列はdominatingであるという.
以下が成り立つ.
任意の$w\in X_n$に対して,それを含む軌道$C_n w$の元であってdominatingであるものが唯一つ存在する.
二行配列$w$の高さ列を$h(w)=(h_0(w),\ldots,h_n(w))$とする.
ここで添字$i\ (0\leq i\leq n)$を,$i\in{\rm argmin}_{0\leq i\leq n}h_i(w)$かつ,$i< j$なる全ての$j\ (j\leq n)$に対して$h_i< h_j$であるような唯一の$i$ととる.
二重配列$\widetilde{w}$を$\widetilde{w}\triangleq a^{i}\cdot w$と定める.以下,
(1) この二重配列$\widetilde{w}$がdominatingであることと,
(2) 軌道$C_nw$に含まれる$\widetilde{w}$以外の二重配列はdominatingでないこと
を示す.
(1): $h_i(w)=k$とする.添字$i$の決め方から,$h_{i+1}(w),\ldots,h_n(w)$は$k$より大きい.よって,$\widetilde{w}$の高さ列$h(\widetilde{w})=(h_0(\widetilde{w }),\ldots,h_n(\widetilde{w}))$において,$h_1(\widetilde{w}),\ldots,h_{n-i}(\widetilde{w})$は$0$より大きい.
また,$h_{n-i}(\widetilde{w})=-k+1$であることと,$h_{0}(w),\ldots,h_{i-1}(w)$が$k$以上なことから,$h_{n-i+1}(\widetilde{w}),\ldots,h_{n}(\widetilde{w})$も$0$より大きい.以上から,$\widetilde{w}$はdominatingである.
(2): $j\neq i\ (0\leq j\leq n-1)$のとき,$a^j\cdot w$はdominatingではないことを示す.まず$j< i$のとき,$i$の選び方から$h_{i-j}(a^j\cdot w)\leq 0$となるから,$a^j\cdot w$はdominatingではない.次に$i< j$のとき.$h_i(w)=k$とし,$h_j(w)=r\ (r>k)$とする.すると,$h_{n-j}(a^j\cdot w)=-r+1$である.よって$h_{n-j+i}(a^j\cdot w)=-r+1+k<1$.よって$a^j\cdot w$はdominatingではない.
補足:Cycle lemmaと呼ばれる定理は色々なバージョンがあり [2,3],上の補題とその証明は他のバーションのcycle lemmaとほとんど同じである.
補題2より,集合$X_n$に含まれるdominatingな二行配列は,軌道あるいは言い換えると「${\rm CL}_n$の節点を塗り分ける同値でない方法」と一対一対応する.
次に,集合$X_n$に含まれるdominatingな二行配列と,カタラン数で数えられるオブジェクトの間の一対一対応を作る.
二色Motzkin路 [4]とは,四つの基本ステップ
${\mathsf A}\triangleq(1,1),{\mathsf B}=\widetilde{{\mathsf B}}\triangleq(1,0),{\mathsf C}\triangleq(1,-1),$
よりなる上半平面上のパスである.
点$(0,0)$から点$(0,n)$まで行く二色Motzkin路の集合を${\rm Mot}(n)$とかく.
${\rm Mot(6)}$の元の例.
二色Motzkin路のうち,ステップ$\mathsf{B},\widetilde{{\mathsf B}}$を使わないものをDyck路という.集合${\rm Mot}(2n)$に含まれるDyck路の集合を${\rm Dyck}(n)$とかく.以下のことが知られている [4].
任意の自然数$n$について,集合${\rm Mot}(n-1)$と集合${\rm Dyck}(n)$の間に一対一対応が存在する.
補題3は有名なので,ここでは図で対応の例を挙げるだけにとどめる.
(上)一対一対応の作り方. (下)この方法で一対一対応する${\rm Mot}(6)$と${\rm Dyck}(7)$の元の例.
よく知られているように(例えば[4]を参照)
\begin{align}
\#{\rm Dyck}(n)=\frac{1}{n+1}\binom{2n}{n}
\end{align}
なので,補題3から
\begin{align}
\#{\rm Mot}(n-1)=\frac{1}{n+1}\binom{2n}{n}
\end{align}
がわかる.
最後に,集合$X_n$に含まれるdominatingな二行配列の集合と,${\rm Mot}(n-1)$との間に一対一対応を作ることで,証明が完了する.
集合$X_n$に含まれるdominatingな二行配列の集合と,集合${\rm Mot}(n-1)$との間に一対一対応が存在する.
dominatingな二行配列
\begin{align}
\left(
\begin{array}{ccc}
w_{1,1}&\cdots &w_{1,n}\\
w_{2,1}&\cdots &w_{2,n}
\end{array}
\right)
\end{align}
が与えられたとする.dominatingという条件から一列目は必ず
\begin{align}
\left(
\begin{array}{c}
w_{1,1}\\
w_{2,1}
\end{array}
\right)=
\left(
\begin{array}{c}
+1\\
+1
\end{array}
\right)
\end{align}
である.二列目以降,$i$列目の情報$(w_{1,i}\ w_{2,i})^T$から,二色Motzkin路の$i-1$番目のステップを決める.
二行配列の$i$列目が$(+1\ +1)^T,(+1\ -1)^T,(-1\ +1)^T,(-1\ -1)^T$のとき,それぞれ二色Motzkin路の$i-1$番目のステップを${\mathsf A},{\mathsf B},\widetilde{{\mathsf B}},{\mathsf C}$と定める.
こうして長さ$n-1$の二色Motzkin路ができる.この対応は一対一である.
(証明終わり)
結局何をしたのかよく伝わらない感じがしたので,上でやったことを図にしてみた.
(1)Cyclic ladder graphの (同値でない)彩色.(2)集合$X_n$に含まれるdominatingな二行配列.(3)二色Motzkin路.(4)Dyck路.
(1)と(2),(2)と(3),(3)と(4)の一対一対応をそれぞれ作ることで,(1)と(4)が一対一対応することを示して,よって(1)の数がカタラン数であることを示した感じである.