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大学数学基礎解説
文献あり

Quiver備忘録(1):Quiverの定義

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$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{dsp}[0]{\displaystyle} \newcommand{gousei}[2]{#1\circ#2} \newcommand{gsg}[1]{\left\langle{#1}\right\rangle} \newcommand{Hom}[2]{\mathrm{Hom}(#1,#2)} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{nCr}[2]{{}_{#1}\mathrm{C}_{#2}} \newcommand{ninni}[0]{{}^{\forall}} \newcommand{nPr}[2]{{}_{#1}\mathrm{P}_{#2}} \newcommand{pres}[2]{\gsg{#1\,|\,#2}} \newcommand{prth}[1]{\left({#1}\right)} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{set}[1]{\left\{#1\right\}} \newcommand{shazou}[3]{{#1}\colon{#2}\to{#3}} \newcommand{sonzai}[0]{{}^{\exists}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

こんにちは. このシリーズでは, 私がquiverについて学んだことのメモ(的なもの)を残していこうかと思います.

(4/24 23:00追記)
表現の射の合成と恒等射についての命題を追加

(4/25 18:30追記)
表現の直和についての定義を追加

Quiverの定義

早速ですが, Quiverについて定義していきたいと思います.

Quiver

Quiver(箙ともいう)$Q=(Q_{0},Q_{1},s,t)$とは, 次のものからなる:

  • 頂点の集合$Q_{0}$
  • 矢印の集合$Q_{1}$
  • $Q_{1}$の各元$\alpha$に対し, その矢印の始点$s(\alpha)$と終点$t(\alpha)$を対応させる写像$\shazou{s,t}{Q_{0}}{Q_{0}}$ (このとき, $s(\alpha)\xrightarrow{\alpha}{t(\alpha)}$と表す.)

基本的に頂点のラベルには$1,2,3,\ldots$を, 矢印のラベルには$\alpha,\beta,\gamma,\ldots$を主に用いることにします. (矢印のラベルは省略することもあります.)

$Q_{0}=\set{1,2,3,4},Q_{1}=\set{\alpha,\alpha',\beta,\gamma,\delta}$とし,
\begin{align} &s(\alpha)=s(\alpha')=1,\,t(\alpha)=t(\alpha')=2\\ &s(\beta)=3,\,t(\beta)=2\\ &s(\gamma)=2,\,t(\gamma)=4\\ &s(\delta)=4,\,t(\delta)=3 \end{align}
と定めると, quiver$Q=(Q_{0},Q_{1},s,t)$は下図のようになる:
$$\xymatrix@R=5pt { & & 3 \ar[ld]_{\beta}\\ 1 \ar@<0.5ex>[r]^\alpha \ar@<-0.5ex>[r]_{\alpha'} & 2\ar[rd]_{\gamma}\\ & & 4 \ar[uu]_{\delta} } $$

Quiverの表現

以下, 特に断りの無い限りquiverはfinite quiver($Q_{0},Q_{1}$が有限集合であるもの)とし, $k$を代数的閉体(例えば$\C$)とします.

Quiverが与えられたとき, 群などの表現と同様にquiverの表現を考えることができます.

Quiverの表現

$Q$をquiverとする.
$Q$表現$M=(M_{i},\varphi_{\alpha})_{i\in{Q_{0}},\alpha\in{Q_{1}}}$は次のものからなる:

  • $i\in{Q_{0}}$に対し, $k$-ベクトル空間$M_{i}$
  • $\alpha\in{Q_{1}}$に対し, $k$-線形写像$\shazou{\varphi_{\alpha}}{M_{s(\alpha)}}{M_{t(\alpha)}}$

また, 各$M_{i}$が有限次元であるとき, $M$有限次元表現と呼ぶ.

$Q$を例1のquiverとする.
$$\xymatrix@R=5pt { & & k \ar[ld]_{1}\\ k^2 \ar@<0.5ex>[r]^{\begin{pmatrix} 1 & 1 \end{pmatrix}} \ar@<-0.5ex>[r]_{\begin{pmatrix} 0 & 1 \end{pmatrix}} & k\ar[rd]_{\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix}}\\ & & k^2 \ar[uu]_{\begin{pmatrix} 1 & 0 \end{pmatrix}} } $$
$Q$の表現である.
また,
$$\xymatrix@R=5pt { & & 0 \ar[ld]_{0}\\ 0 \ar@<0.5ex>[r]^{0} \ar@<-0.5ex>[r]_{0} & 0\ar[rd]_{0}\\ & & 0 \ar[uu]_{0} } $$
もまた$Q$の表現である. (このような表現を単に$0$で表すことにする.)

表現の間の射

以下, 特に断りの無い限り有限表現を考えることにします.

Quiver$Q$が与えられたとき, $Q$における2つの表現$M,M'$の間にはどのような「関係」があるのでしょうか?
それを考えるために, quiverの表現の間の射を考えたいと思います.

表現の間の射

$Q$をquiverとし, $M=(M_{i},\varphi_{\alpha})_{i\in{Q_{0}},\alpha\in{Q_{1}}},M'=(M'_{i},\varphi'_{\alpha})_{i\in{Q_{0}},\alpha\in{Q_{1}}}$$Q$の表現とする.
$Q$の表現$M,M'$の間のとは, $k$-線形写像$\shazou{f_{i}}{M_{i}}{M'_{i}}\,(i\in{Q_{0}})$の族であって, 任意の$i\xrightarrow{\alpha}j$に対し, 次の図式を可換にするようなものである:
$$\xymatrix{ M_{i} \ar[r]^-{\varphi_{\alpha}} \ar[d]_-{f_{i}} & M_{j} \ar[d]^-{f_{j}}\\ M'_{i} \ar[r]_-{\varphi'_{\alpha}} & M'_{j} \ar@{}@<0ex>[lu]|{\circlearrowright} }$$
このとき, $\shazou{f}{M}{M'}$と表す.

また, $\shazou{f}{M}{M'}$において各$f_{i}$が同型写像となるものが存在するとき, $M\cong{M'}$と表す.

$Q$をquiverとし, $M=(M_{i},\varphi_{\alpha}),M'=(M'_{i},\varphi'_{\alpha}),M''=(M''_{i},\varphi''_{\alpha})$$Q$の表現とする.
(1) $Q$の表現の射$\shazou{f=(f_{i})}{M}{M'},\shazou{g=(g_{i})}{M'}{M''}$に対し, その合成$\shazou{\gousei{g}{f}=(\gousei{g_{i}}{f_{i}})}{M}{M''}$もまた$Q$の表現の射となる.
(2) $\shazou{1_{M}=(1_{M_{i}})}{M}{M}$$Q$の表現の射である.

  1. 任意の$i\xrightarrow{\alpha}j$に対し, 次の可換性が成り立つことから分かる:
    $\xymatrix{ M_{i} \ar[r]^-{\varphi_{\alpha}} \ar[d]_-{f_{i}} & M_{j} \ar[d]^-{f_{j}}\\ M'_{i} \ar[r]^-{\varphi'_{\alpha}} \ar[d]_-{g_{i}} & M'_{j} \ar[d]^-{g_{j}} \ar@{}@<0ex>[lu]|{\circlearrowright}\\ M''_{i} \ar[r]^-{\varphi''_{\alpha}} & M''_{j} \ar@{}@<0ex>[lu]|{\circlearrowright}\\ }$
  2. 任意の$i\xrightarrow{\alpha}j$に対し, 次の可換性が成り立つことから分かる:
    $\xymatrix{ M_{i} \ar[r]^-{\varphi_{\alpha}} \ar[d]_-{1_{M_{i}}} & M_{j} \ar[d]^-{1_{M_{j}}}\\ M_{i} \ar[r]_-{\varphi_{\alpha}} & M_{j}\ar@{}@<0ex>[lu]|{\circlearrowright} }$

$Q$の表現$M,M'$の間の射全体を$\Hom{M}{M'}$と表すことにします.
このとき, $\Hom{M}{M'}$$k$-ベクトル空間になることが分かります.

$\Hom{M}{M'}$における和・スカラー倍を次のように定める:

  • $f=(f_{i}),g=(g_{i})\in\Hom{M}{M'}$に対し, $f+g:=(f_{i}+g_{i})$
  • $f=(f_{i}),a\in{k}$に対し, $af:=(af_{i})$

これにより, $\Hom{M}{M'}$$k$-ベクトル空間となる.
ただし, $\shazou{f_{i},g_{i}}{M_{i}}{M'_{i}}$に対し, $(f_{i}+g_{i})(m)=f_{i}(m)+g_{i}(m),\,(af_{i})(m)=af_{i}(m)$である.

(概略)

$f=(f_{i})$の逆元は$-f:=(-f_{i})$, 零元は$0_{M}:=(\shazou{0}{M_{i}}{M'_{i}})$であることが定義に従って示せる.

表現の直和

$Q$の表現がいくつか与えられたとき, そこから新しい$Q$の表現を構成することができます.

表現の直和

$Q$をquiverとし, $M=(M_{i},\varphi_{\alpha})_{i\in{Q_{0}},\alpha\in{Q_{1}}},M'=(M'_{i},\varphi'_{\alpha})_{i\in{Q_{0}},\alpha\in{Q_{1}}}$$Q$の表現とする.
$M$$M'$直和$M\oplus{M'}$は, $\left(M_{i}\oplus M'_{i},\begin{pmatrix}\varphi_{\alpha} & 0\\ 0 &\varphi'_{\alpha}\end{pmatrix}:=\varphi_{\alpha}\oplus0+0\oplus\varphi'_{\alpha}\right)$により与えられる.

おしまい

今回はquiverについて簡単に定義をしました. 次回 は表現の射に対する核・余核について考えようと思います.

参考文献

[1]
Ralf Schiffler, Quiver Representations, Springer
投稿日:424
更新日:425
OptHub AI Competition

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数学をする

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