0
大学数学基礎解説
文献あり

Quiver備忘録(2):核と余核, 圏論を添えて

192
0

はじめに

前回 は, quiverやその表現などの定義を考えました. 表現の射が与えられたとき, 線形写像に核・余核があることと自明なquiver表現として零表現があるので, 表現の射にも核・余核を定義したいという気持ちになります. 今回は表現の射の核・余核について定義し, 圏論的な観点からも見てみようと思います.

前回と同様, 特に断りの無い限り, 有限quiverおよび有限表現について考えます.

核・余核

Qをquiverとし, M=(Mi,φα)iQ0,αQ1,M=(Mi,φα)iQ0,αQ1Qの表現, f:MMを表現の射とする.
Qの表現L=(Li,ψα)iQ0,αQ1を次のように定める:

  • iQ0に対し, Li:=Kerfi
  • iαjに対し, ψα:=φα|Li

このLKerfと表し, fという.

ここで, このLはちゃんとQの表現になっているのかということが問題になります. これをちゃんと確かめておきましょう.

上の定義におけるL=(Li,ψα)Qの表現である.

iαjに対し, ψα:LiLjがwell-definedであることを示せばよい.
liLiに対し, fi(li)=0であることとfjφα=φαfi(f:表現の射)より0=φαfi(li)=fjφα(li)となるので, φα(li)Ljを得る.
したがって, ψαはwell-definedである.

ιi:LiMiを包含写像とすると, ι=(ιi):LMLからMへの包含写像とみることができます. これをι:LMと表すことにします.

余核

余核

Qをquiverとし, M=(Mi,φα)iQ0,αQ1,M=(Mi,φα)iQ0,αQ1Qの表現, f:MMを表現の射とする.
Qの表現N=(Ni,χα)iQ0,αQ1を次のように定める:

  • iQ0に対し, Ni:=Cokerfi=Mi/Imfi
  • iαjに対し, χα:NiNjχα(mi):=φα(mi)

このNをCokerfと表し, f余核という.

核のときと同様に, このNはちゃんとQの表現になっているのかをちゃんと確かめておきましょう.

上の定義におけるN=(Ni,χα)Qの表現である.

χαがwell-definedであることを示す.
mi=miNiとすると, mimi=fi(mi)(miMi)と表せる.
このとき,
φα(mi)φα(mi)=φα(mimi)=φαfi(mi)=fj(φα(mi))Nj
これより, φα(mi)=φα(mi)となる.

pi:MiNiを自然な全射とすると, p=(pi):MNMからNへの自然な全射とみることができます. これをp:MNと表すことにします.

部分表現と商表現

包含写像により得られる表現の射ι:LMによって, LMの表現の一部とみなすことができます.

部分表現と商表現

L,MをquiverQの表現とする.
LM部分表現であるとは, ι:LMが存在することである.
また, このときMLによる商表現M/L:=Cokerιにより定める.

第一同型定理

M=(Mi,φα),N=(Ni,ψα)をquiverQの表現とし, f:MNを表現の射とする.
このとき, M/KerfImfが成り立つ.

ここで, Imf=(Imfi,ψα)においてψαψαImfi上に制限したもの, すなわち次の図式が可換になるようなものである:
MiφαfifiMjfjfjImfiψαImfjNiψαNj
具体的には, ψα(f(mi)):=fjφα(mi)と定めることとする.

fiは線形写像なので, 同型写像fi:Mi/KerfiImfi,fi(mi):=fi(mi)を誘導する.
ここで, M/Kerf=(Mi/Kerfi,χα),χα(mi)=φα(mi)とおくと,
fjχα(mi)=fj(φα(mi))=fjφα(mi)ψαfi(mi)=ψαfi(mi)=fjφα(mi)
となるので, 次の図式が可換になる:
Mi/KerfiχαfiMj/KerfjfjImfiψαImfj
したがって, f:M/KerfImfは表現の間の同型射となる.

圏論的に見てみよう

Quiverは圏をなす

表現と表現の間の射があるということは, そこから圏を作ることができます.

(有限)表現の圏

Qを有限quiverとする.
repQという圏を次のように定める:

  • 対象:Qの有限表現
  • 射:表現の間の射 (合成・恒等射については前回参照)

核・余核の圏論的定義

核・余核は圏論的な定義をすることが可能です. これを利用して, 先ほど考えた表現の射の核・余核が圏論的な意味でのrepQにおける核・余核を与えることを確認したいと思います.

核・余核

Cを零射を持つ圏とし, fC(X,Y)とする.

  • fとは, Cの対象Kと射kC(K,X)の組(K,k)であって次を満たすものである:
    (K1) fk=0
    (K2) fk=0を満たす任意の射kC(K,X)に対し, 次の図式を可換にする射kC(K,K)が一意に存在する:
    K!kkKkXfY
  • f余核とは, Cの対象Cと射cC(Y,C)の組(C,c)であって次を満たすものである:
    (CK1) cf=0
    (CK2) cf=0を満たす任意の射cC(Y,C)に対し, 次の図式を可換にする射cC(C,C)が一意に存在する:
    CXfYccC!c
モノ射・エピ射

Cを圏とし, fC(X,Y)とする.

  • fモノ射であるとは, fg1=fg2(g1,g2C(X,Y))g1=g2
    が成り立つことである.
    Xg1g2XfY
  • fエピ射であるとは, h1f=h2f(h1,h2C(Y,Y))h1=h2
    が成り立つことである.
    XfYh1h2Y

線形空間においては, 線形写像がモノ射(resp. エピ射)であることと単射(resp. 全射)であることは同値であることが分かります.

kは(代数的閉体とは限らない)体とする.
Vectkk-線形空間のなす圏とし, f:VWk-線形写像とする.
このとき, 次が成り立つ:
(1) f:Vectkにおけるモノ射f:単射
(2) f:Vectkにおけるエピ射f:全射

次の補題は上の命題から示すことができます.

Qの表現の射f=(fi):MMに対し,

  • iQ0,fi:単射f:repQにおけるモノ射
  • iQ0,fi:全射f:repQにおけるエピ射

M,MrepQおよびfHom(M,M)に対し,
(Kerf,ι:KerfM),(Cokerf,p:MCokerf)はそれぞれfの核・余核となる.

  • (Kerf,ι:KerfM)が核の普遍性(K1), (K2)を満たすことを示す.
    (K1) 各iQ0に対し, (fiιi)(mi)=fi(mi)=0が成り立つので, fι=0となる.
    (K2) fι=0を満たす表現の射ι:KMを考えると, 各iQ0に対し, (fiιi)(k)=0となるので, ιi(k)Kerfiとなる.
    これにより, u:KKerfui(k):=ιi(k)(iQ0)と定めると, uの定義よりιu=ιであり, uが表現の射であることが分かる.
    uの一意性については, ιがモノ射であることから分かる.
  • (Cokerf,p:MCokerf)が余核の普遍性(CK1),(CK2)を満たすことも上と同様に示すことができる.

これまでに見てきたことから次が分かります. アーベル圏についてはおそらく深掘りはしないと思います

repQにおいて, 次が成り立つ:
(1) 任意のM,NrepQに対し, Hom(M,N)k-ベクトル空間
(2) 任意のL,M,NrepQに対し, 合成:Hom(M,N)×Hom(L,M)Hom(L,N)k-双線形写像
(3) 任意のM,NrepQに対し, 直和MNが存在する
(4) 零対象0repQが存在する
(5) 任意のfHom(M,N)は核(K,ι:KM)および余核(N,p:NC)をもち, CokeriKerp
特に, repQはアーベル圏となる.

(5)はι:KerfM,p:NCokerfを考えれば, 第一同型定理よりCokeri=M/KerfImf=Kerpとなる.

おしまい

今回は表現の間の射の核・余核に関する性質について確かめました.
次回は, 表現の間の射による完全列について見ていこうと思います.

参考文献

[1]
Ralf Schiffler, Quiver Representations, Springer
投稿日:2024425
更新日:2024524
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

数学をする

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. 核・余核
  3. 余核
  4. 部分表現と商表現
  5. 圏論的に見てみよう
  6. Quiverは圏をなす
  7. 核・余核の圏論的定義
  8. おしまい
  9. 参考文献