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オイラーによるガンマ関数の相反公式の導出

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ガンマ関数の相反公式

オイラーは様々な積分について研究し、今ではガンマ関数、ベータ関数と呼ばれているものに関する公式を多く発見しました。そのうちの一つが以下の公式です。

ガンマ関数の相反公式

Γ(x)Γ(1x)=πsin(πx)

オイラーが導出したのは以下の等式です。この式は上で述べた式にすぐ(大嘘)変形できます。

0<m<n のとき
0xm11+xndx=πnsin(mπ/n)

導出

xn+1の因数分解

この等式をオイラーは部分分数展開を用いて導きました。
まずxn+1を因数分解します。xn+1=0の解は

φk=±2k1nπ  (n:even,k=1,2,..,n2)φk=±2k1nπ,π  (n:odd,k=1,2,..,n12)
とおき

x=eiφk と表されます。このうち、複素共役のものをまとめると実数の範囲で因数分解ができます。

(xeiφk)(xeiφk)=x22xcosφk+1

よってxn+1 は以下のように因数分解できます。

xn+1 の因数分解

xn+1=kn2(x22xcosφk+1)  (n:even)xn+1=(x+1)kn12(x22xcosφk+1)  (n:odd)
ただし
φk=2k1nπ  (n:even,k=1,2,..,n2)φk=2k1nπ  (n:odd,k=1,2,..,n12)

部分分数展開

ここでxn+1=(x22xcosφ+1)S(x) の形に分解したとします。ここでS(x)は多項式です。実数A,B、多項式V(x)を用いて以下のような部分分数展開を考えます。

xm1xn+1=Ax+Bx22xcosφ+1+V(x)S(x)

このときA,Bはどのように求まるでしょうか。まず両辺にxn+1をかけます。

xm1=(Ax+B)S(x)+V(x)(x22xcosφ+1)

ここでx=eiφを代入します。

(1)ei(m1)φ=(Aeiφ+B)S(eiφ)

未知変数がA,Bの2つに対し式が一つなので解けないように思えますが、この等式は複素数の等式であり実部と虚部に関する等式からA,Bが求まります。

複素数の内積、外積

この式を解く前に便利な表記として複素数の内積、外積、そしてそれを用いた等式を用意します。ここで複素数 a の複素共役をaとします。

複素数の内積

ab=ab+ab2

複素数の外積

a×b=abab2i

a=ar+iai,b=br+ibiとします。
すると以下のような公式が成り立ちます。

ab=arbr+aibia×b=arbiaibraab=|a|2bra×ab=|a|2biaib=b×aa×ib=abr1eiθ1r2eiθ2=r1r2cos(θ2θ1)r1eiθ1×r2eiθ2=r1r2sin(θ2θ1)

部分分数分解の続き

これを用いて先ほどの式(1)を解きます。
s=S(eiϕ) とします。先程の公式を用いると以下のようにA,Bを求めることができます。

A=s×ei(m1)φ|s|2sinφB=1|s|2sinφ(sei(m1)φsinφs×ei(m1)φcosφ)

ここでsは以下のように求まります。

s=xn+1x22xcosφ+1|xxiφ=n2ei(n1)φisinφ

また以下の式が成り立ちます。

sei(m1)φ=nsin(nm)φ2sinφs×ei(m1)φ=ncos(nm)φ2sinφ

これらを用いてA,Bを以下のように求めることができます。

A=2cos(nm)φnB=2cos(nm+1)φn

またnφ=(2k1)π という関係が成り立つことから nを消去することができます。

A=2cosmφnB=2cos(m1)φn

よってxm1xn+1の部分分数展開は以下のように求まります。

xm1xn+1の部分分数展開

xm1xn+1=2nk=1n2xcosmφk+cos(m1)φkx22xcosφk+1  (n:even)xm1xn+1=2nk=1n12xcosmφk+cos(m1)φkx22xcosφk+1+1n(1)m1x+1  (n:odd)

不定積分の導出

これからこの積分を考えます。まず分子を以下のように分解します。

xcosmφ+cos(m1)φ=(xcosφ)cosmφ+sinmφsinφ

この2つの項はそれぞれ以下のように積分できます。

(xcosφ)x22xcosφ+1dx=log(1x22xcosφ+1)+C

sinφx22xcosφ+1dx=arctan(xcosφsinφ)+C

ここで積分定数を変えてCC+arctan(cosφsinφ)とします。すると以下のように変形できます。

sinφx22xcosφ+1dx=arctan(sinφ1/xcosφ)+C

ここで Ak(x)=log(1x22xcosφk+1), Bk(x)=arctan(sinφk1/xcosφk) とおきます。これを用いるとxm1xn+1dxは以下のように表せます。

xm1xn+1dxの不定積分

xm1xn+1dx=2nk=1n2(cosmφkAk(x)+sinmφkBk(x))  (n:even)xm1xn+1dx=2nk=1n12(cosmφkAk(x)+sinmφkBk(x))+(1)m1nlog(x+1)  (n:odd)

定積分の導出

これのxx0の極限値を求め、定積分0xm1xn+1dx を求めます。

まずxのとき,
log(1x22xcosφ+1)logxとなり、φの寄与が無視できます。このため以下の式が成り立ちます。

limxkNcosmφkAk(x)=limx(logx)kNcosmφk

またxのときBk(x)=arctan(sinφk1/xcosφk)arctan(tanφk) となります。これはφkまたはπφkに対応します。しかし、定積分をx=0x=まで実行するとき、(sinφk1/xcosφk)がどう変化するかを考えると、まず0からまで増加し、からtanφkまで増加します。これに対応する角度の変化は0からπ/2を通り、πφkまで増加するという経路です。よってxのときBk(x)=πφkとなります。

limxkNsinmφkBk(x)=kN(πφk)sinmφk

また x0のときAk(x),Bk(x)ともに0となります。
よって

0xm1xn+1dx

0xm1xn+1dx=2n(limx(logx)k=1n2cosmφk+k=1n2(πφk)sinmφk)  (n:even)0xm1xn+1dx=2n(limx(logx)k=1n12cosmφk+k=1n12(πφk)sinmφk)+limx(logx)(1)mn  (n:odd)

ここで ω=mπn とし、S,T,U を以下のように定義します。

(3.1)S=k=1Ncosmφk=k=1Ncos(2k1)ω(3.2)T=k=1Nsinmφk=k=1Nsin(2k1)ωU=k=1Nφksinmφk=πnk=1N(2k1)sin(2k1)ω

S,T,Uを用いると以下が成り立ちます。

limx2nk=1N(cosmφkAk(x)+sinmφkBk(x))=2n(Slimx(logx)+πTU)

0xm1xn+1dxは以下のように表せます。

0xm1xn+1dx

0xm1xn+1dx=2n(Slimx(logx)+πTU)  (n:even)0xm1xn+1dx=2n((S+(1)m12)limx(logx)+πTU) (n:odd)

これからS,T,Uを求めます。
(3.1),(3.2)の両辺にsinωを掛けることで、S,Tを以下のように表せます。

S=sin2Nω2sinωT=1cos2Nω2sinω

また(3.1)ωについて微分することで以下が示せます。

U=π2nsinω(sin(2N1)ωsinω(2N1)cos2Nω)

nが偶数のとき2N=n、nが奇数のとき2N=n1を代入することでするとS,T,Uは以下のように求まります。

n が偶数のとき
S=0T=1(1)m2sinωU=π2sinω(1)m
n が奇数のとき
S=(1)m2T=1(1)mcosω2sinωU=πcosω2sinω(1)m

これらを 補題5 に代入すると、nが偶数、奇数のどちらの場合もlimx(logx) の係数は0になり、値はπnsinωとなります。
よって以下の式が示されました。

0xm11+xndx=πnsin(mπ/n)

ちなみに

xm1xn+1
は部分分数展開により以下の形の項に分解できることが示されました。
xcosmφ+cos(m1)φx22xcosφ+1
よってm=1のとき
1xn+1
は以下の形の項に分解されます。
1xcosφx22xcosφ+1
実はこの式はcoskφの母関数です。どういうことかというと以下が成り立ちます。

1xcosφx22xcosφ+1=k=0xkcoskφ

この等式は以下のように示せます。

11xeiφ=11x(cosφ+isinφ)
を有理化すると
11xeiφ=1xcosφx22xcosφ+1+ixsinφx22xcosφ+1
幾何級数の展開より
11xeiφ=k=0xkeikφ=k=0xk(coskφ+isinkφ)
実部と虚部の比較より
1xcosφx22xcosφ+1=k=0xkcoskφ

xsinφx22xcosφ+1=k=0xksinkφ

よって 補題2 より以下が成り立ちます。

1xn+1=2nk=1n2l=0xlcoslφk  (n:even)1xn+1=2nk=1n12l=0xlcoslφk+1n1x+1  (n:odd)

一方で以下も成り立つので

1xn+1=l=0(xn)l

両者の係数を比較することで
k=1Ncoslφk
に関する公式を得ることができます。ただしこれはそれほど面白くはありません。
φkは円のn等分を表します。lφkln の倍数でないとき、φkを並べ替えたものになり、それらのcosの和は0になります。しかしln の倍数のとき、lφkはすべて0またはπになるので、cosの和はnまたはnとなります。このようなことを表す公式が導かれます。

投稿日:2023928
更新日:2024127
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