Majoranaスピノルについて解説します。Majoranaスピノルのスピン表現の実構造の不変空間の元として定義されます。物理的には粒子と反粒子が同じであるフェルミオンのことです。
まず複素表現の実構造とは以下です。
$V$を複素ベクトル空間とし、$\rho:G\to GL(V)$をLie群$G$の表現とする。$(\rho,V)$の実構造とは複素共役線形かつ$G$同変な写像$\sigma:V\to V$で$\sigma^2=1$を満たすもののことである。
複素表現に対していつも実構造があるとは限りません。実構造があるとその不変空間として部分実表現が得られます。
$(G,\rho,V)$を複素表現とし、$\sigma$を実構造とする。このとき、$\sigma$不変空間を
$$
V^\sigma:=\{v\in V;\ \sigma(v)=v\}
$$
とするとき、$(G,\rho,V^\sigma)$は実表現であり、また表現空間としての直和分解
$$
V=V^\sigma\oplus iV^\sigma
$$
が成り立つ。また$V^\sigma,iV^\sigma$は$G$の実表現として同型である。
$\overline{V^\sigma}:=\{v\in V;\ \sigma(v)=-v\}$とおく。$v=\frac{1}{2}(v+\sigma(v))+\frac{1}{2}(v-\sigma(v))$であるから、直和分解$V=V^\sigma\oplus\overline{V^\sigma}$が成り立つ。$v\in V^\sigma$と$iv\in \overline{V^\sigma}$は同値だから、$\overline{V^\sigma}=iV^\sigma$である。
このとき、$V^\sigma,iV^\sigma$は実線形空間であり、$\sigma$が$G$同変であるから、$V^\sigma,iV^\sigma$は実部分表現である。$(G,\rho,V)$が複素表現であるから、$V^\sigma,iV^\sigma$は実表現として同型である。
スピン表現に実構造が存在するとき、その不変空間の元としてMajoranaスピノルが定義されます。
$\Delta:Spin^+(t,s)\to GL(S)$をスピン表現とする。$(\Delta,S)$に実構造$\sigma$が存在するとき、$(\Delta,S)$をMajorana表現であるといい、その不変空間$S^\sigma$の元をMajoranaスピノルと呼ぶ。
$(\Delta,S)$がMajorana表現であるとき、任意の$\phi\in S$はMajoranaスピノル$\phi_1,\phi_2$により、$\phi=\phi_1+i\phi_2$と表されます。
スピン表現$(\Delta,S)$がMajoranaであるとき、実構造$\sigma$に対して、
$$
\psi^C:=\sigma(\psi)
$$
と書くことがよくあります。$\psi^C$は$\psi$の荷電共役(charge conjugate)と呼ばれます。ある複素行列$B$で
$$
B^*B=1,\ B\Delta(g)^*=\Delta(g)B,\ g\in Spin^+(t,s)
$$
となるものあり、
$$
\psi^C=B\psi^*
$$
と書くことができます。
$\Delta:Spin^+(1,3)\rightarrow GL(\mathbb{C}^4)$をスピン表現とするとき、
$$
B=-i\gamma_2=\begin{pmatrix}0 & -i\sigma_2 \\ i\sigma_2 & 0\end{pmatrix}
$$
は実構造$\sigma(\psi)=\psi^C=B\psi^*$を定めます($B$の取り方は一意的ではないです)。このとき、Majoranaスピノルは
$$
\psi=\begin{pmatrix}\varphi \\ i\sigma_2\varphi^*\end{pmatrix},\ \varphi\in S^+=\mathbb{C}^2
$$
となります。
素粒子物理において、Majorana粒子は粒子と反粒子が同一のフェルミオンとして、1937年にエットーレ・マヨラナ(Ettore Majorana)により導入されたようです。現在でもニュートリノがDirac粒子なのかMajorana粒子なのかは分かってないらしいです。