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現代数学解説
文献あり

ラマヌジャン総和法2:ラマヌジャン和の再定義

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はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続きラマヌジャンの総和法について勉強していきます。

アベル・プラナの和公式

  前回の記事 ではオイラー・マクローリンの和公式
n=abf(n)=abf(x)dx+f(a)+f(b)2+k=1mB2k(2k)!(f(2k1)(b)f(2k1)(a))+abB2m+1(xx)(2m+1)!f(2m+1)(x)dx
が重要な役割を果たしていましたが、今回の記事ではまた別の総和公式:アベル・プラナの和公式
n=abf(n)=abf(x)dx+f(a)+f(b)2+i0f(a+iy)f(aiy)f(b+iy)+f(biy)e2πy1dy
というものが重要となります。

 aRe(z)bにおける正則関数fRe(z)=a,bにおいて極を持たない有理型関数g
limha+ihb+ih(g(z)+f(z))dz=limhaihbih(g(z)f(z))dz=0
を満たすときh±(z)=g(z)±f(z)とおくと
2πiαResz=αg(z)=2abf(x)dx+i0(h+(b+iy)+h(biy)h+(a+iy)h(aiy))dy
が成り立つ。ただしαga<Re(α)<bなる極全体を渡るものとした。

 a±ih,b±ihを頂点とする長方形を周る経路Chに対しその上部・下部をCh±とおくと
Chg(z)dz=Ch+h+(z)dz+Chh(z)dz+2abf(x)dx0i(h+(b+z)h+(a+z))dz+i0(h(b+z)h(a+z))dz+2abf(x)dx(h)=i0(h+(b+iy)h+(a+iy))dy+i0(h(biy)h(aiy))dz+2abf(x)dx=2πiαResz=αg(z)
とわかる。

アベル・プラナの和公式

 a,bを整数とし、axbについて一様に
limye2πyf(x±iy)=0
を満たすような正則関数fに対し
n=abf(n)=abf(x)dx+f(a)+f(b)2+i0f(a+iy)f(aiy)f(b+iy)+f(biy)e2πy1dy
が成り立つ。

 y>0に対し
|icot(x±iy)±1|=|1coth(yix)|=|2z1zz1|(z=eyix)2eyeyey=e2y(1+cothy)
と評価できるので仮定より
limya±iyb±iy(icotπz±1)f(z)dz=0(複号同順)
が成り立つ。したがってg(z)=icot(πz)f(z)とおくと上の補題が適用できる。
 いま積分経路がz=a,bを含むことおよび
Resz=ng(z)=f(n)πi
に注意すると
2πiαResz=αg(z)=2πin=abResz=ng(z)πi(Resz=ag(z)+Resz=bg(z))=2n=abf(n)(f(a)+f(b))
が成り立ち、また整数cに対し
h+(c+iy)=(icot(iπy)+1)f(c+iy)h(ciy)=(icot(iπy)1)f(ciy)=(1cothπy)f(c+iy)=(1cothπy)f(ciy)=2e2πy1f(c+iy)=2e2πy1f(ciy)
が成り立つことから
n=abf(n)f(a)+f(b)2=abf(x)dx+i0f(a+iy)f(aiy)f(b+iy)+f(biy)e2πy1dy
を得る。

オイラー・マクローリンの和公式との関係

 ちなみにアベル・プラナの和公式は次のように変形することでオイラー・マクローリンの和公式と直接的に結び付けることができます。

i0f(a+iy)f(aiy)f(b+iy)+f(biy)e2πy1dy=n=1B2n(2n)!(f(2n1)(b)f(2n1)(a))

f(c+z)=n=0f(n)(c)n!zn
とテイラー展開したとき
f(c+z)f(cz)=n=0f(2n1)(c)(2n1)!z2n1
が成り立ち、またゼータ関数の積分表示と特殊値
ζ(s)=1Γ(s)0xs1ex1dxζ(2n)=(1)n1(2π)2n(2n1)!B2n4n
から
0x2n1e2πx1dx=(1)n1B2n4n
が成り立つことに注意すると
i0f(c+iy)f(ciy)e2πy1dy=2in=0f(2n1)(c)(2n1)!i2n10y2n1e2πy1dy=n=0f(2n1)(c)(2n1)!(1)n2(1)n1B2n4n=n=0B2n(2n)!f(2n1)(c)
とわかる。

ラマヌジャン和の再定義

 さて 前回の記事 で考えた総和法では
|1B2m+1({x})f(2m+1)(x)dx|<
という条件が必要なのでした。
 ただこの条件はかなり限定的であり、あまり有用でありません。例えばenのように何回微分しても急速に増大する関数の総和を考えることはできません。しかしラマヌジャン総和法を適当な方法で抽象化し、その総和可能性を拡大することで上のような級数にも
n1Ren=e2e1
のような値を与えることができます。

差分方程式とC1(f)の表示

 ラマヌジャンの記述に基づくと
ϕ(x)=C1(f)+1xf(t)dt+f(x)2+k=1mB2k(2k)!f(2k1)(x)xB2m+1({t})(2m+1)!f(2m+1)(t)dt
という関数は
ϕ(x)ϕ(x1)=f(x)(ϕ(0)=0)
という方程式を満たすのでした。
 ここでこの方程式を積分することで
1nf(x)dx=1n(ϕ(x)ϕ(x1))dx=n1nϕ(x)dx01ϕ(x)dx
が成り立つので漸近的に
n1nϕ(x)dxϕ(n)
とみなせること、および
f(k)(n)0(n)
となることを仮定すると
C1(f)=limn(ϕ(n)1nf(x)dx)=01ϕ(x)dx
という表示が得られます。
 特に
R(x)=C1(f)+f(x)ϕ(x)=C1(f)ϕ(x1)
とおくとラマヌジャン和は以下のように再定義することができます。

ラマヌジャン総和法(仮)

R(x)R(x+1)=f(x)
かつ
12R(x)dx=0
を満たすような関数R(x)に対し、そのx=1における値R(1)のことを級数f(n)ラマヌジャン和と言い
R(1)=n1Rf(n)
と表す。

基本定理

 まず上のような関数R(x)の存在と一意性が保証される条件について考えておきましょう。
 以下あるδ,ε,C>0が存在しRe(z)>1δにおいて正則かつ
|g(z)|Ce(αε)|z|
を満たすような関数g全体の集合をOαとおきます。  

一意性

 RO2π
R(x)R(x+1)=0,12R(x)dx=0
を満たすときR=0が成り立つ。

 周期性よりRC全体に解析接続でき、特に
S(z)=R(12πilogz)
とおくとこれはC{0}上で正則関数を定める。
 いまSz=0の周りでローラン展開することによって
R(x)=S(e2πix)=n=cne2πinx
とフーリエ級数展開でき、RO2πに注意してIm(x)±における挙動を考えることでn0に対しcn=0となることがわかる。これは
cn=12πi|z|=rS(z)zn+1dz=12πrn02πS(reiθ)einθdθ
を直接評価しr0,とすることでもわかる。
 したがってR=c0であり
c0=12R(x)dx=0
よりR=0を得る。

存在と明示形

 fOα(α2π)に対しあるROαが一意に存在し
R(x)R(x+1)=f(x),12R(x)dx=0
が成り立つ。特に
R(x)=1xf(t)dt+f(x)2+i0f(x+it)f(xit)e2πt1dt
と表せる。

 Rが一意的であることは方程式の線形性と上の補題からわかり、また
R(x)=1xf(t)dt+f(x)2+i0f(x+it)f(xit)e2πt1dt
ROαを満たすことは簡単にわかる。したがってあとはこれが
R(x)R(x+1)=f(x),12R(x)dx=0
を満たすことを示せばよい。
 いまアベル・プラナの和公式に注意すると
R(x)R(x+1)=xx+1f(t)dt+f(x)f(x+1)2+i0f(x+it)f(xit)f(x+1+it)+f(x+1it)e2πt1dt=(f(x+1)+f(x))f(x+1)=f(x)
がわかり、また
F(x)=1xf(t)dt
とおくと再びアベル・プラナの和公式により
12R(x)dx=12F(x)dx+F(2)2+i0F(2+it)F(2it)F(1+it)+F(1it)e2πt1dt=F(2)+F(1)2(F(2)+F(1))=F(1)2=0
を得る。

 以上により関数fO2πに対しそのラマヌジャン定数R(1)が一意的に存在することがわかりました。
 しかし例えばf(x)=sinπxとおくと
sinπx2sinπ(x+1)2=sinπx
が成り立つことからRの一意性より
R(x)=sinπx212sinπt2dt=sinπx2+1π
つまり
n1Rsinπn=1π
と求まることになりますが、これは明らかに
n1R0=0
であることに整合しません。
 したがって関数fの取り方に依らず級数f(n)の和を定めるにはもう少し制限を掛ける必要があります。そのためには以下の定理が役に立ちます。

Carlsonの定理

 fOπが任意のn1に対しf(n)=0を満たすとき、恒等的にf=0が成り立つ。

  Ramanujan's Master Theorem よりϕOπに対し
Φ(x)=12πicic+iπsinπsϕ(1s)xsds
とおくとx=0の近傍で
Φ(x)=n=0ϕ(1+n)(x)n
が成り立ち、またある領域において
ϕ(1s)=sinπsπ0Φ(x)xs1dx
と表せることに注意するとわかる。

 f,gOπn1に対しf(n)=g(n)を満たすとき、恒等的にf=gが成り立つ。

まとめ

 以上より一般のラマヌジャン和は以下のように定義できることになります。

ラマヌジャン総和法(決定版)

 級数anがラマヌジャン総和可能であるとはf(n)=anなるfOπが存在することを言い、このとき
n1Ran:=f(1)2+i0f(1+it)f(1it)e2πt1dt
と定まる値のことをラマヌジャン和と言う。
 また上のようなfに対し
R(x)R(x+1)=f(x),12R(x)dx=0
なるROπが一意に存在し、そのx=1における値
R(1)=n1Ran
としてもラマヌジャン和は定められる。

 このとき
k=1nf(k)=R(1)+1nf(x)dx+f(n)2i0f(n+iy)f(niy)e2πy1dy
が成り立つことに注意しましょう。オイラー・マクローリンの和公式を用いた定義
k=1nf(k)=C1+1nf(x)dx+f(n)2+k=1mB2k(2k)!f(2k1)(n)nB2m+1({x})(2m+1)!f(2m+1)(x)dx
と比較すると自然な一般化になっていることがわかりますね。

基本性質

 さてようやくラマヌジャン和の決定版が完成したのでまずはこの性質について見ていきましょう。
 なおいくつかの主張に関しては 前回の記事 と同様にして示せるのでその証明は省略します。

線形性

n1R(af(n)+bg(n))=an1Rf(n)+bn1Rg(n)

実数性

 xRに対しf(x)Rとなるとき
n1Rf(n)R
が成り立つ。

 鏡像の原理よりf(z)=f(z)つまり
f(1+it)f(1it)=2iImf(1+it)
が成り立つことに注意するとわかる。

 xRに対しfr(x)=Ref(x),fi=Imf(x)を満たすような関数fr,fiOπが存在するとき
Re(n1Rf(n))=n1RRef(n)Im(n1Rf(n))=n1RImf(n)
が成り立つ。

推移性

n1Rf(n)=n1Rf(n+1)+f(1)12f(x)dx

 アベル・プラナの和公式、あるいは
S(x)S(x+1)=f(x+1),12S(x)dx=0
なる関数として
S(x)=R(x+1)12R(t+1)dt=R(x)f(x)+12f(t)dt
が取れることに注意するとわかる。

limn0f(n+iy)f(niy)e2πy1dy=0
が成り立つとき
n1Rf(n)=limn(k=1nf(k)1nf(x)dxf(n)2)

命題11

 n=1f(n),1f(x)dxがそれぞれ収束するとき
n1Rf(n)=n=1f(n)1f(x)dx
特にn=0f(x+n)が収束するとき
R(x)=n=0f(x+n)1f(t)dt

計算例

指数関数

 f(x)=ezxとおくとfOπであることとzが下図のような領域Uπに含まれることは等価であり

このとき
ezx1ezez(x+1)1ez=ezx
より
R(x)=ezx1ez12ezt1ezdt=ezx1ezezz
つまり
n1Rezn=ez1ezezz
と求まる。
 特にz=1z=itとすることで
n1Ren=e2e1n1Rcosnt=12+sinttn1Rsinnt=12cott2costt
などが得られる。

ゼータ関数その1

 f(x)=xkとおくと
tet(x+1)et1tetxet1=tet
の両辺におけるtk+1の係数を比較することで得られるベルヌーイ多項式の性質
Bk+1(x+1)k+1Bk+1(x)k+1=xk
から
R(x)=Bk+1(x)k+1+12Bk+1(x)k+1dx=Bk+1(x)k+1+12(Bk+1(x1)k+1+(x1)k)dx=Bk+1(x)k+1+[Bk+2(x)(k+1)(k+2)+xk+1k+1]01=Bk+1(x)k+1+1k+1
つまり
n1Rnk=ζ(k)+1k+1
と求まる。

ゼータ関数その2

 f(x)=1/xとおくとディガンマ関数
ψ(z)=ddzlogΓ(z)
の性質
ψ(z+1)ψ(z)=1z
から
R(x)=ψ(x)+12ψ(t)dt=ψ(x)+[logΓ(t)]12=ψ(x)
つまりψ(1)=γに注意すると
n1R1n=γ
と求まる。

ゼータ関数その3

 f(x)=1/xs(Re(s)>1)とおくとフルヴィッツのゼータ関数
ζ(s,x)=n=01(n+x)s
によって
R(x)=ζ(s,x)11tsdt=ζ(s,x)1s1
つまりζ(s,1)=ζ(s)に注意すると
n1R1ns=ζ(s)1s1
と求まる。
 また
f(x+it)f(xit)=(x+it)s(xit)s(x2+t2)s=2isin(sarctan(t/x))(x2+t2)s/2
より
R(x)=x1s1s1+xs2+20sin(sarctan(t/x))(x2+t2)s/2dte2πt1
と表せ、これはsについてC全体で正則関数を定めるので
n1R1ns=ζ(s)1s1
は任意のsCに対し成り立つことになる。

対数関数

 f(x)=logxとおくと
logΓ(x+1)logΓ(x)=logx
より
R(x)=logΓ(x)+12logΓ(t)dt
と表せ、また
12logΓ(x)dx=12log2π1
となることが知られているので
n1Rlogn=12log2π1
と求まる。

参考文献

[1]
Bernard Candelpergher, Ramanujan Summation of Divergent Series, Springer, 2017
投稿日:202426
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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