3

フック長公式を鏡映法で示す

192
0
$$\newcommand{Aut}[0]{\mathrm{Aut}} \newcommand{binom}[0]{\mathrm{binom}} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{char}[0]{{\bf char}} \newcommand{comp}[0]{\circ} \newcommand{core}[0]{\rm{core}} \newcommand{diag}[0]{\mathrm{diag}} \newcommand{field}[1]{\mathbb{F}_{#1}} \newcommand{gen}[1]{\langle #1 \rangle} \newcommand{GL}[0]{\mathrm{GL}} \newcommand{id}[0]{\mathrm{id}} \newcommand{imply}[0]{\Rightarrow} \newcommand{inpr}[2]{\langle {#1},{#2} \rangle} \newcommand{iso}[0]{\simeq} \newcommand{lnormal}[0]{\triangleleft } \newcommand{Path}[0]{\mathrm{Path}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbf{R}} \newcommand{rnormal}[0]{\triangleright} \newcommand{semiprod}[3]{{#1}\ltimes_{#2}#3} \newcommand{SL}[0]{\mathrm{SL}} \newcommand{SPath}[0]{\mathrm{SPath}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

初めに

フック長公式については https://mathlog.info/articles/3114 を見てください.
上にあるように, フック長公式はカタラン数の一般化の文脈でよく言及されます. 一方で, カタラン数の綺麗な求め方として鏡映法が知られています. ( https://mathlog.info/articles/3097 など) じゃあ一般化したフック長公式も鏡映法で求められないのかというのは自然な発想ですね. ということで示します.

準備

以下$n$を非負整数とする. 格子点とは, $\Z^n$に属する点のことを指す.

経路

$u,v\in \Z^n$に対し, $u,v$間の経路とは, 以下の条件を満たす$\Z^n$の元の列,$(u_0,u_1,\ldots u_l)$のことを指す:

  • $u_0=u$かつ$u_l=v$.
  • 任意の$i$に対し, ある$j$が存在し, $u_{i+1}-u_i=e_j$. ここで, $e_j$$\R^n$の基本ベクトル.

$u,v$間のパス全体を$\Path(u,v)$で表す.

部屋

$C\subset \R^n$を, $C:=\{(x_0,x_1,\ldots x_{n-1})\mid x_0\geq x_1\geq \cdots \geq x_{n-1}\}$で定める.

標準的経路

$u,v$間の経路$(u_0,u_1,\cdots ,u_l)$が標準的であるとは, 任意の$0\leq i \leq l$に対し, $u_i\in C$が成立することを指す.
$u,v$間の標準的経路全体のなす集合を$\SPath(u,v)$と表す.

主定理

$\delta:=(0,1,\ldots,n-1)\in \Z^n$とする. $S_n$が座標入れ替えとして自然に$\R^n$に作用することに注意せよ.

$u,v\in C\cap \Z^n$に対し,
\begin{equation} \#\SPath(u,v)=\sum_{\sigma\in S_n} \binom(\sigma(v-\delta)+\delta-u). \end{equation}
ここで, $a=(a_0,a_1,\ldots a_{n-1})\in \Z^n$に対し, $\binom(a)$
\begin{equation} \binom(a)=\left(\sum_{i=0}^{n-1} a_i\right)!\left(\prod_{i=0}^{n-1} a_i!\right)^{-1} \end{equation}
である. ただし, ある$i$に対して$a_i<0$のときは$\binom(a)=0$と定める.

$S=\{(\sigma,p)|\sigma\in S_n, p\in\Path(u,\sigma(v-\delta)+\delta)\}$, $S_{+}=\{(\sigma,p)|\sigma\in A_n, p\in\Path(u,\sigma(v-\delta)+\delta)\}$, $S_{-}=S\setminus S_{-}$,$S_0=\{\id\}\times \SPath(u,v)\subset S$と定める. 任意の$a,b\in \Z^n$に対し, $\binom(b-a)=\#\Path(a,b)$なので示すべきは$(\#S_+)-(\#S_{-})=\#S_0$. よって, $S\setminus S_0$上の対合$\iota$であって, $\iota(S_{+}\setminus S_0)\subset S_{-}$, $\iota(S_{-})\subset S_{+}\setminus S_0$を満たすものを作ればよい.

$p=(u_0,u_1,\cdots u_l)\in S\setminus S_0$を任意にとる. $S$の定義より, $p\in \Path(u,\sigma(v-\delta)+\delta)$となる$\sigma\in S_n$がuniqueにとれる. このとき, ある$i$が存在し, $u_i\notin C$を満たす. ($\sigma\neq \id$なら$i=l$とすればok. そうでない場合は, $(\id,p)\in S\setminus S_0$なので$S_0$の定義より従う) . このような$i$の中で最小のものを再び$i$と置く. $u\in C$より, $i>0$なので, $u_i-u_{i-1}=e_j$$j$を置く. ここで, $i$の最小性より, $j>0$かつ$u_{i,j}=u_{i,j-1}+1$である. よって, $S_n\ni \tau:=(j-1,j)$と置く.
$u'_k(0\leq k \leq l)$を次式で定める.
\begin{equation} u'_{k}=\begin{cases} u_k && k\leq i\\ \tau(u_k-u_i)+u_i && k\geq i \end{cases} \end{equation}
($k=i$のとき上下どちらで定義しても値が変わらないことに注意せよ.)
$k< i$のとき$u'_{k+1}-u'_k=u_{k+1}-u_k$であり, $k\geq i$のときは$u'_{k+1}-u'_k=\tau(u_{k+1}-u_k)$である. よって, $(u_0,u_1,\cdots ,u_l)$はパスである. さらに, $u_{i,j}=u_{i,j-1}+1$に注意すると, $u'_l=\tau(u_l)-\tau(u_i)+u_i=\tau(\sigma(v-\delta)+\delta)+e_{j}-e_{j-1}.$ $\tau(\delta)-\delta=e_{j-1}-e_j$なので, 結局$u'_l=(\tau\sigma)(v-\delta)+\delta$.よって, $u'_i=u_i\not\in C$と合わせ,$(\tau\sigma,u')\in S\setminus S_0$. $\iota(\sigma,u)=(\tau\sigma,u')$$\iota$を定義すると, これが求める対合になることを示す. 対合であることは定義に従って計算すれば明らか. ($\tau^2=\id$が効く. )$\mathrm{sgn}(\tau)=-1$なので, $\iota$$S_{+}\setminus S_0$$S_{-}$に, $S_{-}$$ S_{+}\setminus S_0$に送る. これが示したいことだった.

$u=(0,0,\cdots,0)$のときはこの式を積の形にすることができる. (ここからの話は$S_n$の表現論周りでよくある式変形で, 例えば『古典群の表現論と組合せ論 下』のp173や『テンソル代数と表現論』p167に載っている. ただし前者の本の問10.1は間違っているので注意せよ.)

$u=(0,0,\cdots,0),v\in \Z_{\geq 0}^n\cap C$と仮定する. このとき, $s=\sum_{i=0}^{n-1} v_i,w=v-\delta$と置くと,
\begin{equation} \#\SPath(u,v)= s!\prod_{0\leq i< j< n}(w_i-w_j)\prod_{0\leq i< n} (w_i+(n-1))!^{-1} \end{equation}

以下, 負の整数$n$に対し$(n!)^{-1}=0$とする.
先の定理より,
\begin{equation} \#\SPath(u,v)=s!\sum_{\sigma\in S_n} \mathrm{sgn}(\sigma)\prod_{i=0}^{n-1}(w_i+\sigma(i))!^{-1} \end{equation}
よって, $n\times n$行列$A$$A_{i,j}=(w_i+j)!^{-1}$で定めると, $s!\det(A)=\#\SPath(u,v)$.
$n$未満の非負整数$j$に対して, 多項式$f_j(x)\in \Z[x]$を, $f_j(x)=(x+j)(x+j+1)\cdots (x+n-1)$と定めると, $A_{i,j}=f_j(w_i)(w_i+(n-1))!^{-1}$. ($v_i\geq 0$より, $w_i+(n-1)\geq 0$なので, $w_i<0$でもこの式は正しい. ) よって, $n\times n$行列$B$$B_{i,j}=f_j(w_i)$と定めると,
\begin{equation} \#\SPath(u,v)=s!\det(A)=s!\prod_{0\leq i< n} (w_i+(n-1))!^{-1}\det(B) \end{equation}
よって, 次の命題から主張は従う.

monicな多項式$f_0,f_1\ldots f_{n-1}$が, 任意の$i$に対し$\deg(f_i)=n-1-i$を満たしたとする. このとき, $n\times n$行列$A$$A_{i,j}=f_i(x_j)$と定めると,
\begin{equation} \det(A)=\prod_{0\leq i< j< n} (x_i-x_j). \end{equation}

行基本変形(の中で, 行の$i$行目の定数倍を$j$行目に足す操作)を繰り返し, $f_i=x^{n-1-i}$としてよい. すると主張はヴァンデルモンドの行列式そのもの.

見なれたフック長公式を得るためにもうひと変形を行う.

$v\in \Z_{\geq 0}^n\cap C,w=v-\delta$とする. このとき, 任意の$n$未満の非負整数$i$に対して, 次の式が成立する.
\begin{equation} \{0,1,2,\ldots,w_i+(n-1)\}=\{w_i-w_i,w_i-w_{i+1},\ldots w_i-w_{n-1}\}\cup \{w_i+v^t_0-1,w_i+v^t_1-2,\ldots ,w_i+v^t_{v_i-1}-v_i\}. \end{equation}
ただし, $v^t_j$とは, $v$をヤング図形とみなしたときの$j$列目の箱の個数. すなわち, $v^t_j=\#\{k \mid v_k > j\}$.

ここでは図形的に示す.
次図は$n=6,v=(8,6,3,3,2,1),i=1$の場合の例である. 赤い線が$\{w_i-w_i,w_i-w_{i+1},\ldots w_i-w_{n-1}\}$に, 青い線が$\{w_i+v^t_0-1,w_i+v^t_1-2,\ldots ,w_i+v^t_{v_i-1}-v_i\}$に対応する.

一般の場合も同様. ($x$座標-$y$座標を考えよ)

$v\in \Z_{\geq 0}^n\cap C$と仮定する. このとき, $s=\sum_{i=0}^{n-1} v_i$と置くと,
\begin{equation} \#\SPath((0,0,\ldots 0),v)=s!\prod_{i=0}^{n-1} \prod_{j=0}^{v_i-1} ((v_i-j)+(v^t_j-i)-1)^{-1} \end{equation}

上の補題より,
\begin{equation} (w_i+(n-1))!^{-1}\prod_{i< j< n} (w_i-w_j)=\prod_{0\leq j< v_i} (w_i+v_j^t-(j+1))=\prod_{0\leq j< v_i} (v_i+v_j^t-i-j-1) \end{equation}
主張はこれと定理2から明らか.

終わりに

他のコセクター系への拡張や, 重み付けしてシューア関数との関係性などが気になります. また何か思いついたら追記します.

投稿日:522
更新日:827

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

bd
59
11122

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中