この記事は 日曜数学 Advent Calendar 2025 の22日目の記事となります。
12/22といえばかの稀代の数学者シュリニヴァーサ・ラマヌジャンの誕生日です。
ラマヌジャンの肖像
ちなみに1222は私のMathlogのユーザーID (https://mathlog.info/users/1222/articles)でもあります。運命的ですね。
毎年恒例のコピペも貼ったところで、今年も今年とてラマヌジャンに関する雑学でも紹介していきたいな~と思っていたところ、簡単で面白そうな話題としてラマヌジャンが 出題した問題 の一つ
正整数$n$に対し
\begin{align}
\bigg[\frac n3\bigg]+\l[\frac{n+2}6\r]+\l[\frac{n+4}6\r]
&=\bigg[\frac n2\bigg]+\l[\frac{n+3}6\r]\\
\l[\frac12+\sqrt{n+\frac12}\r]&=\l[\frac12+\sqrt{n+\frac14}\r]\\
\l[\sqrt n+\sqrt{n+1}\r]&=\l[\sqrt{4n+2}\r]
\end{align}
が成り立つことを示せ。
が目に留まったので、今回の記事ではこれらの等式について簡単に解説していこうと思います。
なお個人的な好みにより以下ではガウス記号$[x]$の代わりに床関数$\f x$を主に用いるものとします。
ちなみに上の等式はラマヌジャンのノートブックにも登場しています(画像右の5.(ii)-(iv))。
なおラマヌジャンは床関数$\f x$のことを$I(x)$と表記していることに注意しましょう。
Notebook 2,3より
さて実は上の問題は全て、同じくラマヌジャンが発見した次の公式を用いることで示すことができます(この公式は上の画像左の(3)として書かれています)。
区間$[1,\infty)$上で定義された非有界狭義単調増加な連続関数$\vp$に対し
$$\sum^\infty_{n=1}\f{\vp(n)}x^n
=\sum^\infty_{n=1}\frac{x^{\lceil\vp^{-1}(n)\rceil}}{1-x}$$
という(形式的冪級数の)等式が成り立つ。
ただし$\f x,\c x$はそれぞれ床関数・天井関数とし、また$n<\vp(1)$に対して$\vp^{-1}(n)=1$と定めるものとする。
ちなみに$\vp$が$[0,\infty)$上の関数で$\vp(0)=1$を満たす場合は
$$\sum^\infty_{n=0}\f{\vp(n)}x^n
=\sum^\infty_{n=1}\frac{x^{\lceil\vp^{-1}(n)\rceil}}{1-x}$$
という等式が成り立つことも覚えておくといいかもしれません。
$$S(n)=\#\{(m,k)\mid m\geq1,\ k\geq0,\ \lceil\vp^{-1}(m)\rceil+k=n\}$$
とおいたとき
\begin{align}
\sum^\infty_{n=1}\frac{x^{\lceil\vp^{-1}(n)\rceil}}{1-x}
&=\sum^\infty_{n=1}\sum^\infty_{k=0}x^{\lceil\vp^{-1}(n)\rceil+k}\\
&=\sum^\infty_{n=1}S(n)x^n
\end{align}
と展開できることと、$\vp$の単調性から$S(n)$は
\begin{align}
S(n)
&=\#\{m\mid \lceil\vp^{-1}(m)\rceil\leq n\}\\
&=\#\{m\mid \vp^{-1}(m)\leq n\}\\
&=\#\{m\mid m\leq\vp(n)\}\\
&=\f{\vp(n)}
\end{align}
と求まることからわかる。
特に$\vp$の単調性から
$$\sum^\infty_{n=1}x^{\c{\vp^{-1}_1(n)}}
=\sum^\infty_{n=1}x^{\c{\vp^{-1}_2(n)}}
\iff\forall n\geq1,\ \c{\vp^{-1}_1(n)}=\c{\vp^{-1}_2(n)}$$
が成り立つことに注意すると次のような主張も得られます。
区間$[1,\infty)$上で定義された非有界狭義単調増加な連続関数$\vp_1,\vp_2$に対し次の二条件は同値である。
では以上の事実を用いてラマヌジャンの問題を解いてみていきましょう。
まず一つ目の等式
$$\bigg[\frac n3\bigg]+\l[\frac{n+2}6\r]+\l[\frac{n+4}6\r]
=\bigg[\frac n2\bigg]+\l[\frac{n+3}6\r]$$
については上の定理の系として得られる次の等式を用いることで示すことができます。
正整数$p$に対し
$$\sum^\infty_{n=1}\f{\frac np}x^n=\frac{x^p}{(1-x)(1-x^p)}$$
が成り立つ。
$\vp(x)=x/p$とおいたとき$\vp^{-1}(x)=px$が成り立つことに注意すると定理1から
\begin{align}
\sum^\infty_{n=1}\f{\frac np}x^n
&=\sum^\infty_{n=1}\frac{x^{pn}}{1-x}\\
&=\frac1{1-x}\cdot\frac{x^p}{1-x^p}
\end{align}
を得る。
正整数$n$に対し
$$\f{\frac{n+4}6}-\f{\frac{n+3}6}+\f{\frac{n+2}6}
=\bf{\frac n2}-\bf{\frac n3}$$
が成り立つ。
上の補題より
\begin{align}
\sum^\infty_{n=1}(\bf{\frac n2}-\bf{\frac n3})x^n
&=\frac{x^2}{(1-x)(1-x^2)}-\frac{x^3}{(1-x)(1-x^3)}\\
&=\frac{x^2(x^4+x^2+1)-x^3(x^3+1)}{(1-x)(1-x^6)}\\
&=\frac{x^4-x^3+x^2}{(1-x)(1-x^6)}\\
&=\sum^\infty_{n=1}\bf{\frac n6}x^{n-6}(x^4-x^3+x^2)\\
&=\sum^\infty_{n=1}(\f{\frac{n+2}6}-\f{\frac{n+3}6}+\f{\frac{n+4}6})x^n
\end{align}
が成り立つことからわかる。
また二つ目の等式
$$\l[\frac12+\sqrt{n+\frac12}\r]=\l[\frac12+\sqrt{n+\frac14}\r]$$
については定理1系から次のような主張に言い換えることで示せます。
$$\vp_1(x)=\frac12+\sqrt{x+\frac12},\quad
\vp_2(x)=\frac12+\sqrt{x+\frac14}$$
とおいたとき、正整数$n$に対し
$$\c{\vp^{-1}_1(n)}=\c{\vp^{-1}_2(n)}$$
が成り立つ。
$$\vp^{-1}_1(x)=x^2-x-\frac14,\quad\vp^{-1}_2(x)=x^2-x$$
と表せることから
$$\c{\vp^{-1}_1(n)}=\c{\vp^{-1}_2(n)}=n^2-n$$
を得る。
正整数$n$に対し
$$\f{\frac12+\sqrt{n+\frac12}}=\f{\frac12+\sqrt{n+\frac14}}$$
が成り立つ。
ちなみに$\vp_2(0)=1$に注意するとこの母関数は
$$\sum^\infty_{n=0}\f{\frac12+\sqrt{n+\frac14}}x^n
=\frac1{1-x}\sum^\infty_{n=1}x^{n(n-1)}$$
と表すことができます。
そして三つ目の等式
$$\l[\sqrt n+\sqrt{n+1}\r]=\l[\sqrt{4n+2}\r]$$
についても同様に次のような主張に言い換えることで示せます。
$$\vp_1(x)=\sqrt x+\sqrt{x+1},\quad
\vp_2(x)=\sqrt{4x+2}$$
とおいたとき、正整数$n$に対し
$$\c{\vp^{-1}_1(n)}=\c{\vp^{-1}_2(n)}$$
が成り立つ。
$$\vp^{-1}_1(x)=\frac14\l(x-\frac1x\r)^2=\frac{x^2-2}4+\frac1{4x^2}$$
および
$$\vp^{-1}_2(x)=\frac{x^2-2}4$$
より$x\geq1$において
$$\frac{x^2-2}4=\vp^{-1}_2(x)<\vp^{-1}_1(x)\leq\frac{x^2-1}4$$
と評価できることと
$$\c{\frac{n^2-2}4}
=\c{\frac{n^2-1}4}
=\l\{\begin{array}{ll}
(n^2-1)/4&(n:\text{奇数})\\
n^2/4&(n:\text{偶数})
\end{array}\r.$$
が成り立つことに注意すると
$$\c{\vp^{-1}_1(n)}=\c{\vp^{-1}_2(n)}$$
を得る。
正整数$n$に対し
$$\f{\sqrt n+\sqrt{n+1}}=\f{\sqrt{4n+2}}$$
が成り立つ。
ちなみに$\vp_1(0)=1$および
$$\c{\vp^{-1}_1(n)}
=\c{\frac{n^2-1}4}
=\l\{\begin{array}{ll}
m(m-1)&(n=2m-1)\\
m^2&(n=2m)
\end{array}\r.$$
に注意するとこの母関数は
$$\sum^\infty_{n=0}\f{\sqrt n+\sqrt{n+1}}x^n
=\frac1{1-x}\l(\sum^\infty_{n=1}x^{n(n-1)}+\sum^\infty_{n=1}x^{n^2}\r)$$
と表すことができます。
さて上で見たように今回考えた問題
\begin{align}
\bigg[\frac n3\bigg]+\l[\frac{n+2}6\r]+\l[\frac{n+4}6\r]
&=\bigg[\frac n2\bigg]+\l[\frac{n+3}6\r]\\
\l[\frac12+\sqrt{n+\frac12}\r]&=\l[\frac12+\sqrt{n+\frac14}\r]\\
\l[\sqrt n+\sqrt{n+1}\r]&=\l[\sqrt{4n+2}\r]
\end{align}
は
$$\sum^\infty_{n=1}\f{\frac np}x^n=\frac{x^p}{(1-x)(1-x^p)}$$
という等式や
$$\forall n\geq1,\ \f{\vp_1(n)}=\f{\vp_2(n)}
\iff\forall n\geq1,\ \lceil\vp^{-1}_1(n)\rceil=\lceil\vp^{-1}_2(n)\rceil$$
という命題を利用することで簡単に示せるのでした。
そして逆に言えばこれを利用することで我々もラマヌジャンのような非自明な等式を作り出すことができるわけです。
例えばパッと思いつくだけでも次のような公式たちが得られました(証明は上と同様なので省略)。
正整数$l,m,n$に対し
$$\bf{\frac nm}=\sum^{l-1}_{k=0}\f{\frac{n+km}{lm}}$$
が成り立つ。
なおより一般に正整数$l$と実数$x$に対し
$$\f{x}=\sum^{l-1}_{k=0}\f{\frac{x+k}l}$$
が成り立つことが知られています。
非負整数$n$と実数$1\leq a<10$に対し
$$\f{\frac23+\sqrt[3]{n+\frac1{27}}}=\f{\frac23+\sqrt[3]{n+\frac a{27}}}$$
が成り立つ。
非負整数$m,n$に対し
$$\f{\sqrt{n+m^2}+\sqrt{n+(m+1)^2}}=\bf{\sqrt{4n+(2m+1)^2+1}}$$
が成り立つ。
また上で得られた等式
\begin{align}
\sum^\infty_{n=0}\f{\frac12+\sqrt{n+\frac14}}x^n
&=\frac1{1-x}\sum^\infty_{n=1}x^{n(n-1)}\\
\sum^\infty_{n=0}\f{\sqrt n+\sqrt{n+1}}x^n
&=\frac1{1-x}\l(\sum^\infty_{n=1}x^{n(n-1)}+\sum^\infty_{n=1}x^{n^2}\r)
\end{align}
および定理1において$\vp(x)=\sqrt x$とすることで得られる等式
$$\sum^\infty_{n=1}\f{\sqrt n}x^n=\frac1{1-x}\sum^\infty_{n=1}x^{n^2}$$
を組み合わせると次のような公式も得られます。
非負整数$n$に対し
\begin{align}
\f{\sqrt n}
&=\f{\sqrt n+\sqrt{n+1}}-\f{\frac12+\sqrt{n+\frac14}}\\
&=\f{\sqrt{4n+2}}-\f{\frac12+\sqrt{n+\frac12}}
\end{align}
が成り立つ。
みなさんもこのようにガウス記号(床関数)に関する非自明な等式を作って遊んでみてはいかがでしょうか。