命題とは、宣言文(平叙文)であって、その意味内容に対して
$$
\text{真} \quad \text{または} \quad \text{偽}
$$
のどちらか一方が 定まる ものをいう。
具体的な命題をその都度書き下す代わりに、命題を表す記号として $P$ や $Q$ を用いることがある。
また、「真」「偽」をそれぞれ $T$(True)、$F$(False)と表すこともある。
例えば「$11$ は素数である」は真な命題であり、「$12$ は素数である」は偽な命題である。
$ $
一方、「$n$ は素数である」は $n$ の値が指定されていないため、このままでは真偽が定まらず命題ではない。
ただし、$n$ に具体的な値を代入すれば命題になる。例えば、$n = 11$ とすると「$11$ は素数である」は真な命題である。
$ $
また、「この映画は面白い」のように「面白い」が主観に依存して真偽が一意に定まりにくい文も、
通常は命題とはみなさない。
真偽値とは
$$
\{T,F\}
$$
の$2$つの値のことであり、$T$ は「真」,$F$ は「偽」を表す。
命題 $P$ と命題 $Q$ に対し、「$P$ または $Q$」を $P \lor Q$ と書く。
このとき $P \lor Q$ の真偽は次の真理表で定義する。
$$
\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
P & Q & P \lor Q \\
\hline
T & T & T \\
T & F & T \\
F & T & T \\
F & F & F \\
\hline
\end{array}
$$
真理表とは、後述する論理式(または論理関数)について、入力となる命題変数の真偽値の組をすべて列挙し、
それぞれの場合にその論理式が真 $(T)$ になるか偽 $(F)$ になるかを表にまとめたものである。
たとえば命題変数が $n$ 個あるとき、入力の組は全部で $2^n$ 通りあるので、真理表は通常 $2^n$ 行(各行が$1$つの割当)からなる。
命題 $P$ と命題 $Q$ に対し、「$P$ かつ $Q$」を $P \land Q$ と書く。
このとき $P \land Q$ の真偽は次の真理表で定義する。
$$
\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
P & Q & P \land Q \\
\hline
T & T & T \\
T & F & F \\
F & T & F \\
F & F & F \\
\hline
\end{array}
$$
命題 $P$ と命題 $Q$ に対し、「$P$ ならば $Q$」を $P \Rightarrow Q$ と書く。
このとき $P \Rightarrow Q$ の真偽は次の真理表で定義する。
$$
\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
P & Q & P \Rightarrow Q \\
\hline
T & T & T \\
T & F & F \\
F & T & T \\
F & F & T \\
\hline
\end{array}
$$
特に $P$ が $F$ のときは、$Q$ の真偽に関わらず $P \Rightarrow Q$ は必ず $T$ である。
このように、$P$ が $F$ のとき、$Q$ の真偽に関わらず $P \Rightarrow Q$ が常に $T$ になることを『空虚に真』であると言う。
命題(またはこの後で扱う論理式)$P,Q$ に対し、条件命題 $P\Rightarrow Q$ を考える。
このとき、$P\Rightarrow Q$ に関連する次の$3$つの条件命題を定める。
$$
\begin{align}
\text{逆(converse)}\quad & Q\Rightarrow P,\\
\text{裏(inverse)}\quad & \neg P\Rightarrow \neg Q,\\
\text{対偶(contrapositive)}\quad & \neg Q\Rightarrow \neg P
\end{align}
$$
当然だが、命題 $P\Rightarrow Q$ は次のことを主張しない。
-真理表の定義より、$P\Rightarrow Q$ が偽となるのは
$$
P=T\ \text{かつ}\ Q=F
$$
の$1$つの場合だけである。従って、$P\Rightarrow Q$ という形の命題を証明(命題が真であることを論理的に導く有限の記述を)するときは次の方針になる。
-$2$番目については、例えば(今の段階で触れるのは先走りだが) $A=\varnothing$ のとき $\varnothing\subseteq B$ を示す議論では、各 $x$ に対して $x\in\varnothing$ が常に偽である。
従って
$$
x\in\varnothing\Rightarrow x\in B
$$
は常に空虚に真となり、含意($\varnothing\subseteq B$)は自動的に成り立つ。
このように、文脈によっては「$P$ が真となる場合」自体が存在せず、含意が恒等的に真になることがある。
命題 $P$ に対し、「$P$ でない($P$ の否定)」を $\neg P$ と書く。
このとき $\neg P$ の真偽は次の真理表で定義する。
$$
\begin{array}{|c|c|}
\hline
P & \neg P \\
\hline
T & F \\
F & T \\
\hline
\end{array}
$$
すなわち、$\neg P$ は $P$ が $T$ のとき $F$ とし、$P$ が $F$ のとき $T$ とする。
命題 $P$ と命題 $Q$ に対し、$ (P \Rightarrow Q) \land (Q \Rightarrow P) $ を表す記号として $P \Leftrightarrow Q$ を定める。
これを同値(同値記号)という。
$ $
このとき $P \Leftrightarrow Q$ の真偽は、$P \Rightarrow Q$ と $Q \Rightarrow P$ および $\land$ の定義から決まる。
真理表で表すと次の通りである。
$$
\begin{array}{|c|c|c|c|c|}
\hline
P & Q & P \Rightarrow Q & Q \Rightarrow P & P \Leftrightarrow Q \\
\hline
T & T & T & T & T \\
T & F & F & T & F \\
F & T & T & F & F \\
F & F & T & T & T \\
\hline
\end{array}
$$
命題変数とは、命題論理の形式言語における記号(文字)のことであり、真偽値を表すための変数である。
より厳密には、命題変数全体の集合 $\mathcal{P}$ を
$$
\mathcal{P}=\{P_1,P_2,P_3,\cdots\}
$$
のような互いに異なる記号の集合として定め、その各要素 $P\in\mathcal{P}$ を命題変数という。
命題変数 $P$ 自体は、それ単独では $T$ や $F$ のどちらであるかは決まらない。
次で与える評価(真偽値割当)
$$
v:\mathcal{P}\to\{T,F\}
$$
を与えることによって、はじめて $v(P)\in\{T,F\}$ が定まり、そのとき $P$ は真偽値をもつ。
命題変数 $P_1, P_2, \cdots, P_k$ を固定する。次で定める集合 $\mathcal{F}(P_1,\cdots,P_k)$ の元を命題論理式(論理式)という。
$$
\begin{align}
\text{(i)}\ & P_i \in \mathcal{F}(P_1,\cdots,P_k)\quad (i=1,2,\cdots,k).\\
\text{(ii)}\ & A\in \mathcal{F}(P_1,\cdots,P_k)\ \Rightarrow\ \neg A \in \mathcal{F}(P_1,\cdots,P_k).\\
\text{(iii)}\ & A,B\in \mathcal{F}(P_1,\cdots,P_k)\ \Rightarrow\
(A\lor B),(A\land B),(A\Rightarrow B)\in \mathcal{F}(P_1,\cdots,P_k).\\
\text{(iv)}\ & \mathcal{F}(P_1,\cdots,P_k)\text{ は (i)--(iii) を満たす最小の集合である。}
\end{align}
$$
ここで $A,B$ は任意の論理式を表す(メタ)記号とする。
ここでは任意の論理式を $f(P_1,\cdots,P_k)\in\mathcal{F}(P_1,\cdots,P_k)$ のようにも書く。
命題変数 $P_1, P_2, \cdots, P_k$ を固定する。各 $i$ に対し真偽値を割り当てる関数
$$
v:\{P_1,P_2,\cdots,P_k\}\to\{T,F\}
$$
を真偽値割当(評価)という。評価 $v$ は次の規則により(唯一つに)論理式全体へ拡張される。
この拡張も同じ記号 $v$ で表し、例えば論理式 $f$ の真偽値を $v(f)\in\{T,F\}$ と書く。
$$
\begin{align}
\text{(0)}\ & v(P_i)\text{ は与えられた割当により定めた値 }v(P_i)\in\{T,F\}\text{ とする。}\\
\text{(1)}\ & v(\neg A)\text{ は }v(A)\text{ と反対の真偽値である。}\\
\text{(2)}\ & v(A\lor B)\text{ は }\lor\text{ の真理表に従う。}\\
\text{(3)}\ & v(A\land B)\text{ は }\land\text{ の真理表に従う。}\\
\text{(4)}\ & v(A\Rightarrow B)\text{ は }\Rightarrow\text{ の真理表に従う。}
\end{align}
$$
ここで $A,B$ は任意の論理式を表す(メタ)記号とする。
任意の論理式 $A,B$ に対し、
$$
A \Leftrightarrow B \ \text{は}\ (A \Rightarrow B)\land(B \Rightarrow A)\ \text{の略記とする。}
$$
よって $v(A \Leftrightarrow B)$ は評価規則 $(1)-(4)$により定まる。
例えば、$k=3$ として命題変数 $P_1,P_2,P_3$ を考える。
評価(真偽値割当)とは
$$
v:\{P_1,P_2,P_3\}\to\{T,F\}
$$
のことであり、各 $P_i$ に $T$ または $F$ を割り当てる。例えば、次のような割当は評価である。
$$
\begin{align}
v(P_1)&=T\\
v(P_2)&=F\\
v(P_3)&=T
\end{align}
$$
このとき、例えば論理式
$$
f(P_1,P_2,P_3)=(P_1\land \neg P_2)\Rightarrow P_3
$$
を考えると、上の評価 $v$ のもとで
$$
v(f)=T
$$
となる。実際に計算すると
$$
\begin{align}
v(\neg P_2)&=T\\
v(P_1\land \neg P_2)&=T\\
v\bigl((P_1\land \neg P_2)\Rightarrow P_3\bigr)&=T
\end{align}
$$
である。
真偽値割当(評価)は『付値』とも呼ばれる。
論理式 $f(P_1,P_2,\cdots,P_k)$ がトートロジー(恒真式)であるとは、全ての評価 $v$ について $v(f)=T$ が成り立つことをいう。
恒真式は、どのように真偽値を割り当てても常に真となる論理式である。例えば
$$
P\lor(\neg P)
$$
は恒真式である。
恒真式を表す記号を $\top$ として、論理定数(真偽値が評価 $v$ に依存せず、常に一定に定まる記号のこと)として導入する流儀もある。
論理式 $f(P_1,P_2,\cdots,P_k)$ が矛盾式であるとは、全ての評価 $v:\{P_1,P_2,\cdots,P_k\}\to\{T,F\}$ に対して
$$
v(f)=F
$$
が成り立つことをいう。
矛盾式は、どのように真偽値を割り当てても常に偽となる論理式である。例えば
$$
P\land(\neg P)
$$
は矛盾式である。
恒偽式を表す記号を $\bot$ として、論理定数(真偽値が評価 $v$ に依存せず、常に一定に定まる記号のこと)として導入する流儀もある。
論理式 $f(P_1,P_2,\cdots,P_k)$ が充足可能であるとは、ある評価 $v:\{P_1,P_2,\cdots,P_k\}\to\{T,F\}$ が存在して
$$
v(f)=T
$$
が成り立つことをいう。
充足可能でない論理式は、矛盾式である。すなわち
$$
\text{$f$ が充足可能でない}\ \Longleftrightarrow\ \text{$f$ は矛盾式である}
$$
が成り立つ。
実際、$f$ が充足可能でないとは、全ての評価 $v$ に対して $v(f)=F$ が成り立つことであり、これは矛盾式の定義そのものである。
論理式 $f$ がトートロジーであるとは、全ての評価 $v$ に対して $v(f)=T$ が成り立つことであった。
従ってトートロジーは必ず充足可能である。
$$
\text{$f$ がトートロジー}\ \Rightarrow\ \text{$f$ は充足可能}
$$
$P_1,P_2,\cdots,P_k$ を命題変数とし、$f(P_1,P_2,\cdots,P_k)$,$g(P_1,P_2,\cdots,P_k)$ をそれらから作られた論理式とする。
評価(真偽値割当)$v:\{P_1,P_2,\cdots,P_k\}\to\{T,F\}$ に対し、$v(f),v(g)$ をそれぞれ $f,g$ の真偽値とする。
$ $
このとき $f$ と $g$ が同値であるとは、全ての評価 $v$ について
$$
v(f)=v(g)
$$
が成り立つことをいう。このとき、
$$
f(P_1,P_2,\cdots,P_k)\equiv g(P_1,P_2,\cdots,P_k)
$$
と表す。
特に命題の「対偶」は $P\Rightarrow Q$ と同値である。すなわち
$$
(P\Rightarrow Q)\equiv(\neg Q\Rightarrow \neg P)
$$
が成り立つ。一方、「逆」や「裏」は一般には $P\Rightarrow Q$ と同値ではない。
ただし「逆」と「裏」は互いに同値である。すなわち
$$
(Q\Rightarrow P)\equiv(\neg P\Rightarrow \neg Q)
$$
が成り立つ。
「$P \Leftrightarrow Q$」が $T$ であることと、$P$ と $Q$ の真偽が一致することは同値である。すなわち、
$$
『\ P \Leftrightarrow Q\ \text{は}\ T\ 』\Longleftrightarrow P\ \text{と}\ Q\ \text{の真偽が一致する。}
$$
$P,Q$ の真偽の組 $(P,Q)$ は $(T,T),(T,F),(F,T),(F,F)$ の$4$通りである。
真理表より次が成り立つ。
$$
\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
P & Q & P \Leftrightarrow Q \\
\hline
T & T & T \\
T & F & F \\
F & T & F \\
F & F & T \\
\hline
\end{array}
$$
-以上より両方向の含意が成り立つので、$$
『\ P \Leftrightarrow Q\ \text{は}\ T\ 』\Longleftrightarrow P\ \text{と}\ Q\ \text{の真偽が一致する。}
$$
が成り立つ。
$$ \Box$$
$P \lor (\neg P)$ はトートロジーである。
$P$ の真偽は $T,F$ の$2$通りである。$\neg$ と $\lor$ の定義より、次の真理表を得る。
$$
\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
P & \neg P & P \lor (\neg P) \\
\hline
T & F & T \\
F & T & T \\
\hline
\end{array}
$$
表より、$P$ が $T$ のときも $F$ のときも $P \lor (\neg P)=T$ である。
従って任意の評価 $v$ に対して $v(P \lor (\neg P))=T$ が成り立つので、$P \lor (\neg P)$ はトートロジーである。
$$ \Box$$
命題 $P$ とその二重否定 $\neg(\neg P)$ は同値である。すなわち
$$
P \equiv \neg(\neg P)
$$
が成り立つ。
$P$ の真偽は $T,F$ の$2$通りである。$\neg$ の定義より次の真理表を得る。
$$
\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
P & \neg P & \neg(\neg P) \\
\hline
T & F & T \\
F & T & F \\
\hline
\end{array}
$$
表より、$P$ が $T$ のときも $F$ のときも、$P$ と $\neg(\neg P)$ の真偽は一致する。
従って全ての評価において $P$ と $\neg(\neg P)$ は同じ真偽値をとるので、$P$ と $\neg(\neg P)$ は同値である。
$$ \Box$$
命題 $P$ について次が成り立つ。
$P$ の真偽は $T,F$ の$2$通りである。$\neg,\land$ の定義より次の真理表を得る。
$$
\begin{array}{|c|c|c|c|}
\hline
P & \neg P & P\land(\neg P) & \neg\bigl(P\land(\neg P)\bigr) \\
\hline
T & F & F & T \\
F & T & F & T \\
\hline
\end{array}
$$
表より、全ての場合に $P\land(\neg P)$ は $F$ である。よって 1. が成り立つ。
さらに表より、全ての場合に $\neg\bigl(P\land(\neg P)\bigr)$ は $T$ である。よって 2. が成り立つ。
$$ \Box$$
論理式 $f(P_1,P_2,\cdots,P_k)$ と $g(P_1,P_2,\cdots,P_k)$ について、次は同値である。
任意の評価 $v:\{P_1,P_2,\cdots,P_k\}\to\{T,F\}$ を$1$つとる。
すると $v$ は論理式にも拡張され、$v(f),v(g)\in\{T,F\}$ が定まる。
$ $
ここで同値記号 $\Leftrightarrow$ の真理表(定義)より、任意の$2$つの真偽値 $X,Y\in\{T,F\}$ について
$X\Leftrightarrow Y$ が $T$ となるのは $X=Y$ のときに限る(補足を参照)。従って
$$
v(f\Leftrightarrow g)=T \ \Longleftrightarrow\ v(f)=v(g)
$$
が成り立つ。
$ $
以上より、$A(v)$ を $v(f)=v(g)$,$B(v)$ を $v(f\Leftrightarrow g)=T$ とおくと、
上式より任意の評価 $v$ について $A(v)\Leftrightarrow B(v)$ が成り立つ。
$ $
すなわち「全ての評価 $v$ について $v(f)=v(g)$」と「全ての評価 $v$ について $v(f\Leftrightarrow g)=T$」は同値である。
$ $
また「全ての評価 $v$ について $v(f\Leftrightarrow g)=T$」は、$f(P_1,P_2,\cdots,P_k)\Leftrightarrow g(P_1,P_2,\cdots,P_k)$ がトートロジーであることの定義そのものである。
$ $
よって 1. と 2. は同値である。
$$ \Box$$
実際、$(v(f),v(g))$ の$4$通りを並べれば次の通りである。
$$
\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
v(f) & v(g) & v(f\Leftrightarrow g) \\
\hline
T & T & T \\
T & F & F \\
F & T & F \\
F & F & T \\
\hline
\end{array}
$$
この表より $v(f\Leftrightarrow g)=T$ と $v(f)=v(g)$ は同値である。