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大学数学基礎解説
文献あり

角谷の不動点定理の簡単な証明

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はじめに

ブラウワーの不動点定理を用いて、角谷の不動点定理を簡単に証明してみようと思います。
間違ってましたら、優しくご指摘頂ければ幸いです。

ブラウワーの不動点定理は下の記事で紹介いたしました。よかったらお読みくだされば幸いです。
ブラウワーの不動点定理のお気持ちと簡単な証明

多価写像

多価写像

$X$の各点$x$に対して、$Y$のある非空部分集合$\varphi(x)$を対応させる写像を多価写像といい、$\varphi:X\twoheadrightarrow Y$と書く。

【お気持ち】

多価写像のイメージ 多価写像のイメージ

コンパクト値な多価写像

多価写像$\varphi:X\twoheadrightarrow Y$の値がすべて$Y$のコンパクト集合であるような場合、$\varphi$はコンパクト値な多価写像という。

上半連続

$\varphi:X\twoheadrightarrow Y$が点$x_0\in X$において上半連続であるとは、集合$\varphi(x_0)$の任意の近傍$U$に対して、$x_0$の適当な近傍$V$を選び、
\begin{equation} \varphi(V)=\bigcup_{x\in V}\varphi(x)\subset U \end{equation}
となることをいう。

不動点

多価写像の不動点

$X$を非空集合とする。多価写像$\varphi:X\twoheadrightarrow Y$に対して、$x^\ast\in\varphi(x^\ast)$を満たす点$x^\ast\in X$が存在するとき、$x^\ast$$\varphi$の不動点という。

【お気持ち】

図のように、$x^\ast\in\varphi(x^\ast)$となるようなものがあれば不動点があるといえる !

多価写像の不動点 多価写像の不動点

多価写像のグラフ

$X$を非空集合とする。多価写像$\varphi:X\twoheadrightarrow Y$に対して、グラフ$G(\varphi)$
\begin{equation} G(\varphi) = \lbrace (x,y)\in X\times Y|y\in \varphi (x) \rbrace \end{equation}
と定義する。

$X\subset\mathbb{R}^n$は、非空で、コンパクト集合であるとする。
$\varphi$が上半連続で、凸値である。そのとき、任意の$\varepsilon>0$に対して、$G(f_{\varepsilon})\subset B_{\epsilon}(G(\varphi))$となるような連続写像$f_{\varepsilon}:X\rightarrow X$が存在する。

証明の詳細は文献[3]がわかりやすいです。

【お気持ち】

$\varepsilon>0$に対して、$G(f_{\varepsilon})\subset B_{\epsilon}(G(\varphi))$となるような連続写像$f_{\varepsilon}:X\rightarrow X$が存在する。

連続写像のイメージ 連続写像のイメージ

$X$を位相空間とし、$Y$をコンパクトHausdorff空間とする。多価写像$\varphi:X\twoheadrightarrow Y$で、$x\in X$に対し、$\varphi(x)$が空でない閉集合であるとする。このとき、$\varphi$$X$で上半連続であるための必要十分条件は、$\varphi$のグラフ$G(\varphi)$$X\times Y$で閉集合となることである。

証明の詳細は、文献[2]がわかりやすいです。

角谷の不動点定理

角谷の不動点定理

$X\subset\mathbb{R}^n$とする。$X$は非空で、コンパクト集合、凸集合であるとする。
$\varphi:X\twoheadrightarrow X$は上半連続で、$\varphi(x)$は非空で、凸集合、コンパクト集合であるとする。
このとき、$\varphi$$X$上に不動点をもつ。

【お気持ち】

図のように、ブラウワーの不動点定理より、連続写像$f:X\rightarrow X$は不動点をもつ。
そのため、連続写像$f_{\varepsilon}:X\rightarrow X$は、$x^\ast = f_{\varepsilon}(x^\ast)$となる不動点がある !

つまり、$\varepsilon\rightarrow 0$とすれば、$x^{\ast}\in\varphi(x^{\ast})$となるような、$\varphi$の不動点$x^\ast$があるといえる。

連続写像のイメージ 連続写像のイメージ

$X\subset\mathbb{R}^n$のとき、コンパクト集合$\varphi(x)$は閉集合でもあることに注意する。

$B_{\epsilon}(G(\varphi))=\lbrace z\in X \times X | d(z,G(\varphi))<\varepsilon\rbrace$

ただし、$d(z,G(\varphi))=\inf_{(x,y)\in G(\varphi)}d(z,(x,y))$である。

$X\subset\mathbb{R}^n$であり、$\varphi$が上半連続で、凸値である。定理1より、任意の$\varepsilon>0$に対して、$G(f_{\varepsilon})\subset B_{\epsilon}(G(\varphi))$となるような連続写像$f_{\varepsilon}:X\rightarrow X$が存在する。

$\varepsilon\rightarrow 0$とすると、$G(f_n)\subset B_{1/n}(G(\varphi))$となるような連続写像の列$\lbrace f_n\rbrace$が存在する。

ブラウワーの不動点定理より、各$f_n$は不動点$\hat{x}_n\in X$をもつ。

\begin{eqnarray} (\hat{x}_n,\hat{x}_n)&=&(\hat{x}_n,f_{n}(\hat{x}_n)) \ \ (\because \hat{x}_nはf_nの不動点)\\ &\in&G(f_n) \ \ (\because グラフGの定義)\\ &\subset& B_{1/n}(G(\varphi)) \ \ (\because G(f_n)\subset B_{1/n}(G(\varphi))) \end{eqnarray}

$(\hat{x}_n,\hat{x}_n)\in B_{1/n}(G(\varphi))$であるため、 $d(\hat{x}_n,x_n)<1/n$かつ$d(\hat{x}_n,y_n)<1/n$となるような$(x_n,y_n)\in G(\varphi)$が存在する。

$X$はコンパクトであるため、$\lbrace\hat{x}_n\rbrace$は、$\hat{x}_{n_k}\rightarrow\hat{x}\in X$となるような収束部分列$\lbrace\hat{x}_{n_k}\rbrace$をもつ。

$n_k\geq 2/\varepsilon$となるようにとると、

\begin{eqnarray} d(x_{n_k},\hat{x}) &\leq& d(x_{n_k},\hat{x}_{n_k}) + d(\hat{x}_{n_k},\hat{x})\\ &\leq& 1/n_k + \varepsilon/2\\ &\leq& \varepsilon/2 + \varepsilon/2\\ &=& \varepsilon \end{eqnarray}

\begin{eqnarray} d(y_{n_k},\hat{x}) &\leq& d(y_{n_k},\hat{x}_{n_k}) + d(\hat{x}_{n_k},\hat{x})\\ &\leq& 1/n_k + \varepsilon/2\\ &\leq& \varepsilon/2 + \varepsilon/2\\ &=& \varepsilon \end{eqnarray}

定理2より、$G(\varphi)$は閉集合であるので、$(\hat{x},\hat{x})\in G(\varphi)$である。

よって、$\hat{x}\in\varphi (\hat{x})$であり、$\hat{x}$$\varphi$の不動点であることがわかる。

参考文献

[1]
丸山徹, 数理経済学の方法
[2]
高橋渉, 凸解析と不動点近似
[3]
多価写像の連続性, 丸山徹, 三田学会雑誌, 1977
投稿日:20231228
更新日:202414
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hdk105
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