積位相と開基、準開基について
概要
何となくぼんやりと眺めると「あぁ、こんな感じでしょ・・・ん?」となる積位相と開基、準開基について見てみたい。この組み合わせは教育的な気がする。
※ なお、以下イメージ重視で書き方はゆるいので、100% 厳密な定義や記号とは言えない部分がある。
本文
添え字集合をとして、位相空間の族がある時に直積集合に位相を入れたい。特に名前的に“積位相”と呼べるものを入れたい。
簡単のためから始めたい。手始めに以下のような図を考えよう。
箱
まず安直に「開集合とをとって、積集合をの開集合としたら良いのではないか?」と思うが、ピンクの吹き出しのようなものだっての開集合だろうから、だけではすべての開集合を網羅できていなさそうな気がする。
ところで、こういった矩形をひたすらピンクの吹き出しの中に敷き詰めていけば何とかなりそうな気もする。吹き出しの右隅のほうで詰めてみた。
そこで次のような概念に至る。記号類は大体文献 [1] に合わせている。
(開基; open base)
を位相空間とする。の部分集合について、任意のに対して、あるがとれて、とできる時、を位相の開基と呼ぶ。
は上の図では境界のない矩形、例えば黄色い矩形ということになる。
ということで、有限個のからなる積集合の積位相 (と呼べるもの) は開基の作り方が分かるので何とかなりそうだが、無限個になると少々違ってくる。このやり方を無限のケースにまでスケールしたものは文献 [1]によると、「箱型積位相;
Box topology
」というものになるらしい。本来求めたい積位相よりは強い (細かい) ものになっている。有限個のケースでは箱型積位相も積位相も一致するので、今の時点ではピンと来ないものである*1
。
積位相としてどういうものを考えたいか?
大体数学の定義というのは、何かしら望ましい性質というものがあって、それを満たすような最低限の枠組みを用意することが好まれるように思う。それに倣うように積位相もまた「○○であるような最弱の位相」という形をとる。
ここから添え字集合をは無限集合とする。
どの本でもそうなので、唐突に以下のようなことを考える。
各について射影
をで定めたい。に全順序性は仮定していないのでこの書き方は良くはないが、お気持ち表明はできると思う。
そこで、「すべての射影が連続であるような最弱の位相」として積位相を導入したい。
連続性の定義は、開集合の写像による逆像が開集合であることであった。つまり、の積位相と呼べる位相が確立されたとすれば、各について、任意のに対してとなってくれれば良い。
そんなとは一体?という疑問が湧くが、これまた数学の定義はずるいので、「らが生成する位相をとする」ということになる。では「らを開基としましょう」とするとちょっとまずいことが起こる。
以下のように“円筒形” (シリンダー状)*2
になって長すぎるのである。これだとが有限個の場合とも噛み合わない。
シリンダー
ではが有限個の場合のように「円筒形の共通部分を開基として使えば良いのでは?」となるが、これだと上で述べた箱型積位相に至ってしまう。
お気持ち駆動で描いた絵だと以下のようになるであろうか?
シリンダーと箱
シリンダーだと大きすぎるし、箱だと小さすぎるので間をとって、「円筒形の有限個の共通部分を開基として使えば良いのでは?」という案が出て来る。実はこれが求めたかった積位相に繋がるものである。
ここで、準開基の概念を持ってこよう。
(準開基; subbase)
を位相空間とする。の部分集合について、任意のとに対して、常に有限個のがとれて、とできる時、を位相の準開基と呼ぶ。
要は、
ような位相が、の積位相だということである。この時すべてのは連続になっているし、この定義はが有限個の場合の直感的な積集合とも一致している。
積位相の旨味
「で?この積位相は何が美味しいの?」という部分については、例えば以下の定理が該当するのだろう。
Tychonoffの定理
を位相空間の (一般には無限個の) 族とし、を積位相を持った積空間とする。この時すべてのがコンパクト空間であればもコンパクト空間である。
箱型積位相の欠点
一方、「箱型積位相;
Box topology
」の場合、一般にはTychonoffの定理の主張は成立しない。
リンク先の Wikipedia によるととして離散位相 (すべての部分集合を開集合とする位相) が入っているものが反例となる。の部分集合全体はでありこれらはすべて開集合である。の任意の部分集合の開被覆はこれらの組み合わせであるが、これらは選別するまでもなく有限個であることからはコンパクト空間である。しかし、を考えると、自身の開被覆の部分被覆でを覆うとするとすべてのから被覆を選ばざるを得ないので、はコンパクト空間にはならない。
積位相の旨味再び
では、何故、積集合だとコンパクトになるのかと言うと、乱暴なイメージではあるが、準開基の定義を思い出すと、
や
のようなシリンダーが準開基なので、単一の準開基が無限個のコンポーネントを最初から被覆しているのである。これらの有限個の共通部分である開基もまた無限個のコンポーネントを被覆しており、それらの任意個の合併である開集合も無限個のコンポーネントを被覆していることが分かる。
つまり、の任意の集合の開被覆は個々の被覆がとんでもなく大きなものなので、高々有限個を選ぶだけでくらい覆えてしまうということである。よって、は積位相でコンパクト空間となる。
まとめ
積空間への積位相の導入を通じて、流れに乗って開基を炙り出し、次いで準開基を炙り出した。わりと自然に導入できる気がする。
また、Tychonoffの定理を通じて、積位相の持つ強力な性質、そして積位相になりきれない箱型積位相の欠点についても駆け足で見た。
*1
: 有界閉集合とコンパクト集合の違いが分からない気持ちと似ているかもしれない。
*2
: の部分として円形でも想像すれば良い。