Wikipediaの「交代群」のページには次のような記述があります。
「対称群の場合と同様、$A_n$の各共軛類は同じ巡回置換型を持つ元からなる。しかし、巡回置換型を構成する巡回置換の長さが奇数のみでしかも重複がないとき(巡回置換型には長さ1の巡回置換も含めるとする)、この型に対応する共軛類はちょうど二つ存在する。」
Wikipediaのリンクはこちらです
https://ja.wikipedia.org/wiki/交代群#cite_note-FOOTNOTEScott1987298–300§11.1_Conjugacy_classes-5
Wikipediaにはこの事実の証明は書いてありません。洋書の参考文献は載っていましたが、入手できない人もいらっしゃると思うので、記事としてまとめることにしました。
この記事では$n$は正の整数を表すものとします。また$S_n,A_n$で$n$次対称群、交代群を表すことにします。
今回の記事を読む前に
[1]
の補題3と命題4を読んでおくことを推奨します。
これは著者が以前書いた、対称群の共役類や正規部分群に関する記事です。
群$G$の元$g$に対して、$g$を含む$G$の共役類を$Cl_{G}(g)$と書き、$g$の中心化群を$C_G(g)$と書く。
また$G=S_n,A_n$のときは、$Cl_S(g),C_A(g)$などと書く。
$G$を群、$H$をその部分群とする。$g \in G$に対して$Cl_G(g) \cap H$は$H$の共役作用で不変であるため、$H$の共役類の和で表せる。$Cl_G(g) \cap H$が$H$の2つ以上の共役類の和になっているとき、すなわち$Cl_H(g) \subsetneq Cl_G(g)$であるとき、$Cl_G(g)$は$H$で分裂するという。
$\sigma \in S_n$とすると、$\sigma$は互いに共通の文字をもたない巡回置換の積に順番を除いて一意に分解できる。この分解を$\sigma$の巡回置換分解という。
互いに共通の文字を持たない2つの置換は可換であることに注意してください。また、例えば$(1~2)(3~4)(5~6)$と$(3~4)$は可換であることに注意してください。
対称群$S_n$の元$\tau,\rho$が共役であることの必要十分条件はそれらの型が同じであることである。また偶置換$\sigma$に対し、$\sigma$を含む$S_n$の共役類$Cl_S(\sigma)$が$A_n$で分裂することの必要十分条件は、$\sigma$の巡回置換型を構成する巡回置換の長さが奇数のみでしかも重複がないこと、すなわち、$\sigma$の型を$n_1^{e_1}\cdots n_r^{e_r}~(n_1 >\cdots > n_r,e_1,\ldots e_r \in \mathbb{N})$としたとき、$n_i$が全て奇数で$e_i=1$であることである。
$\sigma \in A_n$とし、$Cl_S(g)$は$A_n$で分裂するとする。このとき、$Cl_S(g)$は大きさの等しい2つの共役類に分裂する。$\tau$を奇置換とすると$\tau\sigma\tau^{-1}$は$\sigma$を含まない方の共役類に属する。
$S_3$の共役類は3つあり、それぞれの型は$3^1,21,1^3$です。代表元としては$(1~2~3),(1~2),e$がとれます。このうち偶置換なのは$3^1,1^3$型です。定理1によると、$3^1$型の共役類$\{(1~2~3),(1~3~2)\}$は$A_3$の中で2つに分裂します。実際、$A_3$は位数$3$のアーベル群なので、その共役類は$\{e\},\{(1~2~3)\},\{(1~3~2)\}$です。
$S_4$の共役類は5つあり、それぞれの型は$4^1,31,2^2,21^2,1^4$です。代表元としては$(1~2~3~4),(1~2~3),(1~2)(3~4),(1~2),e$がとれます。偶置換なのは$3^1,2^2,1^4$型です。定理1によると、$3^1$型の共役類は$A_4$の中で2つに分裂します。よって$A_4$の共役類は4つあり、それぞれの代表元として$(1~2~3),(1~3~2),(1~2)(3~4),e$がとれます。
$\sigma \in A_n$に対して、$Cl_S(\sigma)$が$A_n$の中で分裂することの必要十分条件は、$C_S(\sigma) \subset A_n$であること、すなわち$\sigma$がいかなる奇置換とも可換でないことである。
対偶をとり、分裂しないことと、ある奇置換と可換であることが必要十分であることを示します。
$Cl_S(\sigma)$が$A_n$の中で分裂しない
$\Leftrightarrow |Cl_S(\sigma)|=|Cl_A(\sigma)|$
$\Leftrightarrow|S_n|/|C_S(\sigma)|=|A_n|/|C_A(\sigma)|$
です。ここで、$C_A(\sigma)=C_S(\sigma) \cap A_n$であり、
[2]
より$|C_S(\sigma)A_n|=|C_S(\sigma)|\cdot|A_n|/|C_S(\sigma) \cap A_n|$、
すなわち$|C_S(\sigma)A_n|/|C_S(\sigma)|=|A_n|/|C_A(\sigma)|$なので、
$Cl_S(\sigma)$が$A_n$の中で分裂しない
$\Leftrightarrow |C_S(\sigma)A_n|=|S_n|$
$\Leftrightarrow C_S(\sigma)A_n=S_n$
を得ます。$A_n \triangleleft S_n$なので$A_n \subset C_S(\sigma)A_n$は$ S_n$の部分群です。よって$C_S(\sigma)A_n=A_n,S_n$が成り立ちます。$C_S(\sigma)A_n = A_n \Leftrightarrow C_S(\sigma) \subset A_n$より
$Cl_S(\sigma)$が$A_n$の中で分裂しない
$\Leftrightarrow C_S(\sigma)A_n=S_n $
$\Leftrightarrow C_S(\sigma) \not\subset A_n$
を得ます。
$Cl_S(\sigma)$とは、$S_n$の自分自身への共役作用における$\sigma$を含む軌道のことです。よって、
$Cl_S(\sigma)$が$A_n$で分裂しない
$\Leftrightarrow Cl_S(\sigma)=Cl_A(\sigma)$
$\Leftrightarrow A_n$が$Cl_S(\sigma) $に推移的に作用する
$\Leftrightarrow S_n=C_S(\sigma)A_n$
$\Leftrightarrow C_S(\sigma) \not \subset A_n$
です。
定理1を示すには、次の補題を示せばよいです。
$\sigma \in S_n$に対して、$C_S(\sigma) \subset A_n$であることの必要十分条件は、$\sigma$の巡回置換型を構成する巡回置換の長さが奇数のみでしかも重複がないことである。
まず、$\sigma$の巡回置換型を構成する巡回置換の長さに偶数のものがあると仮定します。$\sigma$を互いに共通の文字をもたない巡回置換の積に分解すると$(i_1~i_2 ~\cdots ~i_{2k})$という形が含まれます。このとき、$\tau$をこの巡回置換$(i_1~i_2 ~\cdots ~i_{2k})$そのものと定めると、これは奇置換で$\sigma$と可換です。実際、$\sigma$を構成する巡回置換は$\tau$自身であるか、$\tau$と共通の文字をもたないからです。
次に、$\sigma$の巡回置換型を構成する巡回置換の長さが奇数のみで、重複があるとします。このとき$\sigma$の巡回置換分解には$(a_1 \cdots a_{2l+1})$と$(b_1 \cdots b_{2l+1})$という形の巡回置換が現れます。$\tau \coloneqq (a_1~b_1) \cdots (a_{2l+1}~b_{2l+1})$とおくと、これは奇置換で
$\tau (a_1 \cdots a_{2l+1}) \tau^{-1} = (b_1 \cdots b_{2l+1}) $
$\tau (b_1 \cdots b_{2l+1}) \tau^{-1} = (a_1 \cdots a_{2l+1}) $
が成り立ちます。また$\tau$は$\sigma$の巡回置換分解に現れる他の巡回置換とは可換です。 よって$\tau \sigma \tau^{-1} = \sigma$が成り立ちます。
これにて必要性が示されました。
次に$\sigma$の巡回置換型を構成する巡回置換の長さが奇数のみでしかも重複がないと仮定します。このとき、$\sigma$の巡回置換は$\sigma=(a_{11} \cdots a_{1n_1}) \cdots (a_{r1} \cdots a_{rn_r})$となります。ここで$n_1 >\cdots > n_r$であり$n_i$は全て奇数です。このとき中心化群$C_S(\sigma)$はかなり具体的に書くことができます。実際$\tau \in C_S(\sigma)$とすると$\tau (a_{11} \cdots a_{1n_1})\tau^{-1} = (\tau(a_{i1}) \cdots \tau(a_{in_i}))$より$\sigma = \tau \sigma \tau^{-1}$の巡回置換分解は
$(\tau(a_{11}) \cdots \tau(a_{1n_1})) \cdots (\tau(a_{r1}) \cdots \tau(a_{rn_r}))$
となります。今$n_i$たちは相異なるので各$i$に対して
$(\tau(a_{i1}) \cdots \tau(a_{in_i}))=(a_{i1} \cdots a_{in_i})$が成り立ちます。よって$\tau(a_{i1})$は$a_{i1}, \ldots, a_{in_i}$のいずれかであり、それを決めれば$\tau(a_{i2}), \ldots, \tau(a_{in_i})$も決まります。ゆえに適切に$m_i$を定めることで
$\tau=(a_{11} \cdots a_{1n_1})^{m_1} \cdots (a_{r1} \cdots a_{rn_r})^{m_r}$
とできます。したがって
$C_G(\tau) \subset \langle (a_{11} \cdots a_{1n_1}) \rangle \cdots \langle (a_{r1} \cdots a_{rn_r}) \rangle $
を得ます。ここで各巡回置換は可換なので包含の右側の集合は実際に$S_n$の部分群になります。反対向きの包含は明らかなので等号が成り立ちます。そして各巡回置換は共通の文字を持たないので、右辺の部分群は直積になっています。よって、
$C_G(\tau) = \langle (a_{11} \cdots a_{1n_1}) \rangle \times \cdots \times \langle (a_{r1} \cdots a_{rn_r}) \rangle $となります。$n_i$は奇数だったので各巡回置換は偶置換であり、$C_S(\sigma) \subset A_n$を得ます。
準備はすべて整っています。共役類が型に対応することの証明は [1] の命題4そのものです。またこの記事の補題3,4から後半の主張も従います。
$Cl_S(\sigma)$が$A_n$で分裂するとすると、補題3より$C_S(\sigma) \subset A_n$なので$|Cl_A(\sigma)| = |A_n| / |C_S(\sigma)|= |Cl_S(\sigma)|/2$
が成り立ちます。$\sigma' \in Cl_S(\sigma) \setminus Cl_A(\sigma)$をとると$Cl_S(\sigma') = Cl_S(\sigma)$なので同様にして$|Cl_A(\sigma')| = |Cl_S(\sigma')|/2 = |Cl_S(\sigma)|/2$が成り立ちます。よって$Cl_S(\sigma) = Cl_A(\sigma) \sqcup Cl_A(\sigma') $と、大きさの等しい2つの共役類に分裂します。
$\tau$と奇置換とします。このとき、$\tau \sigma \tau^{-1}$と$\sigma$は$A_n$で共役ではありません。実際共役だとすると$\tau \rho^{-1} \in C_S(\sigma)$なる$\rho \in A_n$が取れ、$C_S(\sigma) \subset A_n$より$\tau \in A_n$となりますがこれは矛盾です。よって$\tau \sigma \tau^{-1}$と$\tau$は$A_n$で共役ではなく、別の共役類に属します。
TeX打ち時の$\sigma$あるある $\simga$