この記事では
前回の記事
に引き続き超幾何数列の基本事項についてまとめていきます。
前回の記事では
という数列の閉形式の求め方、特に
という漸化式を満たす超幾何数列の求め方について解説しましたが、今回の記事ではより一般に多項式係数の線形漸化式
を満たす超幾何数列の求め方について解説していきます。
以下
まず非同次な漸化式
の多項式による解の求め方について考えていきましょう。
やることとしては適当に
と展開することによって
いま簡単のため
と定めると件の方程式は
なる作用素を用いて
と表せます。
また
と定めると
と表せます。
したがって件の方程式は
なる多項式を係数に持つ差分方程式
に変形できます。
いま
と展開すると、繰り返しこの差分を取ることで
が成り立ちます。ただし
としました。
したがって
および
とおくと
の次数は高々
と表せます。
これによって
以上より漸化式
の多項式解は次のようなアルゴリズムによって網羅的に求めることができます。
ちなみに
前回の記事
Gosper's algorithmのステップ2として
という漸化式の多項式解
次に上の結果を用いて同次漸化式
の超幾何数列による解の求め方について考えていきましょう。
いま超幾何数列
とおくと
のように表せるので、件の方程式は有理関数
に帰着できます。
ここで
前回の記事
の定理5から
なるモニック多項式
を満たすようなものを取ると
が成り立つので件の方程式はさらに多項式の恒等式
に帰着されます。
いまこの左辺の第
が成り立つことがわかり、特に
となることがわかります。これにより
そこで
を
このときこの最高次の係数に注目することで
が得られるので、この代数方程式の解
以上より漸化式
の超幾何数列による解は次のようなアルゴリズムによって網羅的に求めることができます。
見ての通りこのアルゴリズムは計算量が半端ではありません。実際"A=B"によると最悪の場合この計算量は
百聞は一見に如かず、ということで今回も"A=B"に掲載されているいくつかの計算例を見ていくこととしましょう。
三項間漸化式
の多項式解を全て求めよ。
より
と求まる。
したがって
つまり
と求まり、
いま
とおくと
より
という方程式に帰着する。これを解くことで
を得る。
三項間漸化式
の超幾何数列による解を全て求めよ。
なのでテクニック(5)に注意すると
の四通りに絞られる。
このとき
つまりその解は
となる。これを解くと
このとき
つまりその解は
となる。これを解くと
これにて二つの線形独立な解が得られたので、残る
の解は
で尽くされることがわかる。
アペリー数
は三項間漸化式
を満たすことが知られている。このことから
テクニック(4),(5)に注意すると
の一通りに絞られる。このとき
つまりその解は
となる。しかしこれを解くとこのような多項式は存在しないことがわかる。
したがって
やはり計算量が大変なことになってしまうので、やむを得ず多項式解を計算する過程は省略しました。
上では漸化式の超幾何数列による解の求め方について解説してきましたが、"閉じた形(closed form)"の解釈をもう少し広げ
と表せるような解について考えてみましょう。
数列
(ただし
が成り立つことを言う。
例えば超幾何数列
と表せるような数列は
という漸化式を満たします。
ここでこの漸化式は
いま与えられた漸化式のd'Alembertian数列による解を考える上で重要な事実として次のような命題が成り立ちます(証明については気が向いたら書きます)。
d'Alembertian数列
を満たすとき、同じ漸化式
を満たすような超幾何数列
このような
とおくとこの漸化式の階数を下げることができます。実際これにより
と変形できるので
を満たすことがわかります。
また
といった形の解が得られることとなります。
やはりこれも百聞は一見に如かず、ということで計算例をいくつか紹介しておきましょう。
三項間漸化式
の解を全て求めよ。
まずは超幾何数列による解を一つ求める。
いま
つまり
となる。これを解くと
ここで
とおくと問題の漸化式は
と変形できるので
つまり
という解が得られる(
したがって求める解は
で尽くされることとなる。
ちなみにこの階数下げのテクニックは単に超幾何数列による解を求める場合にも役に立ちます。
三項間漸化式
の解を全て求めよ。
問題2として解説したように、これは
という解を持つのであった。ここで
いま
とおくと問題の方程式は
と変形できるので
つまり
という解が得られる。
ここでこのcreative telescopingを考えると
が成り立つので結局
という解が得られることとなる。
このようにd'Alembertian数列による解
が得られても、
なる超幾何数列
という閉形式が得られることにも注意しなければなりません。
ちなみに問題4の場合は
がGosper総和可能ではないのであれが最善の結果となっています。
よくよく考えると三項間漸化式は解が一つ求まれば次のような解の公式を作れることに気付いたので簡単に書いておきます。
および
を満たす数列とすると、三項間漸化式
の一般解は
と表せる(
とおくと問題の漸化式は
と変形でき、これは
と解ける(
また
であったので
を得る(
例えばこれにより上の問題1の一般解も簡単に求めることができます。
三項間漸化式
の解を全て求めよ。