変数間に依存関係がある多変数関数において、依存関係を先に代入して微分する手順と、全微分してから代入する手順が連鎖律によって同じ結果を与えることを確かめ、オイラー=ラグランジュ方程式に現れる偏微分の扱いを整理します。
多変数関数において$y=y(x)$のように変数間に従属関係があるとき、「先に代入して1変数関数として微分する」計算と、「多変数関数として偏微分した後に、依存関係とそれに伴う微分の関係$dy=\frac{dy}{dx}dx$を代入する」計算で結果が異なるのではないかという疑問が生じることがあります。また、変分法や解析力学のオイラー=ラグランジュ方程式では、$\dot{q}$が$q$の時間微分であるにもかかわらず、なぜ$q$と$\dot{q}$で別々に偏微分できるのかが疑問になります。
本記事では、合成関数の微分法則(連鎖律)を全微分の表記で書くことで、2つの手順の一致が連鎖律によって保証されることを示します。2つの手順は、同じ法則を、先に関数を合成する書き方と全微分を用いる書き方で表したものです。次に、積、正弦関数との合成、平方和という3つの具体例を通じて、全微分の表記によって積の微分や連鎖律に現れる各項を整理できることを確かめます。最後に、ラグランジアンの引数と経路上での評価を区別し、オイラー=ラグランジュ方程式に現れる時間微分にも同じ連鎖律が使われることを説明します。
1変数および多変数関数の微分法、合成関数の微分則、全微分の基礎知識を前提とします。本記事では主に2変数関数と1変数の依存関係を扱い、最後にラグランジアンへの応用を述べます。微分形式の一般論には立ち入りません。
関数$f(x,y)$について、変数間に$y=y(x)$という依存関係がある場合の微分を考えます。$f$と$y$は$C^1$級とします。$y=y(x)$を代入した1変数関数を$F(x)=f(x,y(x))$と書き、元の2変数関数$f$と区別します。
$F$の導関数を求めるには、以下の2つの手順があります。2つの手順の一致は、合成関数の微分法則(連鎖律)によって保証されます。ここでは、その同じ法則を、先に関数を合成する書き方と、全微分を用いる書き方で比較します。
依存関係$y=y(x)$を$f(x,y)$に代入して1変数関数$F(x)=f(x,y(x))$を作り、その式を通常の1変数関数として微分します。具体的な関数であれば、得られた式を直接微分するだけで、偏微分を経由しません。
$f(x,y)$を2変数関数として全微分します。偏微分は変数の依存関係を考慮せず、もう一方の変数を固定して行います。
$$ df = \frac{\partial f}{\partial x}dx + \frac{\partial f}{\partial y}dy $$
係数の偏導関数には$y=y(x)$を、微分には$dy = \frac{dy}{dx}dx$を代入します。これは合成関数の微分を明示的に行うことに相当します。代入後は$x$だけの関数の微分になるので、左辺を$dF$と書きます。
$$ dF = \left[\frac{\partial f}{\partial x}(x,y(x)) + \frac{\partial f}{\partial y}(x,y(x))\frac{dy}{dx}\right]dx $$
$dF=\frac{dF}{dx}dx$と比べて$dx$の係数を読み取ると、$F$の導関数が得られます。これは通常「両辺を$dx$で割る」と表現される操作です。
2つの手順が同じ結果を与えることは、次の連鎖律によって保証されます。先に代入する手順で直接求めた導関数も、この式の右辺に等しくなります。
$$ \frac{dF}{dx}=\frac{\partial f}{\partial x}(x,y(x)) + \frac{\partial f}{\partial y}(x,y(x))\frac{dy}{dx} $$
偏微分は依存関係を考慮せずに元の関数$f$に対して行いますが、その結果を$(x,y(x))$で評価し、$dy=\frac{dy}{dx}dx$を代入することで、依存関係が最終的な結果に正しく反映されます。
以上の結果を、3つの具体例で確認します。
$f(x,y) = xy$、$y=x^2$とする。
先に代入する場合
$$ \begin{aligned} F(x) &= f(x,x^2) = xx^2 = x^3 \\ \frac{dF}{dx} &= 3x^2 \end{aligned} $$
全微分後に代入する場合
$$ df = \frac{\partial f}{\partial x}dx + \frac{\partial f}{\partial y}dy = y\,dx + x\,dy $$
$y=x^2,\ dy = 2x\,dx$ を代入する。
$$ \begin{aligned} dF &= x^2dx + x(2x\,dx) = 3x^2dx \\ \frac{dF}{dx} &= 3x^2 \end{aligned} $$
全微分によって同じ項$xy$を別々に偏微分した結果、自動的にライプニッツ則が得られることに注目してください。
$$ d(xy) = \frac{\partial(xy)}{\partial x}dx + \frac{\partial(xy)}{\partial y}dy = y\,dx + x\,dy $$
$f(x,y) = \sin(xy)$、$y = e^x$とする。
先に代入する場合
$$ \begin{aligned} F(x) &= f(x,e^x) = \sin(xe^x) \\ \frac{dF}{dx} &= \cos(xe^x)(e^x + xe^x) \end{aligned} $$
全微分後に代入する場合
$$ df = \frac{\partial f}{\partial x}dx + \frac{\partial f}{\partial y}dy = y\cos(xy)\,dx + x\cos(xy)\,dy $$
$y=e^x,\ dy = e^xdx$ を代入する。
$$ \begin{aligned} dF &= e^x\cos(xe^x)dx + x\cos(xe^x)e^xdx = \cos(xe^x)(e^x + xe^x)dx \\ \frac{dF}{dx} &= \cos(xe^x)(e^x + xe^x) \end{aligned} $$
偏微分の段階でも、$\sin(xy)$を$x$や$y$で偏微分するのに連鎖律を使っています。
$f(x,y) = x^2 + y^2$、$y = \sin x$とする。
先に代入する場合
$$ \begin{aligned} F(x) &= f(x,\sin x) = x^2 + \sin^2 x \\ \frac{dF}{dx} &= 2x + 2\sin x\cos x \end{aligned} $$
全微分後に代入する場合
$$ df = \frac{\partial f}{\partial x}dx + \frac{\partial f}{\partial y}dy = 2x\,dx + 2y\,dy $$
$y=\sin x,\ dy = \cos x\,dx$ を代入する。
$$ \begin{aligned} dF &= 2x\,dx + 2\sin x\cos x\,dx = (2x + 2\sin x\cos x)dx \\ \frac{dF}{dx} &= 2x + 2\sin x\cos x \end{aligned} $$
これまでの議論は、オイラー=ラグランジュ方程式に現れる微分の扱いを整理するのにも使えます。オイラー=ラグランジュ方程式は、ラグランジアン$L(q, \dot{q}, t)$を用いて、運動方程式を記述します。ここで、$q$は一般化座標、$\dot{q}$は一般化速度、そして$t$は時間です。7shi-eleq
$$ \frac{\partial L}{\partial q} - \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{q}}\right) = 0 $$
この方程式では、$\dot{q}$が$q$の時間微分であるにもかかわらず、$L$を$q$と$\dot{q}$で別々に偏微分しています。これは次の3段階を区別すると整理できます。
依存関係が入るのは3の段階だけで、本記事で扱った連鎖律が使われるのもここです。$L$と経路$q$を$C^2$級とすると、例えば$\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial\dot q}$は経路上で評価した後の時間微分なので、連鎖律を3変数に適用して次のように展開されます。
$$ \frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial\dot q} = \frac{\partial^2 L}{\partial q\,\partial\dot q}\dot q + \frac{\partial^2 L}{\partial\dot q^2}\ddot q + \frac{\partial^2 L}{\partial t\,\partial\dot q} $$
右辺の偏導関数は$(q(t),\dot q(t),t)$で評価します。
なお、$\dot q=dq/dt$は経路についての微分の関係です。$y=y(x)$のように$\dot q$が$q$だけの関数として決まるわけではありません。同じ位置を通っても経路によって速度は異なるので、1の段階で$q$と$\dot q$を独立な引数とすることに矛盾はありません。
本記事では、関数$f(x,y)$の変数間に$y=y(x)$という依存関係があるとき、先に依存関係を代入して1変数関数$F(x)=f(x,y(x))$として微分する手順と、全微分を求めてから$y=y(x)$と$dy=\frac{dy}{dx}dx$を代入する手順が、同じ結果を与えることを確認しました。2つの手順の一致は連鎖律によって保証され、両者は同じ法則の2通りの書き方です。偏微分は依存関係を考慮せずに元の関数$f$に対して行いますが、その結果を$(x,y(x))$で評価し、微分の関係を代入することで、依存関係が最終的な結果に正しく反映されます。積・正弦関数との合成・平方和の具体例でも、両方の手順の結果が一致しました。
オイラー=ラグランジュ方程式では、ラグランジアン$L(q,\dot q,t)$を3つの独立な引数の関数として偏微分し、その後で経路$q(t)$と$\dot q=\frac{dq}{dt}$を代入します。依存関係が入るのは経路を代入した後の段階で、$\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial\dot q}$の計算に同じ連鎖律が使われます。
$$ \frac{dF}{dx} = \frac{\partial f}{\partial x}(x,y(x)) + \frac{\partial f}{\partial y}(x,y(x))\frac{dy}{dx} $$