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Moyal積とsubproduct

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$$\newcommand{aa}[0]{\alpha} \newcommand{ad}[0]{\mathrm{ad}} \newcommand{bb}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{dd}[0]{\delta} \newcommand{DD}[0]{\Delta} \newcommand{ee}[0]{\epsilon} \newcommand{g}[0]{\mathfrak g} \newcommand{GG}[0]{\Gamma} \newcommand{gg}[0]{\gamma} \newcommand{hb}[0]{\hbar} \newcommand{K}[0]{\mathbb K} \newcommand{kk}[0]{\kappa} \newcommand{ll}[0]{\lambda} \newcommand{LL}[0]{\Lambda} \newcommand{oo}[0]{\omega} \newcommand{OO}[0]{\Omega} \newcommand{p}[0]{\partial} \newcommand{q}[1]{\left( #1 \right)} \newcommand{sgn}[0]{\mathrm{sgn}} \newcommand{SS}[0]{\sigma} \newcommand{tt}[0]{\theta} \newcommand{TT}[0]{\Theta} \newcommand{uu}[0]{\upsilon} \newcommand{V}[0]{\mathbb V} \newcommand{ve}[0]{\varepsilon} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{z}[0]{\zeta} $$

大森英樹氏の書籍『量子的な微積分』において、Moyal積と呼ばれる謎の積が定義されていた。計算方法もいまいちわかりにくいが、この著書において種々の謎現象を引き起こす中心人物となっている。google検索を書けると出くわすのは、Wittenの開弦の場の理論において、”Wittenの*積”としてMoyal積が導入されたというものである。A型の量子群のmodule algebraの考察において勝手にmoyal積の構造が出現していたことに気づいたので、記事を書くことにした。その辺の物理をよく知らないので、キーワードしか掴めていないが、変形量子化とつながりが深いのは、量子群がそもそもリー代数の普遍包絡環の量子化であることから自明である。
 本題に入る。記号や議論は A型量子群の表現とmodule algebra の続きとなっているので、まずそちらを参照してほしい。そこにあるとおり、多項式環$\mathbb C(q)[x,y]$において積$\ltimes$$x^{a_1}y^{b_1}\ltimes x^{a_2}y^{b_2}=q^{a_1b_2}x^{a_1+a_2}y^{b_1+b_2}$とするとこれは代数を定め、$U_q(sl_2)$の表現の作用と整合性を持つ(module algebra)。通常の多項式の積を$\tilde P:f\otimes g\mapsto fg$、module algebraの積を$P:f\otimes g\mapsto f\ltimes g$とする。すると$P=\tilde P q^{\theta_x\otimes \theta_y}$という式が成り立つことが分かる。A型の場合、余積を固定した場合、一意的にこの$P$が定まることは証明済みである。一方で、余積は次のようにパラメータ$\mu \in \mathbb R$ごとに無限に存在する。
 \begin{align}  \Delta(E_i)=&K_i^{1-\mu}\otimes E_i+E_i\otimes K_i^{-\mu}\\  \Delta(F_i)=&K^\mu \otimes F_i+F_i\otimes K_i^{\mu-1}\\  \Delta(K_i)=&K_i\otimes K_i  \end{align}
それに応じて、module algebraの積は$P_\mu=\tilde P q^{(1-\mu)\theta_x\otimes \theta_y-\mu \theta_y\otimes \theta_x}$と変化する。
(誤植があったので以下の項目は24/10/6に編集した)
([1]p26参照)
変数変換$x=e^u,y=e^{iv},q=e^{\hbar}$をすると$\mu=1,0,1/2$それぞれにおいて
正規順序表示:$\Psi DO$-積公式
$f*g=\tilde P\exp(i\hbar \partial_v\otimes \partial_u)(f\otimes g)=f\exp(i\hbar \overleftarrow{\partial_v}~\overrightarrow \partial_u)g $
正規順序表示:$\bar\Psi DO$-積公式
$f*g=\tilde P\exp(-i\hbar \partial_u\otimes \partial_v)(f\otimes g)=f\exp(-i\hbar \overleftarrow{\partial_u}~\overrightarrow \partial_v)g $
Weyl順序表示:Moyal積公式
$f*g=\tilde P\exp(\frac{i\hbar}2 \partial_v\wedge \partial_u)(f\otimes g)=f\exp(\frac{i\hbar}2 \overleftarrow{\partial_v}\wedge \overrightarrow \partial_u)g $
ただし$\partial_v\wedge \partial_u=\partial_v\otimes \partial_u-\partial_u\otimes \partial_v$
となる。右は大森氏の著書にあるような、物理学者流の記法である(直感的な記法だが、導入としては好きではない)
著書においては、非可換なWeyl代数の元を(反)正規/Weyl順序表示で計算する際の表示の違いとして導入されているが、module algebraとしては対応する余積の違いによってこのような積が変化している。module algebraとしては(つまり多項式環内の演算としては)$\ltimes$は結合的であるが、無限級数や乗法逆元を考えたとき$\ltimes$の結合律は破れていると捉えるのが妥当な現象が現れるようである。折角module algebraとして量子群が作用しているので、その代数構造を用いて見通しよくMoyal積の全体像を考えることはできないか?と考えている。
以下、$*$をMoyal積として考察を行う。

定義語句(任意)

真空元
$\varpi_{00}=2\exp(\frac{2i}{\hbar}uv)=2\exp(\frac{2}{\hbar}\log x \log y)$
共役真空元
$\bar\varpi_{00}=2\exp(-\frac{2i}{\hbar}uv)=2\exp(-\frac{2}{\hbar}\log x \log y)$
[1]p37真空

これはいかにも奇妙な見た目である。
module algebraとして多項式を考えている分には素直な振る舞いをするが、この元を追加することで奇妙な振る舞いを観察できる。

公式名(任意)

$v*\varpi_{00}=\varpi_{00}*u=0$
$u*\bar\varpi_{00}=\bar\varpi_{00}*=0$

ここでnotationをガラッと変えてWeyl代数やτ積との関係性について見る。あまりにも変わりすぎて記号を統一するのが不可能になってしまった。

大森
DO積公式
$P(u^av^b\otimes u^cv^d)=q^{bc}u^{a+c}v^{b+d}=\tilde Pq^{\theta_v\otimes \theta_u}u^av^b\otimes u^cv^d$
(ただし$\tilde Pu^av^b\otimes u^cv^d=u^{a+c}v^{b+d} $)
にたいして次のようなWeyl代数の表現を考える
$u=e^x,~v=e^p,~[x,p]=i\hbar,~q=e^{i\hbar}$
演算子の等式として次が成立する。
$u^av^bu^cv^d=q^{bc}u^{a+c}v^{b+d}$
これは交換子の公式で次のように計算できる。
$e^{bx}e^{cp}=e^{cp+[bx,cp]}e^{bx}=q^{bc}e^{cp}e^{bx}$
DO積公式の$u,v$を消去すると次のようになる。
$u^av^bu^cv^d=\tilde Pq^{\p_p\otimes \p_x}u^av^b\otimes u^cv^d$
ただし、うえの計算において$[\p_x,p]=[\p_p,x]=0$(可換)であるとしておく。より一般に、
$f(x,p)g(x,p)=\tilde Pq^{\p_p\otimes \p_x}f(x,p)\otimes g(x,p)$
(ただし$\tilde Pf_1(x)f_2(p)\otimes g_1(x)g_2(p)=f_1(x)g_1(x)f_2(p)g_2(p)$)
となる。これはPBWの定理などで$x^ap^b$の形にWeyl代数の普遍包絡環の基底をとって書き下す際に用いることができるので有用である。

τ積に関する考察も書いておこう。$τ$積はパラメータ$\tau$が入った積で、可逆な演算子$T=e^{\frac{\tau}4\p^2_\zeta}:\C[\z]\rightarrow\C[\z]$を用いて
$f(\z)*_\tau g(\z)=T((T^{-1}f(\z))(T^{-1}g(\z)))$
と定義される。余積(準同型)$\Delta(\p_\z)=$、積$\tilde P:f\otimes g\mapsto fg$
$\p_\z\tilde P=\tilde P\Delta(\p_\z)$
という関係性を持つので、$P_\tau:f\otimes g\mapsto f*_\tau g$
\begin{align} P_\tau=&T\tilde P(T^{-1}\otimes T^{-1})\\ =&\tilde P \Delta(T)(T^{-1}\otimes 1)(1\otimes T^{-1})\\ =&\tilde P e^{\frac{\tau}4\Delta(\p_\zeta)^2}e^{-\frac{\tau}4\p^2_\zeta\otimes1}e^{-\frac{\tau}4 1\otimes\p^2_\zeta}\\ =&\tilde P e^{\frac{\tau}4(1\otimes\p_\z+\p_\z\otimes1)^2-\frac{\tau}4\p^2_\zeta\otimes1-\frac{\tau}4 1\otimes\p^2_\zeta}\\ =&\tilde P e^{\frac{\tau}2\p_\z\otimes\p_\z}\\ \end{align}
という計算公式を得る。
ここで、$\z=x+p,~ \tau=2i\hbar$としよう。
$\p_xf(\z)=\p_pf(\z)=\p_\z f(\z)$なので
$ \tilde Pq^{\p_p\otimes\p_x}(f(\z)\otimes g(\z))=\tilde Pe^{\frac{\tau}2\p_\z\otimes\p_\z}(f(\z)\otimes g(\z))= P_\tau (f(\z)\otimes g(\z))$

なので$P=\tilde Pq^{\p_p\otimes \p_x} $
$ P(f(\z)\otimes g(\z))=P_\tau(f(\z)\otimes g(\z))$
つまり、$\z$という1変数を考える場合においては
$P\equiv P_\tau$
と考えられるのである!
適当に$\z=ax+bp$などと線形変換した場合も適当な線形変換が存在して$\tau$積と$u,v$(Weyl代数)の非可換積を繋ぐ関係式がある。
という発見を今日したので心が平穏である。

投稿日:2023108
更新日:24日前
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投稿者

赤げふ
赤げふ
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東工大情報B4 数学,理論物理,Minecraft計算機/微分演算子の記事を書きます/主に表現論,量子群,物理の数理に興味があります

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