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平方因子を持たない自然数に対する素微分の上下からの評価

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今回の記事の正確性においては不安しかないです

前提知識

piを0から数えてi番目の素数とする。またqiは有理数とする。
n=i=0piqiと書けるとき、素微分Dを以下のように定義する。
D(n):=ni=0qipi


例えばD(840)なら、840=23315171なので、
p1=2,p2=3,p3=5,p4=7,p5=11,p6=13q1=3,q2=1,q3=1,q4=1,q5=0,q6=0
となるので
D(840)=840i=0qipi=840(32+13+15+17+011+013+017+)=840315+70+42+30210=840457210=1828
となります。
必要な知識はこれだけです。


もっと知りたい人:
素微分についての記事(数学を愛する会Wiki)

平方因子を持たない自然数とは

自然数nが平方因子をもたないというのはnを素因数分解したときにp2の形の素数が出てこないということです

無平方とも言い、wikipediaには

1 より大きい完全平方で割り切れないような整数

とありました。

まぁ要は 1より大きい平方数 の倍数でない数です。
このような数nの素因数分解は
n=p1p2p3
という感じで2乗が出てこないです(定義より当たり前)


なぜ平方因子をもたない自然数だけ素微分を考えるのか

私の前回の記事 素微分友愛数は互いに素である簡単?な証明 や、
その前回の記事を書く元となった記事 素微分友愛数となる相異なる自然数同士は互いに素 にあるように、

私は素微分友愛数について考えていて、
素微分友愛数は次のような性質を持ちました

素微分友愛数の性質

素微分友愛数である自然数n,mについては、以下のいずれかが成り立つ。

  1. n=m (素微分完全数)
  2. n,mが互いに素

そう、素微分友愛数となる相異なる自然数同士は互いに素になるのです。
さらに、次の公式が成り立ちます。

a,bは自然数とする
D(ab)=D(a)b+aD(b)

pを素数とし、nを自然数とする
D(pn)=npn1

なので、例えばnを平方因子を持つ自然数だとします。
そのnの平方因子から一つ素数をとってきてpとすると、
n=p2k
となるような自然数kが存在します。
このnの素微分はこうなります。(公式を使っていく)
D(n)=D(p2k)=D(p2)k+p2D(k)=2pk+p2D(k)=p(2k+pD(k))
よってD(n)pで割り切れます。
つまり、nD(n)は互いに素ではないということです!
こうなってしまうとnはもう素微分友愛数にはなりえません
(素微分完全数にはなる可能性がある)

こういう経緯から平方因子を持たない自然数の素微分に興味を持ったのです。


そもそも

そもそも、自然数を素微分した表とかグラフってあんまり見てないですよね
数値計算bot が具体的な値の計算をしています。
1~100000000(1 Billion)まで求めていますね。
しかしこれはでかすぎます。 22GBあります。(中身は100個のテキストファイルで1つ228MB)
幸い1 ~ 100000の2.28MBのテキストファイルバージョンがありました

自然数の素微分を 1 ~ 100000まで求めました

これならぎり開けます。
CSV形式になっていますね
グラフにしたいので1~1000ぐらいをコピーしてDesmosに張り付けました
1~1000までの点 1~1000までの点

ここで見れます Desmos

うわー
そして平方因子を持たない自然数だけプロットするとこうなります

1~3000までプロットしてみました Desmos


評価していく

まずここからはnは平方因子を持たない自然数ということにします。
そしてpinの素因数の小さいほうからi番目ということにします。
なので素因数分解はこうなります。
n=ipi
つまりは
n=p1p2p3p4
ということになります。

下限

下からはどう抑えられそうでしょうか?
まずnが素数pの時、
D(n)=D(p)=1
なので下限は1です。

う~ん

もうちょっといい下限はないでしょうか?
例えばnが合成数の時とかね?

D(n)=ni1pi=n(1p1+1p2+1p3+)
D(n)を展開するとこんな感じで書けます。
なので、素因数が多ければ多いほどD(n)も大きくなります。
逆に言うとD(n)を小さくするには素因数を減らせばいいのです。
なのでn=p1p2となったときが一番小さいでしょう(多分)
D(n)=D(p1p2)=p1D(p2)+D(p1)p2=p1+p2
ここで相加相乗平均の式より、
p1+p22p1p2=2n
です。
よって、素数でないnに対しては
D(n)2n
が成り立ちます。
が、nは平方因子を持たない自然数なので平方数にはなることはありません。
よって
D(n)>2n
が成り立ちます。


上限

上限の方はちょっとむずいですよ
D(n)=ni1pi=n(1p1+1p2+1p3+)
なので、同程度の大きさのn同士ではpiが多いほうがD(n)も大きくなります

実際、図3の右上の方に飛び出している二つの点は23102730で、素因数分解すると2310=2357112730=235713
小さいほうから素数を掛け算していった数になっています。
これは平方因子を持たない自然数のなかでは素因数を多く持ちつつ大きさも抑えられているので、上の方に飛び出しているわけです。
ということで、小さいほうから素数をかけていった数に注目してみましょう

そういう数は素数階乗を使うときれいに書けます


素数階乗の素微分

素数階乗のWiki には、こう書いてあります

素数階乗(そすうかいじょう、英: Primorial)とは、2以上の自然数に対してそれ以下の素数全ての総乗のことである。自然数nの素数階乗は、記号ではn#で表す。

なるほど
例としてはこんな感じです
2#=23#=23=64#=23=65#=235=306#=235=307#=2357=210

この素数階乗には次のような評価が知られています 英語版Wikiの素数階乗

素数階乗の評価

自然数n2について
n2.763n
また、n563については
n2.22n
ちなみに
limnn#n=e

この評価は使えそうですね
さて、この素数階乗を素微分するとどうなるでしょうか
ここではn=m#としましょう
D(n)=D(m#)=m#i1pi=m#(12+13+15+17+)

そういえば、m#はいくつまでの素数をかけているんでしょうか?
ここで使えるのが、素数計数関数です。


素数計数関数

素数計数関数というのはWikipediaにはこう書いてあります。 素数計数関数

素数計数関数(英: Prime-counting function)とは、正の実数にそれ以下の素数の個数を対応させる関数のことであり、π(x) で表す

素数計数関数のWikipediaの記事の内容に加えて英語版のWikipediaの記事も見るのをお勧めします。 英語版Wikipedia 素数計数関数

つまりはx以下の素数の数をπ(x)で表そうということです
例としてはこうです
π(2)=1π(3)=2π(4)=2π(5)=3π(6)=3π(7)=4

この素数計数関数に対しては次の評価が知られています。

素数計数関数の評価

xlogx<π(x)<30log113113xlogx

この素数計数関数を使うとm#はこう書けます
m#=i=1π(m)pi
これを使うと、D(n)はこのようになります
D(n)=D(m#)=m#i=1π(m)1pi=m#(12+13+15+17+π(m))


素数の逆数和

さて、上記の式を評価するのに必要なのはやはり
12+13+15+17+
の評価ですね。
これの無限和はよく素数の逆数和として知られています。
残念ながら日本語のWikipediaの記事は無いですが、英語版ならあります。
Divergence of the sum of the reciprocals of the primes
ここでは素数の逆数和(sum of the reciprocals of the primes)が発散(Divergence)することについて書かれています。

素数の逆数和はにはこのような評価が知られています。

p primepn1ploglog(n+1)logπ26

なるほど、loglog(n)程度の増加をするんですね
...

ちょっと待ってください。上からの評価はどうしたんですか?
探したんですが、見つけたのは
p primepn1p<2e2(1loglog3+1)loglogn
というもので、だいたい172loglognぐらいの評価でした。
この不等式を示しているサイト


素数の逆数和を上から評価する

んん~
もうちょっと頑張りたいですね。
サイトの証明に従ってもうちょっときつい評価を得られないでしょうか?
もとのサイトではこのような不等式がありました。(k1)です。
(pn1p)k=p1,p2,pk<n1p1p2pk<mnkk!m

?????
つまり
(12+13+15+17+)k
k個のn未満の素数p1,p2,p3,,pkの積p1p2p3pkが取りうるすべての数の逆数和
p1,p2,pk<n1p1p2pk
と等しいと。

そしてその積m=p1p2p3pkの値というのはnk以下であって、(pnだからね)
多くてもk!回しか出てこないと
だから
mnkk!m
が右側にあると

なるほど?
難しいこと言いますね


でも、よく考えたら
(1+12+13+15+17+)k
という風に1を足してもいいですよね?
(1+pn1p)k<mnkk!m
これでも大丈夫なはずです。

そして右辺を評価していきます
mnkk!m=k!mnk1m<2πk(ke)ke112k(log(nk)+1)
なので
1+pn1p<(mnkk!m)1k<(2πk(ke)ke112k(log(nk)+1))1k=k(2πk)12ke112k21(klogn+1)1k
となります。
これにはスターリングの近似公式と調和級数の評価を用いました

スターリングの近似

自然数nに対して
n!2πn(ne)ne112n
Wikipedia

調和級数の評価

自然数nに対して
i=1n1i<log(n)+1
高校数学の美しい物語


ここからはk=1+loglognとします。(xは床関数)
ちょっと粗いかもしれませんが
0<1k1112k211112(2πk)1k2π(kが自然数なので)
さらに、
(klogn+1)1k<(kek+1)1k<((k+1)ek)1k=e(k+1)1k
これをyとしてkで対数微分すると
y=e(k+1)1klogy=1+1klog(k+1)yy=1k2(kk+1log(k+1))y=e(k+1)1kk2(kk+1log(k+1))<0
よってyは単調減少なので、k>1ではk=1の時以下になるはずです。
ye(1+1)11=2e
より、
(kek+1)1k<2e
とわかります。
(n16k2なので、そっちを使ってもいいですがね...)
(ていうかグラフ見たらだいたい4未満だなってわかるけどね...)

使うやつ

0<1k1,112k211112,(2πk)1k2π,(kek+1)1k<2e


ということを使うと
k(2πk)12ke112k21(klogn+1)1k<k2πe11122e=22πe112k
綺麗になりました。

結論として
1+pn1p<22πe112(1+loglogn)pn1p<22πe112(1+loglogn)1
となります
だいたい
22πe1125.4489288446816909936
です


特に

気になるのですが16(>ee)以上のnではもうちょっとタイトな評価が得られそうです。
k=1+loglogn1+loglogee=2
なのでこうなります。

0<1k12,112k214748,(2πk)1k2π,(kek+1)1k2e2+1

よって
k(2πk)12ke112k21(klogn+1)1kk2π14e47482e2+1
したがって
pn1p<2π14e47482e2+1(1+loglogn)1
となります。だいたい
2π14e47482e2+12.80920417900466
ぐらいです。半分ぐらいになりました

最終的な下からの評価

長かったですが、以下の評価を得られました

素数の逆数和のupper bound

自然数n2に対して、n以下の素数の逆数和について
pn1p<22πe112(1+loglogn)1
が成り立つ
特に、n16の時は以下が成り立つ
pn1p<2π14e47482e2+1(1+loglogn)1

これでD(n)が評価できます。
D(n)=D(m#)=m#pm1p<n(22πe112(1+loglogm)1)=C1nloglogm+(C11)n(C1=22πe1125.449)

とくに、n16の時は
D(n)=D(m#)=m#pm1p<n(2π14e47482e2+1(1+loglogm)1)=C2nloglogm+(C21)n(C2=2π14e47482e2+12.8092)
と分かりました
ここで定理2より
n=m#>2.22mlog2.22n>mlognlog2.22>m
なので
D(n)<Cnloglogm+(C1)m<Cnloglog(lognlog2.22)+(C1)n=Cnlog(loglognloglog2.22)+(C1)n
となります。
へー
ちなみにloglog2.220.22626442131です


まとめ

平方因子を持たないかつ合成数な自然数n2をとるとき、その素微分D(n)に対して、以下の不等式が成り立つ
2n<D(n)<Cnlog(loglognloglog2.22)+(C1)n
ただし、
n2のときC=22πe1125.449
n16のときC=2π14e47482e2+12.8092
とする。

いえーい
グラフにするとこんな感じです

うーん... Desmos


間違いがalmost everywhereあると勝手に思っているので
もし見つけてくださったときはコメントしていただけると幸いです。

投稿日:224
更新日:224
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Y.K.
Y.K.
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  1. 前提知識
  2. 平方因子を持たない自然数とは
  3. なぜ平方因子をもたない自然数だけ素微分を考えるのか
  4. そもそも
  5. 評価していく
  6. 下限
  7. 上限
  8. 素数階乗の素微分
  9. 素数計数関数
  10. 素数の逆数和
  11. 素数の逆数和を上から評価する
  12. 特に
  13. 最終的な下からの評価
  14. まとめ