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大学数学基礎解説
文献あり

円錐型メンバーシップ関数を持つR^n上のFuzzy集合における可能性値と必然性値

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円錐型メンバーシップ関数を持つ$\mathbb{R}^n$上のFuzzy集合における可能性値と必然性値

最近あるきっかけでファジー理論を少しかじることがあった. 他の分野に比べてネット上のみでは情報が集まりにくい分野だと感じたので大した内容ではないが少しまとめてみた.

また直感に基づき証明を考えずに書いていることもあるため誤りがあるかもしれないことも注意してほしい.

Fuzzy集合とは

一般に集合といえばある要素がそこに属するか属さないかがはっきりしている. 例えば20歳の人の集合$A$があるとすると, ここにどんな人を連れてきてもその人が集合$A$に属するか属さないかは確定する. このような本来の意味での集合をCrisp集合と呼ぶ. Crisp集合$A$に対しては, 要素$x$が属する場合には1, そうでない場合に0を返す関数$\mu(x)$を定義できる. すなわち
$$\mu(x) = \left\{ \begin{array}{l} 0 & (x \in A) \\ 1 & (x \notin A) \end{array}\right. .$$

これに対してFuzzy集合というものでは, 要素がそこに属しているかどうかは曖昧である. 例えば, 背が高いというのは明確な基準はないのでそのような人の集合などがそれにあたる. Crisp集合において$\mu(x)$は集合に属するかどうかを表す二値関数であったが, Fuzzy集合$A$に対してこれを拡張してどのくらい集合$A$に属するかを表すメンバーシップ関数$\mu: X \rightarrow [0, 1]$を定義する. $\mu(x)=1$ならば$x$は完全に$A$に属し, $\mu(x)=0$ならば$x$は全く$A$に属さない. 例えば, 身長の高い人のFuzzy集合に対しては$x$を身長[cm]を表すとすれば200cm以上で背が高くないと感じたり150cm未満で背が高いと感じる人はいないと仮定して以下のようなメンバーシップ関数が定義できるであろう.
$$\mu(x) = \left\{\begin{array}{l} 0 & (x < 150) \\ \frac{x-150}{50} & (150 \leq x < 200) \\ 1 & (200 \leq x) \end{array}\right. $$

ここで, 今後のためにFuzzy集合が要素を持つ度合いについても考える. Crips集合では$\mu(x)=1$なる$x$が一つでも存在するなら$A$は要素をもつ, そうでなければ$A=\phi$といえた. Fuzzy集合では要素を持つかどうかというのもはっきりせず, 要素をもつ度合いが以下のようにあらわされる.
$$\sup_{x} \mu(x)$$
これはすなわち最も$A$に属しそうな要素が$A$に属する度合いを表している.

可能性値と必然性値

ここでは2つの集合$A, B$に対して$A$の元$a$$B$に含まれるのかどうかについて考える. Fuzzy集合においては可能性値と必然性値というものを考えるのが有効である.

可能性値

まずはCrisp集合$A, B$が共通部分をもつ($A\cap B \neq \phi$)とする. $a\in A$が存在したとき, $a$$B$に含まれるかどうかはこの時点ではわからない. この状況において, $a$$B$に含まれる可能性値は1と考えられる. ここで注意したいのは可能性が1とは確率が1であるということではなく, 可能性があることが確定しているという意味である. $A$$B$が共通部分を持たないときは$a\in A$$B$に含まれるというのはありえないので可能性値は0である. つまり$A$$B$に対する可能性値$P_A(B)$は以下のように書ける.
$$P_A(B) = \left\{\begin{array}{l} 0 & (A \cap B = \phi) \\ 1 & (A \cap B \neq \phi) \end{array}\right.$$
これを言い換えれば, $P_A{B}$$A\cap B$が要素をもつ度合いを表している. これをFuzzy集合に対して拡張する際に, 先ほどのFuzzy集合が要素を持つ度合いを使うことになる. Fuzzy集合$A, B$に対して$\mu_{A\cap B} = \mu_A \wedge\mu_B$($a\wedge b$$a, b$の最小値を表す)であることを認めればFuzzy集合における可能性値は
$$P_A(B) = \sup_{x} \mu_{A \cap B}(x) = \sup_{x} (\mu_A(x) \wedge \mu_B(x)) \tag{1} \label{pos}$$
と表せる.

必然性値

こちらもまずはCrisp集合での例を考える. $A \subset B$であるとすると, 任意の$a \in A$は当然$B$に含まれる. この状況で, $a$$B$に含まれる必然性値は1であると考えられる. $A \not\subset B$のときは, 必ずしも$a$$B$に含まれるわけではないので必然性値は0である. ここでも同様の注意で, 必然性値が0であるからといって$a$$B$に含まれる可能性が0になったわけではない。あくまで必然性がないことが確定しているというだけである. したがって$A$$B$に対する必然性値は
$$N_A(B) = \left\{\begin{array}{l} 0 & (A \not\subset B) \\ 1 & (A \subset B) \end{array}\right.$$
と表せる. これも先ほどと同様にFuzzy集合に対して拡張したいので, ちょっとした言い換えをする. $A$$B$に含まれない($A\not\subset B$)とはどういうことかというと, ある$a \in A$が存在して$a \notin B$つまり$a \in B^c$となるということである($B^c$$B$の補集合). したがって,
$$A \not\subset B \Leftrightarrow A \cap B^c \neq \phi$$
と置き換えられる. これにより$N_A(B)$をFuzzy集合に対しても定義できる.
$$N_A(B) = 1 - \sup_{x} \mu_{A \cap B^c}(x) = 1 - \sup_{x} (\mu_A(x) \wedge \mu_{B^c}(x))$$
可能性値のときと違い$A\cap B^c$が要素を持つ度合いが高い時に$N_A(B)$を0に近い値にしたいため, 1から$A\cap B^c$が要素を持つ度合いを引いていることに注意する. ここで, $\mu_{B^c}(x)$$x$$B^c$に含まれる度合いを表しているが, それはつまり$B$に含まれない度合い$1-\mu_B(x)$に等しいと考えることができる.
$$N_A(B) = 1 - \sup_{x} (\mu_A(x) \wedge (1 - \mu_{B}(x))) = \inf_{x} ((1 - \mu_A(x)) \vee \mu_B(x)) \tag{2}\label{nec}$$
ここでは$-\sup (x\wedge y) = \inf ((-x) \vee (-y))$, $a + \inf x = \inf (a+x)$であることを用いた. $\vee$は最大値を表すとする.

可能性値と必然性値の考え方から, 任意のメンバーシップ関数をもつFuzzy集合$A, B$に関して
$$N_A(B) \leq P_A(B)$$
が成り立つと期待される.
Crisp集合の例からわかるように, $a\in A$$B$に含まれることについて可能性値1で必然性値0であるとは, それらを考える情報が全くないことを表している.

円錐形メンバーシップ関数

ここからが本題になる. ゴールとしては円錐型メンバーシップ関数をもつ$\mathbb{R}^n$上の2つの集合において可能性値と必然性値を具体的に求めることである. まずは$\boldsymbol{x}\in \mathbb{R}^n$の関数
$$\mu_A(\boldsymbol{x}) = \left(1 - \frac{||\boldsymbol{x} - \boldsymbol{a}||}{r_A}\right) \vee 0 \tag{3}\label{membership}$$
をメンバーシップ関数にもつFuzzy集合$A$を考える. 特に$n=2$の時のグラフを考えると$\mu_A$は底面中心$\boldsymbol{a}$, 高さ1, 半径$r_A$の円錐になっているためこれを円錐型メンバーシップ関数という.

円錐型Fuzzy集合の可能性値/必然性値

ここでは2つの円錐型メンバーシップ関数をもつFuzzy集合$A, B$を考える. 2つの中心$\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b}$は異なる点であるとする. また, 2つの中心間の距離を$d$とする. すなわち
$$d = ||\boldsymbol{b} - \boldsymbol{a}|| > 0.$$
考えているのは$\mathbb{R}^n$上でのFuzzy集合だが, メンバーシップ関数が円錐型なので可能性値や必然性値を考えるだけなら$\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b}$を通る直線上でのみ考えればよく, $\mathbb{R}$での問題に帰着できる.

可能性値

2つの中心が一定程度離れているとき(具体的には$d \geq r_A + r_B$), 可能性値$P_A(B)$は0である. $d < r_A + r_B$のとき, 式(\ref{pos})において$P_A(B)$をとる$\boldsymbol{x}$$\boldsymbol{a}$$\boldsymbol{b}$の内分点である. $\boldsymbol{x} = (1-t)\boldsymbol{a} + t \boldsymbol{b}\ (0 \leq t \leq 1)$とおいて式(\ref{membership})に代入することにより以下を得る.
$$1 - \frac{||(1-t)\boldsymbol{a} + t \boldsymbol{b} - \boldsymbol{a}||}{r_A} = 1 - \frac{||(1-t)\boldsymbol{a} + t \boldsymbol{b} - \boldsymbol{b}||}{r_B}$$
これを$t$について解くと
$$t = \frac{r_A}{r_A+r_B}$$
となるので,
$$P_A(B) = \mu_A((1-t)\boldsymbol{a} + t \boldsymbol{b}) = 1 - \frac{d}{r_A+r_B}$$
と計算できる.

必然性値

こちらも中心が離れていれば(具体的には$d\geq r_B$のとき)必然性値は0とすぐに求まる. $d < r_B$のとき式(\ref{nec})において$N_A(B)$をとる$\boldsymbol{x}$$\boldsymbol{a}$$\boldsymbol{b}$の外分点である.
可能性値と同様に$\boldsymbol{x} = (1-t)\boldsymbol{b} + t \boldsymbol{a}\ (t > 1)$とし式(\ref{membership})に代入すれば
$$\frac{||(1-t)\boldsymbol{b} + t \boldsymbol{a} - \boldsymbol{b}||}{r_B} = 1 - \frac{||(1-t)\boldsymbol{b} + t \boldsymbol{a} - \boldsymbol{a}||}{r_A}$$
これを解くと
$$t = \frac{r_A r_B}{(r_A + r_B)d} + \frac{r_B}{r_A + r_B}$$
したがって
$$N_A(B) = \mu_A((1-t)\boldsymbol{b}+t\boldsymbol{a}) = \frac{r_B}{r_A + r_B} - \frac{d}{r_A+r_B}$$
と求められる. $\frac{r_B}{r_A+r_B} < 1$なので円筒型メンバーシップ関数についていえば
$$N_A(B) \leq P_A(B)$$
が証明される.

結論

2つのFuzzy集合$A, B$が中心$\boldsymbol{a}, \boldsymbol{b} \in \mathbb{R}^n$, 半径$r_A, r_B \in \mathbb{R}$の円錐型メンバーシップ関数
$$\mu_A(\boldsymbol{x}) = \left(1 - \frac{||\boldsymbol{x} - \boldsymbol{a}||}{r_A}\right) \vee 0 \quad (Bについても同様)$$
で定義されている場合, $A$$B$に対する可能性値$P_A(B)$, 必然性値$N_A(B)$
$$P_A(B) = \left(1 - \frac{d}{r_A+r_B}\right) \vee 0$$
$$N_A(B) = \left(\frac{r_B}{r_A + r_B} - \frac{d}{r_A+r_B}\right) \vee 0$$
と求められる.

参考文献

[3]
佐賀 聡人, 牧野 宏美, 佐々木淳一, 手書き曲線モデルの一構成法 - ファジースプライン補完法 -, 電子情報通信学会論文誌, 1994
投稿日:2023429

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Luke
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