1
大学数学基礎解説
文献あり

円錐型メンバーシップ関数を持つR^n上のFuzzy集合における可能性値と必然性値

77
0

円錐型メンバーシップ関数を持つRn上のFuzzy集合における可能性値と必然性値

最近あるきっかけでファジー理論を少しかじることがあった. 他の分野に比べてネット上のみでは情報が集まりにくい分野だと感じたので大した内容ではないが少しまとめてみた.

また直感に基づき証明を考えずに書いていることもあるため誤りがあるかもしれないことも注意してほしい.

Fuzzy集合とは

一般に集合といえばある要素がそこに属するか属さないかがはっきりしている. 例えば20歳の人の集合Aがあるとすると, ここにどんな人を連れてきてもその人が集合Aに属するか属さないかは確定する. このような本来の意味での集合をCrisp集合と呼ぶ. Crisp集合Aに対しては, 要素xが属する場合には1, そうでない場合に0を返す関数μ(x)を定義できる. すなわち
μ(x)={0(xA)1(xA).

これに対してFuzzy集合というものでは, 要素がそこに属しているかどうかは曖昧である. 例えば, 背が高いというのは明確な基準はないのでそのような人の集合などがそれにあたる. Crisp集合においてμ(x)は集合に属するかどうかを表す二値関数であったが, Fuzzy集合Aに対してこれを拡張してどのくらい集合Aに属するかを表すメンバーシップ関数μ:X[0,1]を定義する. μ(x)=1ならばxは完全にAに属し, μ(x)=0ならばxは全くAに属さない. 例えば, 身長の高い人のFuzzy集合に対してはxを身長[cm]を表すとすれば200cm以上で背が高くないと感じたり150cm未満で背が高いと感じる人はいないと仮定して以下のようなメンバーシップ関数が定義できるであろう.
μ(x)={0(x<150)x15050(150x<200)1(200x)

ここで, 今後のためにFuzzy集合が要素を持つ度合いについても考える. Crips集合ではμ(x)=1なるxが一つでも存在するならAは要素をもつ, そうでなければA=ϕといえた. Fuzzy集合では要素を持つかどうかというのもはっきりせず, 要素をもつ度合いが以下のようにあらわされる.
supxμ(x)
これはすなわち最もAに属しそうな要素がAに属する度合いを表している.

可能性値と必然性値

ここでは2つの集合A,Bに対してAの元aBに含まれるのかどうかについて考える. Fuzzy集合においては可能性値と必然性値というものを考えるのが有効である.

可能性値

まずはCrisp集合A,Bが共通部分をもつ(ABϕ)とする. aAが存在したとき, aBに含まれるかどうかはこの時点ではわからない. この状況において, aBに含まれる可能性値は1と考えられる. ここで注意したいのは可能性が1とは確率が1であるということではなく, 可能性があることが確定しているという意味である. ABが共通部分を持たないときはaABに含まれるというのはありえないので可能性値は0である. つまりABに対する可能性値PA(B)は以下のように書ける.
PA(B)={0(AB=ϕ)1(ABϕ)
これを言い換えれば, PABABが要素をもつ度合いを表している. これをFuzzy集合に対して拡張する際に, 先ほどのFuzzy集合が要素を持つ度合いを使うことになる. Fuzzy集合A,Bに対してμAB=μAμB(aba,bの最小値を表す)であることを認めればFuzzy集合における可能性値は
(1)PA(B)=supxμAB(x)=supx(μA(x)μB(x))
と表せる.

必然性値

こちらもまずはCrisp集合での例を考える. ABであるとすると, 任意のaAは当然Bに含まれる. この状況で, aBに含まれる必然性値は1であると考えられる. ABのときは, 必ずしもaBに含まれるわけではないので必然性値は0である. ここでも同様の注意で, 必然性値が0であるからといってaBに含まれる可能性が0になったわけではない。あくまで必然性がないことが確定しているというだけである. したがってABに対する必然性値は
NA(B)={0(AB)1(AB)
と表せる. これも先ほどと同様にFuzzy集合に対して拡張したいので, ちょっとした言い換えをする. ABに含まれない(AB)とはどういうことかというと, あるaAが存在してaBつまりaBcとなるということである(BcBの補集合). したがって,
ABABcϕ
と置き換えられる. これによりNA(B)をFuzzy集合に対しても定義できる.
NA(B)=1supxμABc(x)=1supx(μA(x)μBc(x))
可能性値のときと違いABcが要素を持つ度合いが高い時にNA(B)を0に近い値にしたいため, 1からABcが要素を持つ度合いを引いていることに注意する. ここで, μBc(x)xBcに含まれる度合いを表しているが, それはつまりBに含まれない度合い1μB(x)に等しいと考えることができる.
(2)NA(B)=1supx(μA(x)(1μB(x)))=infx((1μA(x))μB(x))
ここではsup(xy)=inf((x)(y)), a+infx=inf(a+x)であることを用いた. は最大値を表すとする.

可能性値と必然性値の考え方から, 任意のメンバーシップ関数をもつFuzzy集合A,Bに関して
NA(B)PA(B)
が成り立つと期待される.
Crisp集合の例からわかるように, aABに含まれることについて可能性値1で必然性値0であるとは, それらを考える情報が全くないことを表している.

円錐形メンバーシップ関数

ここからが本題になる. ゴールとしては円錐型メンバーシップ関数をもつRn上の2つの集合において可能性値と必然性値を具体的に求めることである. まずはxRnの関数
(3)μA(x)=(1||xa||rA)0
をメンバーシップ関数にもつFuzzy集合Aを考える. 特にn=2の時のグラフを考えるとμAは底面中心a, 高さ1, 半径rAの円錐になっているためこれを円錐型メンバーシップ関数という.

円錐型Fuzzy集合の可能性値/必然性値

ここでは2つの円錐型メンバーシップ関数をもつFuzzy集合A,Bを考える. 2つの中心a,bは異なる点であるとする. また, 2つの中心間の距離をdとする. すなわち
d=||ba||>0.
考えているのはRn上でのFuzzy集合だが, メンバーシップ関数が円錐型なので可能性値や必然性値を考えるだけならa,bを通る直線上でのみ考えればよく, Rでの問題に帰着できる.

可能性値

2つの中心が一定程度離れているとき(具体的にはdrA+rB), 可能性値PA(B)は0である. d<rA+rBのとき, 式(1)においてPA(B)をとるxabの内分点である. x=(1t)a+tb (0t1)とおいて式(3)に代入することにより以下を得る.
1||(1t)a+tba||rA=1||(1t)a+tbb||rB
これをtについて解くと
t=rArA+rB
となるので,
PA(B)=μA((1t)a+tb)=1drA+rB
と計算できる.

必然性値

こちらも中心が離れていれば(具体的にはdrBのとき)必然性値は0とすぐに求まる. d<rBのとき式(2)においてNA(B)をとるxabの外分点である.
可能性値と同様にx=(1t)b+ta (t>1)とし式(3)に代入すれば
||(1t)b+tab||rB=1||(1t)b+taa||rA
これを解くと
t=rArB(rA+rB)d+rBrA+rB
したがって
NA(B)=μA((1t)b+ta)=rBrA+rBdrA+rB
と求められる. rBrA+rB<1なので円筒型メンバーシップ関数についていえば
NA(B)PA(B)
が証明される.

結論

2つのFuzzy集合A,Bが中心a,bRn, 半径rA,rBRの円錐型メンバーシップ関数
μA(x)=(1||xa||rA)0(B)
で定義されている場合, ABに対する可能性値PA(B), 必然性値NA(B)
PA(B)=(1drA+rB)0
NA(B)=(rBrA+rBdrA+rB)0
と求められる.

参考文献

[3]
佐賀 聡人, 牧野 宏美, 佐々木淳一, 手書き曲線モデルの一構成法 - ファジースプライン補完法 -, 電子情報通信学会論文誌, 1994
投稿日:2023429
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

Luke
Luke
7
437

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. 円錐型メンバーシップ関数を持つRn上のFuzzy集合における可能性値と必然性値
  2. Fuzzy集合とは
  3. 可能性値と必然性値
  4. 円錐形メンバーシップ関数
  5. 円錐型Fuzzy集合の可能性値/必然性値
  6. 結論
  7. 参考文献