スピン群やスピン表現を導入するために必要なClifford代数を定義し、その基本的な性質を述べます。
$(V=\mathbb{E}^{(s,t)},g)$を擬Euclidベクトル空間とする。
$$
T(V)=\bigoplus_n V^{\otimes n}
$$
を$V$のテンソル代数とし、集合
$$
\{v\otimes v+g(v,v);\ v\in V\}
$$
が生成する両側イデアルを$I(V)$とする。このとき、
$$
Cl_{s,t}:=T(V)/I(V)
$$
を$(s,t)$次Clifford代数と呼ぶ。$Cl_{s,t}$の代わりに$Cl(V)$と書くこともある。
$v,w\in V$とすると、$vw+wv=-2g(v,w)$を満たす。特に$\{e_1,\cdots,e_n\}$を$V$の正規直交基底とすると、
$$
e_ie_j=-e_je_i,\ e_i^2=-g_{ij}=\pm1
$$
となります。よって$Cl_{s,t}$は$\{e_1,\cdots,e_n\}$がこのような関係を満たす生成子であるような$\mathbb{R}$上の結合代数です。$Cl_{s,t}$の$\mathbb{R}$上の基底は$\{e^{i_1}_1\cdots e^{i_n}_n,\ i_k\in\{\pm 1\}\}$なので、${\rm dim}_\mathbb{R}Cl_{s,t}=2^n$となります。
Clifford代数を実現させるときに便利なのが次の普遍性です。
$A$を1をもつ$\mathbb{R}$上の代数とする。さらに線形準同型$f : V \rightarrow A$があり、$f(v)f(v) = −g(v, v),\ v \in V$を満たすとする。このとき代数準同型$F : Cl(V) \rightarrow A$がただ一つ存在し、$F|_V = f$となる。
この普遍性を利用すると、この定理の条件を満たす線形準同型写像$f$を作り、$F(Cl(V))\subset A$の$\mathbb{R}$上の次元が$2^n$であることを確認すれば、代数同型$F(Cl(V))\simeq Cl(V)$が分かるので便利です。