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行列式の因数分解

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はじめに

 この記事ではある種の対称性を持つ行列式の因数分解公式
det(f(xi1xj))=χG^(xGf(x)χ(x))
について簡単に解説していきます。

証明

 有限アーベル群
G={x1,x2,,xn}
上の関数f:GCに対し
A=(f(1)f(x11x2)f(x11x3)f(x11xn)f(x21x1)f(1)f(x21x3)f(x21xn)f(x31x1)f(x31x2)f(1)f(x31xn)f(xn1x1)f(xn1x2)f(xn1x3)f(1))
とおくと
detA=χG^(xGf(x)χ(x))
が成り立つ。ただしG^G 指標群 とした。

 |G|=|G^|であることに注意すると、Aの固有値
λχ=xGf(x)χ(x)
に関する固有ベクトル
xχ=i=1nχ(xi)ei=(χ(x1)χ(x2)χ(xn))T
たちが線形独立であることを示せばよい。
 ただしe1,e2,,enCnの標準基底とした。

固有ベクトルであること

Axχ=i=1nχ(xi)Aei=i=1nχ(xi)j=1nf(xi1xj)ej=j=1nχ(xj)(i=1nχ(xj1xi)f(xi1xj))ej=j=1nχ(xj)(xGχ(x)f(x))ej=λχxχ
とわかる。

線形独立であること

  この記事 の定理5からχ,χG^に対し、xχ,xχの複素内積は
xχ,xχ=i=0nχ(xi)χ(xi)=xG(χχ1)(x)={n(χ=χ)0(χχ)
と求まるのでxχたちは互いに直交しており、したがって線形独立であることがわかる。

計算例

 例えばG=Z/nZとおくと以下の公式が得られます。

 ζ=e2πi/nとおくと
|a0a1a2an1an1a0a1an2an2an1a0an3a1a2a3a0|=k=0n1(j=0n1ζjkaj)
が成り立つ。

 具体的にn=1,2,3,4の場合を書き下してみると以下のようになります。

 ω=e2πi/3とおくと
|a|=a|abba|=(a+b)(ab)|abccabbca|=(a+b+c)(a+ωb+ω2c)(a+ω2b+ωc)|abcddabccdabbcda|=(a+b+c+d)(a+ibcid)(ab+cd)(aibc+id)
が成り立つ。

 また例えばG=Z/2Z×Z/2Zとおくと以下の公式が得られます。

|abcdbadccdabdcba|=(a+b+c+d)(a+bcd)(ab+cd)(abc+d)

フーリエ変換との関係

 ちなみに上の公式は有限アーベル群G上の離散フーリエ変換
f^(χ)=xGf(x)χ(x)f(x)=1|G|χG^f^(χ)χ(x)
を用いることで次のような説明付けをすることもできます。

関数空間VG=Map(G,C)

 GからCへの写像全体のなすC-線形空間VG
ei(xj)={1(i=j)0(ij)
なる関数e1,e2,,enを標準基底に持つ。
 すなわち任意のfVGに対し
f=i=1nf(xi)ei=[e1e2en](f(x1)f(x2)f(xn))
が成り立つ。

畳み込み

 関数f,gVGに対し、その畳み込みfg
(fg)(x)=yGf(xy1)g(y)
によって定める。このとき線形写像
Tf:VGVG,gfg
の標準基底に関する表現行列はA=(f(xixj1))i,jとなる。
 すなわち
fg=[e1e2en]A(g(x1)g(x2)g(xn))
が成り立つ。

フーリエ変換

 関数fVGのフーリエ変換f^VG^
f^(G^)=xGf(x)χ(x)
によって定めると、簡単な計算により
fg^=f^g^
が成り立つ。
 特に線形写像
F:VGVG^,ff^
を考えると、上の式は
(FTf)g=f^(Fg)
と表せるので、VG^の標準基底
e^1,e^2,,e^n
に関する両辺の表現行列を考えることで
FA=(f^(χ1)f^(χ2)f^(χn))F
を得る。ただしFFの表現行列
F=(χ1(x1)χ1(x2)χ1(xn)χ2(x1)χ2(x2)χ2(xn) χn(x1)χn(x2)χn(xn))
とした。

結論

 特にフーリエ変換は可逆であることから
A=F1(f^(χ1)f^(χ2)f^(χn))F
と対角化されることとなる。
 なるほどなあ。

おまけ

 ちなみに上の計算例から
|ab00ccab000ca00000abb00ca|=k=1n(a+ζkb+ζkc)
が成り立っていましたが、これと似て非なる行列式として次のような公式も知られています。

|ab000cab000ca00000ab000ca|=k=1n(a2bccosπkn+1)

 左辺の行列をAとおく。bc=0のときは明らかなのでbc0としてよい。
 このときbcの枝の取り方に応じてc/bの枝を
cb=bcb=cbc
となるように取り、縦ベクトルxj=(xi,j)1in
xi,j=(cb)isinπijn+1
によって定めたとき、i=0,n+1においてxi,j=0となることに注意すると
Axj=(cxi1,j+axi,j+bxi+1,j)i=(a2bccosπjn+1)(xi,j)i
が成り立つので
a2bccosπjn+1(j=1,2,,n)
は(相違なる)Aの固有値となり、したがってその積がAの行列式となる。

投稿日:22日前
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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