0
高校数学解説
文献あり

二項係数についての恒等式と整数値多項式

149
0

 こんにちは.昔考えていた話題について再考していたところ,ある程度まとまったので記事として書きます.よろしくお願いします.

 m=0,,n1に対して
k=0n(1)kkm(nk)=0
が成立する.

 この式の証明は とりあさんの記事 にもありますが,ここではこの記事とは異なる証明を紹介します.

帰納法による証明

 まず,「m=0,,n1に対してm次多項式fm(x)が存在し,
(1)fm(x)(1+x)nm=k=0nkm(nk)xk
と表せる」ことを示す.

 m=0 のとき,
(1+x)n=k=0n(nk)xk
より(1)は成立する(f0(x)=1).

 m(n2)での(1)の成立を仮定する.(1)の両辺をxで微分して
fm(x)(1+x)nm+(nm)fm(x)(1+x)nm1=k=1nkm+1(nk)xk1
を得る.この式に両辺xを掛けて
x(fm(x)(1+x)+(nm)fm(x))(1+x)nm1=k=0nkm+1(nk)xk
を得る.ただし,(n0)=0であることを用いて右辺にk=0を加えた.ここで,fm(x)m次多項式なのでx(fm(x)(1+x)+(nm)fm(x))m+1次であるから,m+1のとき(1)は成立する(fm+1(x)=x(fm(x)(1+x)+(nm)fm(x))である).
 以上で式(1)が示された.この式にx=1を代入して
k=0n(1)kkm(nk)=0
が得られる.

 別証も紹介します.やや仰々しい証明です.

Vandermonde行列の逆行列を用いる証明

 m元連立方程式
0m+k=1nkmxk=0(m=0,,n1)
を考える.これを行列の形で書くと
(1111123n122232n21n12n13n1nn1)(x1x2x3xn)=(1000)
と表せる.ここで,左の行列をVnとし,Vn1ij行をaijと書くと,
aij=(1)nj(1knki(ik))11m1<<mnjnm1,,mnji(l=1njml)
と表せる.よって,
xk=ak1=(1)n112(k1)(k+1)(n1)n(k1)(k2)21(1)(kn)=(1)n1n!k!(1)nk(nk)!=(1)k(nk)
となる.従って,もとの連立方程式に戻って,m=0,,n1に対して
k=0n(1)kkm(nk)=0
を得る.

 Vandermonde行列の逆行列に関しては 子葉さんの記事 などをご参照ください.

 この式を用いると以下の事実を証明できます.

 n次多項式Pn(x)について,以下の2つは同値である:

  1. 任意の整数mに対してPn(m)は整数である.
  2. ある整数m0が存在して,Pn(m0),Pn(m0+1),,Pn(m0+n)はすべて整数である.

 なお,この定理は定理1を用いなくても証明可能です.

定理2の一般的 (?) な証明


 (1)(2) は明らかに成立するため,(2)(1)nについての帰納法で示す.
 n=0のとき,任意のmについてP0(m)=P0(m0)は整数である.
 nでの成立を仮定し,n+1次多項式Pn+1(x)について,ある整数m0が存在してPn+1(m0),Pn+1(m0+1),,Pn+1(m0+n+1)がすべて整数であると仮定する.このとき,Q(x)=Pn+1(x+1)Pn+1(x)とおくとQ(x)n次多項式である.ここで,Q(m0)=Pn+1(m0+1)Pn+1(m0),,Q(m0+n)=Pn+1(m0+n+1)Pn+1(m0+n) は整数であるから,帰納法の仮定より任意の整数mに対してQ(m)は整数である.よって,Pn+1(m0)が整数であることと合わせて,任意の整数mに対してPn+1(m)は整数である.
 よって示された.


 この定理を示す前に以下の補題を示します.

 任意のn次多項式Pn(x)に対して,
k=0n+1(1)k(n+1k)Pn(x+k)=0
が恒等的に成立する.

(補題3)

 Pn(x)=r=0narxr とおくと,
Pn(x+k)=r=0nar(x+k)r=r=0nm=0rar(rm)kmxrm
となる.これより
k=0n+1(1)k(n+1k)Pn(x+k)=k=0n+1r=0nm=0r(1)k(n+1k)ar(rm)kmxrm=r=0nm=0rar(rm)(k=0n+1(1)k(n+1k)km)xrm
と計算される.ここで,添字のm0からnまでの値を取りうるから,定理1より
k=0n+1(1)k(n+1k)km=0
となる.よって,任意のn次多項式Pn(x)に対して
k=0n+1(1)k(n+1k)Pn(x+k)=0
が恒等的に成立することが示された.

(定理2)

 (1)(2) は明らかに成立するため,(2)(1)mについての帰納法で示す.
 (2)より,Pn(m0),Pn(m0+1),,Pn(m0+n)は整数である.
 ここで,整数mに対してPn(m),Pn(m+1),,Pn(m+n)が整数であると仮定する.このとき,補題3より
k=0n+1(1)k(n+1k)Pn(m1+k)=0Pn(m1)=k=1n+1(1)k(n+1k)Pn(m1+k)
が従い,Pn(m),Pn(m+1),,Pn(m+n)が整数だからPn(m1)も整数である.また,
k=0n+1(1)k(n+1k)Pn(m+k)=0Pn(m+n+1)=(1)nk=0n(1)k(n+1k)Pn(m1+k)
が従い,Pn(m),Pn(m+1),,Pn(m+n)が整数だからPn(m+n+1)も整数である.
 よって,任意の整数mに対してPn(m)は整数である.

 この記事は以上になります.ありがとうございました.

参考文献

投稿日:2024101
更新日:2024101
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

roofs
roofs
4
426

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中