先日の記事双曲線関数の級数についての予想【解決済】では、
$$f(x)=\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{e^{\frac{n\pi}{x}}+e^{-\frac{n\pi}{x}}}$$
という関数について、
$$f(x)\approx\frac{x-1}{4}$$
という近似が成り立つことを予想し、御二方のコメントにより、これは
$$f(x)\approx\frac{x-1}{4}+\frac{x}{e^{\pi x}}$$
と近似できることから証明できるということがわかりました。
さらに、 Wataruさんの記事q超幾何級数によるJacobiの二平方和定理, 四平方和定理の証明,q超幾何級数によるJacobiの六平方和定理, 八平方和定理の証明を拝見し、
$$\sum_{n=-\infty}^\infty \frac{1}{e^{\frac{n^2\pi}{x}}} \approx \sqrt{x}$$
という近似を思いつき、これと二平方和定理~八平方和定理を用いることで様々な級数の近似を作れることに気づきました。今回は、これについての記事です。
証明は、前回の記事で御二方が用いられていた「ポアソン和公式」や「オイラー・マクローリンの和公式」を用いてほとんど同様に行えます。今回は、初学者の私でも扱いやすいポアソン和公式を用いた方法(ガウス積分を使うと楽に導出できる)を用いて証明しようと思います。
$g(x)$のフーリエ変換を$\hat{g}(y)$とすると、ポアソン和公式
$$\sum_{n=-\infty}^\infty g(n)=\sum_{n=-\infty}^\infty \hat{g}(n)$$
が成り立つ。
$$f(k)=\sum_{n=-\infty}^\infty \frac{1}{e^{\frac{n^2\pi}{k}}}=\sum_{n=-\infty}^\infty g(n)$$
とすると、ガウス積分と置換積分を用いて、
$$\hat{g}(y)=\int_{-\infty}^\infty e^{-2\pi ixy-\frac{x^2\pi}{k}}dx=\int_{-\infty}^\infty e^{-\frac{\pi}{k}\left(x^2+2kiyx\right)}dx=\int_{-\infty}^\infty e^{-\frac{\pi}{k}\left(x+kiy\right)^2-k\pi y^2}dx$$
$$=e^{-k\pi y^2}\int_{-\infty}^\infty e^{-\frac{\pi}{k}t^2}dt=\sqrt{k}e^{-k\pi y^2}$$
より、
$$\sum_{n=-\infty}^\infty g(n)=\sum_{n=-\infty}^\infty \hat{g}(n)$$
$$f(x)=\sum_{n=-\infty}^\infty \sqrt{x}e^{-x\pi n^2}=\sqrt{x}f\left(\frac{1}{x}\right)$$
ここで、
$$\sqrt{x}f\left(\frac{1}{x}\right)=\sqrt{x}+2\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{e^{n^2\pi x}}\approx\sqrt{x}$$
より、$f(x)\approx\sqrt{x}$が成り立つ。
次に、Jacobiの二平方和定理~八平方和定理は以下の等式です。証明はq-超幾何級数の種々の和公式からできるそうですが、初学者には特に後半が難解だったので、詳しくは前述したWataruさんの記事を御覧ください。
ここで、$q=e^{-\frac{\pi}{x}}$と置くことで、前回の近似を含め、様々な指数関数の級数の近似を得ることができます。
左辺について、$m=1,2,3,4$とすると、補題より、
$$\left( \sum_{n=-\infty}^\infty q^{n^2} \right)^{2m}=\left( \sum_{n=-\infty}^\infty \frac{1}{e^{\frac{n^2\pi}{x}}} \right)^{2m}\approx(\sqrt{x})^{2m}=x^{m}$$
となり、以下の近似が得られます。
得られた式をヒントに、様々な級数を計算してみたところ、以下のような近似式の予想を見つけました。(なお無秩序に計算したので規則性が蔑ろにされている可能性が否めません。)
これを見る限りでは、
$$\sum_{n=1}^\infty\frac{n^{2m-1}}{e^{\frac{n\pi}{x}}+(-1)^{n+m-1}}\approx a_{m}\frac{x^{2m}-1}{4×2m}(m\in\mathbb{N},a_m\mathrm{は適当な整数})$$
$$\sum_{n=1}^\infty\frac{n^{2m-1}}{e^{\frac{n\pi}{x}}-e^{-\frac{n\pi}{x}}}=\frac{1}{2}\sum_{n=1}^\infty\frac{n^{2m-1}}{\sinh(\frac{n\pi}{x})}\approx a_{m}\frac{x^{2m}}{4×2m}(m\in\mathbb{N},m\neq1,a_m\mathrm{は適当な整数})$$
$$\sum_{n=1}^\infty\frac{n^{2m}}{e^{\frac{n\pi}{x}}+e^{-\frac{n\pi}{x}}}=\frac{1}{2}\sum_{n=1}^\infty\frac{n^{2m}}{\cosh(\frac{n\pi}{x})}\approx b_{m}\frac{x^{2m+1}}{4^{2m}}(m\in\mathbb{N},m\neq1,b_m\mathrm{は適当な整数})$$
のように、分母には規則性が見られるような気もしますが、分子に出てくる数$a_m,b_m$はOEISに打ち込んでもそれっぽい数列は見つからず、よくわかりません。また、上二つは$x$の係数が一致していますが、下の級数と係数が一致する級数は今のところ見つけられていません。$\sinh$と$\cosh$のテイラー展開の指数と対応(右辺では逆に対応)しているのは綺麗ですね。
一方で二平方和定理~八平方和定理から導出できる方は、
$$\sum_{n=1}^\infty\frac{n^m}{g(n)}\approx\frac{x^{m+1}-1}{4(m+1)}(m=1,2,4,g(n)\mathrm{は}e^{\frac{n\pi}{x}}\mathrm{を含む関数})$$
のような規則性が見られ、分子に余計な数字がつかない分すっきりしています。
まだよくわかっていないことだらけですが、他の形の級数の計算や、二平方和定理~八平方和定理との関連を含め、もうしばらく遊んでみたいと思います。
グラフは係数がよくわかっていないので平方和定理から導出できるものしか用意しませんでしたが、値(特にほとんど整数)だけ見てみたいという方はDesmosを用意しましたので御覧ください。$a$が$x$に対応しているので、$a$や$m$を適当にいじるとキリのいい数字(ほとんど整数)が出てきます。
Desmos(値の計算)
Desmos(グラフ)