あるとき思いました,$A\to f^{-1}(f(A))$で閉包が定まるのでは?と.今回は写像による像の引き戻しで閉包を定義することにより定まるclopen topologyなるものを紹介したいと思います.$X$を集合とするとき,$\mathcal{P}(X)$で$X$の部分集合全体を表すこととします.
まずKuratowskiの閉包作用素の公理を見てみましょう.これは一般の集合上の閉包作用素の公理に最初の条件(空集合の閉包が空集合)を加えたものです.
$X$を空でない集合とする.次の性質をもつ写像$\text{Cl}:\mathcal{P}(X)\to \mathcal{P}(X)$を閉包作用素という.
(i) $\text{Cl}(\phi)=\phi$,
(ii) 任意の$ A\in\mathcal{P}({X})$に対し$A\subseteq \text{Cl}(A)$,
(iii) 任意の$A\in\mathcal{P}(X)$に対し$\text{Cl}(\text{Cl}(A))=\text{Cl}(A)$,
(iv) 任意の$A,B\in \mathcal{P}(X)$に対し$\text{Cl}(A\cup B)=\text{Cl}(A)\cup\text{Cl}(B)$.
Kuratowskiの閉包作用素は$X$に位相構造を定めることが知られています.では早速今回のテーマとなる閉包作用素をみていきましょう.
$X,Y$を空でない集合,$f:X\to Y$を写像とする.$\Gamma:\mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X)$を$\Gamma(A)=f^{-1}(f(A))$により定める.これは$\mathcal{P}(X)$上の閉包作用素となる.
(i) $\Gamma(\phi)=f^{-1}(f(\phi))=\phi$.
(ii) $A\in \mathcal{P}(X)$とすると$A\subseteq f^{-1}(f(A))=\Gamma(A)$.
(iii) $B\in \mathcal{P}(Y)$とする.$f(f^{-1}(B))=B\cap f(X)$である.これを用いると$A\in \mathcal{P}(X)$に対し
$\Gamma(\Gamma(A))=f^{-1}(f(f^{-1}(f(A))))=f^{-1}(f(A)\cap f(X))=f^{-1}(f(A))=\Gamma(A) $.
(iv) $A_1,A_2\in\mathcal{P}(X)$とする.
$\Gamma(A)=f^{-1}(f(A_1\cup A_2))=f^{-1}(f(A_1)\cup f(A_2))=f^{-1}(f(A_1))\cup f^{-1}(f(A_2))$
$=\Gamma(A_1)\cup\Gamma(A_2)$.$\Box$
こうして定まる位相を$\tau_f$で表します.つまり$\tau_f=\{X\backslash A:f^{-1}(f(A))=A\}$.この位相の開集合は閉集合でもあることがわかります.
$X,Y$を空でない集合,$f:X\to Y$を写像とする.$A\in\mathcal{P}(X)$が$f^{-1}(f(A))=A$を満たすとする.このとき$f^{-1}(f(X\backslash A))=X\backslash A$である.
逆の包含は常に成り立つので$f^{-1}(f(X\backslash A))\subseteq X\backslash A$を示せばよい.$x\in f^{-1}(f(X\backslash A))$とする.$f(x)\in f(X\backslash A)$なので,ある$y\in X\backslash A$が存在して$f(x)=f(y)$.もし$x\in A$であるとすると$f(y)=f(x)\in f(A)$なので$y\in f^{-1}(f(A))=A $となり矛盾する.$\Box$
写像の像と補集合との関係にこんなものがあったとは...閉包になるだろうという予想から出発してたどり着いたことなので抽象論の威力を感じます.
このような位相には名前があるようです.
全ての開集合が閉集合でもある位相をclopen topologyという.
定義からわかるようにclopen topologyでは開集合系と閉集合系が一致します.
$(X,\tau)$を位相空間とする.このとき$\tau$がclopen topologyであることと,定義域が$X$である写像$f$が存在して$\tau=\tau_f$となることとは同値である.
逆はすでに示したので$\tau$をclopen topologyとし,$\tau=\tau_f$となる$f$を構成する.$x\in X$に対し$[x]:=\cap\{U\in\tau:x\in U\}$とおく.$Y=\{[x]:x\in X\}$とおき,$f:X\to Y$を$f(x)=[x]$により定める.$\tau=\{A\subseteq X:f^{-1}(f(A))=A\}$であることを示す.$f^{-1}(f(A))=\displaystyle\bigcup_{a\in A}f^{-1}(f(\{a\}))=\displaystyle\bigcup_{a\in A}[a]$であり,位相がclopenであることから$A=\displaystyle\bigcup_{a\in A}[a]\iff A\in\tau$.よって
$f^{-1}(f(A))=A\iff A=\displaystyle\bigcup_{a\in A}[a]\iff A\in\tau$.$\Box$
つまり密着位相空間のいくつかの直和になっているというわけですね.
$f$が単射であることと$\tau_f$が離散位相となることは同値になります.実際
$f$が単射$\iff$任意の$a\in A $に対し$f^{-1}(f(\{a\}))=\{a\}$
この右の条件は一点集合が全て開集合であることを意味します.
双対的に内部も考えることができます.
$X$を集合とする.次の性質をもつ写像$\text{Int}:\mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(X)$を内部作用素という.
(i) $\text{Int}(X)=X$,
(ii) 任意の$A\in\mathcal{P}$に対し$\text{Int}(A)\subseteq A$,
(iii) 任意の$A\in \mathcal{P}(X)$に対し$\text{Int}(\text{Int}(A))=\text{Int}(A)$,
(iv) 任意の$A_1,A_2\in \mathcal{P}(X)$に対し$\text{Int}(A_1\cup A_2)=\text{Int}(A_1)\cup \text{Int}(A_2)$.
$X,Y$を空でない集合,$f:X\to Y$を写像とする.$B\in\mathcal{P}(Y)$に対し
$\Theta(B)= \begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
Y\ (B=Y) \\
f(f^{-1}(B))\ (B\neq Y)
\end{array}
\right.
\end{eqnarray} $と定める.
(i) 定義から明らか.
(ii) $B\in \mathcal{P}(Y)$とする.$f(f^{-1}(B))\subseteq B$は常に成立する.
(iii) $B\in \mathcal{P}(Y)$とすると
$\Theta(\Theta(B))=f(f^{-1}(f(f^{-1}(B))))=f(f^{-1}(B\cap f(X)))$
$=f(f^{-1}(B))=\Theta(B)$.
(iv) $B_1,B_2\in \mathcal{P}(Y)$とする.$f(f^{-1}(B_1\cap B_2))=f(f^{-1}(B_1)\cap f^{-1}(B_2))$であり,逆の包含は常に成り立つので
$f(f^{-1}(B_1))\cap f(f^{-1}(B_2))\subseteq f(f^{-1}(B_1\cap B_2))$を示せばよい.$y$を左辺の元とする.ある$x_i\in f^{-1}(B_i)$が存在して$y=f(x_i)$を満たす($i=1,2$).よって$y\in B_1\cap B_2$であり$x_1\in f^{-1}(B_1\cap B_2)$.$y\in f(f^{-1}(B_1\cap B_2))$.$\Box$
$X,Y$を空でない集合,$f:X\to Y$を写像とする.このとき
$\{B\subseteq Y:\Theta(B)=B\}$がclopen topologyであることと$f$が全射であることとは同値である.このとき位相は離散である.
$f$が全射でないとし,$A=f(X)$とおく.このとき$f(f^{-1}(A))=f(X)=A$だから$A$は開集合.一方,$Y\backslash A\neq\phi$であり$f(f^{-1}(Y\backslash A))=f(\phi)=\phi$なので$Y\backslash A$は開集合ではない.
逆に$f$が全射であるとすると,任意の$B\in \mathcal{P}(Y)$に対し$f(f^{-1}(B))=B\cap f(X)=B$.よって$Y$の任意の部分集合は開集合となり離散位相である.$\Box$
clopenであれば離散位相になるというところは閉包の場合と異なりました.これは$f^{-1}(f(\{x\}))$は$2 $点以上含みうるのに対し,$f(f^{-1}(\{y\}))$はたかだか$1$点からなるという事実によります.ここでも像と逆像の性質の差が出たと考えられるでしょう.
$\mathcal{P}(X)$,$\mathcal{P}(Y)$を共に元を対象とし包含による順序を射とする圏とみなすと,$f:X\to Y$があるとき$f:\mathcal{P}(X)\to\mathcal{P}(Y)$,$A\mapsto f(A)$と$f^{-1}:\mathcal{P}(Y)\to\mathcal{P}(X)$,$B\mapsto f^{-1}(B)$は単調ガロア接続をなします.それが今回考えるきっかけになった具体例でした.
読んでいただきありがとうございました!
参考文献:
Galois接続入門
圏論の基礎,S.マックレーン
A closure operator for clopen topologies,Gerald Beer Colin Bloomfield