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大学数学基礎解説
文献あり

え!! 交換子だけでルービックキューブを!?

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ルービックキューブの可解な配置のうち半数は交換子だけで揃えることができ,残りの半数は任意の面をこっそり$90$度回せば交換子だけで揃えられる配置になるので,実質「出来らあっ!」ということになります.

  • ルービックキューブ周りの用語・記法について,慣用のものとは異なる場合があります.
  • 手元にルービックキューブを用意することをおすすめします,そのほうが何をやっているのかがわかりやすいと思うので.
  • 群論に関する種々の定義や(簡単な)性質を断りなく或は証明をせずに使うことがあります.適宜,本などを参照してください.
    • 特に群作用についての知識があると読みやすいかと思います.

誤りなどありましたらご指摘・ご教示くださると嬉しいです.

ルービックキューブ群と拡張ルービックキューブ群

ルービック変換とルービックキューブ群

$V = \{v_{1}, \ldots, v_{8}\}$を(任意の)$8$点集合,$E = \{e_{1}, \ldots, e_{12}\}$を(任意の)$12$点集合とする.集合
$$ (V \times (\mathbb{Z}/3)) \cup (E \times (\mathbb{Z}/2)) \cong_{\mathrm{Set}} \{1, \ldots, 48\} $$
を($3 \times 3 \times 3$ルービックキューブという.$V \cup (V \times (\mathbb{Z}/3))$の元をコーナーキューブ$E \cup (E \times (\mathbb{Z}/2))$の元をエッヂキューブといい,これらをまとめて小キューブという.

ルービックキューブの「展開図」 ルービックキューブの「展開図」

  • 上記の意味でのルービックキューブと(適当にラベル付けされた)実際のルービックキューブをしばしば混同します.
  • たとえば$V \times (\mathbb{Z}/3)$の元は「コーナーキューブの面」と呼ぶのが実態に即していると思いますが,以下での説明の便宜上これらもコーナーキューブと呼ぶことにします.
  • 本記事ではセンターキューブは考えません.

ルービックキューブの前後上下左右の各面を時計回りに$90$度回す操作をそれぞれ$F, B, U, D, L, R \in S_{48}$で表わし,まとめて基本変換と呼ぶ.

雑な定義ですが,意味するところは伝わるかと思います.

基本変換で生成される$S_{48}$の部分群をルービックキューブ群といい$G_{\mathrm{rubik}}$で表わす.また,ルービックキューブ群の元をルービック変換という.

我々がルービックキューブを揃えるときに行なっているのは,スクランブル$g \in G_{\mathrm{rubik}}$で崩されたルービックキューブに対してうまいことルービック変換$g^{-1} \in G_{\mathrm{rubik}}$を見つけることに他なりません.

拡張ルービック変換と拡張ルービックキューブ群

ところで,ルービックキューブを揃える一番簡単な方法は,一旦分解してから組み立てるというものでしょう.このような操作を考えることは(数学的には)何ら問題がないので,しばらくおおらかに行くことにします.

ルービックキューブを分解してから組み立てるという操作はある置換$\gamma \in S_{48}$に対応します.実際にルービックキューブを観察すると以下のことがわかります.

コーナーキューブについて

  • $\gamma(V \times (\mathbb{Z}/3)) \subset V \times (\mathbb{Z}/3)$;
  • 任意の$v \in V \times (\mathbb{Z}/3)$に対して,$\pi_{V}(\gamma(v))$$\pi_{\mathbb{Z}/3}(v)$に依らない.

ただし$\pi_{X}$$X$への射影です.

これらのことから,$\gamma$は全単射$\gamma_{V} \colon V \to V$および$\{\pi_{V}(v)\} \times (\mathbb{Z}/3) \to \{\pi_{V}(\gamma(v))\} \times (\mathbb{Z}/3)$を誘導することがわかります.後者について次が成り立ちます:

  • 全単射$\mathbb{Z}/3 \cong_{\mathrm{Set}} \{\pi_{V}(v)\} \times (\mathbb{Z}/3) \to \{\pi_{V}(\gamma(v))\} \times (\mathbb{Z}/3) \cong_{\mathrm{Set}} \mathbb{Z}/3$$3$次対称群の元として偶置換である.

エッヂキューブについて

同様に次が成り立ちます:

  • $\gamma(E \times (\mathbb{Z}/2)) \subset E \times (\mathbb{Z}/2)$;
  • 任意の$e \in E \times (\mathbb{Z}/2)$に対して,$\pi_{E}(\gamma(e))$$\pi_{\mathbb{Z}/2}(e)$に依らない.

逆にこれら5条件を満たす置換はルービックキューブを分解してから組み立てるという操作に対応しています.

置換$\gamma \in S_{48}$であって,上記の5条件を満たすものを拡張ルービック変換という.拡張ルービック変換全体の成す$S_{48}$の部分群を拡張ルービックキューブ群といい$\Gamma_{\mathrm{rubik}}$で表わす.

基本変換は拡張ルービック変換なので,$G_{\mathrm{rubik}}$$\Gamma_{\mathrm{rubik}}$の部分群です.

拡張ルービック変換の作用を詳しく見ていきましょう.

コーナーキューブについて

写像$p_{V} \colon \Gamma_{\mathrm{rubik}} \to S_{8}$
$$ p_{V}(\gamma) \colon \{1,\ldots,8\} \cong_{\mathrm{Set}} V \stackrel{\gamma_{V}}{\longrightarrow} V \cong_{\mathrm{Set}} \{1,\ldots,8\} $$
で定めます.$\gamma_{V}$の定義から$p_{V}$は準同型です.

また,拡張ルービック変換$\gamma$$i \in \{1, \ldots, 8\}$に対して,$o_{V}(\gamma)_{i} \in \mathbb{Z}/3$
$$ \gamma(v_{p_{V}(\gamma^{-1})(i)},0) = (v_{i},o_{V}(\gamma)_{i}) $$
で定め,この値を$\gamma$による$v_{i}$回転数といいます.
コーナーキューブの回転 コーナーキューブの回転
$\gamma$から誘導される全単射$\{v_{p_{V}(\gamma^{-1})(i)}\} \times (\mathbb{Z}/3) \to \{v_{i}\} \times (\mathbb{Z}/3)$が偶置換であることから,任意の$n \in \mathbb{Z}/3$に対して
$$ \gamma(v_{p_{V}(\gamma^{-1})(i)},n) = (v_{i},n + o_{V}(\gamma)_{i}) $$
が成り立つことに注意します.

写像$o_{V} \colon \Gamma_{\mathrm{rubik}} \to (\mathbb{Z}/3)^{8}$
$$ o_{V}(\gamma) = (o_{V}(\gamma)_{1},\ldots,o_{V}(\gamma)_{8}) $$
で定めます.

基本変換に対する$p_{V}$の値は以下のようになります:

  • $p_{V}(F) = (3465)$;
  • $p_{V}(B) = (1782)$;
  • $p_{V}(U) = (1243)$;
  • $p_{V}(D) = (5687)$;
  • $p_{V}(L) = (1357)$;
  • $p_{V}(R) = (1864)$.

また,基本変換に対する$o_{V}$の値は以下のようになります:

  • $o_{V}(F) = (0,0,-1,1,1,-1,0,0)$;
  • $o_{V}(B) = (1,-1,0,0,0,0,-1,1)$;
  • $o_{V}(U) = (0,0,0,0,0,0,0,0)$;
  • $o_{V}(D) = (0,0,0,0,0,0,0,0)$;
  • $o_{V}(L) = (-1,0,1,0,-1,0,1,0)$;
  • $o_{V}(R) = (0,1,0,-1,0,1,0,-1)$.

$o_{V}$は(残念ながら?)準同型ではないのですが,次が成り立ちます:

任意の$\gamma, \gamma' \in \Gamma_{\mathrm{rubik}}$に対して
$$ o_{V}(\gamma \gamma') = o_{V}(\gamma) \cdot p_{V}(\gamma') + o_{V}(\gamma') $$
が成り立つ.

$i \in \{1, \ldots, 8\}$について
$$ o_{V}(\gamma \gamma')_{i} = o_{V}(\gamma)_{p_{V}(\gamma'^{-1})(i)} + o_{V}(\gamma')_{i} $$
が成り立つことを示せばよい.ところで
\begin{align} (v_{i},o_{V}(\gamma\gamma')_{i}) &= \gamma\gamma'(v_{p_{V}(\gamma'^{-1}\gamma^{-1})(i)},0)\\ &= \gamma'(\gamma(v_{p_{V}(\gamma^{-1})(p_{V}(\gamma'^{-1})(i))},0))\\ &= \gamma'(v_{p_{V}(\gamma'^{-1})(i)},o_{V}(\gamma)_{p_{V}(\gamma'^{-1})(i)})\\ &= (v_{i},o_{V}(\gamma)_{p_{V}(\gamma'^{-1})(i)}+o_{V}(\gamma')_{i}) \end{align}
が成り立つ.

半直積の積の定義から次が成り立ちます.

写像$(p_{V},o_{V}) \colon \Gamma_{\mathrm{rubik}} \to S_{8} \ltimes (\mathbb{Z}/3)^{8}$は準同型である.

エッヂキューブについて

同様にして準同型$p_{E} \colon \Gamma_{\mathrm{rubik}} \to S_{12}$と,$\gamma$による$e_{j}$反転数$o_{E}(\gamma)_{j} \in \mathbb{Z}/2$が定まります.そこで写像$o_{E} \colon \Gamma_{\mathrm{rubik}} \to (\mathbb{Z}/2)^{12}$
$$ o_{E}(\gamma) = (o_{E}(\gamma)_{1},\ldots,o_{E}(\gamma)_{12}) $$
で定めます.

基本変換に対する$p_{E}$の値は以下のようになります:

  • $p_{E}(F) = (4695)$;
  • $p_{E}(B) = (1,7,12,8)$;
  • $p_{E}(U) = (1342)$;
  • $p_{E}(D) = (9,11,12,10)$;
  • $p_{E}(L) = (2,5,10,7)$;
  • $p_{E}(R) = (3,8,11,6)$.

また,基本変換に対する$o_{E}$の値は以下のようになります:

  • $o_{E}(F) = (0,0,0,1,1,1,0,0,1,0,0,0)$;
  • $o_{E}(B) = (1,0,0,0,0,0,1,1,0,0,0,1)$;
  • $o_{E}(U) = (0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0)$;
  • $o_{E}(D) = (0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0)$;
  • $o_{E}(L) = (0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0)$;
  • $o_{E}(R) = (0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0,0)$.

$o_{E}$についても同様に次が成り立ちます:

任意の$\gamma, \gamma' \in \Gamma_{\mathrm{rubik}}$に対して
$$ o_{E}(\gamma \gamma') = o_{E}(\gamma) \cdot p_{E}(\gamma') + o_{E}(\gamma') $$
が成り立つ.

写像$(p_{E},o_{E}) \colon \Gamma_{\mathrm{rubik}} \to S_{12} \ltimes (\mathbb{Z}/2)^{12}$は準同型である.

以上の考察から,準同型
$$ \Phi_{\mathrm{rubik}} := (p_{V}, o_{V}, p_{E}, o_{E}) \colon \Gamma_{\mathrm{rubik}} \to (S_{8} \ltimes (\mathbb{Z}/3)^{8}) \times (S_{12} \ltimes (\mathbb{Z}/2)^{12}) $$
が定まります.これが全単射であることは容易に納得できると思います.

これで拡張ルービックキューブ群の構造がわかりました.とくにその位数は$3^{8} \cdot 8! \cdot 2^{12} \cdot 12! = 2^{29} \cdot 3^{15} \cdot 5^{3} \cdot 7^{2} \cdot 11 \sim 5.2 \times 10^{20}$です.

可能配置

ここでルービックキューブ自体に目を向けてみると,混ぜられたルービックキューブの状態は

  • コーナーキューブの位置($8!$通り)
  • コーナーキューブそれぞれの向き($3$通りづつ)
  • エッヂキューブの位置($12!$通り)
  • エッヂキューブそれぞれの向き($2$通りづつ)

で記述できることに気づきます.

集合
$$ \mathcal{C} := (S_{8} \times (\mathbb{Z}/3)^{8}) \times (S_{12} \times (\mathbb{Z}/2)^{12}) $$
可能配置集合,その各元を可能配置という.また,$(\mathrm{id},0,\mathrm{id},0) \in \mathcal{C}$初期配置といい$I$で表わす.

集合$\mathcal{C}$と群$(S_{8} \ltimes (\mathbb{Z}/3)^{8} ) \times (S_{12} \ltimes (\mathbb{Z}/2)^{12})$を適宜混同することで$\Gamma_{\mathrm{rubik}}$$\mathcal{C}$への作用を定めることができます:
$$ c \cdot \gamma := c \Phi_{\mathrm{rubik}}(\gamma);\ c \in \mathcal{C}, \gamma \in \Gamma_{\mathrm{rubik}}. $$
この作用は(当然)自由かつ推移的なので写像$\Gamma_{\mathrm{rubik}} \to \mathcal{C}; \gamma \mapsto I \cdot \gamma$は全単射です.さらに
\begin{align} I \cdot \gamma &= (\mathrm{id},0,\mathrm{id},0) \cdot (p_{V}(\gamma), o_{V}(\gamma), p_{E}(\gamma), o_{E}(\gamma))\\ &= (p_{V}(\gamma), o_{V}(\gamma), p_{E}(\gamma), o_{E}(\gamma))\\ &= \Phi_{\mathrm{rubik}}(\gamma) \end{align}
となるので,$\Phi_{\mathrm{rubik}}$によって操作$\gamma$と状態$I \cdot \gamma$とが同一視できることがわかります.

ルービックキューブの基本定理

可能配置集合$\mathcal{C}$の部分集合$\mathcal{S}$
$$ \mathcal{S} = \{I \cdot g \mid g \in G_{\mathrm{rubik}}\} $$
で定める.これを可解配置集合といい,各元を可解配置という.

その名の通り,可解配置とはルービック変換のみで揃えることのできるルービックキューブの配置のことです.したがって,混ぜられた状態のルービックキューブが与えられたとき,それが可解配置であるかどうか(を判定する方法)が問題になります.

ルービックキューブの基本定理

可能配置$I \cdot \gamma$について,これが可解配置であるためには,つぎの3条件が成り立つことが必要かつ十分である:

  1. $\mathrm{sgn}(p_{V}(\gamma)) = \mathrm{sgn}(p_{E}(\gamma))$(置換の偶奇の一致);
  2. $o_{V}(\gamma)_{1} + \cdots + o_{V}(\gamma)_{8} \equiv 0 \pmod3$(総回転数保存則);
  3. $o_{E}(\gamma)_{1} + \cdots + o_{E}(\gamma)_{12} \equiv 0 \pmod2$(総反転数保存則).

この定理から,たとえば,ルービック変換だけでは(つまりルービックキューブを分解しない限りは)エッヂキューブをひとつだけ反転させたり,ふたつのコーナーキューブの位置を入れ替えたりすることは,たとえ天地がひっくり返ってもできないことがわかります.

ここではまず必要性のみ証明します.十分性の証明は小キューブの動かし方について考察してから行なうことにします.

(必要性)

仮定より$\gamma \in G_{\mathrm{rubik}}$である.

  1. 例1,例2より,基本変換$g \in \{F, B, U, D, L, R\}$に対しては$\mathrm{sgn}(p_{V}(g)) = -1 = \mathrm{sgn}(p_{E}(g))$が成り立つことがわかる.いま$\gamma$は有限個の基本変換の積で書けるので,$\mathrm{sgn}, p_{V}, p_{E}$が準同型であることと併せて結論を得る.
  2. 例1より,基本変換に対しては (ii) が成り立つことがわかる.さて,$\gamma = g_{1} \cdots g_{k}$と有限個の基本変換$g_{i}$の積で表わすと,補題1より
    $$ o_{V}(\gamma) = o_{V}(g_{1} \cdots g_{k-1}) \cdot p_{V}(\gamma_{k}) + o_{V}(g_{k}) $$
    が成り立つ.したがって
    \begin{align} o_{V}(\gamma)_{1} + \cdots + o_{V}(\gamma)_{8} &= (o_{V}(g_{1} \cdots g_{k-1})_{p_{V}(\gamma_{k}^{-1})(1)} + \cdots + o_{V}(g_{1} \cdots g_{k-1})_{p_{V}(\gamma_{k}^{-1})(8)}) + (o_{V}(g_{k})_{1} + \cdots + o_{V}(g_{k})_{8})\\ &= (o_{V}(g_{1} \cdots g_{k-1})_{1} + \cdots + o_{V}(g_{1} \cdots g_{k-1})_{8}) + (o_{V}(g_{k})_{1} + \cdots + o_{V}(g_{k})_{8}) \end{align}
    が成り立つので,$k$に関する数学的帰納法により結論を得る.
  3. 例2,補題3を用いればよい.

小キューブを思いのままに動かすには

数学的準備:交換子による作用について

集合$X$に群$G$が右から作用している状況を考えます.元$g \in G$に対して

  • $X^{g} = \{x \in X \mid x \cdot g = x \}$;
  • $\mathrm{supp}(g) = X \smallsetminus X^{g} = \{x \in X \mid x \cdot g \neq x\}$

とおきます.これらは$g$の作用に関して閉じており,また$X^{g} = X^{g^{-1}}$$\mathrm{supp}(g) = \mathrm{supp}(g^{-1})$が成り立ちます.

さらに,$g, h \in G$に対して

  • $X_{g,h} = \mathrm{supp}(g) \cap \mathrm{supp}(h)$
  • $X(g,h) = X_{g,h} \cup (X_{g,h} \cdot g^{-1}) \cup (X_{g,h} \cdot h^{-1})$

とおきます.

任意の$g, h \in G$$x \in X$に対して

  1. $x \notin X_{g,h}$$x \cdot g \in X_{g,h}$ならば,$x \in X^{h}$が成り立つ;
  2. $x \notin X^{g} \cup (X_{g,h} \cdot g^{-1})$ならば,$x \cdot g \in X^{h}$が成り立つ.
  1. 仮定より$x \in X^{g} \cup X^{h}$であるが,$x \cdot g \in X_{g,h} \subset \mathrm{supp}(g) = \mathrm{supp}(g^{-1})$より$x \cdot g \neq (x \cdot g) \cdot g^{-1} = x$であるから$x \in X^{h}$でなければならない.
  2. $x \notin X^{g} \cup (X_{g,h} \cdot g^{-1})$とする.このとき$x \notin X^{g}$より
    $$ x \cdot g \neq x = (x \cdot g) \cdot g^{-1} $$
    であるから$x \cdot g \notin X^{g^{-1}} = X^{g}$となる.一方,$x \cdot g \in X \smallsetminus X_{g,h} = X^{g} \cup X^{h}$であるから,$x \cdot g \in X^{h}$でなければならない.

任意の$g, h \in G$に対して
$$ X \smallsetminus X(g,h) \subset X^{[g,h]} $$
が成り立つ.とくに,全単射$\cdot [g,h] \colon X \to X$は全単射$\cdot [g,h] \colon X(g,h) \to X(g,h)$を誘導する.

したがって,交換子$[g,h]$による作用を考える場合,部分集合$X(g,h)$への影響だけ考えればよいことになります.

$x \in X \smallsetminus X(g,h)$とする.このとき,とくに$x \in X \smallsetminus X_{g,h} = X^{g} \cup X^{h}$となることに注意する.

  • $x \in X^{g} \cap X^{h}$のとき,明らかに$x \cdot [g,h] = x$が成り立つ.
  • $x \in X^{h} \smallsetminus X^{g}$のとき,$x \notin X^{g} \cup (X_{g,h} \cdot g^{-1})$であるから,補題6より$x \cdot g \in X^{h}$となる.よって
    $$ x \cdot [g,h] = (x \cdot g) \cdot hg^{-1}h^{-1} = (x \cdot g) \cdot g^{-1}h^{-1} = x \cdot h^{-1} = x $$
    が成り立つ.
  • $x \in X^{g} \smallsetminus X^{h}$のとき,上と同様にして$x \cdot [g,h] = x$が成り立つことがわかる.

よって,$X \smallsetminus X(g,h) \subset X^{[g,h]}$が成り立つ.

さて,$x \in X(g,h)$とする.もし$x \cdot [g,h] \notin X(g,h)$となったとすると,上で示したことから$x \cdot [g,h] \in X^{[g,h]} = X^{[g,h]^{-1}}$となるが,$x \cdot [g,h] = (x \cdot [g,h]) \cdot [g,h]^{-1} = x \in X(g,h)$となって矛盾が生ずる.したがって,$x \cdot [g,h] \in X(g,h)$となり,写像$\cdot [g,h] \colon X(g,h) \to X(g,h)$が定まる.また,同様にして定まる写像$\cdot [h,g] \colon X(g,h) = X(h,g) \to X(h,g) = X(g,h)$が逆写像を与える.

3点交換

$g, h \in G$とし,次の仮定をおく:

  • $X_{g,h} \neq \varnothing$;
  • $X_{g,h},\ X_{g,h} \cdot g^{-1},\ X_{g,h} \cdot h^{-1}$のどのふたつも交わらない.

このとき,全単射$\cdot [g,h] \colon X(g,h) \to X(g,h)$はつぎの3つの部分に分割される:

  1. $X_{g,h} \to X_{g,h} \cdot h^{-1};\ x \mapsto x \cdot h^{-1}$;
  2. $X_{g,h} \cdot h^{-1} \to X_{g,h} \cdot g^{-1};\ x \mapsto x \cdot hg^{-1}$;
  3. $X_{g,h} \cdot g^{-1} \to X_{g,h};\ x \mapsto x \cdot g$.

写像がwell-definedであることを確かめればよい.

  1. $x \in X_{g,h}$とする.このとき$x \notin X^{g} \cup (X_{g,h} \cdot g^{-1})$であるから,補題6より$x \cdot g \in X^{h}$となる.したがって,$x \cdot ghg^{-1} = x \in X_{g,h}$となるので,$x \cdot [g,h] = x \cdot h^{-1} \in X_{g,h} \cdot h^{-1}$となる.
  2. $x \in X_{g,h} \cdot h^{-1}$とする.仮定より$x \notin X_{g,h}$だから$x \cdot h \notin X^{h} \cup (X_{g,h} \cdot h) = X^{h^{-1}} \cup (X_{h^{-1},g} \cdot (h^{-1})^{-1})$となるので,補題6より$x = (x \cdot h) \cdot h^{-1} \in X^{g}$を得る.したがって$x \cdot ghg^{-1} = (x \cdot h) \cdot g^{-1} \in X_{g,h} \cdot g^{-1}$となる.仮定より$x \cdot hg^{-1} \notin X_{g,h}$となるので,$(x \cdot hg^{-1}) \cdot g = x \cdot h \in X_{g,h}$と併せて,補題6より$x \cdot hg^{-1} \in X^{h} = X^{h^{-1}}$を得る.よって,$x \cdot [g,h] = x \cdot hg^{-1} \in X_{g,h} \cdot g^{-1}$が成り立つ.
  3. 逆写像$\cdot [h,g] \colon X(h,g) \to X(h,g)$に (i) を適用すればよい.

$g, h \in G$が命題8の仮定を満たすとする.このとき,任意の$k \in G$に対して,$g, h$$k$による共軛$kgk^{-1}, khk^{-1} \in G$も命題8の仮定を満たす.

$X_{kgk^{-1}, khk^{-1}} = X_{g,h} \cdot k^{-1}$を示せば十分である.ところで,$\gamma \in \{g,h\}$に対して,$x \in \mathrm{supp}(k \gamma k^{-1})$であることと$x \cdot k \in \mathrm{supp}(\gamma)$であることとは同値であるから結論を得る.

3点交換の原理

集合$X$の相異なる3点$a, b, c \in X$を考える.いま$g, h \in G$であって,以下の条件を満たすものが存在したとする:

  • $a \cdot g = b$;
  • $c \cdot h = b$;
  • $\mathrm{supp}(g) \smallsetminus \{b\} \subset X^{h}$.

このとき,$c \in X^{g}$および$X_{g,h} = \{b\}$が成り立つ.とくに$\cdot [g,h]$は3点交換$a \mapsto b \mapsto c \mapsto a$(のみ)を行なう.さらに,任意の$k \in G$に対して,$k[g,h]k^{-1} = [kgk^{-1}, khk^{-1}]$による作用は3点交換$a \cdot k^{-1} \mapsto b \cdot k^{-1} \mapsto c \cdot k^{-1} \mapsto a \cdot k^{-1}$(のみ)を行なう.

$c \cdot h = b \neq c$より$c \in \mathrm{supp}(h) = X \smallsetminus X^{h} \subset X^{g} \cup \{b\}$となるので,$c \in X^{g}$を得る.

$x \neq b$とする.まず,$x \in X^{g}$のときは明らかに$x \notin X_{g,h}$となる.また$x \notin X^{g}$のときは,$x \in \mathrm{supp}(g) \smallsetminus \{b\} \subset X^{h}$となるので,$x \notin X_{g,h}$を得る.したがって$X_{g,h} \subset \{b\}$が成り立つ.

$b \cdot g \neq a \cdot g = b$より$b \in \mathrm{supp}(g)$を得,$b \cdot h^{-1} = c \neq b$より$b \in \mathrm{supp}(h^{-1}) = \mathrm{supp}(h)$を得る.したがって$X_{g,h} \supset \{b\}$が成り立つ.

2ヶ所での同時置換

$g, h \in G$とし,次の仮定をおく:

  • $X_{g,h} \neq \varnothing$;
  • $(X_{g,h} \cdot g^{-1}) \cap (X_{g,h} \cdot h^{-1}) = \varnothing$.

さらに

  1. $X_{g,h} = X_{g,h} \cdot h^{-1}$のとき,全単射$\cdot [g,h] \colon X(g,h) \to X(g,h)$は次の2つの部分に分割される:
     - $X_{g,h} \to X_{g,h};\ x \mapsto x \cdot h^{-1}$;
     - $X_{g,h} \cdot g^{-1} \to X_{g,h} \cdot g^{-1};\ x \mapsto x \cdot ghg^{-1}$.
  2. $X_{g,h} = X_{g,h} \cdot g^{-1}$のとき,全単射$\cdot [g,h] \colon X(g,h) \to X(g,h)$は次の2つの部分に分割される:
     - $X_{g,h} \to X_{g,h};\ x \mapsto x \cdot g$;
     - $X_{g,h} \cdot h^{-1} \to X_{g,h} \cdot h^{-1};\ x \mapsto x \cdot hg^{-1}h^{-1}$.

(i) の場合に写像がwell-definedであることを確かめればよい.

  • $x \in X_{g,h} = X_{g,h} \cdot h^{-1}$とする.このとき$x \notin X^{g} \cup (X_{g,h} \cdot g^{-1})$であるから,補題6より$x \cdot g \in X^{h}$となる.よって$x \cdot [g,h] = x \cdot h^{-1} \in X_{g,h} \cdot h^{-1} = X_{g,h}$が成り立つ.
  • $x \in X_{g,h} \cdot g^{-1}$とする.このとき$x \cdot g \in X_{g,h} = X_{g,h} \cdot h^{-1}$であるから$x \cdot ghg^{-1} \in X_{g,h} \cdot g^{-1}$となる.仮定より$x \cdot ghg^{-1} \notin X_{g,h} \cdot h^{-1} = X_{g,h}$であり,$(x \cdot ghg^{-1}) \cdot g = x \cdot gh \in X_{g,h}$となるから,補題6より$x \cdot ghg^{-1} \in X^{h} = X^{h^{-1}}$が成り立つ.よって$x \cdot [g,h] = x \cdot ghg^{-1} \in X_{g,h} \cdot g^{-1}$を得る.

3点交換のときと同様に,仮定を満たす元の組がひとつでも見つかればそれらの共軛に対しても同じことが成り立ちます:

$g, h \in G$が命題10の仮定を満たすとする.このとき,任意の$k \in G$に対して,$g, h$$k$による共軛$kgk^{-1}, khk^{-1} \in G$も命題10の仮定を満たす.

小キューブの3点交換

小キューブの2点交換は不可能でしたから,3点交換を考えることにします.

$X = V \cup E$とおきます.ルービックキューブ群$G_{\mathrm{rubik}}$は準同型$p_V \colon G_{\mathrm{rubik}} \to S_{8} \subset S_{20}$および$p_{E} \colon G_{\mathrm{rubik}} \to S_{12} \subset S_{20}$を通して$X$に作用していました.

$a, b, c \in X$を相異なるコーナーキューブ(resp. エッヂキューブ)とします.3点交換の原理より,その条件を満たす$g, h \in G_{\mathrm{rubik}}$をうまく見つけることができれば(向きを無視した)3点交換$a \mapsto b \mapsto c \mapsto a$が実現できます:

3点交換のための手順
  1. $c$を動かさずに$a$$b$がある位置に持ってくる(これが$g$を定める);
  2. $a$以外の$g$で動いた小キューブを動かさずに$c$$a$がある位置(もともと$b$があった位置)に持ってくる(これが$h$を定める);
  3. $g^{-1}h^{-1}$をする.

$$\xymatrix{ {} & {} & {} & {} & {} & {a} \ar@{-}[ddl] & {} & {} & {} & {} & {} & {c} \ar@{-}[ddl] & {} & {} & {}\\%1 {} & {} & {} & {} & {} \ar@/_2.0pc/[dddll]_{\cdot g} & {} & {} & {} & {} & {} & {} & {} & {} & {} & {}\\%2 {} & {} & {} & {} & {b} \ar@{-}[rr] & {} & {c} \ar@{-}[uul] & {} & {} & {} & {a} \ar@{-}[rr] & {} & {b} \ar@{-}[uul] & {} & {}\\%3 {} & {} & {} & {\ast} \ar@{-}[ddl] & {} & {} & {} & {} & {\ast} \ar@{-}[ddl] & {} & {} & {} & {} & {c} \ar@{-}[ddl] & {} \\%4 {} & {} & {} & {} & {} \ar[rrr]^{\cdot h} & {} & {} & {} & {} & {} \ar[rrr]^{\cdot g^{-1}} & {} & {} & {} & {} & {} \ar@/_2.0pc/[uuull]_{\cdot h^{-1}} \\%5 {} & {} & {a} \ar@{-}[rr] \ar@{.}[dl] & {} & {c} \ar@{-}[uul] & {} & {a} \ar@{.}[r] & {c} \ar@{-}[rr] \ar@{.}[dl] & {} & {\ast} \ar@{-}[uul] & {} & {a} \ar@{.}[r] & {b} \ar@{-}[rr] & {} & {\ast} \ar@{-}[uul]\\%6 {} & {b} & {} & {} & {} & {} & {b} & {} & {} & {} & {} & {} & {} & {} & {}\\%7 }$$

詳しく(?)は J Perm氏の動画 (ここでは向きも考慮に入れています)を参照してください.

コーナーキューブの3点交換

任意の3つのコーナーキューブを$v_{1}, v_{2}, v_{4}$に持って来られることはルービックキューブを少しいぢればわかるので,$v_{1}, v_{2}, v_{4}$の3点交換さえ実現できればよいことになります.

たとえば,$g = R, h = U^{-1}L^{-1}U$とおくと,$X_{g,h} = \{v_{2}\},\ X_{g,h} \cdot g^{-1} = \{v_{4}\},\ X_{g,h} \cdot h^{-1} = \{v_{1}\}$となることが(実際にルービックキューブを回すことで)わかります.よって,$\cdot [g,h]$は3点交換$v_{4} \mapsto v_{2} \mapsto v_{1} \mapsto v_{4}$を行ないます.

エッヂキューブの3点交換

任意の3つのエッヂキューブを$e_{1}, e_{4}, e_{9}$に持って来られることはルービックキューブを少しいぢればわかるので,$e_{1}, e_{4}, e_{9}$の3点交換さえ実現できればよいことになります.

たとえば,$g = RF^{2}R^{-1}, h = LU^{2}L^{-1}$とおくと,$X_{g,h} = \{e_{4}\},\ X_{g,h} \cdot g^{-1} = \{e_{9}\},\ X_{g,h} \cdot h^{-1} = \{e_{1}\}$となることがわかります.よって,$\cdot [g,h]$は3点交換$e_{9} \mapsto e_{4} \mapsto e_{1} \mapsto e_{9}$を行ないます.

小キューブの回転・反転

続いて,コーナーキューブの回転,およびエッヂキューブの反転について考えます.

$X = (V \times (\mathbb{Z}/3)) \cup (E \times (\mathbb{Z}/2))$とおきます.ルービックキューブ群$G_{\mathrm{rubik}}$$X$に作用しているのでした.ひとつの小キューブだけの回転・反転は不可能でしたから,ふたつ(以上)の小キューブを同時に回転・反転させることを考えましょう.以下,たとえば$(v_{1}, 1)$$v_{1}^{+}$と略記します.

コーナキューブの回転

$g = [R,U]^{2}, h = ULU^{-1}$とおきます.このとき,$X_{g,h} = \{v_{4}^{0}, v_{4}^{+}, v_{4}^{-}\} = X_{g,h} \cdot g^{-1},\ X_{g,h} \cdot h^{-1} = \{v_{3}^{0}, v_{3}^{+}, v_{3}^{-}\}$となることがわかります.よって,$\cdot [g,h]$はコーナーキューブ$v_{3}, v_{4}$の回転のみを行ないます.とくに
$$ v_{3}^{0} \mapsto v_{3}^{-},\ v_{4}^{0} \mapsto v_{4}^{+} $$
となることが実際に確かめられます.

さらに,命題11より,$[g,h]$とその共軛を用いることで,コーナーキューブ$v_{1}, v_{3}, v_{5}, v_{7}$は自由に回転できることがわかります(ただし,総回転数が保存する必要はあります).

また,$g' = [L,D]^{2}, h' = DRD^{-1}$とおくと,$[g',h']$とその共軛を用いることで,コーナーキューブ$v_{5}, v_{6}, v_{7}, v_{8}$は自由に回転できることがわかります.

エッヂキューブの反転

$g = RUD^{-1}F^{2}U^{2}D^{2}BU, h = U^{-1}$とおきます.このとき,$X_{g,h} = \{e_{3}^{0}, e_{3}^{+}\} = X_{g,h} \cdot g^{-1}, X_{g,h} \cdot h^{-1} = \{e_{4}^{0}, e_{4}^{+}\}$となることがわかります.よって,$\cdot [g,h]$はエッヂキューブ$e_{3}, e_{4}$の反転のみを行ないます.さらに,命題11より,$[g,h]$とその共軛を用いることで,エッヂキューブ$e_{1}, e_{2}, e_{3}, e_{4}$は自由に反転できることがわかります(ただし,総反転数が保存する必要はあります).

  • 上で挙げた$g, h$などはあくまでも一例です.もっとよい手順があるかもしれません.
  • 命題10は二組の小キューブの同時交換にも応用できる気がしますが,本記事では立ち入りません(ちゃんと考えていないので).

基本定理の十分性の証明,或はルービックキューブを交換子(だけ)で揃える方法

前節での考察をもとに基本定理の十分性を証明しましょう.

そこで,拡張ルービック変換$\gamma \in \Gamma_{\mathrm{rubik}}$

  1. $\mathrm{sgn}(p_{V}(\gamma)) = \mathrm{sgn}(p_{E}(\gamma))$;
  2. $o_{V}(\gamma)_{1} + \cdots + o_{V}(\gamma)_{8} \equiv 0 \pmod3$;
  3. $o_{E}(\gamma)_{1} + \cdots + o_{E}(\gamma)_{12} \equiv 0 \pmod2$

を満たしているとします.このとき,可能配置$I \cdot \gamma$が可解配置であることを示すためには,ルービック変換$g_{\gamma} \in G_{\mathrm{rubik}}$であって$(I \cdot \gamma) \cdot g_{\gamma} = I$となるものが存在することを示せばよいことになります.

定理5の必要性と補題1,補題3より,任意の$g \in G_{\mathrm{rubik}}$に対して$\gamma g \in \Gamma_{\mathrm{rubik}}$も上の3条件を満たすことに注意しましょう.

(十分性)

Step 1(小キューブの位置を調整する)

  • $\mathrm{sgn}(p_{V}(\gamma)) = \mathrm{sgn}(p_{E}(\gamma)) = 1$のときは$g_{1} = \mathrm{id}$とおく;
  • $\mathrm{sgn}(p_{V}(\gamma)) = \mathrm{sgn}(p_{E}(\gamma)) = -1$のときは$g_{1} = U$とおく.

このとき,$\gamma g_{1}$について$\mathrm{sgn}(p_{V}(\gamma g_{1})) = \mathrm{sgn}(p_{E}(\gamma g_{1})) = 1$が成り立つ.

Step 2(コーナーキューブの位置を合わせる)

前節での考察より任意の3つのコーナーキューブの3点交換が可能であり,このことと交代群$A_{8}$が長さ$3$の巡回置換全体で生成されることから,$g_{2} \in [G_{\mathrm{rubik}},G_{\mathrm{rubik}}]$であって$(I \cdot \gamma g_{1}) \cdot g_{2} = (\mathrm{id},\ast, \ast, \ast)$となるものが存在することがわかる.

Step 3(エッヂキューブの位置を合わせる)

同様にして,$g_{3} \in [G_{\mathrm{rubik}},G_{\mathrm{rubik}}]$であって$(I \cdot \gamma g_{1} g_{2}) \cdot g_{3} = (\mathrm{id}, \ast, \mathrm{id},\ast)$となるものが存在することがわかる.

Step 4(小キューブの向きを合わせる)

上で注意したことから$\gamma g_{1} g_{2} g_{3} \in \Gamma_{\mathrm{rubik}}$は条件 (ii), (iii) を満たすので,前節での考察より,$g_{4} \in [G_{\mathrm{rubik}},G_{\mathrm{rubik}}]$であって$(I \cdot \gamma g_{1} g_{2} g_{3}) \cdot g_{4} = (\mathrm{id}, 0, \mathrm{id},0)$となるものが存在することがわかる.

よって,$g_{\gamma} = g_{1} g_{2} g_{3} g_{4} \in G_{\mathrm{rubik}}$とおけばよい.

上の証明において,$g_{2}, g_{3}, g_{4}$は交換子の積で書けることに注意すると,ルービックキューブは交換子だけで揃えられると放言しても許される気がしてきます.実際にやってみろと言われるとそれはまた別の話になりますが.

補遺:ルービックキューブ群の構造

まず,基本定理からただちにつぎがわかります:

基本定理の

群同型$\Phi_{\mathrm{rubik}} \colon \Gamma_{\mathrm{rubik}} \to (S_{8} \ltimes (\mathbb{Z}/3)^{8}) \times (S_{12} \ltimes (\mathbb{Z}/2)^{12})$は群の同型
$$ G_{\mathrm{rubik}} \cong_{\mathrm{Grp}} \left\{(\sigma,n,\tau,m) \middle|\ \mathrm{sgn}(\sigma) = \mathrm{sgn}(\tau),\ \sum n_{i} = 0,\ \sum m_{j} = 0\right\} $$
を誘導する.

拡張ルービックキューブ群$\Gamma_{\mathrm{rubik}}$の部分群$\Gamma_{\mathrm{rubik}}'$をつぎで定めます:
$$ \Gamma_{\mathrm{rubik}}' = \left\{\gamma \in \Gamma_{\mathrm{rubik}} \middle|\ \sum o_{V}(\gamma)_{i} = 0, \sum o_{E}(\gamma)_{j} = 0\right\}. $$
また,$(\mathbb{Z}/3)^{7}$$\{n \in (\mathbb{Z}/3)^{8} \mid \sum n_{i} = 0\}$,および$(\mathbb{Z}/2)^{11}$$\{m \in (\mathbb{Z}/2)^{12} \mid \sum m_{j} = 0\}$を自然に同一視します.このとき,次が成り立ちます:

群同型$\Phi_{\mathrm{rubik}} \colon \Gamma_{\mathrm{rubik}} \to (S_{8} \ltimes (\mathbb{Z}/3)^{8}) \times (S_{12} \ltimes (\mathbb{Z}/2)^{12})$は群の同型
$$ \Gamma_{\mathrm{rubik}}' \cong_{\mathrm{Grp}} (S_{8} \ltimes (\mathbb{Z}/3)^{7}) \times (S_{12} \ltimes (\mathbb{Z}/2)^{11}) $$
を誘導する.とくに$\Gamma_{\mathrm{rubik}}' < \Gamma_{\mathrm{rubik}}$は指数$6$の部分群である.

基本定理の系より$G_{\mathrm{rubik}}$$\Gamma_{\mathrm{rubik}}'$の部分群ですが,より詳しく次が成り立ちます:

全射準同型$\varphi \colon \Gamma_{\mathrm{rubik}}' \to \{1, -1\}$
$$ \varphi(\gamma) = \mathrm{sgn}(p_{V}(\gamma)) \mathrm{sgn}(p_{E}(\gamma)) $$
で定める.このとき,$G_{\mathrm{rubik}} = \ker \varphi$が成り立つ.とくに$G_{\mathrm{rubik}} < \Gamma_{\mathrm{rubik}}$は指数$12$の部分群であり,その位数は$2^{27} \cdot 3^{14} \cdot 5^{3} \cdot 7^{2} \cdot 11 \sim 4.3 \times 10^{19}$である.

任意の$\gamma \in \Gamma_{\mathrm{rubik}}$に対して
$$ \mathrm{sgn}(p_{V}(\gamma)) = \mathrm{sgn}(p_{E}(\gamma)) \Leftrightarrow \mathrm{sgn}(p_{V}(\gamma)) \mathrm{sgn}(p_{E}(\gamma)) = 1 $$
が成り立つので結論を得る.

最後に,
$$ \Gamma_{\mathrm{rubik}}' \cong_{\mathrm{Grp}} (S_{8} \times S_{12}) \ltimes ((\mathbb{Z}/3)^{7} \times (\mathbb{Z}/2)^{11}) $$
および
$$ \{(\sigma, \tau) \in S_{8} \times S_{12} \mid \mathrm{sgn}(\sigma) = \mathrm{sgn}(\tau)\} = (S_{8} \times S_{12}) \cap A_{20} $$
に注意すると,次がわかります:

群の同型
$$ G_{\mathrm{rubik}} \cong_{\mathrm{Grp}} ((S_{8} \times S_{12}) \cap A_{20}) \ltimes ((\mathbb{Z}/3)^{7} \times (\mathbb{Z}/2)^{11}) $$
が成り立つ.

更新履歴

2023/08/06:

  • ルービックキューブのラベル付けを変更しました.
  • 回転数,反転数の定義を修正しました.
  • 合せて関係各所の修正・書き換えを行いました.

参考文献

投稿日:202362
OptHub AI Competition

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  1. ルービックキューブ群と拡張ルービックキューブ群
  2. ルービック変換とルービックキューブ群
  3. 拡張ルービック変換と拡張ルービックキューブ群
  4. 可能配置
  5. ルービックキューブの基本定理
  6. 小キューブを思いのままに動かすには
  7. 数学的準備:交換子による作用について
  8. 小キューブの3点交換
  9. 小キューブの回転・反転
  10. 基本定理の十分性の証明,或はルービックキューブを交換子(だけ)で揃える方法
  11. 補遺:ルービックキューブ群の構造
  12. 更新履歴
  13. 参考文献