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大学数学基礎解説
文献あり

集合族と集合系の違いとは?

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はじめに

(添字付けられた)集合族{Aλ}λΛ(最近は(Aλ)λΛと書かれることも増えてきた)と集合系{AλλΛ}別物です。以下その違いを説明します.

定義を振り返ってみよう

[松坂, 1章]

まず集合系{AλλΛ}とは各元Aλが集合であるような集合のことをいう.(添字付けられた)集合族{Aλ}λΛとは集合Λから集合系{AλλΛ}への「写像」のことを言う。

「添字付けられた」というのは長いので略すことが多いです.集合族は位相空間論などで頻繁に出てきます.集合系は集合族に比べると実際の現場ではあまり意識されない概念ですがよく出てくる集合系の例としては集合Xの同値関係による商集合X/があります。これは同値類という集合[s]:={xX|xs}たちのなす集合となっています。

両者の差異が出てくる状況

Λ={1,2,3}としてA2=A3であるとしたら集合系の方は{Aλλ{1,2,3}}={A1,A2}となってしまいます(次の注意より)。でも集合族の場合はもちろん{Aλ}λ{1,2,3}{Aλ}λ{1,2}です。

集合{a,b,c}と集合{a,a,b,c}は等しいです。これは外延性公理というものの帰結になります。この2つを区別したい場合は多重集合の概念が必要になります(が滅多に出てきません)。

直前の例を引き継ぎます.まず集合族には集合族の直積という概念があります。もし集合族と集合系を区別しないとしたら"集合系の直積"なる概念を考えられるということになりますが直積は一般に^1順番を区別する概念なのでそれが出来ずにおかしなことになります.直前の例に対して集合族の直積はA1×A2×A3なのに対して"集合系の直積"はA1×A2A2×A1のいずれかにするしかないですがいずれにしても集合族の直積とは異なってしまいます。

Λ=Z>0,Aλ=2Z+λと取ります。ここで集合族{Aλ}λΛの直和はλΛAλ=mZ>0((2Z+m)×{m})です。ここでもし集合族と集合系を区別しないとしたら”集合系の直和”なるものが考えられることになりますが今集合系は{AλλΛ}={2Z,2Z+1}で添字とそれに対応する集合との情報がほぼ完全に消えていますからこれの”直和”なるものが考えられて上の結果と同じにするというのは無理があるでしょう。

初学者は読まない方がいい注

ZFC集合論では全ての数学的対象は集合です(詳しくはこちら:
https://mathlog.info/articles/6kdRkSN4uNoO3Wibd8c9
).よってどんな集合も集合系ということになり集合系は意味のない用語という事になります。だから厳密には集合系という言葉は実際にはある(念頭に置いている)レベルの集合の集合という意味で使うお気持ちワードにすぎないのです(上の商集合の例で言えば念頭に置いているレベルの集合とは同値類のことです)。

終わりに

以上のことから集合族と集合系の違いをしっかり把握することの重要性がわかっていただけたかと思います.両者を混同している文献等もたまにありますがあれはただ記号の濫用をしているに過ぎません。

^1 より詳細にはΛが有限集合Λ=Iのとき区別する。またI={1,2,3,,n}のときiIAi:=A1××Anと再定義される.

参考文献

[1]
松坂和夫, 集合・位相入門
投稿日:2023102
OptHub AI Competition

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  1. はじめに
  2. 定義を振り返ってみよう
  3. 両者の差異が出てくる状況
  4. 初学者は読まない方がいい注
  5. 終わりに
  6. 参考文献