一般$q$超幾何級数
\begin{align}
\Q{r+1}r{a_1,\dots,a_{r+1}}{b_1,\dots,b_r}{x}:=\sum_{0\leq n}\frac{(a_1,\dots,a_{r+1};q)_n}{(q,b_1,\dots,b_r;q)_n}x^n
\end{align}
は$x$の関数として$\CC$上の有理型関数に解析接続されることが知られている. そうなると, $x$の関数としての極はどこにあるのかが気になってくる. 今回は特に${}_2\phi_1$の極とその極における留数を求めたいと思う.
${}_2\phi_1$の前にまずより簡単な${}_1\phi_0$の極とその留数を調べてみる. $q$二項定理より,
\begin{align}
\Q10{a}{-}x&=\frac{(ax;q)_{\infty}}{(x;q)_{\infty}}
\end{align}
である. その極としてあり得るのは$(x;q)_{\infty}$の零点, つまり$x=q^{-N}, N\geq 0$である. そこでの留数は
\begin{align}
\Res_{x=q^{-N}}\Q10{a}-{x}&=\lim_{x\to q^{-N}}(x-q^{-N})\frac{(ax;q)_{\infty}}{(x;q)_{\infty}}\\
&=-q^{-N}\lim_{x\to q^{-N}}\frac{(ax;q)_{\infty}}{(x;q)_N(xq^{N+1};q)_{\infty}}\\
&=-q^{-N}\frac{(aq^{-N};q)_{\infty}}{(q^{-N};q)_N(q;q)_{\infty}}\\
&=-\left(\frac aq\right)^N\frac{(q/a;q)_N(a;q)_{\infty}}{(q;q)_N(q;q)_{\infty}}
\end{align}
となる. つまり, 以下が得られた.
$\Q10{a}{-}x$の極としてあり得るのは$x=q^{-N},N\geq 0$であり, そこでの留数は
\begin{align}
\Res_{x=q^{-N}}\Q10{a}-{x}&=-\left(\frac aq\right)^N\frac{(q/a;q)_N(a;q)_{\infty}}{(q;q)_N(q;q)_{\infty}}
\end{align}
で与えられる.
$m$を整数として$a=q^m$と書ける場合は留数が$0$になるところがあり, それはつまりその点は極ではないことを意味する.
\begin{align}
\Q21{a,b}{c}x
\end{align}
の極と留数を調べる上で, $a,b,c$によらず, $x$に関して極を除く$\CC$上で収束するような表示が都合が良い. そのような表示としてはいくつか候補があると思うが, まず
Jacksonによる表示
\begin{align}
\Q21{a,b}{c}x&=\frac{(c/a,c/b;q)_{\infty}}{(c,c/ab;q)_{\infty}}\Q32{a,b,abx/c}{abq/c,0}q\\
&\qquad+\frac{(a,b,abx/c;q)_{\infty}}{(c,ab/c,x;q)_{\infty}}\Q32{c/a,c/b,x}{cq/ab,0}q
\end{align}
を用いる. 右辺第1項には極がなく, 第二項は$x=q^{-N},N\geq 0$に極をもちうる. そこでの留数は
\begin{align}
\Res_{x=q^{-N}}\Q21{a,b}cx&=\frac{(a,b;q)_{\infty}}{(c,ab/c;q)_{\infty}}\Q32{c/a,c/b,q^{-N}}{cq/ab,0}q\Res_{x=q^{-N}}\frac{(abx/c;q)_{\infty}}{(x;q)_{\infty}}\\
&=-\frac{(a,b;q)_{\infty}}{(c,ab/c;q)_{\infty}}\Q32{c/a,c/b,q^{-N}}{cq/ab,0}q\left(\frac{ab}{cq}\right)^N\frac{(cq/ab;q)_N(ab/c;q)_{\infty}}{(q;q)_N(q;q)_{\infty}}\\
&=-\frac{(a,b;q)_{\infty}}{(c,q;q)_{\infty}}\frac{(cq/ab;q)_N}{(q;q)_N}\left(\frac{ab}{cq}\right)^N\Q32{c/a,c/b,q^{-N}}{cq/ab,0}q
\end{align}
となる. 他の表示として, $|b|<1$として
Heineの変換公式
\begin{align}
\Q21{a,b}{c}{x}&=\frac{(b,ax;q)_{\infty}}{(c,x;q)_{\infty}}\Q21{c/b,x}{ax}b
\end{align}
から留数に関する別の表示
\begin{align}
\Res_{x=q^{-N}}\Q21{a,b}cx&=-\frac{(a,b;q)_{\infty}}{(c,q;q)_{\infty}}\left(\frac aq\right)^N\Q21{c/b,q^{-N}}{aq^{-N}}b
\end{align}
を得ることもできる. $|b|<1$としたが, 右辺は多項式なので解析接続によってこれは$b\in\CC$で成り立つことが分かる. まとめると以下を得る.
$\Q21{a,b}cx$の極としてあり得るのは$x=q^{-N},N\geq 0$であり, そこでの留数は
\begin{align}
\Res_{x=q^{-N}}\Q21{a,b}cx&=-\frac{(a,b;q)_{\infty}}{(c,q;q)_{\infty}}\frac{(cq/ab;q)_N}{(q;q)_N}\left(\frac{ab}{cq}\right)^N\Q32{c/a,c/b,q^{-N}}{cq/ab,0}q\\
&=-\frac{(a,b;q)_{\infty}}{(c,q;q)_{\infty}}\frac{(q/a;q)_N}{(q;q)_N}\left(\frac aq\right)^N\Q21{c/b,q^{-N}}{aq^{-N}}b
\end{align}
で与えられる.
一般の${}_{r+1}\phi_r$の極も$x=q^{-N},N\geq 0$に限ると思われるが, このように留数を明示的に与える公式は得られるだろうか.