前回
は内在的距離の具体例をみました.距離は曲線の長さによる長さ構造を誘導し,その長さ構造から内在的距離が定まるのでした.そうして距離空間から誘導された内在的距離空間の自然な構成を得ました.
では,内在的距離ではないものにはどんなものがあるのでしょうか.距離が内在的であるための条件については後で詳しくみていきますが,一つ例を挙げようと思います.
の部分空間を考える.ただしで点を結ぶ線分を表す.この位相空間は長さ空間と同相にならない.
a
相対位相ではに収束する.長さ空間におけるこれらの点の距離は常に以上なので矛盾する.
これは長さ空間の部分空間が長さ空間になるとは限らない例であり,内在的距離による位相が元の空間の位相と異なる例でもあります.じゃあいつなるのか?ということは置いておいて今でしょ!より一般に次のことが成り立ちます.
長さ空間は局所道連結,すなわち,任意の点の任意の近傍は道連結な近傍を含む.
としをの近傍とする.あるであってなるものが存在する.もし開球のある点とを結ぶ道が存在しなければ距離はとなり矛盾する.
さて,前回は距離から内在的距離を得る方法を考えましたがこの方法で次々と新しい距離空間を得ることができるのでしょうか.
を距離空間,をから誘導される内在的距離とする.
(1) がで有限長なら
(2) に誘導された内在的距離はに一致する.
- 一般化三角不等式から道の長さの方が大きいので.これより.逆の不等号を示すためを道,をの分割とする.左辺は右辺の形で表される道の長さ全体の下界だから.よって
.は任意だからとなる. - (1)から明らか.
異なる長さ構造が同じ内在的距離を誘導することがあります.どのような長さ構造が内在的距離に誘導されたものでしょうか.
が下半連続な長さ構造なら,は内在的距離に誘導された長さ構造に一致し,のすべての認容的道に対し
は常に成立する.を有限長な道とすると,の連続依存性により関数は上一様連続である.よって任意のに対してある分割であって任意のに対してを満たすものが存在する.の定義からからへの道であってを満たすものが存在する.たちの積に対して
.三角不等式から任意のに対して.
(実際,一様連続性からあるが存在してが成り立つ.示した不等式と同様に
.よって
)
よってがによる位相が元の位相より細かい(これはの条件による)ことからわかる.の下半連続性から
.
もし距離が内在的であれば,そこからさらに長さ構造の構成を経て内在的距離を構成しても最初と同じ距離が得られることがわかりました.内在的距離の性質をみていきましょう.意外と重要になるのが中点の存在です.
中点,中点
距離空間の点はに対しを満たすときとの中点であるという.
また,,を満たすとき中点という.
距離空間の距離が狭義内在的であるとすると,任意のに対し,中点が存在する.
は狭義内在的だからからへの最短の道の長さはである.とおく.は連続,だから中間値の定理によりあるが存在してを満たす.今,とすると,なので三角不等式から.
狭義とは限らない場合も任意のの誤差を除いた結果が成り立ちます.
を内在的距離としとする.任意のに対し中点が存在する.
をを満たす道とすれば同様の主張がいえる.
(実際上と同様の記号で三角不等式により
.特に
,なので
となりを得る.)
中点をとる操作を繰り返すことにより次の系は明らかです.
補題5
を狭義内在的距離を備えた空間とする.任意のと任意のに対し,ある有限列であって任意のに対してかつを満たすものが存在する.
内在的距離については最後の式をに置き換えたものが成り立ちます.