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現代数学解説
文献あり

マルコフ数の一意性予想(マルコフ予想)の一般化とその部分的解決

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こんにちは、ロダンです。前回記事を書いてからもう1年以上経ちますが、私のことを覚えていらっしゃいますでしょうか?今回は、マルコフ数に関する最近の研究結果gyoda-maruyamaを紹介したいと思います。

本稿の概要

本題に入る前に、いくつかこれまで私がmathlogの記事に書いた事実について確認しておくことにしましょう。

復習:マルコフ方程式、マルコフ数、一意性予想

私の記事では再三言及している( 例えばこの記事 )マルコフ方程式とマルコフ数ですが、初見の方も多いと思うので今一度復習しておきましょう。マルコフのディオファントス方程式、長いので略してマルコフ方程式とは、
x2+y2+z2=3xyz
という方程式のことを指します。この方程式の解である整数の三つ組をマルコフトリプルといい、その各成分をマルコフ数といいます。マルコフ方程式は例えば
(x,y,z)=(1,1,1),(1,2,1),(1,5,2),(1,13,5),(5,29,2),(1,34,13),(13,194,5)...
を正整数解(マルコフトリプル)として持つので1,2,5,13,29,34,194,...なんかがマルコフ数になります。この方程式や正整数解は1880年ごろにAndrey Markov (Markoffとも書く)という数学者が無理数の有理数よる近似(ディオファントス近似)に関する研究markov1markov2の中で見出したもので、現在ではいろいろな数学との関連が明らかになっています。この方程式の正整数解は、自明な解(1,1,1)から3つあるうちの成分を1つ入れ替える特定の操作によって全ての正整数解を芋蔓式に列挙できるという性質があるということが知られています(例えば 私の過去の記事 をご覧ください)。

さて、マルコフ数には次のような予想があったのでした。

マルコフ数の一意性(単一性)予想

任意のマルコフ数bに対して、bを最大数とするようなマルコフトリプルが(数の順番による差を除いて)ただ一つ存在する。

この予想は1913年にFrobeniusfrobeniusが提唱し、100年以上経った今も解決されていない激ムズ予想です。ただ、次のような部分的解決はあります。

マルコフ数bが素数であるとき、bを最大数とするようなマルコフトリプルが(数の順番による差を除いて)ただ一つ存在する。

この定理は1990年代から2000年代にかけて、いろいろな人によって色々な手法を使って証明されています。例えば、Baragar baragar, Button button, Schmutz schmutz, Zhang zhang, Lang–Tan lang-tanなどなど。今回はこの定理を一般化する話をしたいと思います。

一般化マルコフ方程式と一般化マルコフ数

私の過去の記事 では、方程式
x2+y2+z2+k1xy+k2yz+k3zx=(3+k1+k2+k3)xyz
(ただしk1,k2,k3Z0)が、マルコフ方程式のような「正整数解のツリー構造」を保つような一般化であるという話をしました。そこで、この方程式について次のような問題を考えてみることにしましょう。

上記の方程式の正整数解に現れる数bを1つとったとき、bが最大の数であるような方程式の解(a,b,c)は(数の順番による差を除いて)一意的か?

これが、もし任意のk1,k2,k3と任意のbについてなりたてば、k1=k2=k3=0の場合を考えることでマルコフ数の単一性予想が肯定的に解決されます。しかしながらこの問題、 私の過去の記事 ですでに成り立たない例を挙げていたのでした。実際、k1=0,k2=1,k3=2であるような場合は(1,81,17)(7,81,2)が解になっていて、これらは共にb=81を最大数として持つ解です。

したがって、この範囲まで予想を拡張するのは無理なようです。ただちょっと待ってください、本家のマルコフ方程式はk1,k2,k3は全て0で、同じ値です。そこで、少し条件を制限して次のような問題を考えてみることにしましょう。

方程式
x2+y2+z2+k(xy+yz+zx)=(3+3k)xyz.
の正整数解に現れる数bを1つとったとき、bを最大数とするような解が(数の順番による差を除いて)ただ一つ存在するか?

この問題は、問題1のk1,k2,k3が全て同じkである場合に制限したバージョンです。実は、この問題2は成り立たないkbがまだ見つかっていません。
ということで、この問題を予想の形で述べておくことにしましょう。上記の方程式
x2+y2+z2+k(xy+yz+zx)=(3+3k)xyz.
k一般化マルコフ方程式とよび、その解をk一般化マルコフトリプル、その成分をk一般化マルコフ数と呼ぶことにします。名前が長いので定理や証明中で言及するときなど、ちゃんと区別したいとき以外は古典的なものと同じように単にマルコフ方程式とかマルコフトリプルと呼んだりすることにします。
さて、考えたい予想は次のようになります。

k一般化マルコフ数の一意性予想

任意にkZ0をとる。任意のk一般化マルコフ数bに対して、bを最大数とするようなk一般化マルコフトリプルが(数の順番による差を除いて)ただ一つ存在する。

本稿の主題は、この予想の次のような部分的解決です。

([5, Theorem 1.6])

任意にkZ0をとる。k一般化マルコフ数bが素数であるとき、bを最大数とするようなk一般化マルコフ方程式の解が(数の順番による差を除いて)ただ一つ存在する。

この定理2において、k=0としたものが定理1です。本稿では、この定理についてのおおまかな解決方針について述べていきたいと思います。

k一般化マルコフトリプルの構成方法

まず、k一般化マルコフ方程式の正整数解の列挙方法についてもう少し詳しくみていくことにしましょう。基本原理は 私の過去の記事 で紹介した方法をk=k1=k2=k3に適用するだけなのですが、後のために値が一番大きい数が第2成分に出てくるように成分の順番を調整します。

k一般化マルコフツリー

次のルールで帰納的に定まる二分木を考える。
(1) 最初の頂点は(1,1,1)
(2) 各(a,b,c)は以下のような2つの子を持つ。
(a,b,c)(b,b2+kbc+c2a,c).(a,a2+kab+b2c,b)

([6,Theorem 1.1])

k一般化マルコフツリーについて、次のことが成り立つ。

  1. 全ての頂点は第2成分が最も大きいk一般化マルコフトリプルである。
  2. 第2成分が最も大きいk一般化マルコフトリプルは全てk一般化マルコフツリーに含まれる。さらに、(1,1,1)以外の解(順番違いは区別する)は、このツリーの左半分と右半分の領域にそれぞれちょうど1個ずつ含まれる。
  3. 深さ2の頂点(1,2k2+6k+5,k+2)をとって、この頂点を最初の頂点とするようなk一般化マルコフツリーの部分木を考えると、この木には(1,1,1), (1,k+2,1)以外の順番違いによる差を除いた全てのk一般化マルコフトリプルが1回ずつ現れる。

証明はここではしませんが、k=0の例をみておくことにしましょう。スペースの都合上、ツリーを90度倒した状態で表示します。

(1,1,1)(1,2,1)(1,2,1)(2,5,1)(1,5,2)(2,5,1)(1,5,2)(5,13,1)(2,29,5)(5,29,2)(1,13,5)(5,13,1)(2,29,5)(5,29,2)(1,13,5)

k=1の場合も見ておきましょう。

(1,1,1)(1,3,1)(1,3,1)(3,13,1)(1,13,3)(3,13,1)(1,13,3)(13,61,1)(3,217,13)(13,217,3)(1,61,13)(13,61,1)(3,217,13)(13,217,3)(1,61,13)

すると、(1)出てくる頂点は全て第2成分が最大であるようなマルコフトリプルであり、(2)ちょうど上半分と下半分で同じ形がでており、(3) k=0のときは(1,5,2), k=1のときは(1,13,3)とそれより下(右)の部分では順番違いが含まれていないようになっていることがわかると思います。
さて、このツリーの頂点は全て第2成分が最大の数であり、また(1,2k2+6k+5,k+2)より下では(1,1,1)(1,k+2,1)以外の全てのk一般化マルコフトリプルが1回ずつ現れることを踏まえると、以下のことがわかります。

(1,2k2+6k+5,k+2)より下にある頂点全体の集合において、全ての頂点の第2成分が互いに異なることと、k一般化マルコフ数に関する一意性予想が成立することは同値である。

ここから、定理2についての十分条件を与えることができます。

素数b(ただしbk+2とする)を第2成分としてもっている、(1,2k2+6k+5,k+2)より下にあるk一般化マルコフトリプルが一意的であるならば、定理2は成り立つ。

本稿の目標は、この命題を示すことです。

命題5では2番目に小さいk一般化マルコフ数k+2が素数である場合について考慮されていませんが、実はk+2は素数であろうとなかろうと、これが最大数となるようなk一般化マルコフトリプルは(1,k+2,1)しかないことが簡単に示せます。

証明の準備:k一般化コーントリプルの導入

定理2、もしくは命題5を初等的整数論の枠組みのまま証明しようとするのはいささか難しいです。「(k一般化)マルコフ数」というものがもつ情報量があまりにも乏しいからです。整数論は、今回の問題のように前提知識が少なくても研究レベルの問題・予想が理解できるものがゴロゴロあるというのがその魅力の一つであると思うのですが、「なぜ理解することが容易な問題が予想のまま残っているのか?」という点に着目してみると、その原因が今回のように「登場する概念の情報量が少なすぎるために、切れるカードがない」という点にある場合が結構あります。この手の問題に対しては、その考察対象の背後にある情報量の多い数学的構造を見抜いて、それを活用して問題を解くという手法がよく取られます。ということで、今回はマルコフ数を「行列化」するという手段をとることにより、内包する情報量を増強する戦術を取ります。  

k一般化コーン行列

kZ0とする。2×2行列 P=[p11p12p21p22] は、次の条件を全て満たすときk一般化コーン行列という:

  1. PSL(2,Z)
  2. p12k一般化マルコフ数
  3. tr(P)=(3+3k)p12k

こちらも長いので地の文では単に「コーン行列」と呼びます。今回の場合マルコフ数を右上成分に含むような行列を考えて、情報の増強を行なっているわけですね。実際、整数1つだった情報量が、コーン行列を考えることによって整数4つに増えているわけです。さて、今マルコフ数に対する情報の増強を行いましたが、これを使ってマルコフトリプルに対する情報の増強を行うことにしましょう。

k一般化コーントリプル

kZ0とする。2×2行列の3つ組(P,Q,R)は、次の条件を全て満たすときk一般化コーントリプルという:

  1. P,Q,Rk一般化コーン行列
  2. (p12,q12,r12)k一般化マルコフトリプル
  3. Q=PRSを満たす、ただしS=[k03k2+3kk]である

行列もトリプルも、(3)の条件がだいぶ謎だと思われるかもしれません。こんな条件どこから持ってきたんだと。これがどういう事象に由来しているか、一応きちんとした理由はあるのですが、話すと長くなるので今は「まあこうやって設定すると後々都合がいいんだな」と思っておいてください(そのうちこの話に関する記事を書くかも)。ちなみにk=0の場合はそれぞれ「Pのトレースが(1,2)成分の3倍」「Q=PR」となって、割と自然な条件に思える人もいるかもしれません。実際、k=0のときのコーントリプルが定義されたのは1955年のCohnの論文cohnであり、他のkの場合が今回紹介している論文gyoda-maruyamaで導入されたことを踏まえるとかなり早いです。
 さてこのコーントリプル、定義をしたはいいのですが、この定義を満たすような(P,Q,R)が任意のマルコフトリプル(x,y,z)に対して存在するかどうかはまだわかっていません。それを確かめてみましょう。まず(x,y,z)=(1,1,1)のケースから。

([5, Proposition 3.4])

kZ0とする。(p12,q12,r12)=(1,1,1)であるようなk一般化コーントリプル(P,Q,R)は、次で与えられるもので全てである。
P=P1;:=[12+2k+31+2k+3]Q=Q1;:=[k++11k22+3k++1k+2]R=R1;:=[2k++2122k+2k+1+1]
ただし、は任意の整数とする。

この命題の証明はそんなに難しくないです。P(1,1)成分をと決めてやると、P,Q,RSL(2,Z)に入っていること、トレースの条件、Q=PRSであることから(P,Q,R)を決定することができます。次に(1,1,1)以外の場合を考えます。任意の(a,b,c)に対しても(1,1,1)と同じような手法で求めることは可能なのですが、ここではもっとスマートな方法を利用します。次のツリーを考えましょう。

k一般化コーンツリー

次のルールで帰納的に定まる二分木CT(k,)を考える。

  1. 最初の頂点は(P1;,Q1;,R1;)
  2. (P,Q,R)は以下のような2つの子を持つ。
    (P,Q,R)(P,PQS,Q)(Q,QRS,R)

このように与えると、次の定理が成り立ちます。この定理が非常に重要です。

([5, Theorem 1.10])

k一般化コーンツリーCT(k,)について、次が成り立つ。

  1. 全ての頂点はk一般化コーントリプルである。
  2. (P,Q,R)とその2つの子(P,PQS,Q),(Q,QRS,R)の各行列をその(1,2)成分で置き換えると、
    (p12,q12,r12)(q12,q122+kq12r12+r122p12,r12).(p12,p122+kp12q12+q122r12,q12)
    となり、これはk一般化マルコフツリーの世代ルールに一致する。

各行列の(1,2)成分はに依存しないので、どんなを取ってもこの定理は成立します。証明は大変なのでここでは省略します。以上のことから、次の系が成り立ちます。

任意のZに対して、k一般化コーンツリーCT(k,)の頂点に含まれる各行列をその(1,2)成分に置き換える操作は、CT(k,)k一般化マルコフツリーの間のツリー同型を与える。したがって特に、第2成分が最大となるような任意のk一般化マルコフトリプルに対して、その値を各(1,2)成分に持つようなk一般化コーントリプルが存在する。

k=0でコーンツリーの具体例を見てみることにしましょう。は何であってもいいのですが、ここでは0とします。
([0113],[1112],[2111])([0113],[1225],[1112])([1112],[3243],[2111])([1225],[35712],[1112])([0113],[25513],[1225])([3243],[85117],[2111])([1112],[75118],[3243])

k=1,=1のときは次のようになります。
([1176],[1134],[3152])([1176],[13516],[1134])([1134],[732310],[3152])([13516],[9134768],[1134])([1176],[3131774],[13516])([732310],[351311342],[3152])([1134],[291310748],[732310])

各行列の(1,2)成分を抜き出してみると、先ほど例示したマルコフツリーに現れるマルコフトリプルに一致することが見て取れると思います。これで、コーンツリーはマルコフツリーの情報を増強したものとして与えられることがご理解いただけたかと思います。1つ注意として、(P,Q,R)は成分の順番を入れ替えて(R,Q,P)などにするとコーントリプルにはなりません。ここはマルコフとは異なるところです。Q=PRSという条件があり、PRRPは等しいとは限らないからです。
さて、情報量が増えたことによっていろんなことがわかるようになります。コーンツリーの第2成分に注目してみましょう。次の定理が成り立ちます。

[5, Theorem 3.11]

k一般化コーンツリーCT(k,)の各第2成分の行列は全て互いに異なる。

これは、上半分と下半分で同じ頂点が出てくるマルコフツリーでは成立しないことでした。コーンツリーによる情報の増強によって、同じマルコフトリプルでもツリーの位置によって区別ができるようになったわけです。当然、(1,2k2+6k+5,2)に対応する一般化コーントリプル(k=0の場合は ([1112],[75118],[3243]))より下の頂点の第2成分についてもすべて異なる行列であることがわかっています(マルコフの方は命題4により第2成分が全て異なることと一意性予想が同値であったのでした)。これが、一意性予想を部分的に解決する大きな足掛かりになるのです。

定理2の証明の概要

コーンツリーという大道具を手に入れたところで、定理2の証明の概要を説明することにしましょう。定理2を示すためには命題5を示せば良いのですが、この命題5をもう少しちゃんとした形で述べ直します。k一般化マルコフツリーの頂点(1,2k2+6k+5,k+2)とそれより下の頂点全体からなる部分木をsMT(k)で表すことにします。例えばk=0の場合は
(1,5,2)(5,29,2)(1,13,5)(29,169,2)(5,433,29)(13,194,5)(1,34,13)
k=1の場合は
(1,13,3)(13,217,3)(1,61,13)(217,3673,3)(13,16693,217)(61,4683,13)(1,291,61)
から始まる部分木です。一方、これと同じ部分のk一般化コーンツリーの部分木((1,2)成分が同じ様子になっている部分木は2つありますが、左(図では下)の方)をsCT(k,)とします。ここで、=kととっておくことにします(このとり方は非常に重要です)。k=0の場合、sCT(0,0)
([0113],[25513],[1225])([0113],[5131334],[25513])([25513],[12293175],[1225])([0113],[13343489],[5131334])([5131334],[75194196507],[25513])([25513],[1794334631120],[12293175])([12293175],[70169181437],[1225])
k=1の場合、sCT(1,1)
([1176],[3131774],[13516])([1176],[136175352],[3131774])([3131774],[672173811234],[13516])([1176],[612913531684],[136175352])([136175352],[10754683620327022],[3131774])([3131774],[5153166932932795004],[672173811234])([672173811234],[11513673654520886],[13516])
から始まる部分木です。
さて、tを完全二分木の頂点として、mtsMT(k)上のtの位置にあるk一般化マルコフトリプルの第2成分とします。
命題5は次のような命題でした。

命題5の言い換え

k一般化マルコフ素数b(ただしbk+2とする)について、b=mtを満たす頂点tが一意的であるならば、定理2は成り立つ。

さらにこれをコーンツリーを使った主張に言い換えます。CtsCT(k,k)上のtの位置にあるk一般化コーントリプルの第2成分とします。対応tCtは定理8より単射なので、命題9と合わせて次の命題が成り立ちます。

k一般化マルコフ素数b(ただしbk+2とする)に対して、b(1,2)成分に持つようなk一般化コーン行列Ctが一意的であるならば、定理2は成り立つ。

以下、k一般化マルコフ素数bに対してb=mt=mτならばCt=Cτであることを示します。 CtCτ(1,2)成分がmt=mτで一致しているので、(1,1)成分が一致することを示せば良いです(残りの成分の一致はtr(Ct)=tr(Cτ)=(3+3k)mtkdet(Ct)=det(Cτ)=1であることから従います)。そこで、CtCτ(1,1)成分をそれぞれut,uτとおきます。 ここで、Ct(1,1)成分における次の性質を利用します。

([5, Lemma 4.7])

任意の頂点tに対して、Ct(1,1)成分ut0<ut<mt2kを満たすx2+kx+10modmtの解である。

この命題はmtが素数かどうかに関わらず成立します。証明はしませんが、成り立つことをk=0,1の場合のいくつかのケースで確かめておきましょう。sCT(0,0)の最初の3つの頂点について、
mt=5,Ct=[25513]のとき、0<2<52かつ22+1=50mod5
mt=13,Ct=[5131334]のとき、 0<5<132かつ52+1=260mod13
mt=29,Ct=[12293175]のとき、 0<12<292かつ122+1=1450mod29
sCT(1,1)の最初の3つの頂点について、
mt=13,Ct=[3131774]のとき、 0<3<1321かつ32+3+1=130mod13
mt=61,Ct=[136175352]のとき、 0<13<6121かつ132+13+1=1830mod61
mt=217,Ct=[672173811234]のとき、 0<67<21721かつ672+67+1=45570mod217
で実際に成り立っていることが確認できます。

命題11はmtにのみ依存する性質であるから、mt=mτの条件下ではutuτはともに全く同じ条件を満たすことになります。したがってut=uτ…と結論づけるのはまだ早いです。「0<x<mt2kを満たすx2+kx+10modmtの解」が一意的であることを示さなければいけません。したがって、定理2の成立は以下の命題に帰着されます。

k一般化マルコフ素数mtに対して、0<x<mt2kを満たすx2+kx+10modmtの解は一意的である。

この命題は証明しておきましょう。

まずx2+kx+10modmtの解が高々2つであることを示す。x1,x2x2+kx+10modmtの解でx1x2を満たすものとする。 (x1x2)(x1+x2+k)0modmtだから、 mtの素数性よりx1+x2+k0modmtが成立する。x3x2+kx+10modmtの解でx1x3であるようなものとしてとる。 このとき、先の議論と同様にしてx1+x3+k0modmtを得る。x1+x2+k0modmtx1+x3+k0modmtの両辺引いてx2x30modmtを得る。したがって、解の個数は高々2個である。さて、x2+kx+10modmtの解として今0<x<mt2kを満たすものが少なくとも1つ取れることが命題11からわかっている。これをaとおくと、mt(a+k)x2+kx+10modmtの解であり、このときmt2<mt(a+k)<mtである。したがって、amt(a+k)は別の解であり、x2+kx+10modmtの解の個数が高々2つであることからx2+kx+10modmtの解はamt(a+k)で全てである。以上から、0<x<mt2kを満たす解はaしかないことがわかり、一意性が示された。

以上により定理2が示されました。

おわりに

ここまで読んでくださってありがとうございました(ここに辿り着く人はどれくらいいるんだろうか?)。薄々気づいている人もいるとは思いますが、このk一般化マルコフ方程式に関する理論の創始者は私です。この研究は2021年に始まったばかりであり、取り組むべき問題が山ほどあります。ひとまずは1800年代から積み上がっている古典的マルコフ方程式(k=0のケース)における理論の拡張が目下の課題です。この記事をきっかけに、一般化マルコフ方程式についての知名度が上がり、問題に取り組む研究者が増えてくれると嬉しいなと思います。

参考文献

投稿日:20231217
更新日:2024226
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  1. 本稿の概要
  2. 復習:マルコフ方程式、マルコフ数、一意性予想
  3. 一般化マルコフ方程式と一般化マルコフ数
  4. k一般化マルコフトリプルの構成方法
  5. 証明の準備:k一般化コーントリプルの導入
  6. 定理2の証明の概要
  7. おわりに
  8. 参考文献