記事を開いていただきありがとうございます。
今回は以下の問題を証明していきます。
$$
\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]/(4+\sqrt{-1}) \cong \mathbb{F}_{17}
$$
であることを証明せよ。
ガウス整数環の剰余環が体になる, という問題ですが, 初めてみたときはよくわかりませんでした。直感的な理解は,ごててんさんの記事( https://mathlog.info/articles/2088 ) が最強にわかりやすいので, こちらを参考にしてみてください。
$(1)$整数全体の集合$\mathbb{Z}$は, 通常の加法と乗法に関して可換環になる。
$(2)\ \mathbb{Z}[\sqrt{-1}]=\{a+b\sqrt{-1} \mid a,\ b \in \mathbb{Z} \}$は複素数の加法と乗法に関して可換環になる。これを, 「ガウス整数環」という。
$(3)\ \mathbb{Z}[x]$を, 整数係数の多項式全体と定めると, 多項式の加法と乗法に関して可換環になる。
この節では, この記事で用いる定理や命題を列挙していきます。
一般に, イデアルの像はイデアルとは限りませんが, 次の命題が成り立ちます。
$\varphi : A \to B$が環の全射準同型ならば, イデアル$I \subset A$に対して, $\varphi(I)$は$B$のイデアルである.
準同型定理です。証明は, お手持ちの本などでみてください。
$\varphi : A \to B$を環の準同型とするとき,
$A / \mathrm{Ker} \varphi \cong \mathrm{Im}\varphi$
が成り立つ。特に, $\varphi$が全射なとき,
$A / \mathrm{Ker} \varphi \cong B$
が成り立つ。
次の命題がこの問題を解く際のポイントになります。
$I \subset A$を$A$のイデアル, $\varphi : A \to B$を環の全射準同型とする。このとき, $\mathrm{Ker}(\varphi) \subset I$ならば,
$A / I \cong B / \varphi(I)$
が成り立つ。
$\Phi : A \to B/\varphi(I)$を, $\Phi(a) = \varphi(a) + \varphi(I)$で定めると, $\varphi$が全射準同型であることから, $\Phi$も全射準同型になる。
・$a \in \mathrm{Ker}(\Phi)$とする。$\Phi(a) = \varphi(a ) + \varphi(I) = \varphi(I) $より,$\varphi(a) \in \varphi(I)$である。よって, $\exists x \in I,\ a-x \in \mathrm{Ker}(\varphi)$, すなわち, $a \in x + \mathrm{Ker}(\varphi) \subset I$
・$a \in I$とする。$\Phi(a) = \varphi(a) + \varphi(I) = \varphi(I)$であるから, $a \in \mathrm{Ker} (\Phi) $
以上より,$\mathrm{Ker}(\Phi) = I$である。準同型定理から,
$A / I \cong B / \varphi(I)$
それでは, 以上の命題を使って初めの同型を示してみましょう。
$\varphi : \mathbb{Z}[x]\to \mathbb{Z}[\sqrt{-1}],\ \varphi(f) = f(\sqrt{-1})$と定めると, $\varphi$は全射準同型になります。また, $\mathrm{Ker}(\varphi) = (x^2+1)$です。
ここで, $\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$のイデアル$(4+\sqrt{-1})$を考えてみましょう。$\varphi(I) = (4+\sqrt{-1})$となる$\mathbb{Z}[x]$のイデアル$I$を見つければ, 上の命題3が適用できそうです。
$I = (4+x)$としたくなりますが, 命題3の仮定を見直すと, $\mathrm{Ker}(\varphi) \subset I$ならば, とあります。これをふまえると, $I=(x+4,\ x^2+1)$とおくのが良さそうですね。
これらのイデアルと$\varphi$に命題3を適用すれば,
$$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]/(4+\sqrt{-1}) \cong \mathbb{Z}[x]/I $$
が得られます。
次に, $\mathbb{F}_{17} = \mathbb{Z}/(17)$であることから, 準同型$\psi: \mathbb{Z}[x] \to \mathbb{Z} $を考えます。$\psi(f) = f(-4)$とすれば, $\psi$は全射準同型, $(x+4) = \mathrm{Ker}(\psi) \subset I$となるので, 上の命題が適用できそうです。
実際, $\psi(I) = (0,\ 17) = (17)$となるので, 命題3より,
$$\mathbb{Z}[x]/I \cong \mathbb{Z}/(17) = \mathbb{F}_{17}$$
となりますね。
以上, 第一段階と第二段階を合わせると,
$$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]/(4+\sqrt{-1}) \cong \mathbb{F}_{17}
$$
が言えました!
次は, $\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$のイデアル$(3+4\sqrt{-1})$を見てみましょう。
先ほどと同じように, $\varphi : \mathbb{Z}[x]\to \mathbb{Z}[\sqrt{-1}],\ \varphi(f) = f(\sqrt{-1})$と定めると, $\varphi$は全射準同型になります。また, $\mathrm{Ker}(\varphi) = (x^2+1)$です。
今度は$I$をどのように定めれば良いでしょうか。$\mathrm{Ker}(\varphi)$を含み, $\varphi(I) = (3+4\sqrt{-1})$となるようにするには, $I = (3+4x,\ x^2+1)$とすれば良さそうですね。命題3より,
$$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]/(3+4\sqrt{-1}) \cong \mathbb{Z}[x]/I$$
が得られます!
次に, 準同型$\psi: \mathbb{Z}[x] \to \mathbb{Z} $を考えます。しかし, $I$が$\mathrm{Ker}(\psi)$を含むような全射準同型はなかなか見つかりません。そこで, $I$が次のようなイデアルを含むことに注目します。
$$(7+x) \subset (3+4x,\ 7+x) \subset (3+4x,\ 4-3x) \subset (3+4x,\ x^2+1) = I$$
すると, $\psi(f) = f(-7)$と定めたくなりますよね!?その通りです。$\mathrm{Ker}(\psi) = (7 + x) \subset I$ですから, このイデアルと$\psi$に命題3を適用しましょう。$\psi(I) = (-25,\ 50) = (25)$ですから,
$$\mathbb{Z}[x]/I \cong \mathbb{Z}/(25)$$
が得られます!
以上, 第一段階と第二段階を合わせると,
$$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]/(3+4\sqrt{-1}) \cong \mathbb{Z}/(25)$$
が言えました!
ここまで読んでいただきありがとうございました。この方法を使えば, $\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$の素元が簡単に判別できますね。ノルムを考えるという方法もありますので, 気になる人は調べてみてください。
誤っている部分があれば, コメントで教えてくださると嬉しいです!