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大学数学基礎解説
文献あり

SL(2,R)の普遍被覆群の構成

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$$\newcommand{aa}[0]{\alpha} \newcommand{ad}[0]{\mathrm{ad}} \newcommand{bb}[0]{\beta} \newcommand{dd}[0]{\delta} \newcommand{DD}[0]{\Delta} \newcommand{ee}[0]{\epsilon} \newcommand{g}[0]{\mathfrak g} \newcommand{GG}[0]{\Gamma} \newcommand{gg}[0]{\gamma} \newcommand{hb}[0]{\hbar} \newcommand{K}[0]{\mathbb K} \newcommand{kk}[0]{\kappa} \newcommand{ll}[0]{\lambda} \newcommand{LL}[0]{\Lambda} \newcommand{oo}[0]{\omega} \newcommand{OO}[0]{\Omega} \newcommand{p}[0]{\partial} \newcommand{q}[1]{\left( #1 \right)} \newcommand{sgn}[0]{\mathrm{sgn}} \newcommand{SS}[0]{\sigma} \newcommand{tt}[0]{\theta} \newcommand{TT}[0]{\Theta} \newcommand{uu}[0]{\upsilon} \newcommand{V}[0]{\mathbb V} \newcommand{ve}[0]{\varepsilon} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} $$

ずいぶんと${SL} (2,\mathbb R)$の普遍被覆群$\widetilde{SL} (2,\mathbb R)$の構成方法に時間を取られてしまったのでまとめておく。詳細は浅井氏の構成(参考文献の論文)を御覧いただきたい。

浅井氏の構成

2-cocycle $W:{SL} (2,\mathbb R)\times{SL} (2,\mathbb R)\rightarrow \mathbb Z$は以下の表によって定められる。
符号関数$\sgn:SL(2,\mathbb R)\rightarrow \{\pm1\}, ~~\sgn(g):=\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} \sgn(g_{2,1})~~~~(g_{2,1}\neq0) \\ \sgn(g_{2,2})~~~~(g_{2,1}=0) \end{array} \right. \end{eqnarray} $

$ \sgn(g_1)$$ \sgn(g_2)$$ \sgn(g_1g_2) $$ W(g_1,g_2) $
11-11
-1-11-1
otherwise0

$W$は2-cocycleである。
つまり任意の$g_1,g_2,g_3 \in SL(2,\mathbb R)$に対し
$ W(g_1,g_2g_3)+W(g_2,g_3)=W(g_1g_2,g_3)+W(g_1,g_2)$

$(g_1,n_1),(g_2,n_2)\in S:= SL(2,\mathbb R)\times\mathbb Z$を台集合として、積を以下のように定める:
$$(g_1,n_1)*(g_2,n_2)=(g_1g_2,n_1+n_2+W(g_1,g_2))$$

普遍被覆群の構成

次の群の同型が成立する。
$\widetilde{SL} (2,\mathbb R)\cong (S,*)$

オリジナルの構成

あかげふのオリジナルの構成。こちらのほうが人工的な場合分けがないので綺麗だと思う。
なんか式が途中ミスってるかもしれないので、一旦保留で(汗)

&&&$$ 偏角$\arg:\mathbb C\rightarrow(-\pi,\pi],~~\lambda:SL(2,\mathbb R)\rightarrow\mathbb C^\times:g\rightarrow g_{1,1}+\sqrt{-1}g_{2,1}$ $(g_1,r_1),(g_2,r_2)\in T:= SL(2,\mathbb R)\times\mathbb R$ 同型写像$\phi:S\rightarrow T:(g,n)\rightarrow (g,2\pi n+\arg\lambda(g)~) $ 2-cocycle$\eta:SL(2,\mathbb R)\times SL(2,\mathbb R)\rightarrow (-\pi,\pi]:(g_1,g_2)\rightarrow\arg(\lambda(g_1)\lambda(g_2)/\lambda(g_1g_2))$ 積$(g_1,r_1)*(g_2,r_2):=(g_1g_2,r_1+r_2-\eta(g_1,g_2)~)$ $\widetilde{SL} (2,\mathbb R)\cong (T,*)$ &&&$$

苦労ばなし

B1のときから、この構成方法をずっと探していた。かなり長時間考えて、恐らくこうだろう、という予想が得られた後に、浅井氏の構成方法に行き着いた。検索スキルが足りず、ずいぶんと時間がかかってしまった。松坂氏のこのモジュラ−結び目に関するpdfのおかげで、構成方法にたどり着くことができた。
http://www.math.twcu.ac.jp/~mathsciknot3/proc/11Matsuzaka.pdf
そもそも、結合律と2-cocycleとの関係性を理解しておらず、普遍被覆群に関する検索をしても、明示的な構成法にたどり着くことができなかった。もともと、
https://mathlog.info/articles/2947
の記事に考察されている、$\widetilde{SL} (2,\mathbb R)$の微分演算子による表現の考察が発端となっていて、積分計算を永遠としているうちに、明示的な積の公式に自力で行き着いた。しかし、自分の表示法では結合法則が成立しているかどうかが、構成法からは自明とは言えず、$\widetilde{SL} (2,\mathbb R)$の構造に疑問が残り続けた。(普遍被覆群の理解も甘かった)。そして、2-cocycleとして検索してみると、ほしい情報にやっと辿り着くことができた。コサイクル条件の証明が難航したため、プログラムを書いて、数値的に検証して、1000万通りのランダム生成の行列のパターンに対して検証したりしていた。
今回、$\widetilde{SL} (2,\mathbb R)$の計算を完全に理解したことで、Generalized Hankel Transformの演算子の結合性は、$\widetilde{SL} (2,\mathbb R)$の表現の像であることと、コサイクル条件から直ちに従う。なので、任意の微分演算子が結合的である、という仮定を用いなくても良くなった。これは量子的な微分積分への布石となると思う。
松坂氏に感謝するとともに、モジュラ−結び目を介して自分の専攻である結び目理論と趣味の微分演算子がつながっていることは偶然ではないと予感しているので、知識を広げていきたい。

参考文献

投稿日:75
更新日:75

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赤げふ
赤げふ
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東工大情報理工B3 数学,理論物理,Minecraft計算機/微分演算子の記事を書きます/主に表現論,量子群,物理の数理に興味があります

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