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テトリス代数の覚書2 ~フラクタル~

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$$\newcommand{big}[1]{\begin{eqnarray}{#1}\end{eqnarray}} \newcommand{br}[1]{\left\lbrace{#1}\right\rbrace} \newcommand{Iff}[0]{\Leftrightarrow} \newcommand{ld}[0]{~{<}{\cdot}~} \newcommand{LL}[0]{\Leftarrow} \newcommand{RR}[0]{\Rightarrow} $$

こんにちはAAGです。
今回はテトリス代数の順序的な性質を取り出した「フラクタル順序」についてのまとめ書きです。主従関係は 前回 と同様です。

動機

前回定義したようにテトリス代数の整除関係は半順序となるが、
特に左$a$倍作用は順序を保つ単射となる。
言い方を変えれば、テトリス代数$T$について、
「任意の元$a\in T$について$a$の上界全体$U_T(a)$$T$と順序同型」
である。
これは順序のみによる命題であり、しかもテトリス代数の性質で、特に順序に関する性質はこれから導けるものが多く見つかった。
すると、逆にこれを満たす順序集合はテトリス代数として表現できるかという疑問が自然と生まれる。
現在これは未解決であるがこれを考えるために生み出された概念や例についてまとめた。

順序集合

※ここでは順序集合といったら半順序集合のこととする。

順序集合の内部

特殊な部分集合

$X$を順序集合とする。
$a,b\in X$に対して、
$[a,b]_X:=\br{x\in X\mid a\leq x\leq b}$
$(a,b)_X:=\br{x\in X\mid a< x< b}$
$[a,b)_X:=\br{x\in X\mid a\leq x< b}$
$(a,b]_X:=\br{x\in X\mid a< x< b}$
$(-\infty,a)_X:=\br{x\in X\mid x< a}$
$(-\infty,a]_X:=\br{x\in X\mid x\leq a}$
$(a,\infty)_X:=\br{x\in X\mid a< x}$
$[a,\infty)_X:=\br{x\in X\mid a\leq x}$
$U_X(a):=\br{x\in X\mid a\leq x}$
(明らかな場合は添え字の$X$は省略する。)

元の関係

順序集合$(X,\leq)$について、
$a\lesseqgtr b:\Iff a\leq b\lor b \leq a$
$a\perp b:\Iff a\not\lesseqgtr b$
$a\ld b:\Iff a\lt b \land\forall x\in X~(a\leq x\leq b\RR x=a\lor x=b)$
 このとき、「$b$$a$の後者」、「$a$$b$の前者」であるという
$\sim$$\br{(a,b)\mid a\ld b}$を含む最小の同値関係とする。
$a\ll b:\Iff a\leq b\land\left(a\nsim b\right)$

証明は省略するが、$\ll$は推移的・狭義反対称的であり、
$a\sim b\ll c\sim d \RR (a\ll d\lor a\perp d)$

特殊な元と構造

順序集合$X$が最小元およびその後者をもつとき、
最小元の後者を(すべて)原子元という。
前者が存在しない元を極限元という。

すべての元が後者をもたない順序集合を稠密な順序集合という。
また、任意の$a,b\in X$について、
$a\ll b\RR \exists c\in X, a\ld c\ll b$
が成り立つとき、$X$後者的であるという。
また、任意の$a,b\in X$について、
$a\ll b\RR \exists c\in X, a\ll c\ld b$
が成り立つとき、$X$前者的であるという。

また、任意の$a,b\in X$について、
$a\leq b\Iff a=b$となるとき$X$離散であるという。

ちなみに、稠密かつ後者的な順序集合は離散である。

順序集合同士の演算

順序集合$X$および$X$で添え字付けられた順序集合の族$\lbrace Y_x\rbrace_{x\in X}$について、
辞書式順序集合$\sum_{x\in X}Y_x$
集合としては$\bigcup_{x\in X}\lbrace x\rbrace\times Y_x$であって
$(x,y)\leq(x',y'):\Iff x< x'\lor (x=x'\land y\leq y')$で定まる順序を入れるものとする。

特に$X$が二元集合であるとき、
$\sum_{x\in \lbrace 0,1\rbrace}Y_x=Y_0+Y_1$のように表す。
また、すべての$Y_x$が(順序集合として)互いに等しいとき、
$\sum_{x\in X}Y=X\times Y$のように表す。

$+,\times$は(同型の違いを除いて)結合的であるから、それぞれのみの結合に関する括弧は省略する。
 また、$+$より$\times$を優先する。

特殊な演算

順序集合$X,Y$およびテトリス代数$T$について、
$[X,Y]_T:=\br{0}\times X+(T\setminus\br{0})\times Y,~(X)_\mathbb{Z}:=\mathbb{Z}\times X$
とする。
ただし、$\mathbb{Z}$は通常の順序が入っているものとし、
$T=\mathbb{N}$のとき添え字は省略する。

全比較順序

順序集合の族$\br{X_i}_{i\in I}$について
その直積$\prod_{i\in I}X_i$
集合としては直積であって、
$(x_i)_{i\in I}\leq (y_i)_{i\in I}:\Iff \forall i\in I,x_i\leq y_i$
とする。
特に$I$が二元集合のとき、
$\prod_{i\in\br{0,1}}X_i=X\times^{\rm f} Y$のように表す。
また、すべての$X_i$が(順序集合として)互いに等しいとき
$\prod_{i\in I}X=X^I$のように表す。

直積に入る順序を全比較順序、直積順序という。

フラクタル順序集合とテトリス

テトリス代数の例について

前回の記事でテトリス代数の例が不足していたのでいくつかの例を挙げる

  1. 順序数$\alpha$に対し$\omega^\alpha$($\omega$は最小の無限順序数)および通常の和
  2. 長い直線$\omega\times [0,1)_\mathbb{R}$
    $(\alpha,x)+(\beta,y)= \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} (\alpha+\beta,x+y)~ {\rm if}~x+y<1\\ (\alpha+\beta+1,x+y-1)~ {\rm if}~x+y\geq 1\\ \end{array} \right. \end{eqnarray}$
    による和(この順序は通常の順序となる)
  3. 左順序群$G$の単位元以上の部分
  4. 自由モノイド
  5. テトリス代数どうしの自由積
  6. テトリス代数の部分モノイド

定義

順序集合$(W,\leq)$が前フラクタル(順序集合)であるとは、
$W$は非空であり、任意の$a,b\in W$について$U(a)$$U(b)$が順序同型であることをいう。
順序集合$(W,\leq)$がフラクタル(順序集合)であるとは、
$W$は非空であり、任意の$a\in W$について$W$$U(a)$が順序同型であることをいう。

前フラクタル$W$において$U(a)$の順序構造は$a$の取り方によらないので、その代表元を$c(W)$のように表す。

名前はその自己同型性からである。
ちなみに、前フラクタル$W$に対し$c(W)$はフラクタルであり、
特に、$W$がフラクタル$\Iff$ $c(W)\cong W$である。
またフラクタルは必ず最小値をもつ。

フラクタルと前フラクタルは、
それぞれ、
有界フラクタル/フラクタル、局所フラクタル/大域フラクタル
などと呼び分けることもある。
この記事では定義7の記法で統一する

前フラクタル
  1. 左順序群
  2. 前フラクタルと離散順序の直積
  3. 前フラクタルの上方集合

(フラクタルの例は後述する)

前フラクタルは離散順序であるか無限個の元を持つ

$a< b$なる元$a,b$があったとする。
順序同型$\phi:U(a)\to U(b)$を一つ固定すると
$a<\phi(a)<\phi^2(a)<\cdots$は無限上昇列であるから、元は無限に存在する$\square$

テトリス代数$T$の(整除)順序はフラクタルである

$a\in T$に対して$T\cong U(a)$を示す
$U(a)=aT:=\br{ax\mid x\in T}$であるが
$b\leq c\Iff \exists x,c=bx$ (定義より)
$\Iff \exists x,ac=abx$ (左簡約性より)
$\Iff ab\leq ac$(定義より)
であるから、$x\mapsto ax$が順序同型を与える$\square$

逆に、フラクタル順序集合$W$に対して、$W$と順序同型になるようなテトリス代数を与えることをテトリス積付け、あるいは単に積付けという。
ここで次の予想が考えられる。

任意のフラクタル代数に対してその積付けが存在するか?
(任意のフラクタル順序集合$W$に対して、$W$と順序同型になるようなテトリス代数が存在するか)

この予想は現時点で未解決であり、この予想を解決することが今のテトリス代数の目標となっている。

積付け可能な例
  1. 順序数$\alpha$に対し$\omega^\alpha$の整除順序は通常の順序と一致する。
    また、整列なフラクタルの同型類はこれに限る。
  2. 最小値を持ち最大値をもたない稠密可算全順序集合

(2)の積付けは演習問題とする(カントールの同型定理を用いる)

積付けが見つかっていない例
  1. $\mathbb{Q}$の有界閉集合全体

  2. $A=\mathbb{Q}_{\geq0},~B=\mathbb{Q}(\sqrt2)_{>0}\setminus\mathbb{Q}$について、
    $A\times\mathbb{N}\cup B\times\mathbb{Z}$$\mathbb{Q}(\sqrt2)\times^{\rm f}\mathbb{Z}$から誘導された順序)

様々な予想

任意のフラクタルがテトリス積付け可能を示すのは現時点で難しいため、弱めた予想がいくつかある。それを紹介する。

  1. 可算全順序後者的フラクタルは積付け可能か。
  2. $T$をテトリス代数、$W$を前フラクタルとするとき
    $[c(W),W]_T$は積付け可能か。
  3. 特に$c(W)$が積付け可能なとき$[c(W),W]_T$は積付け可能か。

ちなみに、全順序フラクタルについて、
「原子元をもつ$\Iff$ある元の後者が存在する$\Iff$後者的」
である。特に右の同値は一般の全順序前フラクタルについて成り立つ。

前フラクタルの階層

この節では順序集合で定義される「階層」および、それに付随する予想を挙げる。

順序集合$W$に対し、べき集合$\mathcal{P}(W)$上の順序$\leq$
$A< B:\Iff \forall a\in A, \forall b\in B,a< b$
により定める。(添え字は省略する)
以降$\br{\mathcal{P}^n(W)}_n$は互いに空とみなし、各$\mathcal{P}^n(W)$の要素は上により帰納的に定まる順序を考えるものとする。

順序数$\alpha$に対し$W_\alpha$を超限帰納法によって以下で定める。
$W_\alpha = \br{F(x,\alpha)\mid x\in W}$
ただし、$F(x,0)=\br{x}$であって、$\alpha>0$に対し
$F(x,\alpha):=\br{y\in W\mid \exists \beta<\alpha, \exists C\in W_\beta/\sim, \br{x,y}\subset \bigcup C}$
とする。

このとき、各$\alpha$に対して$W_\alpha$$W$からの$\alpha$と呼び、
$F(x,\alpha)$$\alpha$同値類と呼ぶことにする。

以下$x$$\sim$についての同値類を$\overline x$で表す。

$\alpha$同値類の単調性

任意の順序数$\alpha,\beta$および$x\in W$について、
$\alpha\leq\beta\RR F(x,\alpha)\subset F(x,\beta)$

$\alpha=0$について、主張は$x\in F(x,\beta)$と同値
$\beta=0$のときは明らか。$\beta>0$について、
$0<\beta,x\in F(x,0)$であるから、
$\overline{F(x,0)}\in W_0/\sim, \br{x,x}\subset\bigcup \overline{F(x,0)}$から$x\in F(x,\beta)$

$\alpha>0$について、
$\exists \beta_0<\alpha, \exists C\in W_{\beta_0}/\sim, \br{x,y}\subset \bigcup C $とすると
$\beta_0<\alpha\leq\beta$から、
$\beta_0<\beta\land \exists C\in W_{\beta_0}/\sim, \br{x,y}\subset \bigcup C $
よって$F(x,\alpha)\subset F(x,\beta)$

異なる$\alpha$同値類が互いに素であること

順序数$\alpha$および$x,y\in W$について、
$F(x,\alpha)\cap F(y,\alpha)\neq \varnothing \RR F(x,\alpha)= F(y,\alpha)$

$\alpha=0$のときは明らか。
$\alpha>0$について示す。
超限帰納法より、$\beta<\alpha$についての成立を仮定しても一般性を失わない。
共通部分の元$z$を一つとる。このとき、
$\beta<\alpha\land (C\in W_{\beta}/\sim)\land \br{x,z}\subset \bigcup C$
$\beta'<\alpha\land (C'\in W_{\beta'}/\sim)\land\br{y,z}\subset \bigcup C'$
となる$\beta,\beta',C,C'$が存在する。
対称性から$\beta\leq\beta'$としても一般性を失わない。
仮定から$C=\overline{F(z,\beta)},C'=\overline{F(z,\beta')}$であり、
$\beta=\beta'$のときは明らかに$x\in\bigcup C=\bigcup C'$
$\beta<\beta'$のとき、
$\beta<\beta'\land (C\in W_\beta/\sim)\land\br{x,z}\subset \bigcup C$であるから、
$x\in F(z,\beta')\subset\bigcup C'$
よって、$\beta'<\alpha\land (C'\in W_{\beta'}/\sim)\land\br{x,y}\subset \bigcup C'$
すなわち$\br{x,y} \subset F(x,\alpha)\cap F(y,\alpha) $

以上より、任意の$w_0\in W$について、
$F(w_0,\alpha)=\br{w\in W\mid F(w,\alpha)\cap F(w_0,\alpha)\neq\varnothing}$であり、
$w\in F(x,\alpha)$
$\Iff F(w,\alpha)\cap F(x,\alpha)\neq\varnothing$
$\Iff x\in F(w,\alpha)$
$\RR F(w,\alpha)\cap F(y,\alpha)\neq\varnothing~(\because x\in F(y,\alpha))$
$\Iff w\in F(y,a)$

よって、$F(x,\alpha)\subset F(y,\alpha)$
逆も同様より$F(x,\alpha)= F(y,\alpha)~\square$

$F(x,\alpha+1)=\bigcup \overline{F(x,\alpha)}$が成り立ち、
順序同型$(W_{\alpha}/\sim)\cong W_{\alpha+1}$が対応$C\mapsto\bigcup C$によって与えられる。

$y\in F(x,\alpha+1)$について、
定義から、ある$\beta<\alpha+1$が存在して$\exists C\in W_\beta/\sim, \br{x,y}\subset \bigcup C$
$\beta=\alpha$のときは明らか。
$\beta<\alpha$とすると$y\in F(x,\alpha)$
よって$F(x,\alpha)$の同値類$\overline{F(x,\alpha)}$$C'$とおくと、
$C'\in W_\alpha/\sim\land\br{x,y}\subset\bigcup C$
したがって、
$F(x,\alpha+1)=\br{y\in W\mid \exists C\in W_\alpha/\sim, \br{x,y}\subset \bigcup C}$
補題5から$x\in W$に対して$x\in \bigcup C$となる$C$$\overline{F(x,\alpha)}$のみであるから、$F(x,\alpha+1)=\bigcup \overline{F(x,\alpha)}$

$W_\alpha/\sim$の元は$\overline{F(x,\alpha)}$と表せるものであるので、写像$C\mapsto\bigcup C$$W_{\alpha+1}$への全射。
また、$C,C'\in W_\alpha/\sim, C\neq C'$に対して
任意の$F(x,\alpha)\in C,F(y,\alpha)\in C'$は互いに素だから
よって$\bigcup C\neq\bigcup C'$つまり写像$C\mapsto \bigcup C$は単射。

$C,C'\in W_\alpha/\sim$に対して$C< C'$したとき、
任意の$x\in \bigcup C,y\in \bigcup C'$について、
$C=\overline{F(x,\alpha)},C'=\overline{F(y,\alpha)}$となり、
$\overline{F(x,\alpha)}<\overline{F(y,\alpha)}$から、
${F(x,\alpha)}\ll {F(y,\alpha)}$、特に$x< y$となる。
よって、$\bigcup C<\bigcup C'$が言えるためこれは順序を保つ。
逆に、$\bigcup C<\bigcup C'$のとき、任意の$x\in \bigcup C,y\in \bigcup C'$について、
$C=\overline{F(x,\alpha)},C'=\overline{F(y,\alpha)}$であって$x< y$
特に、$F(x,\alpha)\subset \bigcup C,F(y,\alpha)\subset \bigcup C'$から$F(x,\alpha)< F(y,\alpha)$
また、$F(x,\alpha)\sim F(y,\beta)$とすると$C=C'$となり、
$\bigcup C<\bigcup C'$に矛盾
よって、$F(x,\alpha)\ll F(y,\alpha)$すなわち$C< C'$

以上より、写像$C\mapsto \bigcup C$は順序同型を与える。

特に、
$F(x,\alpha)=\bigcup_{\beta<\alpha}F(x,\beta+1)$

前フラクタル順序集合$W$および順序数$\alpha$について、$W_\alpha$は前フラクタルである。

(この証明では$U_W(X)$$U(W,X)$と表すことにする。)
$x,y\in W$に対して順序同型$\phi:U(W,x)\to U(W,y)$を1つとる。
このとき、
$F(x,\alpha)< F(z,\alpha)$となる$z$に関して、
$\phi|_{F(z,\alpha)}$$F(\phi(z),\alpha)$への全単射となる」ということを示す。
特に$\phi$の全単射性から、$\phi(F(z,\alpha))\subset F(\phi(z),\alpha)$を示せば十分。

$\alpha=0$の時は明らか。
任意の$\beta<\alpha$について成立すると仮定したとき、

次に、$z'\in F(z,\alpha)$について定義から、
ある$\beta<\alpha$があって$z'\in\bigcup \overline{F(z,\beta)}$
つまり、$z'\in F(z'',\beta)\sim F(z,\beta)$となる$z''$が存在する。

$F(z'',\beta)\subset F(z,\alpha)$
$ \qquad \qquad \qquad \lor $
$F(x,\beta)\subset F(x,\alpha)$
から、

$F(z'',\beta)>F(x,\beta)$
仮定から$\phi(F(z'',\beta))\subset F(\phi(z''),\beta)$
いま、$\br{C\in W_{\beta}\mid F(x,\beta)< C}$から自身への写像$\phi':X\mapsto \phi(X)(=\br{\phi(w)\mid w\in X})$は順序を保つ全単射であるから、後者関係を保つ。
特に$F(z'',\beta)\sim F(z,\beta)$から、$F(\phi(z''),\beta)\sim F(\phi(z),\beta)$
よって、$\phi(z')\in \bigcup \overline{F(\phi(z),\beta)}\subset F(\phi(z),\alpha)$
以上より、$\phi(F(z,\alpha))\subset F(\phi(z),\alpha)$

よって、写像$\psi:U(W_\alpha,F(x,\alpha))\to U(W_\alpha,F(y,\alpha))$
$\psi(X)= \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} F(y,\alpha)~{\rm if}~X=F(x,\alpha) \\ \phi'(X)~{\rm if}~X\geq F(x,\alpha) \end{array} \right. \end{eqnarray} $
とすると、これは順序同型となる。
よって、$W_\alpha$は前フラクタル$\square$

省略するがフラクタルについても同様に成り立つ

順序集合$W$に対して、ある順序数$\alpha$が存在して$W_\alpha$は稠密。

まず、「各$x\in W$について、順序数$\alpha$が存在して任意の$\beta>\alpha$について$F(x,\alpha)=F(x,\beta)$」であることを示す。
ある$x\in W$がこれを満たさないとすると、
任意の順序数$\alpha$に対して、それより大きな$\beta$があって$F(x,\alpha)\subsetneq F(x,\beta)$
ここで、順序数$\lambda$に対して帰納的に$\alpha_\lambda$を以下で定める
$\alpha_\lambda=\min\br{\mu\mid \sup\br{a_\nu}_{\nu<\lambda}<\mu\land F(x,\sup\br{a_\nu}_{\nu<\lambda})\subsetneq F(x,\mu)}$

このとき、$\lambda\to F(x,\alpha_{\lambda+1})\setminus F(x,\alpha_{\lambda})$とおくとこれは単射であり、集合$P(W)$に順序数全体からの単射が存在することになり矛盾する。

よって$x\in W$に対し$\alpha(x)=\min\br{\alpha\mid \forall \beta>\alpha,F(x,\alpha)=F(x,\beta)}$とし、
$\alpha_0 = \sup\br{\alpha(x)\mid x\in W}$とすると、
$\bigcup \overline{F(x,\alpha)}=F(x,\alpha)$すなわち、$\overline{F(x,\alpha)}=\br{F(x,\alpha)}$
となる、つまり任意の元の後者が存在しない。
よってこれは求めていた$\alpha$である。

階層

定理6,7により、任意の前フラクタルは$\alpha$商が稠密になるようなものとして考えることができ、その途中で出てくる順序集合は前フラクタルである。
このため次の定義をする。

階層

順序集合$W$について$\alpha$$W_\alpha$が稠密になるような最小の$\alpha$$W$の階数という。
また、稠密順序集合$X$について、階数が$\alpha$であり、$W_\alpha\cong X$となるような$W$全体を$X$上の$\alpha$階層といい、$|X|=1$のとき単に$\alpha$階層という。
特に、ある$n\in \mathbb{N}$について$n$階層に属するような順序集合全体を有限階層と呼ぶ。

(前)フラクタルに制限する場合は「階層」の前に書く。
e.g. $\alpha$フラクタル階層
~階層(前)フラクタル」の語は「~階層」に属する(前)フラクタルを表す。

以下の予想がある。

  1. 有限階層前フラクタルは$1$(自明な順序集合)および$[-,-],(-)_\mathbb{Z}$(定義5を参照)で表せる。
  2. 有限階層フラクタルはテトリス積付け可能である。

以下に階数の例を挙げる。

  • $\mathbb{N},\mathbb{Z},\mathbb{N}^2$の階数は1
  • $\omega^n$の階数は$n$($n$は有限)
  • $\omega^\omega,\omega^{\omega+1}$の階数は$\omega,\omega+1$
  • $\mathbb{Q},\mathbb{Q}_{\geq 0}$の階数は0
  • $(\mathbb{Z}),[\mathbb{Z},\mathbb{N}],[\mathbb{N},\mathbb{Z}]$の階層は2

テトリスと作用

この章では、テトリスからの「作用」による順序が前フラクタルとなり、それを用いてテトリス代数が構成できることを述べる。

テトリス代数$T$および集合$X$について、写像$f:X\times T\to X$が($T$から$X$への)(フラクタルな)作用であるとは、
$f(f(x,t),u)=f(x,tu)$
$f(x,t)=f(x,u)\RR t=u$
を満たすことをいう。
このとき、$f(x,t)$$x\cdot t$あるいは単に$xt$と表す。

また、作用$f$が誘導する($X$上の)順序$\leq$を、
$x\leq y:\Iff \exists t\in T, y=xt$と定義する。

テトリス代数$T$の上方集合は積により$T$からの作用が存在する。

任意の元が一意的な後者をもつ順序集合は$n$回後者を考えることによって$\mathbb{N}$からの作用を定義できる。
また、この順序集合を$\sim$で割ると単元集合になる場合、作用による順序と一致する。

$\omega^2$から$[\mathbb{Z},\mathbb{N}]$への作用として、
$n<\omega$について$(m_0,m_1)\cdot n=(m_0,m_1+n)$
$n_0,n_1< \omega~(n_0>0)$について$(m_0,m_1)\cdot (n_0\omega+n_1)=(m_0+n_0,n_1)$
と定義できる。

テトリス代数$T$,集合$X$および作用$\cdot:X\times T\to X$について、
作用の誘導する順序はフラクタルである。

$x,y\in X$について写像$\phi:U(x)\to U(y)$$\phi(xt)=yt$とするとこれは順序同型$\square$

以下順序は作用による順序とする。

$T$から$X,Y$への作用および、$X,Y$の上方集合$U,V$であって、
順序同型$f:U\to V$$f(xt)=f(x)t$となるようなものをとる。
($X,Y$は互いに空とする。)
このとき、$X\amalg Y/f$$X\cup Y$
$\br{(x,f(x))\mid x\in U}$を含む最小の同値類で割ったものとすると、
これは$T$からの作用をもち、$X,Y$から埋め込める。

$z$の同値類を$[z]$のように表すことにすると、
$[z]t=[zt]$と定義できる。
($\because z\in X\setminus U\cup Y\setminus V$とすると$[z]=\br{z}$から良い。
$z\in U$とすると$[z]=\br{z,\phi(z)}$だから、
$[zt]=\br{zt,\phi(zt)},[\phi(z)t]=\br{\phi(z)t,\phi^{-1}(\phi(z)t)}$でありこれらは等しい)
そして、$X,Y\to X\amalg Y/f; z\to [z]$は順序単射。

$T,T'$をテトリス代数、$X$に作用$X\times T\to X$が誘導する順序が入るとき、
$[T,X]_{T'}$はテトリス代数積付け可能。

$(s,x),(t,y)\in [T,X]_{T'}$に対して
$(s,x)* (t,y)= \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} (st,y) ~ {\rm if}~ t>0 \\ (st,xy) ~ {\rm if}~ t=0 \end{array} \right. \end{eqnarray} $
と定義すると、これはテトリス代数を定める。

[結合性]
$((s,x)*(t,y))*(u,z)$
$$=\left(\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} (st,y) ~ {\rm if}~ t>0 \\ (st,xy) ~ {\rm if}~ t=0 \end{array} \right. \end{eqnarray}\right)*(u,z)$$
$$ =\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} (stu,z) ~ {\rm if}~ t>0,u>0 \\ (stu,yz) ~ {\rm if}~ t>u=0 \\ (stu,z) ~ {\rm if}~ u>t=0 \\ (stu,xyz) ~ {\rm if}~ u=t=0 \end{array} \right. \end{eqnarray} $$
$(s,x)*((t,y)*(u,z))$
$$=(s,x)*\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} (tu,z) ~ {\rm if}~ u>0 \\ (tu,yz) ~ {\rm if}~ u=0 \end{array} \right. \end{eqnarray}$$
$$ =\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} (stu,z) ~ {\rm if}~ u>0 \\ (stu,yz) ~ {\rm if}~ t>u=0 \\ (stu,xyz) ~ {\rm if}~ u=t=0 \end{array} \right. \end{eqnarray} $$
これらは等しい。
[単位性]
$(0,0)=(0_{T'},0_T)\in \br{0_{T'}}\times T$について
$(s,x)*(0,0)=(s0,x0)=(s,x)$
$(0,0)*(t,y)=(t,y)$
[左簡約性]
$(s,x)*(t,y)=(s,x)*(u,z)$
とする。$st=su$から$t=u$
$t=u=0$のとき、$y=z$
$t=u>0$のとき、$xy=xz$つまり、$y=z$
よって$(t,y)=(u,z)$
[0の既約性]
$(s,x)*(t,y)=(0,0)$とすると、
$st=0$から$s=t=0$
よって、$x,y\in T$であり$xy=0$つまり$x=y=0$

特に$[T,T]_{T'}=T'\times T$はテトリス積付け可能。

フラクタル代数

最後にテトリス代数を拡張した概念である、フラクタル代数について述べる。

左簡約モノイド$(M,*,0)$およびその部分集合$T\subset M$について
$a\leq b:\Iff \exists t\in T, b=at$
となる順序が存在することは、
$T$$M$の部分モノイドであってテトリス代数であることと必要十分。

[必要性]

  • $a=a0$から$a\leq a$
  • $a\leq b\land b\leq a$とすると$b=at\land a=bt'$と表せ、
    $a=att'$から$tt'=0$つまり$t=t'=0$$a=b$
  • $a\leq b\land b\leq c$とすると$b=at\land c=bt'$と表せ、
    $c=att'$から$c\leq a$

[十分性]

  • $0\leq 0$であるから、$t\in T$があって$0=0t$
    よって$0\in T$
  • $t,t'\in T$について$tt'=0$とすると
    $t=0t,0=tt'$から$t=0$よって$t'=0$
  • $t,t'\in T$について
    $t=0t,tt'=tt'$から、ある$u\in T$があって$tt'=0u$
    よって$tt'\in T$
    $\square$

ここで次のように定義する。

左簡約モノイド$(M,*,0)$およびその部分テトリス代数$T$に対して
$(M,*,0,T)$フラクタル代数と呼び、$T$をその正錐という。
フラクタル代数$(M,*,0,T)$の順序を、
$a\leq b:\Iff \exists t\in T, b=at$
により定める。

フラクタル代数間の準同型$f:(M,*,0,T)\to(N,\cdot,0,T')$
モノイド準同型$(M,*,0)\to(N,\cdot,0)$であって$f(T)\subset T'$であるものとする。

フラクタル代数のある元の上界全体はその正錐と同型だからもちろん積付け可能。

フラクタル代数$M$が極限元をもつことは$0$が極限元であることと同値。

$0$に前者$a$が存在するとすると、任意の$m\in M$について$ma\ld m$

フラクタル代数$M$の順序は前フラクタルである。

$a,b\in T$に対して$U(a)\cong U(b)$を示す
$U(a)=aT:=\br{ax\mid x\in T},U(b)=bT$であるが
$ac\leq ad\Iff \exists x\in T,ad=acx$ (定義より)
$\Iff \exists x\in T,d=cx$ (左簡約性より)
$\Iff \exists x\in T,bd=bcx$ (左簡約性より)
$\Iff bc\leq bd$(定義より)
であるから、$ax\mapsto bx$が順序同型を与える$\square$

前フラクタルはフラクタル代数に限らない

フラクタル代数は、$[\mathbb{Z},\mathbb{N}]$と順序同型にならない。

背理法で示す

単位元を$e$とする。
前者を持たない元(例えば$(1,0)$)が存在するので、$e$に前者は存在しない。
しかし、$\br{(0,0)*(0,n)}_{n\in\mathbb{Z}}$はつねに
$(0,0)*(0,n)\ld (0,0)*(0,n+1)$となるから、この像は$\br{0}\times \mathbb{Z}$と等しい
よって$(0,0)*(0,n)=(0,0)$なる$(0,n)$が存在し左簡約性からこれは$e$と等しい。
ところがどっこい$(0,n)$は前者$(0,n-1)$をもち矛盾する。

テトリス代数と同様に、順序集合$X$に対し「その順序が$X$と同型となるようなフラクタル代数$M$」を与えることをフラクタル積付けという。
ちなみに$\mathbb{Z}$のフラクタル積付けは一意。

フラクタル代数とテトリス代数

テトリスとフラクタル

$T$をテトリス代数,$(M,T')$をフラクタル代数とすると、
辞書式順序集合$T\times M$はフラクタル積付け可能。

演算を$(t,m)*(t',m')= \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} (tt',m')~{\rm if}~ t'\neq 0 \\ (tt',mm')~{\rm if}~ t'= 0 \end{array} \right. \end{eqnarray} $
正錐を$T\rtimes_M T':=[T',M]_T$とすると、
これは辞書式順序$T\times M$を誘導する。

フラクタルと可逆

$(M,T),(M',T')$をフラクタル代数とし、$M$は可逆であるとする
辞書式順序集合$M\times M'$はフラクタル積付け可能。

演算を$(m,n)*(m',n')=(mm',nn')$
正錐を(集合として)$T\rtimes_{M} T':=[T',M']_T$とすると、
これは辞書式順序$T\times M$を誘導する。

おわりに

一般のフラクタルに積付けが可能かどうかは、
残念ながら今回は判明しませんでした。いかがでしたか?
感想、指摘、質問などのコメント、ぜひお願いします!

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更新日:30日前
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AAG
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キャベツです。 抽象代数学とか好きなB1。気分屋です。 厳密にテキトーにやってます。 基本検算しません。 間違いがあったら容赦なく指摘してください。

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