前回の記事[1]と同じ記号・用語を用いる.
$S$を$0$を持つ半群とする.
$S$が$0$-admissible orderを持つとき,$S$は$\ReesJ$-trivialである.
$\le$を$S$上の$0$-admissible orderとする.一般に$0$の$\ReesJ$類は$\setex0$である.$x,y\in S\setminus\setex0$については$x\sqsubseteq y$, $x\sqsupseteq y$$\Rightarrow$$x\le y$, $x\ge y$$\Rightarrow$$x=y$となる.従って$S$は$\ReesJ$-trivialである.
$S$がNoetherianであるとき,$S$上の$0$-admissible orderは整列順序である.とくに,$S$がprincipalであれば,$S$上の$0$-admissible orderとして可能なものは$\sqsubseteq$のみである.
$\le$を$S$上の$0$-admissible orderとし,任意の空でない部分集合$A\subset S\setminus\setex0$をとる.[1, 命題10]により,有限部分集合$A_0\subset A$があって$\idealgen A_0=\idealgen A$が成り立つ.$a_0:=\min_\le A_0$とおく.$a_0$は$A$においても最小である.実際,任意の$a\in A$に対し,$a\in\idealgen A_0$であるから,$a\sqsupseteq x$なる$x\in A_0$が存在する.よって$0$-admissible order の定義(i)から$a\ge x\ge a_0$である.従って$\ge$は整列順序である.
$\emptyset\neq I\subset S$をイデアルとする.$S$上の$0$-admissible orderは$S/I$上の$0$-admissible orderを導く.
$\le$を$S$上の$0$-admissible orderとする.$[\cdot]\colon S\to S/I$を自然な準同型とする.$(S/I)\setminus\setex0$の全順序$\le'$を$x,y\in S\setminus I$に対し$[x]\le'[y]$$\iff$$x\le y$で定めればよい.
$k$を体とし,$S$を$0$を持つ半群とする.$\setin{\rho_x}{x\in S\setminus\setex0}$が生成する$k$上の自由ベクトル空間に,積を$\rho_x\rho_y:=\rho_{xy}$の線形拡張として定めることで,結合的$k$代数$k[S]$を得る.ただし$xy=0$のときは$\rho_x\rho_y=0$とする.$k[S]$を$S$上$k$係数の半群環という.便宜上$\rho_0=0$と定める.
$0$を持たない半群$S$については,その$0$添加$S^0$上の半群環を以て$S$上の半群環を定め,同じ記号$k[S]:=k[S^0]$で表す.
$S$が単位元を持つとき(モノイドであるとき),$k[S]$は単位的である.$S$が単位元を持たない場合,$k[S]$は単位的である場合も単位的でない場合もある.
以下では$S$は$0$を持つ半群とする.
$k[S]$の元$f$は定義から
\begin{equation}
f=\sum_{\substack{x\in S\setminus\setex0\\\text{有限和}}}c_f(x)\rho_x,\quad c_f(x)\in k^\times
\end{equation}
と書ける.右辺に現れる$x$全体の集合を$f$の台といい,$\supp f$で表す.$\supp f\subset S\setminus\setex0$は有限集合である.
$|\supp f|\le1$なる$f\in k[S]$を単項式という.単項式で生成される$k[S]$のイデアルを単項式イデアルという.
部分集合$\mathfrak{a}\subset k[S]$に対し,$\supp\mathfrak{a}:=\bigcup_{f\in\mathfrak{a}}\supp f$とおく.
$0\neq\mathfrak{a}\subset k[S]$をイデアルとする.このとき$\mathfrak{a}$が単項式イデアルであることと,任意の$x\in\supp\mathfrak{a}$について$\rho_x\in\mathfrak{a}$であることとは同値である.
証明から,次の命題が従う.
$\mathfrak{a}\subset k[S]$を単項式イデアルとする.
$S$の空でないイデアルと$k[S]$の単項式イデアルは1対1に対応する.
$S$の空でないイデアル全体の集合を$\Phi$, $k[S]$の単項式イデアル全体の集合を$\Psi$で表す.$F\colon \Phi\to\Psi$を$F(I):=(\rho_x\mid x\in I)$, $G\colon \Psi\to\Phi$を$G(\mathfrak{a}):=\setex0\cup\supp\mathfrak{a}$で定め,$F,G$が互いに逆になっていることを示す.補題5により;
系として次を得る.
$S$がNoetherianであることと,$k[S]$の任意の単項式イデアルが有限生成であることとは同値である.
[1, 命題10]とあわせて次を得る.
$S$はNoetherianであるとする.このとき$k[S]$の任意の単項式イデアル$\mathfrak{a}=(h_\lambda\mid\lambda\in\Lambda)$, $h_\lambda$は単項式,に対し,有限部分集合$\Lambda_0\subset\Lambda$があって,$\mathfrak{a}=(h_\lambda\mid\lambda\in\Lambda_0)$が成り立つ.
この節では$S$は$0$を持つ半群とする.また$S$は$0$-admissible orderを持つとし,その一つ$\le$を固定する.
任意の$0\neq f\in k[S]$に対し,$\supp f$は空でない有限集合であるから,$\le$に関して最大元を持つ.これを$\tip f$で表す.
$k[S]$のイデアル$\mathfrak{a}\neq0$に対し,単項式イデアル
\begin{equation}
\tip\mathfrak{a}:=(\rho_{\tip f}\mid f\in\mathfrak{a}\setminus\setex0)
\end{equation}
を定める.
$\mathfrak{a}\neq0$を$k[S]$のイデアルとする.有限部分集合$G\subset\mathfrak{a}\setminus\setex0$が
\begin{equation}
(\rho_{\tip g}\mid g\in G)=\tip\mathfrak{a}
\end{equation}
をみたすとき,$G$を$\mathfrak{a}$のグレブナー基底という.
命題8から次が直ちに従う.
$S$がNoetherianであれば,$k[S]$の任意の$0$でないイデアルはグレブナー基底を持つ.
$\mathfrak{a}\neq0$を$k[S]$のイデアル,$G\subset\mathfrak{a}\setminus\setex0$を有限部分集合とする.このとき$G$が$\mathfrak{a}$のグレブナー基底であることと,任意の$0\neq f\in\mathfrak{a}$に対して$\tip g\sqsubseteq \tip f$なる$g\in G$が存在することとは同値である.
後者は$\idealgen\setin{\tip g}{g\in G}\supset\idealgen\setin{\tip f}{0\neq f\in\mathfrak{a}}$を意味する.逆向きの包含は$G\subset\mathfrak{a}\setminus\setex0$から自動的に従うから,これは$\idealgen\setin{\tip g}{g\in G}=\idealgen\setin{\tip f}{0\neq f\in\mathfrak{a}}$と同値である.よって主張は補題5から従う.
$S$はNoetherianとし,$\mathfrak{a}\neq0$を$k[S]$のイデアル,$G\subset\mathfrak{a}\setminus\setex0$を$\mathfrak{a}$のグレブナー基底とする.このとき$\mathfrak{a}=(G)$である.とくに,$k[S]$はNoetherianである.
背理法による.$\mathfrak{b}:=(G)\subsetneq\mathfrak{a}$と仮定する.命題2により$\le$は整列順序であるから,$x_0:=\min_\le\setin{\tip f}{f\in\mathfrak{a}\setminus\mathfrak{b}}$が存在する.$\tip f=x_0$なるモニック($\tip f$の係数が$1$)な元$f\in\mathfrak{a}\setminus\mathfrak{b}$をとっておく.補題10により,モニックな元$g\in\mathfrak{b}$で,$\tip g\sqsubseteq\tip f$をみたすものが存在する; ${}^\exists p,q\in S^1$ s.t. $\tip f=p\cdot\tip g\cdot q$. $0$-admissible orderの定義(ii)から,$p\cdot\tip g\cdot q=\tip(\rho_p\cdot g\cdot\rho_q)$が成り立つ.そこで,$h=f-\rho_p\cdot g\cdot\rho_q$とおけば,$h\in\mathfrak{a}\setminus\mathfrak{b}$であり,$\tip h<\tip f$である.これは$\tip f$の最小性に矛盾する.従って$\mathfrak{a}=(G)$である.