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大学数学基礎解説
文献あり

「直積」の何たるか #2

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 やぁやぁ皆さん.陽袮 柊です.
  前回の記事 にて「直積」という名を冠する数学的な対象はどれも似たような普遍性を持つことを見ました.今回は,この「直積」という概念を統一します.直積集合も,直積位相空間も,直積ベクトル空間も,そのすべてが一般的な「直積」という概念の特別な場合であることをご紹介しましょう.
 なお,この記事でももちろん0Nとします.0は自然数なんです.

準備

 この記事では,一般的な「直積」を定義するために圏論の言葉を使います.なので,必要最低限の知識として,いくつかの用語の定義を与えておきましょう.

圏の定義

 まずは,圏そのものの定義です.

 Cが次の3つ:

  • 対象 (object) とよばれるものの集まりObC
  • (morphism) とよばれるものの集まりMorC
  • 合成則 (composition law) とよばれる対応

の組(ObC,MorC,)であり,次の3条件:

  • Cの任意の射fに対して,そのドメイン (domain) とよばれるCの対象Xと,コドメイン (codomain) とよばれるCの対象Yとがそれぞれただ1つずつ存在する;このことをf:XYと表す.また,domf:=X, codf:=Yとする.
  • Cの任意の対象Xに対して,それ上の恒等射 (identity morphism)とよばれるCの射idX:XXが存在する.
  • Cの各射f:XY, g:YZに,それらの合成射 (composite morphism) とよばれるCの射gf:XZが1つずつ対応する;Cの射f,gが合成可能 (composable) であるとは,codf=domgとなることをいう.

をみたしていて,次の2つの公理:

  • 合成可能なCの任意の射f,g,hについて,h(gf)=(hg)fが成り立つ.
  • Cの任意の射f:XYについて,fidX=f=idYf が成り立つ.

をみたすとき,C (category) という.

対象・射の「集まり」

 圏を定義する際の対象・射たちはとある「集まり」だと話を濁していますが,次にあげる圏の例からも分かるように,これらとして,集合よりも真に大きな集まり,つまり,真クラスを考えたいという場合は幾度となく出てきます.しかし,真クラスに対して素朴集合論的な操作を施してしまうと簡単に矛盾が出てきてしまいます.
 この問題を回避する主な方法として,真クラスをも扱うことのできる公理を設定した集合論を基礎とするものと,そもそも現実的に考える数学的対象は集合の範囲で収まっているはずなのだから,そういったものたちを含んでいる十分に大きな集合(これをGrothendieck宇宙といいます)の存在を仮定して,その中でのみ議論を行うというものとがあります.圏論の研究者であるEmily Riehl氏によれば,これらの話はとても魅惑的なものらしいのですが,こんなことまで考えているとこの記事の本題から逸れに逸れまくりますし,そもそも私がこのあたりの話について詳しくないので,ここは濁したままで先に進むことにします.

 いくつか圏の例を見てみましょう.

集合と写像との圏Set

 大方の予想どおり,対象を集合,射を写像,合成則を写像の合成とし,射のドメイン・コドメインをそれぞれ写像の始域・終域,恒等射を恒等写像とすると,これは明らかに圏になります.この圏はよくSetと表されます.

位相空間と連続写像との圏Top

 対象を位相空間,射を連続写像,合成則を写像の合成とし,射のドメイン・コドメインをそれぞれ写像の始域・終域,恒等射を恒等写像とすると,連続写像の合成はふたたび連続写像なので,これは圏になります.この圏はよくTopと表されます.
 また,位相空間を基点付き位相空間に,連続写像を基点を保つ連続写像に取りかえると,これらも圏をなします.これはふつうTopと表されます.

K上のベクトル空間と線型写像との圏VectK

 Kを体とし,対象をKベクトル空間,射をK線形写像,合成則を写像の合成とし,射のドメイン・コドメインをそれぞれ写像の始域・終域,恒等射を恒等写像とすると,K線型写像の合成はふたたびK線型写像なので,これは圏になります.この圏はふつうVectKと表されます.
 また,Kを環Rに取り換えてできる左R加群とその準同型とも圏をなします.これはふつうR-ModRModと表されます.右R加群ならMod-R, ModRといった具合です.

群・環・体と準同型写像との圏GrpRingField

 VectKと同様に,群と群準同型,(結合的かつ単位的な)環と環準同型,体と体準同型とは圏をなします.これらはよくGrpRing, Fieldと表されます.
 また,群をAbel群に,環を可換環に取りかえたものも当然圏をなします.これらはふつうAb, CRingと表されます.

 ここまでの例は「まぁ,集合と写像とが圏をなすんだからそりゃそうだろう」というものばかりでした.もう少しSetっぽくない圏の例も挙げておきます.

順序集合は圏をなす

 (P,)を順序集合とします(前順序でも半順序でも全順序でもよいです).そこで,Pの元を対象とし,各対象x, yについて,射xyが存在することをxyであることとして定め,射xyは存在するなら1つだけとすると,(P,)は1つの圏と見なせます.確認してみましょう.
 まず,(P,)の射xy, yzがあったときに,これらの合成射xzが存在しなければなりませんが,これはたしかに存在します.なぜなら,xy, yzxy, yzと同値で,順序関係は推移的なので,xzが成り立ちます.ですから,射xzがあります.この合成則が結合的なのは大丈夫だと思います.
 また,(P,)の各対象xに対して,その恒等射idx:xxが存在しなければなりませんが,順序関係は反射的でもあったので,xxが成り立ちます.なので,idxはたしかに存在します.これが単位的な射であることもよいでしょう.

群は圏をなす

 (G,)を群とします(モノイドでもよいです).そこで,何かしらの1つのものを対象とし,gGたちを射g:として,2つの射g,h:の合成射gh:g,hの積ghとすることにより,(G,)は1つの圏Gをなします.これも確認してみましょう.
 まず,Gの任意の射g,h,k:について(gh)k=g(hk)が成り立たなければなりませんが,これは(gh)k=g(hk)を意味しており,群の演算は結合的なので問題ありません.
 そして,射の合成について単位的である恒等射id:が存在しなければなりません.つまり,idGの任意の射g:についてgid=idg=gとならなければなりませんが,これは,任意のgGについてgid=idg=gとなることを意味しており,この条件は(G,)の単位元eのみがみたします.よって,ideとして存在するのです.

 また,圏があると,その双対的な圏を考えられます.

反対圏

 Cを圏とする.このとき,C反対圏 (opposite category) Copが次のように構成される:

  • Copの対象は,Cと同じ対象.
  • Copの射fop:XYは,Cの射f:YX
  • Copの射fop:XY, gop:YZの合成射gopfop:XZは,Cの射g:ZY, f:YXの合成射fg:ZX,つまり,gopfop:=(fg)op.ここで,区別のために,Cの合成則をCopの合成則をとした.

 つまり,すべての射の向きを形式的に反対にして得られる圏が反対圏です.あくまでも形式的であることに注意をしてください.たとえば,Xを空でない集合とするとき,Setの射としてXはただ1つ存在しますが,Xは存在しません.しかし,SetopにおいてはX(X)opとして存在します.

同型射

 前回の記事で「本質的に同じである」という意味の集合の「同型」という概念を,全単射が存在することとして導入しました.この概念は,むしろ集合論以外でよく耳にすると思います.位相空間の同型(位相同型,同相),ベクトル空間の同型(線型同型),群・環・体の同型などなど.これらは,じつは「特別な射が間に存在する」という形で,一般的に定義されます.

同型

 Cを圏,X, YCの対象とする.このとき,X, Y同型 (isomorphic) であるとは,gf=idXかつfg=idYとなるCの射f:XY, g:YXが存在することをいい,このことをXYと表す.そして,この射f, g同型射 (isomorphism) といい,gfの,fg逆射 (inverse) といって,f1:=g, g1:=fとする.

Setの同型射

 Setにおける同型射は,gffgも恒等写像になるような写像f, gのことですが,これは,gfの(fgの)逆写像であるということで,つまり,全単射が同型射になります.

VectKなどの同型射

 VectKにおける同型射は,gffgも恒等写像になるような線型写像f, gのことですが,これは結局,線形全単射のことと同値です.GrpRingFieldなどにおいても,全単射準同型であることが同型射であることと同値になります.

Topの同型射

 Topにおける同型射は,gffgも恒等写像になるような連続写像f, gのことで,これは連続全単射と同値なものではありません.

順序集合がなす圏の同型射

 (P,)を順序集合とし,これを圏をと見なします.そして,Pの2つの射xyが存在したとしましょう.このとき,これらの合成射xx, yyが考えられますが,これらはそれぞれidx, idyなので,xyは同型射になります.つまり,xyかつyxのときにPにおいてxyとなるのです.
 とくに,が半順序関係のときは,xyかつyxならx=yなので,xyx=yのことになります.

群がなす圏の同型射

 (G,)を群とし,これがなす圏をGとします.このとき,Gの2つの射g,h:に対して合成射gh,hg:が考えられます.これらがid=eになるということは,(G,)においてgh=hg=eとなるということなので,圏Gにおけるgの逆射g1は,群(G,)におけるgの逆元g1のことです.群は任意の元が逆元をもつので,群がなす圏における射はすべてが同型射になります.

「直積」の統一的定義

 では,いよいよ本題です.まずは,集合・位相空間・ベクトル空間の直積の持つ普遍性を思い出しましょう.
 2つの数学的対象X, Yの直積X×Yを考える際には,それ単体ではなく,それが他のものたちとどう関係しあっているのかをはかるために,適当な数学的な繋がりもあわせて考えるのでした.集合たちの場合であればそれは写像で,位相空間たちの場合なら連続写像といった具合です.そして,X×Yが直積のもととなるX, Yと関係していないと話にならないので,下の図のような繋がりp:X×YX, q:X×YYを考えます.

X×YpqXY

 ここで,上の図はなんだか上部がとんがっている錐のように見えるので,この図を構成している(X×Y,(p,q))のことを錐とよび,X×Yをその頂点,(p,q)をその脚とよぶのでした.
 さて,X, Yと繋がりを持っているものはX×Yの他にもあるかもしれません.様々な場合が考えられますが,とくに,上の図と同じような繋がりを持っている数学的対象Aと,その繋がりf:AX, g:AY,つまり,錐(A,(f,g))について見てみましょう.

AfgXY

 X×Yは,上の図のような繋がりをもつ数学的対象の中でも特別なものなはずです.特別だから名前がついているのです.では,どのように特別なのか.集合たちの話から得られた帰結は,(X×Y,(p,q))が「どんな錐(A,(f,g))に対しても,下の図が可換になる,つまり,pu=f, qu=gが成り立つ繋がりu:AX×Yが必ず1つずつ存在する」という普遍性を持つというものでした.

AfguX×YpqXY

 ここまでの一般論で登場したものは,数学的対象とそれらの間の繋がりだけです.それらが具体的にどんな構造を持っているかとか,繋がりとはいったい何なのかとかは関係ないのです.とにかく大事なのは「直積とは,2つの数学的対象の上の錐の中でも普遍性をもっているような特別なもののことだ」という解釈です.そして,これはすぐに圏論のレベルまで一般化することができます.

圏論における2つの対象の積

 Cを圏,X, YCの対象とする.このとき,Cの対象ACの射f:AX, g:AYのペア(f,g)との組(A,(f,g))のことをX, Y上の (cone) といい,Aをその頂点 (summit),(f,g)をその (legs) とよぶ.
 そして,X, Y上の錐(L,(p,q))が次の普遍性:

  • X, Y上の任意の錐(A,(f,g))に対して,pu=f, qu=gが成り立つCの射u:ALがただ1つ存在する

をみたすとき,(L,(p,q))X, Y (product) とよび,LX×Yと表す.そして,(p,q)射影 (projections) とよぶ.

Afg!uX×YpqXY

 ここで,すごく慎重にこの一連の記事を読んでくださっている方々の中には「おいおい,はじめはこの普遍性って同型であることの必要十分条件として定めていたのに,いつの間にか話がすりかわっていないか!?」となっている方もいらっしゃるかもしれません.安心してください.必要十分条件であることには変わりありません.前回の記事をよく読み返してくだされば分かるのですが,じつは,普遍性が同型であることの必要十分条件を与えることの前回の証明は,集合の元の細かな対応を見るような集合論的な証明ではまったくなく,合成と,写像の存在・一意性としか使っていない,きわめて圏論的なものになっています.ですから,まったく同じ手順を踏むことによって問題は解決されるわけです.とくに,積の頂点Lは同型を除いて一意であると分かりますから,LX×Yという1つの記号で表しても問題ありません.

Setにおける積

 Setの対象X, Yの上の定義の意味での積の1つは,直積集合X×Yと,射影prX, prYのペア(prX,prY)との組(X×Y,(prX,prY))です.頂点X×Y単体ではなく,これとX, Yとを繋げる脚(prX,prY)もあわせて考えるのです.
 なお,普遍性をもつ錐はみな積なので,Y×XX×Y×{0}なども,適当な脚を考えればきちんと積になります.

Topにおける積

 Topの対象(X,OX), (Y,OY)の上の定義の意味での積の1つは,直積位相空間(X×Y,O)(prX,prY)との組((X×Y,O),(prX,prY))になります.そもそも,直積位相は脚(prX,prY)をもとに構成されていたので,頂点(X×Y,O)だけではなく,脚も明示的に表したものを「積」とよぶほうが自然で親切な気さえするのは私だけでしょうか.

VectKにおける積

 VectKの対象(V,+V,V), (W,+W,W)の上の定義の意味での積の1つは,直積ベクトル空間(V×W,+,)(prX,prY)との組((V×W,+,),(prX,prY))になります.
 Grp, Ringなどにおいても同様です.

 このように,前回の記事で考えた3種の直積は,たった1つの概念の具体例となるのです.
 また,一般的に積を定めたことにより,他のいくつかの概念も「積」として統一されることになります.

順序集合のなす圏における積

 (P,)を順序集合とし,これを圏と見なします.圏(P,)の対象x,yの積とはいったいどんなものになるのでしょうか.まず,その積の頂点x×yが存在したとすると,その錐の脚は(x×yx,x×yy)となるわけで,これはx×yxかつx×yyと同値です.また,直積は普遍性をもっていたので,他の錐(a,(ax,ay))に対して,射ax×yが存在するわけですが,これはaxかつayならばax×yと同値です.つまり,x×yは,x, y以下であるPの元の中で最大なものとなり,これはinf{x,y}のことですね.これは順序集合(P,)におけるx, y交わり (meet) ともよばれます.

ax×yxy

 具体例として,Sを集合とし,その冪集合P(S)に包含関係で順序を入れた(P(S),)を考えてみましょう.このとき,この順序集合がなす圏における対象X, Yの交わりは,集合XYになります.この記号をまねて,先の交わりinf{x,y}はよくxyと表されます.
 ちなみに,解析学の本などで,2つの関数f,g:RRに対して,関数fg:RR(fg)(x):=min{f(x),g(x)}xR)により定めるということを見たことがあるかもしれませんが,この記法は上で述べたことに由来しています.
 もう1つの順序集合の例として,Nの元x, yについて「xyを割りきる」ということをxyで表して,この整除関係Nに入れた順序集合(N,)について考えてみます.この順序集合におけるx, yの交わりxyは,x, yを割りきるものの中で最大のものなので,最大公約数gcd(x,y)になります.

 また,圏論的な積は,対象が2つよりもたくさんあっても同様に定義できます.

圏論における積

 Cを圏,Λを集合,(Xλ)λΛΛを添字集合とするCの対象の族とする.このとき,Cの対象Aと,Λを添字集合とするCの射の族f=(fλ:AXλ)λΛとの組(A,f)のことを(Xλ)λΛ上のといい,Aをその頂点fをそのとよぶ.
 そして,(Xλ)λΛ上の錐(L,p=(pλ:LXλ)λΛ)が次の普遍性:

  • (Xλ)λΛ上の任意の錐(A,(fλ:AXλ)λΛ)に対して,各λΛについてpλu=fλが成り立つCの射u:ALがただ1つ存在する

をみたすとき,(L,p)(Xλ)λΛとよび,LλΛXλと表す.そして,p射影とよぶ.

Afλ!uλΛXλpλXλ

 Set, Top, VectKなどにおける定義5の意味での積はご想像のとおりです.順序集合(P,)のなす圏における対象の族(xλ)λΛの今の意味での積はまた交わりとよばれ,その頂点infλΛxλλΛxλと表されます.

空族の積

 ここで,極端な場合を1つ考えてみましょう.Λ=の場合です.圏Cにおいて,その対象の空族(Xλ)λがただ1つ存在するので,その積(L,(pλ:LXλ)λ)について考えてみます.
 まず,これは定義5で述べた普遍性を有していますから,(Xλ)λ上の任意の錐(A,(fλ:AXλ)λ)に対して,各λについてpλu=fλが成り立つCの射u:ALがただ1つ存在します.ここでのuの条件
λ(λpλu=fλ)
は「λ」が常に偽なので,全体としては常に真になります.この含意命題は,どんな脚を考えていても真になってしまいますから,もはや情報としては無いに等しいです.
 さらにいえば,先の(A,(fλ)λ)の脚(fλ)λは空族なので,存在はしていますが,意味はもっていません.
 以上で述べた意味の無い部分をすべて削ぎ落とすと,(Xλ)λの積とは,次の普遍性をみたすようなCの対象Lのこととなります:

  • Cの任意の対象Aに対して,Cの射u:ALがただ1つ存在する.

 このLC終対象 (terminal object) とよばれ「a0=1」のような数の計算と同様に「無の積をとる」という意味でよく1と表されます.

Setの終対象

 Setの終対象1は1元集合{}のことです.実際,任意の集合Aに対して,写像A{}aという対応をとるもののみが存在します.この意味でも,終対象を1と表すことは気持ちが良いですね.(実際は,終対象の概念自体は積を持ち出さなくても定義できるので「1元集合がSetの終対象になるから1と表す」という説明のほうが妥当です.)
 Top, VectKなどにおいても同様です.

順序集合のなす圏の終対象

 (P,)を順序集合とし,これを圏と見なして,その終対象1について考えてみます.定義から,任意の対象xに対して射x1が(ただ1つ)存在するわけですが,これはつまり,任意のxPについてx1が成り立つということなので,1は順序集合(P,)の最大元maxPになります.最大元は英語だとtopと表されることもあるので,その頭文字tをまねて,maxPと表されることもあります.
 具体例として,Sを集合とし,その冪集合P(S)に包含関係で順序を入れた(P(S),)では,=Sです.
 また,Nに整除関係で順序を入れた(N,)でのは,すべての自然数に割りきられる自然数のことなので,0となります.終対象を1と表す記法を使うと「1=0」となりますね.

積の双対となるものは何か?

 積が統一的に定義されました.大変喜ばしいですね.祝杯でも挙げたいところですが,もう少し深堀してみます.定義2でも話したとおり,圏論では「射の向きをすべて反対にする」という操作により,元の圏Cの双対となる反対圏Copというものが考えられるのでした.なので,Copでの積を考えて,それをCに戻したものを考えてみましょう.

Afopgop!uopACiopjopopC!uXYXifYjg

 上の図は,左がCopでのX, Yの積(C,(iop,jop))の図で,右がCでの図です.
 このように,反対圏を介することにより,元の圏において,既存の概念の双対にあたる新たな概念が考察の対象に挙がります.今回の場合は積の双対なので,(C,(i,j))X, Y余積 (coproduct) とよばれます.ちなみに,「余 (co-)」という接頭辞がついている数学の用語の多くは,ついていないものの双対であることが多いです.「domain」と「codomain」とや,「sin (sine)」と「cos (cosine)」となどが例です.
 さて,余積という新たな概念が誕生しましたが,これは具体的な圏においてどんなものにあたるでしょうか?例えば,ここまで中心的に考えてきたSetTopVectKや,順序集合のなす圏では,どんなものが余積の普遍性をみたすのでしょうか?これも面白い話題ですが,区切りが良いので,この考察は次回の記事までの宿題にしようと思います.興味のある方はぜひ考えてみてください.

 ここまでご覧くださりありがとうございました!

参考文献

[1]
Tom Leinster, ベーシック圏論 普遍性からの速習コース, 丸善出版, 2014
[2]
Emily Riehl, Category Theory in Context, Dover Publications, 2016
投稿日:20241214
更新日:14
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投稿者

「マスター、数学を少々」

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  1. 準備
  2. 圏の定義
  3. 同型射
  4. 「直積」の統一的定義
  5. 空族の積
  6. 積の双対となるものは何か?
  7. 参考文献