3
大学数学基礎解説
文献あり

ラマヌジャンの素数公式

1433
0

はじめに

 この記事ではラマヌジャンの発見した素数公式
π(x)2πn=1(1)n12n(2n1)B2n(logx2π)2n1
について解説していきます。

補題1

logx=01tx11logtdt

logx=1xduu =1x01tu1dtdu=01tx11logtdt

γ=01(1t+1logt)dt

γ=limN(n=1N1nlogN)=limN(n=1N01(1t)n1dt01tN11logtdt)=01(1t+1logt)dt

li(x)=γ+log|logx|+n=1(logx)nnn!

li(x)=γ01dtt+1xdtlogt=γ01dtt+0logxduu+0logxeu1udu(t=eu)=γ+[logu]1logx+[n=1un1n!]0logx=γ+log|logx|+n=1(logx)nnn!
(少しアヤしい変形をしているが簡単に正当化できる)

補題2

n=1μ(n)n=0,n=1μ(n)lognn=1
が成り立つ。ただしμ(n)はメビウス関数とした。

 メビウス関数は乗法的関数なので
n=1μ(n)ns=p:primek=0μ(pk)pks=p:prime(1ps)=1ζ(s)
が成り立つ。したがって
n=1μ(n)n=lims11ζ(s)=0n=1μ(n)lognn=lims11(s1)ζ(s)=1
を得る。

 素数計数関数π(x)
R(x)=n=1μ(n)nli(x1n)
によってよく近似される。特に
limxπ(x)R(x)=1
が成り立つ。

  リーマンの素数公式
π(x)=n=1μ(n)n(li(x1n)ρli(xρn)+x1ndtt(t21)logtlog2)
と素数定理より従う。

証明

G(x)=2πn=1(1)n12n(2n1)B2n(logx2π)2n1
とおいたとき
G(x)=R(x)R(x1)
が成り立つ。ただしB2nはベルヌーイ数とした。

 上の補題より
R(x)=n=1μ(n)n(γ+log|logx|logn+k=11kk!(logxn)k)=1+k=1(logx)kkk!n=1μ(n)nk+1=1+k=1(logx)kkk!ζ(k+1)
が成り立つので、ゼータ関数の特殊値
ζ(2n)=(1)n1(2π)2nB2n2(2n)!
に注意すると
R(x)R(x1)=2n=1(logx)2n1(2n1)(2n1)!ζ(2n)=2πn=1(1)n12n(2n1)B2n(logx2π)2n1
を得る。

ラマヌジャンの素数公式

 π(x)G(x)によってよく近似される。特に
limxπ(x)G(x)=1
が成り立つ。

 上の補題よりR(x1)0(x)を示せば十分である。
 いま
gn=k=1nμ(k)k
とおくと部分和分により
R(x1)=n=1(gngn1)li(x1/n)=n=1gn(li(x1/n)li(x1/(n+1)))=n=1gn1/(n+1)1/nxuudu(t=xu)
が成り立つ。また
01/(n+1)1/nxuudu(1n1n+1)11n+1=1n
と評価できること、およびgn=O(1/(logn)2)という評価が知られていることを用いると上の級数は絶対一様収束することがわかる。したがって
limxR(x1)=n=1gn(limx1/(n+1)1/nxuudu)=0
を得る。

余談

 ラマヌジャンはハーディに初めて送った手紙の中で次のようなことを述べている。

 xより小さい素数の総数を‘正確’に表す関数を発見しました. ‘正確に’というのは, xが無限大になってもこの関数と実際の素数の総数の差が0となるかごく小さい値となるという意味です.
 この関数が無限級数の形で表せること, さらにその表し方が2通りあることがわかりました.
(1) ベルヌーイ数による表し方. この表し方により, 108までの素数の総数を, 誤差が全くないかもしくはあったとしても1または2の範囲で容易に求めることができます. (←さらっとヤバいこと言ってない?)
(2) 積分による表し方. この表し方から, この関数の値を全て計算できます.

 ラマヌジャンからの手紙に感銘を受けたハーディは返信を書くとともにその手紙の内容を知り合いの数学者たちに共有しており、ハーディの同僚であるリトルウッドもその一人であった。
 リトルウッドはラマヌジャンの研究に興味を持っていたようだが二度目の手紙にて
π(x)=2πn=1(1)n12n(2n1)B2n(logx2π)2n1

π(x)=n=1μ(n)nLi(x1n)
といった(厳密には正しくない)公式が提示されているのを見て「素数に関する結果は誤りであります」とか

 私が想像しますに, 彼は自分の結果が正しいと自分自身を納得させることができれば満足してしまい, それで素数を含む発散級数に対するある種の作用が正当であると考えたのでしょう.
 (中略)結局この問題につきましては, 発散級数の研究がかなりひどい誤りを導いたのでしょう. そして驚くことではないのですが, 間違いなく素数に固有の恐ろしい悪魔に捕まってしまったのでしょう.

などと酷評した手紙をハーディに送っている(その反面いくつかの結果に対しては興味深いものであると評しており「彼がヤコビ級の数学者であると, 私には確信できます.」と述べている)。
 ちなみにこれらの手紙が交わされたのは1913年ごろの話であったが、リトルウッドは1914年に次のような結果を発表している。

リトルウッドの定理

 π(x)li(x)は非有界に振動する。またその振幅のオーダーは少なくともO(xlogxlogloglogx)以上である。

 このことは先の手紙にも現れており

π(x)Li(x)+12Li(x)O(x/logx)
であることが知られています. 彼の公式によりますと, この左辺はO(Li(x3))(つまりO(x3/logx))となります。

と言及されている。
 このあたりの歴史を知っていると色々面白い。

参考文献

[1]
B. C. Berndt, Ramanujan’s Notebook Part IV, Springer, 1993, pp. 126-129
[2]
B. C. Berndt, R. A. Rankin 著, 細川尋史 訳, ラマヌジャン書簡集, シュプリンガー・フェアラーク東京, 2001
投稿日:20231114
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

子葉
子葉
1091
267918
主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. 補題1
  3. 補題2
  4. 証明
  5. 余談
  6. 参考文献