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ピカール=リンデレーフの定理について

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はじめに

こんにちは!記事を書くのは2回目ですね。鵶(からす)と申します。
誤りがありましたらご指摘頂けると幸いです。
本記事ではピカールの定理の証明について比較的丁寧に述べたいと思います。
他の解説者も説明しておりますが、その中でも丁寧な説明だと感じて頂けたら幸いです。

紹介する定理とその証明

ピカール=リンデレーフの定理

$t_0\in\mathbb{R}$,$r,\omega\in\mathbb{R}_{\gt0}$,
$\boldsymbol{x_0}\in\mathbb{R}$を取る。
ここで、$I:=${$t\in\mathbb{R}$|$|t-t_0|\le r$}と定める。
また、
$\Omega:=${$\boldsymbol{x}\in\mathbb{R}^n$|$\left\|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{x}_0\right\|\le\omega$}と定め、有界閉領域Dを$D:=I×\Omega$と定める
ここで、tにおいて連続な関数を$f:D→\mathbb{R}^n$とする。
この時、次の条件を満たすならば初期値
$\boldsymbol{x}_0=\boldsymbol{x}(t_0)$に対して次の微分方程式
$$\frac{d\boldsymbol{x}}{dt}=f(t,\boldsymbol{x})$$
の解は後に条件で示す$I'$上で存在し、一意に定まる。
(条件)重要
ある$L\in\mathbb{R}_{\gt0}$が存在して、任意の$\boldsymbol{x,y}\in\Omega$に対して、
$$\left\|f(t,\boldsymbol{x})-f(t,\boldsymbol{y})\right\|\le L\left\|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}\right\|$$
が成り立つ。(この条件をリプシッツ条件と言う)
この条件の下で、最大値最小値の定理からfが有界、つまり、あるMが存在して任意の$(t,\boldsymbol{x})\in D$に対して$\left\|f(t,\boldsymbol{x})\right\|\le M$が成り立つ。
また、$I'$$I'=\lbrace{t\in I||t-t_0|\le\min(r,\omega/M)\rbrace}$と定める。

早速証明ですが、読者なら知ってる人も多いかと思いますがピカールの逐次近似法を用います。

解の存在性の証明

Step1ピカールの逐次近似法を使う
ピカールの逐次近似法を使う前に、微分方程式を$[t_0,t]$で定積分し、積分方程式に変えたいと思います。そのために、fがリーマン積分可能な事を示そうと思います。
ここでは、fが連続である事を示そうと思います
fがtに於いて連続なので、ある$t_1\in I$を固定する、同様に、$\boldsymbol{x}_1\in\Omega$を固定する
fはtで連続であるから、$t\in I$に対し、任意の$\epsilon\gt0$に対してある$\delta\gt0$が存在して、$$|t-t_1|\lt\delta\Longrightarrow\left\|f(t,\boldsymbol{x}_1)-f(t_1,\boldsymbol{x}_1)\right\|\lt\frac{\epsilon}{2}$$
が成り立つ。
同様に、条件から
任意の$\boldsymbol{x}\in\Omega$$t\in I$に対して$\left\|f(t,\boldsymbol{x})-f(t,\boldsymbol{x}_1)\right\|\le L\left\|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{x}_1\right\|$が成り立つ。
ここで、任意の$\epsilon\gt0$に対して$\sqrt{|t-t_1|^2+\left\|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{x}_1\right\|^2}\lt\min(\delta,\epsilon/2L)$なら$$\left\|f(t,\boldsymbol{x})-(t_1,\boldsymbol{x}_1)\right\|$$
$$\le\left\|f(t,\boldsymbol{x})-f(t,\boldsymbol{x}_1)\right\|+\left\|f(t,\boldsymbol{x}_1)-f(t_1,\boldsymbol{x}_1)\right\|$$
$$\le L\left\|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{x}_1\right\|+\left\|f(t,\boldsymbol{x}_1)-f(t_1,\boldsymbol{x}_1)\right\|$$
$$\lt\epsilon$$
よって、fは連続。ここで、微分方程式の解は連続かつ微分可能である必要があるので、解も連続、連続関数の合成関数は連続関数なので、$f(t,\boldsymbol{x}(t))$は連続である。
よってtでリーマン積分可能で、$[t,t_0]$で両辺リーマン積分すると、第2微分積分学の基本定理から求める積分方程式は次の様になります。
$$\boldsymbol{x}=\boldsymbol{x}_0+\int_{t_0}^{t}f(\tau,\boldsymbol{x})d\tau$$
元々の微分方程式の解はこの積分方程式の解である事をここで注意しておく。
ここで、$I'$上の関数列$\lbrace{\boldsymbol{x}_n}\rbrace_{n\ge0}$を次の様に帰納的に定める。
$$\boldsymbol{x}_0(t)=\boldsymbol{x}_0$$
$$\boldsymbol{x}_{n+1}=\boldsymbol{x}_0+\int_{t_0}^{t}f(\tau,\boldsymbol{x}_n)d\tau$$
(この定め方をピカールの逐次近似法と言う。)
ここで、$\lbrace{\boldsymbol{x}_n}\rbrace_{n\ge0}$が収束すること、特に一様収束することを示す。ここで、関数列の個々の関数が連続である事は後に述べる事を注意しておく。つまり、ここで述べる積分は全てリーマン可積分である。これは、ピカールの逐次近似が関数列の定め方としてwell-definedである事を示している。
まず、$\boldsymbol{x}_n$$\Omega$をはみ出ない事を示す。
$$\left\|\boldsymbol{x}_{n+1}-\boldsymbol{x}_0\right\|=\left\|\int_{t_0}^{t}f(\tau,\boldsymbol{x}_n)d\tau\right\| \le\left|\int_{t_0}^{t}\left\|f(\tau,\boldsymbol{x}_n)\right\|d\tau\right|$$
$$\le\left|\int_{t_0}^{t}Md\tau\right|$$
$$=M|t-t_0|$$
で、$t\in I'$より、$|t-t_0|\le\omega/M$が成り立つので、
$\left\|\boldsymbol{x}_{n+1}-\boldsymbol{x}_0\right\|\le\omega$と出来る。よって、任意の$t\in I'$に対して、$\boldsymbol{x}_{n}(t)\in\Omega$となる
次に、任意の自然数$n$に対して
$$\left\|\boldsymbol{x}_n-\boldsymbol{x}_{n-1}\right\|\le\frac{M}{n!}L^{n-1}|t-t_0|^n$$
を示す。
$n=1$の時は$\boldsymbol{x}_1\in\Omega$より明らか
$n=k$の時、成立を仮定。$n=k+1$の時、
$$\left\|\boldsymbol{x}_{k+1}-\boldsymbol{x}_k\right\| \le\left\|\int_{t_0}^{t}f(\tau,\boldsymbol{x}_k)-f(\tau,\boldsymbol{x}_{k-1})d\tau\right\|$$
$$\le L\left|\int_{t_0}^{t}\left\|\boldsymbol{x}_{k+1}-\boldsymbol{x}_k\right\|d\tau\right|$$ $$\le L\left|\int_{t_0}^{t}\frac{M}{k!}L^{k-1}|\tau-t_0|^kd\tau\right|$$
$$\le\frac{M}{k!}L^k\left|\int_{t_0}^{t}|t-t_0|^kd\tau\right|$$ $$=\frac{M}{(k+1)!}L^k|t-t_0|^{k+1}$$
よって帰納法により成立。
ここで、$N\in\mathbb{N}$として、
$$\boldsymbol{x}_N=\boldsymbol{x}_0+\sum_{n=1}^{N}(\boldsymbol{x}_n-\boldsymbol{x}_{n-1})$$である。
すると、右辺の級数は$N\rightarrow\infty$で一様収束する。つまり、$\lbrace{\boldsymbol{x}_n}\rbrace_{n\in\mathbb{N}}$は一様収束する。
実際、
$$\sum_{n=1}^{N}\left\|\boldsymbol{x}_n-\boldsymbol{x}_{n-1}\right\|\le\sum_{n=1}^{N}\frac{M}{n!}L^{n-1}|t-t_0|^n$$ $$\le\sum_{n=1}^{N}\frac{M}{n!}L^{n-1}\left(\frac{\omega}{M}\right)^n$$ $$=\frac{M}{L}\sum_{n=0}^{N}\frac{1}{n!}\left(\frac{L\omega}{M}\right)^n-\frac{M}{L}$$ $$\longrightarrow\frac{M}{L}\exp\left(\frac{L\omega}{M}\right)-\frac{M}{L} (N\longrightarrow\infty)$$
となるので、ワイエルシュトラスのM判定法から一様収束する事が確かめられた。
Step2解の構成
先で得た$\lbrace{\boldsymbol{x}_n}\rbrace_{n\in\mathbb{N}}$の一様収束先の関数を$\boldsymbol{u}$とおく。
これが積分方程式の解である事を示そう。
まず、その積分方程式の積分がリーマン可積分である事を示そう、これはfの連続性から$\boldsymbol{u}$の連続性を言えば可積分となる。
これは$\lbrace{\boldsymbol{x}_n}\rbrace_{n\ge 0}$が一様収束したのが$\boldsymbol{u}$なので、$\boldsymbol{x}_n$が連続である事を示せば十分である。
n=0の時、連続である事は明らか
n=kの時、連続を仮定
(n=kで連続であるから、後の積分はリーマン可積分である)
n=k+1の時、$t_1\in I'$を任意に取る。
任意の$\epsilon\gt0$に対して、
$$ \left\|\boldsymbol{x}_{k+1}(t)-\boldsymbol{x}_{k+1}(t_1)\right\|=\left\|\int_{t_1}^{t}f(\tau,\boldsymbol{x}_k)d\tau\right\|$$
$$\le\left|\int_{t_1}^{t}Md\tau\right|$$
$$\le M\left|t-t_1\right| $$
よって、$\delta\gt0$$\delta:=\epsilon/M$と取れば連続となる。
よって、帰納法により関数列は連続なので、一様収束性から、$\boldsymbol{u}$は連続である。
よって、リーマン可積分である。
次に、一様収束性から、任意の$\epsilon\gt0$に対して、ある$N\in\mathbb{N}$が存在して、任意の$t\in I'$に対して、$n\ge N$ならば、
$$ \left\|\boldsymbol{u}-\boldsymbol{x}_0-\int_{t_0}^{t}f(\tau,\boldsymbol{u})d\tau\right\|$$ $$ \le\left\|\boldsymbol{u}-\boldsymbol{x}_{n+1}\right\|+\left\|\int_{t}^{t_0}f(\tau,\boldsymbol{x}_n)-f(\tau,\boldsymbol{u})d\tau\right\|$$
$$\le\left\|\boldsymbol{u}-\boldsymbol{x}_{n+1}\right\|+L\left|\int_{t_0}^{t}\left\|\boldsymbol{x}_n-\boldsymbol{u}\right\|d\tau\right|$$
$$\lt\epsilon+L\left|\int_{t_0}^{t}\epsilon d\tau\right|$$
$$=\epsilon+L\epsilon\left|t-t_0\right|$$
$$\le\epsilon\left(1+\frac{L\omega}{M}\right) $$
と一様に評価出来る。よって、$\epsilon\rightarrow 0$とすれば、$\boldsymbol{u}$は積分方程式の解となる。
最後に、$\boldsymbol{u}$が元々の微分方程式の解となる事を示す。
まず、$t=t_0$とすれば、明らかに初期条件は満たされる。
次に、この解は積分方程式を満たし積分はリーマン可積分なので第1微分積分学の基本定理から、
$$ f(t,\boldsymbol{u})=\frac{d}{dt}\int_{t_0}^{t}f(\tau,\boldsymbol{u})d\tau $$
となる。よって、
$$f(t,\boldsymbol{u})=\frac{d}{dt}\int_{t_0}^{t}f(\tau,\boldsymbol{u})d\tau$$
$$=\frac{d}{dt}(\boldsymbol{x}_0+\int_{t_0}^{t}f(\tau,\boldsymbol{u})d\tau)$$
$$=\frac{d\boldsymbol{u}}{dt} $$
となる。よって、元々の微分方程式の解が$I'$上存在する事が言えた。

解の一意性の証明

微分方程式の解$\boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2$を任意に取る。
ここで、存在性の証明と同様に、積分方程式を考える。元々の微分方程式の解はこの積分方程式の解である。ここで、微分方程式の解は連続(微分可能)なので、後の積分は全てリーマン可積分である事を注意しておく。
ここで、$n\in\mathbb{Z}_{\ge0}$において、
$$\left\|\boldsymbol{u}_1-\boldsymbol{u}_2\right\|\le\frac{2M}{n!}L^{n-1}|t-t_0|^n $$
を示す。
n=1の時、
$$ \le\left\|\boldsymbol{u}_1-\boldsymbol{u}_2\right\|=\left\|\int_{t_0}^{t}f(\tau,\boldsymbol{u}_1)-f(\tau,\boldsymbol{u}_2)d\tau\right\|$$
$$\le\left\|\int_{t_0}^{t}f(\tau,\boldsymbol{u}_1)d\tau\right\|+\left\|\int_{t_0}^{t}f(\tau,\boldsymbol{u}_2)d\tau\right\|$$
$$ \le\left|\int_{t_0}^{t}Md\tau\right|+\left|\int_{t_0}^{t}Md\tau\right|$$ $$ =2M\left|t-t_0\right| $$
より成立
n=kの時、成立を仮定、n=k+1の時、
$$\left\|\boldsymbol{u}_1-\boldsymbol{u}_2\right\|=\left\|\int_{t_0}^{t}f(\tau,\boldsymbol{u}_1)-f(\tau,\boldsymbol{u}_2)d\tau\right\|$$
$$ \le L\left|\int_{t_0}^{t}\left\|\boldsymbol{u}_1-\boldsymbol{u}_2\right\|d\tau\right| $$$$ \le L\left|\int_{t_0}^{t}\frac{2M}{k!}L^{k-1}|\tau-t_0|^kd\tau\right| $$$$ =\frac{2M}{(k+1)!}L^k|t-t_0|^{k+1} $$
よって、帰納法により成立。
ここで、成立を確かめた不等式において、$n\rightarrow\infty$とすると、任意の$t\in I'$に対して
$$\left\|\boldsymbol{u}_1-\boldsymbol{u}_2\right\|=0$$
を得る。以上より、解の一意性が確かめられた。

これで、証明は終わりです。中々重かったですね。
本定理の応用例としては、線形微分方程式や同次方程式の解空間などが挙げられますね。
今回の記事はここまでにしたいと思います。ありがとうございました。

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更新日:727
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