この記事では 前回の記事 に引き続き超幾何数列の基本事項についてまとめていきます。
第二回の記事
では超幾何数列$A(n)$に対し
$$A(n)=T(n+1)-T(n)$$
なる超幾何数列$T(n)$を求めることで望遠鏡和
$$\sum^{n-1}_{k=0}A(k)=\sum^{n-1}_{k=0}(T(k+1)-T(k))=T(n)-T(0)$$
を作り出す手法について解説しました。
またこの手法では例えば
$$A(n)=\frac1{(n^4+n^2+1)n!}$$
のようにGosper総和可能でない数列はその部分和
$$\sum^{n-1}_{k=0}A(k)$$
を閉形式に表すことはできませんでした。
しかしこの数列は実は
\begin{align}
A(n)&=T(n+1)-T(n)+\frac1{2n!}\\
\bigg(T(n)&=\frac{n^2}{2(n^2-n+1)n!}\bigg)
\end{align}
のように表すことができ、これによって
$$\sum^{n-1}_{k=0}A(k)=T(n)+\frac12\sum^{n-1}_{k=0}\frac1{k!}$$
というある種の閉形式や
$$\sum^\infty_{k=0}A(k)=\frac12\sum^\infty_{k=0}\frac1{k!}=\frac e2$$
という級数の値を求めることができます。
この記事ではこのように完全な望遠鏡和が作れない場合にも、ある種の最小性を持つ$T_2(n)$を用いて
$$A(n)=T_1(n+1)-T_1(n)+T_2(n)$$
と表すことで
$$\sum^{n-1}_{k=0}A(k)=T_1(n)-T_1(0)+\sum^{n-1}_{k=0}T_2(k)$$
と$A(n)$の部分和をより簡単な数列$T_2(n)$の部分和に帰着させる手法(Abramov-Petkovšek method)について解説していきます。
さて
Gosper's algorithm
によるcreative telescopingでは
$$\frac{A(n+1)}{A(n)}=\frac{a(n)}{b(n)}\frac{c(n+1)}{c(n)}$$
なる多項式$a(n),b(n),c(n)$であって任意の非負整数$h$に対し
$$\gcd(a(n),b(n+h))=1$$
を満たすようなものを求めることで見通しが良くなるのでした。
これに類似して以下では
$$\frac{A(n+1)}{A(n)}=\frac{p(n)}{q(n)}\frac{S(n+1)}{S(n)}$$
なる多項式$p(n),q(n)$および有理関数$S(n)$であって任意の(負数も含めた)整数$h$に対し
$$\gcd(p(n),q(n+h))=1$$
を満たすようなものを考えます。
多項式$p(n)$がshift-freeであるとは、任意の整数$h\neq0$に対し$p(n)$と$p(n+h)$が互いに素となることを言う。
また有理関数$r(n)=p(n)/q(n)$がshift-reducedであるとは、任意の整数$h$に対し$p(n)$と$q(n+h)$が互いに素となることを言う。
$0$でない有理関数$r(n)$に対し
$$r(n)=\frac{S(n+1)}{S(n)}K(n)$$
なる有理関数の組$K(n),S(n)$であって$K(n)$がshift-reducedとなるようなもののことを$r(n)$の標準形(rational normal form)と言う。
$0$でない任意の有理関数は標準形を持つ。
有理関数$r(n)$に対し
第二回の記事
の補題3から
\begin{align}
r(n)&=\frac{a(n)}{b(n)}\frac{c(n+1)}{c(n)}\\
\frac{b(n)}{a(n)}&=\frac{b'(n)}{a'(n)}\frac{c'(n+1)}{c'(n)}
\end{align}
なる多項式$a,b,c,a',b',c'$であって、任意の非負整数$h$に対し
$$\gcd(a(n),b(n+h))=\gcd(a'(n+h),b'(n))=1$$
を満たすようなものが取れる。
このときその構成法から$a',b'$はそれぞれ$a,b$を割り切るので
$$\gcd(a'(n),b'(n+h))=\gcd(a'(n),b'(n-h))=1$$
が成り立つ、つまり$a'(n)/b'(n)$はshift-reducedとなるので
$$K(n)=\frac{a'(n)}{b'(n)},\quad S(n)=\frac{c(n)}{c'(n)}$$
とおくとこれは$r(n)$の標準形を定めることがわかる。
なお有理関数の標準形は一意には定まりません。実際
$$r(n)=\frac{S(n+1)}{S(n)}(K_1(n)K_2(n))$$
を標準形とすると
\begin{align}
r(n)&=\frac{S'(n+1)}{S'(n)}(K_1(n-1)K_2(n))&
(S'(n)&=S(n)K_1(n-1))\\
&=\frac{S''(n+1)}{S''(n)}(K_1(n)K_2(n+1))&
\bigg(S''(n)&=\frac{S(n)}{K_2(n)}\bigg)
\end{align}
なども標準形となることがわかります。
ただ標準形を定める$K(n)$に関しては次のようなある種の一意性を持つことが知られています(証明は気が向いたら書きます)。
ある有理関数の二通りの標準形
$$\frac{S(n+1)}{S(n)}K(n)=\frac{S'(n+1)}{S'(n)}K'(n)$$
に対しある有理関数$K_1(n),\ldots,K_J(n)$とある整数$h_1,\ldots,h_J$が存在して
$$K(n)=\prod^J_{j=1}K_j(n),\quad K'(n)=\prod^J_{j=1}K_j(n+h_j)$$
が成り立つ。
超幾何数列$A(n)$に対し、その階比の標準形
$$\frac{A(n+1)}{A(n)}=\frac{S(n+1)}{S(n)}K(n)$$
を定める有理関数$K(n),S(n)$のことをそれぞれ$A(n)$の核(kernel)、殻(shell)と言う。
このとき$A(n)$は
$$\frac{H(n+1)}{H(n)}=K(n)$$
によって定まる超幾何数列$H(n)$を用いて
$$A(n)=S(n)H(n)$$
と表せることに注意する。
例えば上で出てきた数列
$$A(n)=\frac1{(n^4+n^2+1)n!}$$
の核と殻として
$$K(n)=\frac1{n+1},\quad S(n)=\frac1{n^4+n^2+1}$$
などが取れます。
以下では与えられた超幾何数列$A(n)$に対し
$$A(n)=T_1(n+1)-T_1(n)+T_2(n)$$
なる超幾何数列$T_1(n),T_2(n)$であって$T_2(n)$がある種の最小性を持つものはどのように求められるか、という問題について考えていきます。
まずこの問題を$A(n),T_1(n),T_2(n)$の核と殻についての話に帰着させておきましょう。
定数でない超幾何数列$A(n),T_1(n),T_2(n)$が
$$A(n)=T_1(n+1)-T_1(n)+T_2(n)$$
を満たすとき、$A(n),T_1(n),T_2(n)$はそれぞれ相似である。特にこれらは同じ核を持つ。
第一回の記事 の命題2からわかる。
いま相似な$A(n),T_1(n),T_2(n)$に対し、適当な核$K(n)$と殻を用いて
$$A(n)=S(n)H(n),\quad T_1(n)=S_1(n)H(n),\quad T_2(n)=S_2(n)H(n)$$
と表すと、これらが
$$A(n)=T_1(n+1)-T_1(n)+T_2(n)$$
を満たすことと
$$S(n)=K(n)S_1(n+1)-S_1(n)+S_2(n)$$
を満たすことは等価となることに注意しましょう。
ここで$T_2(n)$が満たすべき最小性とは、$T_2(n)$の殻の分母の次数(の最小値)が最小となることを言うものとします。そしてどのようなときにその最小性が満たされるかは次の定理によって判別することができます。
多項式$v(n)$と有理関数$K(n)=p(n)/q(n)$がstrongly coprimeであるとは、任意の非負整数$h$に対し
$$\gcd(v(n),p(n-h))=\gcd(v(n),q(n+h))=1$$
が成り立つことを言う。
超幾何数列$A(n)$が簡約であるとは、$A(n)$のある核と殻
$$K(n)=\frac{p(n)}{q(n)},\quad S(n)=\frac{u(n)}{v(n)}$$
が以下を満たすことを言う。
なお簡約という語については説明の都合上便宜的に命名したものであり一般的なものではありません。
簡約な超幾何数列$A(n)$に対し上の条件(i),(ii)を満たすような核$K(n)$を取る。
このとき
$$A(n)=T_1(n+1)-T_1(n)+T_2(n)$$
なる任意の超幾何数列$T_1(n),T_2(n)$および任意の核$K'(n)$に対し、$K(n),K'(n)$に関する$A(n),T_2(n)$の殻をそれぞれ
$$S(n)=\frac{u(n)}{v(n)},\quad S_2(n)=\frac{u_2(n)}{v_2(n)}$$
とおくと
$$\deg v\leq\deg v_2$$
が成り立つ。
この証明については書くと長くなるので、ここでは$K'(n)=K(n)$とした場合のみを示しておきます。
$v(n)$がある既約多項式の累乗$b(n)^k$を因数に持つとき、ある整数$h$が存在して$v_2(n)$も$b(n+h)^k$を因数に持つことを示す。$b(n)^k\mid v_2(n)$のときは明らかなので$b(n)^k\nmid v_2(n)$としてよい。
このとき$K(n)=p(n)/q(n)$に関する$T_1(n)$の殻を$S_1(n)=u_1(n)/v_1(n)$とおくと
$$\frac{u(n)}{v(n)}
=\frac{p(n)}{q(n)}\frac{u_1(n+1)}{v_1(n+1)}-\frac{u_1(n)}{v_1(n)}+\frac{u_2(n)}{v_2(n)}$$
が成り立つので、この分母に注目すると
$$b(n)^k\mid v_1(n+1)\quad\mbox{または}\quad b(n)^k\mid v_1(n)$$
がわかる。
$h$を$b(n+h)^k\mid v_1(n)$を満たすような整数であって最小のものとする(仮定より$h\leq-1$に注意する)。このとき$h$の最小性から
$$b(n+h)^k\nmid v_1(n+1)$$
となるので再び上の分母に注目することで
$$b(n+h)^k\mid v_2(n)$$
がわかる。
$h$を$b(n+h)^k\mid v_1(n+1)$を満たすような整数であって最大のものとする(仮定より$h\leq1$に注意する)。このとき$h$の最大性から
$$b(n+h)^k\nmid v_1(n)$$
となるので再び上の分母に注目することで
$$b(n+h)^k\mid v_2(n)$$
がわかる($b(n+h)\nmid p(n)$に注意する)。
以上よりどちらの場合にもある整数$h$が存在して$b(n+h)^k\mid v_2(n)$が成り立つことが示された。
さて、これにより与えられた$A(n)$に対し
$$A(n)=T_1(n+1)-T_1(n)+T_2(n)$$
なる$T_1(n),T_2(n)$であって$T_2(n)$が簡約であるものが構成できればこれは所望の最小性を満たすことがわかります。
実際他の$T'_1(n),T'_2(n)$を用いて
$$A(n)=T'_1(n+1)-T'_1(n)+T'_2(n)$$
と表せるとき
$$T''_1(n)=T_1(n)-T'_1(n)$$
とおくと
$$T_2(n)=T''_1(n+1)-T''_1(n)+T'_2(n)$$
が成り立つので定理4により$T_2(n)$の殻の分母の次数は$T'_2(n)$の次数以下となることがわかります。
そしてそのような$T_1(n),T_2(n)$は次のような手法によって構成することができます。
有理関数$K(n),S(n)$について、$K(n)=p(n)/q(n)$がshift-reducedであるとき
$$S(n)=K(n)S_1(n+1)-S_1(n)+\frac{u(n)}{v(n)q(n)}$$
なる有理関数$S_1(n)$と多項式$u(n),v(n)$であって(i),(ii)を満たすようなものが存在する。
$S(n)$を適当に
部分分数分解
することで、まず$S(n)$がある既約多項式$b(n)$を用いて
$$S(n)=\frac{a(n)}{b(n)^k}$$
と表せる場合を考える。このとき以下の三通りの場合が考えられる($K(n)$の取り方から(1)と(2)は同時には起こらないことに注意する)。
(1) ある非負整数$h$に対し$b(n)\mid q(n+h)$が成り立つ
(2) ある非負整数$h$に対し$b(n)\mid p(n-h)$が成り立つ
(3) 任意の非負整数$h$に対し$b(n)$は$p(n-h)$も$q(n+h)$も割り切らない
$$S'_1(n+1)=\frac1{K(n)}\frac{a(n)}{b(n)^k}$$
とおくとある非負整数$l\leq k$およびある多項式$c_0,c_1$が存在して
\begin{align}
S(n)
&=K(n)S'_1(n+1)-S'_1(n)+\frac{q(n-1)a(n-1)}{p(n-1)b(n-1)^k}\\
&=K(n)S'_1(n+1)-S'_1(n)+\l(\frac{c_0(n)}{b(n-1)^l}+\frac{c_1(n)}{p(n-1)}\r)
\end{align}
が成り立つ。このときさらに
$$S''_1(n)=S'_1(n)-\frac{c_1(n)}{p(n-1)}$$
とおくと
$$S(n)=K(n)S''_1(n+1)-S''_1(n)+\l(\frac{c_0(n)}{b(n-1)^l}+\frac{c_1(n+1)}{q(n)}\r)$$
が成り立つ。
また
$$S'(n)=\frac{c_0(n)}{b(n-1)^l}$$
に対して同様の操作を繰り返していくことで(3)の場合に帰着できる。
$$S'_1(n)=-\frac{a(n)}{b(n)^k}$$
とおくとある非負整数$l\leq k$およびある多項式$c_0,c_1$が存在して
\begin{align}
S(n)
&=K(n)S'_1(n+1)-S'_1(n)+\frac{p(n)a(n+1)}{q(n)b(n+1)^k}\\
&=K(n)S'_1(n+1)-S'_1(n)+\l(\frac{c_0(n)}{b(n+1)^l}+\frac{c_1(n)}{q(n)}\r)
\end{align}
が成り立つ。
また
$$S'(n)=\frac{c_0(n)}{b(n+1)^l}$$
に対して同様の操作を繰り返していくことで(3)の場合に帰着できる。
これによって一般の有理関数$S(n)$に対し
$$S(n)
=K(n)S_1(n+1)-S_1(n)+\l(\frac{c_0(n)}{v(n)}+\frac{c_1(n)}{q(n)}\r)$$
なる多項式$v(n)$であって条件(ii)を満たすようなものが構成できる。
また$v(n)$がshift-freeでなければ上と同様の操作によって
$$\frac{a_1(n)}{b(n)^k}+\frac{a_2(n)}{b(n+h)^{k'}}
=K(n)S'_1(n+1)-S'_1(n)+\l(\frac{a_1(n)}{b(n)^k}+\frac{c_0(n)}{b(n)^l}+\frac{c_1(n)}{q(n)}\r)$$
と平行移動させることでshift-freeなるものが構成できる。
超幾何数列$A(n)$に対しある超幾何数列$T_1(n)$であって
$$T_2(n)=A(n)-(T_1(n+1)-T_1(n))$$
が簡約な超幾何数列または$0$となるようなものが存在する。
$A(n)$の核$K(n)=p(n)/q(n)$と殻$S(n)$に対し上の補題のような有理関数$S_1(n)$と多項式$u(n),v(n)$を取る。
このとき
$$A(n)=S(n)H(n),\quad T_1(n)=S_1(n)H(n),\quad T_2(n)=\frac{u(n)}{v(n)q(n)}H(n)$$
とおくと、この$T_1(n),T_2(n)$は所望の性質を満たす。実際そのことは核
$$K'(n)=\frac{p(n)}{q(n+1)}$$
に関する$T_2(n)$の殻が
$$S'_2(n)=\frac{u(n)}{v(n)}$$
となることからわかる。
一旦以上の議論をまとめておくと、与えられた$A(n)$に対し
$$A(n)=T_1(n+1)-T_1(n)+T_2(n)$$
なる$T_1(n),T_2(n)$であって$T_2(n)$が簡約となるようなものは以下のようなアルゴリズムによって求めることができます。
$$A(n)=\frac1{(n^4+n^2+1)n!}$$
に対し上のような$T_1(n),T_2(n)$を一つ求めよ。
$A(n)$の核と殻として
\begin{align}
K(n)&=\frac1{n+1}\\
S(n)&=\frac1{n^4+n^2+1}\\
&=\frac12\l(\frac{n+1}{n^2+n+1}-\frac{n-1}{n^2-n+1}\r)
\end{align}
を取る。このとき
$$S_1(n+1)=\frac1{\frac1{n+1}}\frac{n+1}{n^2+n+1}$$
つまり
$$S_1(n)=\frac{n^2}{n^2-n+1}$$
とおくと
$$\frac{n-1}{n^2+n+1}=K(n)S_1(n+1)-S_1(n)+\frac{n^2}{n^2-n+1}$$
が成り立つので
\begin{align}
2S(n)
&=K(n)S_1(n+1)-S_1(n)+\frac{n^2-(n-1)}{n^2-n+1}\\
&=K(n)S_1(n+1)-S_1(n)+1
\end{align}
を得る。したがって
$$T_1(n)=\frac{n^2}{2(n^2-n+1)n!},\quad T_2(n)=\frac1{2n!}$$
が求める超幾何数列となる。
さて上では$S_2(n)$の分母を最小化することを考えましたが、ここからさらにその分子を最小化することを考えていきましょう。
いまある$S'_1(n),S'_2(n)$を用いて
$$S_2(n)=K(n)S'_1(n+1)-S'_1(n)+S'_2(n)$$
と変形したとき$S'_1(n)$が多項式でなければ$S'_2(n)$の分母は$S_2(n)$よりも大きくなってしまうので、$S'_1(n)$が多項式である場合を考えれば十分となります。したがってまずは$K(n)=p(n)/q(n)$とし
$$V_K=\{p(n)f(n+1)-q(n)f(n)\mid f(n)\in\F[n]\}$$
という線形空間の性質について考えてみましょう(ただし$\F$は適当な体とした)。
$\F[x]$の部分線形空間$V$に対し
$$W=\span\{x^k\ (k=0,1,2,\ldots)\mid \forall f(x)\in V,\deg f\neq k\}$$
とおくと
$$\F[x]=V\oplus W$$
が成り立つ。
$W$の取り方から$V+W$が直和であることは明らか。
任意の整数$k\geq0$に対し$x^k\in V\oplus W$が成り立つことを帰納法によって示す。$x^k\in W$であれば明らか。また$x^k\not\in W$であればある$k$次のモニック多項式$f(x)\in V$が存在し、帰納法の仮定により
$$x^k-f(x)\in\span\{1,x,\ldots,x^{k-1}\}\subset V\oplus W$$
が成り立つので
$$x^k=(x^k-f(x))+f(x)\in V\oplus W$$
を得る。
いま$V_K$に対してこのような補空間$W_K$を考えることによって次のような簡約化を考えることができます。
超幾何数列$A(n)$がresidual formであるとは、$A(n)$のある核と殻
$$K(n)=\frac{p(n)}{q(n)},\quad S(n)=\frac{a(n)}{v(n)}+\frac{b(n)}{q(n)}$$
が以下を満たすことを言う。
これについても一般的な用語ではありません。
超幾何数列$A(n)$に対しある超幾何数列$T_1(n)$であって
$$T_2(n)=A(n)-(T_1(n+1)-T_1(n))$$
がresidual formまたは$0$となるようなものが存在する。
$A(n)$の核$K(n)=p(n)/q(n)$と殻$S(n)$に対し補題5よりある有理関数$S_1(n)$と多項式$v(n),c_0(n),c_1(n)$であって
$$S(n)=K(n)S_1(n+1)-S_1(n)+\l(\frac{a(n)}{v(n)}+\frac{b(n)}{q(n)}\r)$$
および上の(i),(ii)を満たすようなものが取れる。
いま$c_0(n)$を$v(n)$で割り
$$c_0(n)=c'_0(n)v(n)+a(n)$$
とおき、またこれに対し
$$c(n)=c'_0(n)q(n)+c_1(n)$$
とおくと
$$\frac{c_0(n)}{v(n)}+\frac{c_1(n)}{q(n)}=\frac{a(n)}{v(n)}+\frac{c(n)}{q(n)}$$
が成り立つ(これによって(iii)が満たされる)。
また補題7より
$$c(n)=c'(n)+b(n)$$
なる$c'(n)\in V_K,b(n)\in W_K$が存在し、また$V_K$の取り方から
$$c'(n)=p(n)f(n+1)-q(n)f(n)=(K(n)f(n+1)-f(n))q(n)$$
なる多項式$f(n)$が取れる。このとき
$$S'_1(n)=S_1(n)+f(n)$$
とおくと
$$S(n)=K(n)S'_1(n+1)-S'_1(n)+\l(\frac{a(n)}{v(n)}+\frac{b(n)}{q(n)}\r)$$
が成り立つ。
したがってこれに対し
$$T_1(n)=S'_1(n)\frac{A(n)}{S(n)},\quad
T_2(n)=\l(\frac{a(n)}{v(n)}+\frac{b(n)}{q(n)}\r)\frac{A(n)}{S(n)}$$
とおくとこれらは所望の性質を満たすことがわかる。
ちなみに$W_K$の基底は次のようにして求めることができます。
$d=\max\{\deg p,\deg q\}$とし$p(n),q(n)$の$d,d-1$次の係数をそれぞれ$\la_p,\la_q,P,Q$とおく。
が成り立つ。
多項式$f(n)$に対し
$$g(n)=p(n)f(n+1)-q(n)f(n)$$
の次数が取り得る値の範囲について考えればよい。
このとき明らかに
$$\deg g=d+\deg f$$
が成り立つので$\deg g$の取り得る値の範囲は
$$\deg g\geq d$$
と求まる。
このとき$f$をモニック多項式とすると
\begin{align}
g(n)
&=p(n)(f(n+1)-f(n))+(p(n)-q(n))f(n)\\
&=(\la k+P-Q)n^{d+\deg f-1}+\cdots
\end{align}
と表せるので$\deg f\neq d'\ (=(Q-P)/\la)$であれば
$$\deg g=d+\deg f-1$$
が成り立つ。
また($d'$が非負整数であり)$\deg f=d'$のときは
$$\deg g< d+d'-1$$
が成り立つので、これを次数$d+k-1\quad(0\leq k< d')$の多項式
$$g_k(n)=p(n)f_k(n+1)-q(n)f_k(n)\quad(\deg f_k=k)$$
を用いて次数下げすることによって
$$\deg g< d-1$$
とすることができる。
したがって$\deg g$の取り得る値の範囲は$d'\not\in\Z_{\geq0}$のとき
$$\deg g\geq d-1$$
と求まり、$d'\in\Z_{\geq0}$のとき
$$\deg g\geq d-1\quad\mbox{かつ}\quad\deg g\neq d+d'-1$$
または
$$\deg g=\min\{\deg(p(n)f(n+1)-q(n)f(n))\mid \deg f=d'\}$$
と求まる。
以上より主張を得る。
$$K(n)=\frac{n^4+1}{(n+1)^4}$$
に対し$W_K$を求めよ。
$$p(n)=n^4+1,\quad q(n)=(n+1)^4$$
より$d=d'=4$が成り立つことに注意する。
いま$k=0,1,2,3,4$に対し
$$g_k(n)=p(n)(n+1)^k-q(n)n^k$$
とおくと
\begin{align}
g_4(n)&=(n+1)^4\\
g_1(n)&=-(n+1)(3n^3+3n^2+n-1)\\
g_0(n)&=-(4n^3+6n^2+4n)
\end{align}
が成り立つので$g_4(n)$は
$$g_4(n)+\frac13g_1(n)+\frac12g_0(n)=\frac53n^2+2n+\frac43$$
と次数下げできる。したがって$d''=2$つまり
$$W_K=\span\{1,n,n^7\}$$
を得る。
$$A(n)=\frac{n^2}{n+1}n!$$
に対し定理8のような$T_1(n),T_2(n)$を求めよ。
$A(n)$の核と殻
$$K(n)=n+1,\quad S(n)=\frac{n^2}{n+1}=n-1+\frac1{n+1}$$
に対しAbramov-Petkovšek's algorithmを実行すると
$$S(n)=K(n)S_1(n+1)-S_1(n)+S_2(n)$$
なる有理関数$S_1(n),S_2(n)$として
$$S_1(n)=-\frac1{n+1},\quad S_2(n)=-\frac1{n+2}+\frac n1$$
が取れる。
また$W_K=\span\{1\}$なのでこれはまだ簡約化することができ、実際
$$n=K(n)-1$$
より
$$S'_1(n)=S_1(n)+1=\frac n{n+1},\quad S'_2(n)=-\frac1{n+2}$$
つまり
$$T_1(n)=\frac n{n+1}n!,\quad T_2(n)=-\frac1{n+2}n!$$
とおくとこれが求める超幾何数列となる。
residual formは真に最小性を持つものとなっており、これにより定理8のような$T_2(n)$が$0$であるか否かによって$A(n)$が Gosper総和可能 であるかどうかを判別することができます。
簡約な超幾何数列$A(n)$に対し(i),(ii)を満たすような核と殻を
$$K(n)=\frac{p(n)}{q(n)},\quad S(n)=\frac{u(n)}{v(n)}$$
とおく。
このとき$A(n)$がGosper総和可能であるためには$S(n)$は多項式でなければならない。
$S(n)$が多項式ではない、特に$v(n)$がある既約多項式$b(n)$を因数に持つものとする。
いま
$$A(n)=T(n+1)-T(n)$$
なる超幾何数列$T(n)$が存在する、つまり
$$S(n)=K(n)\frac{u_1(n+1)}{v_1(n+1)}-\frac{u_1(n)}{v_1(n)}$$
なる多項式$u_1(n),v_1(n)$が存在するならば定理5(の特別な場合の証明)と全く同様にして、ある$0$でない整数$h$が存在して
$$b(n+h)\mid v_1(n)\quad\mbox{かつ}\quad b(n+h)\nmid v_1(n+1)$$
または
$$b(n+h)\nmid v_1(n)\quad\mbox{かつ}\quad b(n+h)\mid v_1(n+1)$$
が成り立つことがわかる。このとき$v(n)$は$b(n+h)$も因数に持たなければならないが、これは$v(n)$がshift-freeであったことに矛盾。よって$v(n)$は定数でなければならないことが示された。
residual formはGosper総和不可能である。
residual form$A(n)$に対し(i)-(iv)を満たすような核と殻
$$K(n)=\frac{p(n)}{q(n)},\quad S(n)=\frac{a(n)}{v(n)}+\frac{b(n)}{q(n)}$$
を取る。このとき
$$K'(n)=\frac{p(n)}{q(n+1)},\quad S'(n)=\frac{a(n)q(n)}{v(n)}+b(n)$$
という核と殻を考えるとこれらは(i),(ii)を満たすので、命題9より$A(n)$がGosper総和可能でれば$S'(n)$は多項式となる。特に$v(n)$と$q(n)$が互いに素であることと$\deg a<\deg v$であることから$a(n)=0$でなければならない。
また
$$A(n)=T(n+1)-T(n)$$
なる超幾何数列$T(n)$が存在する、つまり
$$b(n)=p(n)x(n+1)-q(n)x(n)$$
なる有理関数$x(n)$が存在するならば
第二回の記事
の定理4から$x(n)$は多項式となる。したがって$b(n)\in V_K\cap W_K$つまり$b(n)=0$が成り立たなければならないが超幾何数列の定義から$A(n)\neq0$であったことに矛盾。よって$A(n)$はGosper総和不可能である。