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現代数学解説
文献あり

超幾何数列の基礎7:望遠鏡和による簡約化

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はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続き超幾何数列の基本事項についてまとめていきます。

概要

  第二回の記事 では超幾何数列A(n)に対し
A(n)=T(n+1)T(n)
なる超幾何数列T(n)を求めることで望遠鏡和
k=0n1A(k)=k=0n1(T(k+1)T(k))=T(n)T(0)
を作り出す手法について解説しました。
 またこの手法では例えば
A(n)=1(n4+n2+1)n!
のようにGosper総和可能でない数列はその部分和
k=0n1A(k)
を閉形式に表すことはできませんでした。
 しかしこの数列は実は
A(n)=T(n+1)T(n)+12n!(T(n)=n22(n2n+1)n!)
のように表すことができ、これによって
k=0n1A(k)=T(n)+12k=0n11k!
というある種の閉形式や
k=0A(k)=12k=01k!=e2
という級数の値を求めることができます。
 この記事ではこのように完全な望遠鏡和が作れない場合にも、ある種の最小性を持つT2(n)を用いて
A(n)=T1(n+1)T1(n)+T2(n)
と表すことで
k=0n1A(k)=T1(n)T1(0)+k=0n1T2(k)
A(n)の部分和をより簡単な数列T2(n)の部分和に帰着させる手法(Abramov-Petkovšek method)について解説していきます。

標準形と核・殻

 さて Gosper's algorithm によるcreative telescopingでは
A(n+1)A(n)=a(n)b(n)c(n+1)c(n)
なる多項式a(n),b(n),c(n)であって任意の非負整数hに対し
gcd(a(n),b(n+h))=1
を満たすようなものを求めることで見通しが良くなるのでした。
 これに類似して以下では
A(n+1)A(n)=p(n)q(n)S(n+1)S(n)
なる多項式p(n),q(n)および有理関数S(n)であって任意の(負数も含めた)整数hに対し
gcd(p(n),q(n+h))=1
を満たすようなものを考えます。

有理関数の標準形

シフト既約

 多項式p(n)shift-freeであるとは、任意の整数h0に対しp(n)p(n+h)が互いに素となることを言う。
 また有理関数r(n)=p(n)/q(n)shift-reducedであるとは、任意の整数hに対しp(n)q(n+h)が互いに素となることを言う。

標準形

 0でない有理関数r(n)に対し
r(n)=S(n+1)S(n)K(n)
なる有理関数の組K(n),S(n)であってK(n)がshift-reducedとなるようなもののことをr(n)標準形(rational normal form)と言う。

 0でない任意の有理関数は標準形を持つ。

証明

 有理関数r(n)に対し 第二回の記事 の補題3から
r(n)=a(n)b(n)c(n+1)c(n)b(n)a(n)=b(n)a(n)c(n+1)c(n)
なる多項式a,b,c,a,b,cであって、任意の非負整数hに対し
gcd(a(n),b(n+h))=gcd(a(n+h),b(n))=1
を満たすようなものが取れる。
 このときその構成法からa,bはそれぞれa,bを割り切るので
gcd(a(n),b(n+h))=gcd(a(n),b(nh))=1
が成り立つ、つまりa(n)/b(n)はshift-reducedとなるので
K(n)=a(n)b(n),S(n)=c(n)c(n)
とおくとこれはr(n)の標準形を定めることがわかる。

 なお有理関数の標準形は一意には定まりません。実際
r(n)=S(n+1)S(n)(K1(n)K2(n))
を標準形とすると
r(n)=S(n+1)S(n)(K1(n1)K2(n))(S(n)=S(n)K1(n1))=S(n+1)S(n)(K1(n)K2(n+1))(S(n)=S(n)K2(n))
なども標準形となることがわかります。
 ただ標準形を定めるK(n)に関しては次のようなある種の一意性を持つことが知られています(証明は気が向いたら書きます)。

 ある有理関数の二通りの標準形
S(n+1)S(n)K(n)=S(n+1)S(n)K(n)
に対しある有理関数K1(n),,KJ(n)とある整数h1,,hJが存在して
K(n)=j=1JKj(n),K(n)=j=1JKj(n+hj)
が成り立つ。

超幾何数列の核と殻

核と殻

 超幾何数列A(n)に対し、その階比の標準形
A(n+1)A(n)=S(n+1)S(n)K(n)
を定める有理関数K(n),S(n)のことをそれぞれA(n)核(kernel)殻(shell)と言う。
 このときA(n)
H(n+1)H(n)=K(n)
によって定まる超幾何数列H(n)を用いて
A(n)=S(n)H(n)
と表せることに注意する。

 例えば上で出てきた数列
A(n)=1(n4+n2+1)n!
の核と殻として
K(n)=1n+1,S(n)=1n4+n2+1
などが取れます。

Abramov-Petkovšek Method

 以下では与えられた超幾何数列A(n)に対し
A(n)=T1(n+1)T1(n)+T2(n)
なる超幾何数列T1(n),T2(n)であってT2(n)がある種の最小性を持つものはどのように求められるか、という問題について考えていきます。

問題の帰着

 まずこの問題をA(n),T1(n),T2(n)の核と殻についての話に帰着させておきましょう。

 定数でない超幾何数列A(n),T1(n),T2(n)
A(n)=T1(n+1)T1(n)+T2(n)
を満たすとき、A(n),T1(n),T2(n)はそれぞれ相似である。特にこれらは同じ核を持つ。

  第一回の記事 の命題2からわかる。

 いま相似なA(n),T1(n),T2(n)に対し、適当な核K(n)と殻を用いて
A(n)=S(n)H(n),T1(n)=S1(n)H(n),T2(n)=S2(n)H(n)
と表すと、これらが
A(n)=T1(n+1)T1(n)+T2(n)
を満たすことと
S(n)=K(n)S1(n+1)S1(n)+S2(n)
を満たすことは等価となることに注意しましょう。

分解の最小性

 ここでT2(n)が満たすべき最小性とは、T2(n)の殻の分母の次数(の最小値)が最小となることを言うものとします。そしてどのようなときにその最小性が満たされるかは次の定理によって判別することができます。

 多項式v(n)と有理関数K(n)=p(n)/q(n)strongly coprimeであるとは、任意の非負整数hに対し
gcd(v(n),p(nh))=gcd(v(n),q(n+h))=1
が成り立つことを言う。

 超幾何数列A(n)簡約であるとは、A(n)のある核と殻
K(n)=p(n)q(n),S(n)=u(n)v(n)
が以下を満たすことを言う。

  1. v(n)はshift-freeである。
  2. v(n)K(n)はstrongly coprimeである。

 なお簡約という語については説明の都合上便宜的に命名したものであり一般的なものではありません。

 簡約な超幾何数列A(n)に対し上の条件(i),(ii)を満たすような核K(n)を取る。
 このとき
A(n)=T1(n+1)T1(n)+T2(n)
なる任意の超幾何数列T1(n),T2(n)および任意の核K(n)に対し、K(n),K(n)に関するA(n),T2(n)の殻をそれぞれ
S(n)=u(n)v(n),S2(n)=u2(n)v2(n)
とおくと
degvdegv2
が成り立つ。

 この証明については書くと長くなるので、ここではK(n)=K(n)とした場合のみを示しておきます。

証明

 v(n)がある既約多項式の累乗b(n)kを因数に持つとき、ある整数hが存在してv2(n)b(n+h)kを因数に持つことを示す。b(n)kv2(n)のときは明らかなのでb(n)kv2(n)としてよい。
 このときK(n)=p(n)/q(n)に関するT1(n)の殻をS1(n)=u1(n)/v1(n)とおくと
u(n)v(n)=p(n)q(n)u1(n+1)v1(n+1)u1(n)v1(n)+u2(n)v2(n)
が成り立つので、この分母に注目すると
b(n)kv1(n+1)またはb(n)kv1(n)
がわかる。

b(n)kv1(n+1)のとき

 hb(n+h)kv1(n)を満たすような整数であって最小のものとする(仮定よりh1に注意する)。このときhの最小性から
b(n+h)kv1(n+1)
となるので再び上の分母に注目することで
b(n+h)kv2(n)
がわかる。

b(n)kv1(n)のとき

 hb(n+h)kv1(n+1)を満たすような整数であって最大のものとする(仮定よりh1に注意する)。このときhの最大性から
b(n+h)kv1(n)
となるので再び上の分母に注目することで
b(n+h)kv2(n)
がわかる(b(n+h)p(n)に注意する)。
 以上よりどちらの場合にもある整数hが存在してb(n+h)kv2(n)が成り立つことが示された。

 さて、これにより与えられたA(n)に対し
A(n)=T1(n+1)T1(n)+T2(n)
なるT1(n),T2(n)であってT2(n)が簡約であるものが構成できればこれは所望の最小性を満たすことがわかります。
 実際他のT1(n),T2(n)を用いて
A(n)=T1(n+1)T1(n)+T2(n)
と表せるとき
T1(n)=T1(n)T1(n)
とおくと
T2(n)=T1(n+1)T1(n)+T2(n)
が成り立つので定理4によりT2(n)の殻の分母の次数はT2(n)の次数以下となることがわかります。

分解の構成

 そしてそのようなT1(n),T2(n)は次のような手法によって構成することができます。

 有理関数K(n),S(n)について、K(n)=p(n)/q(n)がshift-reducedであるとき
S(n)=K(n)S1(n+1)S1(n)+u(n)v(n)q(n)
なる有理関数S1(n)と多項式u(n),v(n)であって(i),(ii)を満たすようなものが存在する。

証明

 S(n)を適当に 部分分数分解 することで、まずS(n)がある既約多項式b(n)を用いて
S(n)=a(n)b(n)k
と表せる場合を考える。このとき以下の三通りの場合が考えられる(K(n)の取り方から(1)と(2)は同時には起こらないことに注意する)。
(1) ある非負整数hに対しb(n)q(n+h)が成り立つ
(2) ある非負整数hに対しb(n)p(nh)が成り立つ
(3) 任意の非負整数hに対しb(n)p(nh)q(n+h)も割り切らない

(1)の場合

S1(n+1)=1K(n)a(n)b(n)k
とおくとある非負整数lkおよびある多項式c0,c1が存在して
S(n)=K(n)S1(n+1)S1(n)+q(n1)a(n1)p(n1)b(n1)k=K(n)S1(n+1)S1(n)+(c0(n)b(n1)l+c1(n)p(n1))
が成り立つ。このときさらに
S1(n)=S1(n)c1(n)p(n1)
とおくと
S(n)=K(n)S1(n+1)S1(n)+(c0(n)b(n1)l+c1(n+1)q(n))
が成り立つ。
 また
S(n)=c0(n)b(n1)l
に対して同様の操作を繰り返していくことで(3)の場合に帰着できる。

(2)の場合

S1(n)=a(n)b(n)k
とおくとある非負整数lkおよびある多項式c0,c1が存在して
S(n)=K(n)S1(n+1)S1(n)+p(n)a(n+1)q(n)b(n+1)k=K(n)S1(n+1)S1(n)+(c0(n)b(n+1)l+c1(n)q(n))
が成り立つ。
 また
S(n)=c0(n)b(n+1)l
に対して同様の操作を繰り返していくことで(3)の場合に帰着できる。

一般の場合

 これによって一般の有理関数S(n)に対し
S(n)=K(n)S1(n+1)S1(n)+(c0(n)v(n)+c1(n)q(n))
なる多項式v(n)であって条件(ii)を満たすようなものが構成できる。
 またv(n)がshift-freeでなければ上と同様の操作によって
a1(n)b(n)k+a2(n)b(n+h)k=K(n)S1(n+1)S1(n)+(a1(n)b(n)k+c0(n)b(n)l+c1(n)q(n))
と平行移動させることでshift-freeなるものが構成できる。

 超幾何数列A(n)に対しある超幾何数列T1(n)であって
T2(n)=A(n)(T1(n+1)T1(n))
が簡約な超幾何数列または0となるようなものが存在する。

証明

 A(n)の核K(n)=p(n)/q(n)と殻S(n)に対し上の補題のような有理関数S1(n)と多項式u(n),v(n)を取る。
 このとき
A(n)=S(n)H(n),T1(n)=S1(n)H(n),T2(n)=u(n)v(n)q(n)H(n)
とおくと、このT1(n),T2(n)は所望の性質を満たす。実際そのことは核
K(n)=p(n)q(n+1)
に関するT2(n)の殻が
S2(n)=u(n)v(n)
となることからわかる。

Abramov-Petkovšek's Algorithm

 一旦以上の議論をまとめておくと、与えられたA(n)に対し
A(n)=T1(n+1)T1(n)+T2(n)
なるT1(n),T2(n)であってT2(n)が簡約となるようなものは以下のようなアルゴリズムによって求めることができます。

  1. A(n)の階比の標準形
    A(n+1)A(n)=S(n+1)S(n)K(n)
    を一つ求める。
  2. このK(n),S(n)に対し補題5の証明のようなアルゴリズムによって
    S(n)=K(n)S1(n+1)S1(n)+(c0(n)v(n)+c1(n)q(n))
    なる有理関数S1(n)と多項式c0(n),c1(n)を構成する。
  3. このとき
    T1(n)=S1(n)A(n)S(n),T2(n)=(c0(n)v(n)+c1(n)q(n))A(n)S(n)
    が求める超幾何数列となる。

計算例

A(n)=1(n4+n2+1)n!
に対し上のようなT1(n),T2(n)を一つ求めよ。

解説

 A(n)の核と殻として
K(n)=1n+1S(n)=1n4+n2+1=12(n+1n2+n+1n1n2n+1)
を取る。このとき
S1(n+1)=11n+1n+1n2+n+1
つまり
S1(n)=n2n2n+1
とおくと
n1n2+n+1=K(n)S1(n+1)S1(n)+n2n2n+1
が成り立つので
2S(n)=K(n)S1(n+1)S1(n)+n2(n1)n2n+1=K(n)S1(n+1)S1(n)+1
を得る。したがって
T1(n)=n22(n2n+1)n!,T2(n)=12n!
が求める超幾何数列となる。

Residual Form

 さて上ではS2(n)の分母を最小化することを考えましたが、ここからさらにその分子を最小化することを考えていきましょう。
 いまあるS1(n),S2(n)を用いて
S2(n)=K(n)S1(n+1)S1(n)+S2(n)
と変形したときS1(n)が多項式でなければS2(n)の分母はS2(n)よりも大きくなってしまうので、S1(n)が多項式である場合を考えれば十分となります。したがってまずはK(n)=p(n)/q(n)とし
VK={p(n)f(n+1)q(n)f(n)f(n)F[n]}
という線形空間の性質について考えてみましょう(ただしFは適当な体とした)。

 F[x]の部分線形空間Vに対し
W=span{xk (k=0,1,2,)f(x)V,degfk}
とおくと
F[x]=VW
が成り立つ。

解説

 Wの取り方からV+Wが直和であることは明らか。
 任意の整数k0に対しxkVWが成り立つことを帰納法によって示す。xkWであれば明らか。またxkWであればあるk次のモニック多項式f(x)Vが存在し、帰納法の仮定により
xkf(x)span{1,x,,xk1}VW
が成り立つので
xk=(xkf(x))+f(x)VW
を得る。

 いまVKに対してこのような補空間WKを考えることによって次のような簡約化を考えることができます。

 超幾何数列A(n)residual formであるとは、A(n)のある核と殻
K(n)=p(n)q(n),S(n)=a(n)v(n)+b(n)q(n)
が以下を満たすことを言う。

  1. v(n)はshift-freeである。
  2. v(n)K(n)はstrongly coprimeである。
  3. dega<degvが成り立つ。
  4. b(n)WKである。

 これについても一般的な用語ではありません。

 超幾何数列A(n)に対しある超幾何数列T1(n)であって
T2(n)=A(n)(T1(n+1)T1(n))
がresidual formまたは0となるようなものが存在する。

証明

 A(n)の核K(n)=p(n)/q(n)と殻S(n)に対し補題5よりある有理関数S1(n)と多項式v(n),c0(n),c1(n)であって
S(n)=K(n)S1(n+1)S1(n)+(a(n)v(n)+b(n)q(n))
および上の(i),(ii)を満たすようなものが取れる。
 いまc0(n)v(n)で割り
c0(n)=c0(n)v(n)+a(n)
とおき、またこれに対し
c(n)=c0(n)q(n)+c1(n)
とおくと
c0(n)v(n)+c1(n)q(n)=a(n)v(n)+c(n)q(n)
が成り立つ(これによって(iii)が満たされる)。
 また補題7より
c(n)=c(n)+b(n)
なるc(n)VK,b(n)WKが存在し、またVKの取り方から
c(n)=p(n)f(n+1)q(n)f(n)=(K(n)f(n+1)f(n))q(n)
なる多項式f(n)が取れる。このとき
S1(n)=S1(n)+f(n)
とおくと
S(n)=K(n)S1(n+1)S1(n)+(a(n)v(n)+b(n)q(n))
が成り立つ。
 したがってこれに対し
T1(n)=S1(n)A(n)S(n),T2(n)=(a(n)v(n)+b(n)q(n))A(n)S(n)
とおくとこれらは所望の性質を満たすことがわかる。

WKの求め方

 ちなみにWKの基底は次のようにして求めることができます。

 d=max{degp,degq}としp(n),q(n)d,d1次の係数をそれぞれλp,λq,P,Qとおく。

  • degpdegqまたはλpλqが成り立つとき
    WK=span{1,n,,nd1}
  • degp=degqかつλp=λq=λが成り立つとき
    • d=(QP)/λZ0であれば
      WK=span{1,n,,nd2}
    • d=(QP)/λZ0であれば
      WK=span{1,n,,nd1,nd+1,,nd2,nd+d1}
      ただし
      d=min{deg(p(n)f(n+1)q(n)f(n))degf=d}

が成り立つ。

証明

 多項式f(n)に対し
g(n)=p(n)f(n+1)q(n)f(n)
の次数が取り得る値の範囲について考えればよい。

degpdegqまたはλpλqが成り立つとき

 このとき明らかに
degg=d+degf
が成り立つのでdeggの取り得る値の範囲は
deggd
と求まる。

degp=degqかつλp=λq=λが成り立つとき

 このときfをモニック多項式とすると
g(n)=p(n)(f(n+1)f(n))+(p(n)q(n))f(n)=(λk+PQ)nd+degf1+
と表せるのでdegfd (=(QP)/λ)であれば
degg=d+degf1
が成り立つ。
 また(dが非負整数であり)degf=dのときは
degg<d+d1
が成り立つので、これを次数d+k1(0k<d)の多項式
gk(n)=p(n)fk(n+1)q(n)fk(n)(degfk=k)
を用いて次数下げすることによって
degg<d1
とすることができる。
 したがってdeggの取り得る値の範囲はdZ0のとき
deggd1
と求まり、dZ0のとき
deggd1かつdeggd+d1
または
degg=min{deg(p(n)f(n+1)q(n)f(n))degf=d}
と求まる。
 以上より主張を得る。

計算例

K(n)=n4+1(n+1)4
に対しWKを求めよ。

解説

p(n)=n4+1,q(n)=(n+1)4
よりd=d=4が成り立つことに注意する。
 いまk=0,1,2,3,4に対し
gk(n)=p(n)(n+1)kq(n)nk
とおくと
g4(n)=(n+1)4g1(n)=(n+1)(3n3+3n2+n1)g0(n)=(4n3+6n2+4n)
が成り立つのでg4(n)
g4(n)+13g1(n)+12g0(n)=53n2+2n+43
と次数下げできる。したがってd=2つまり
WK=span{1,n,n7}
を得る。

A(n)=n2n+1n!
に対し定理8のようなT1(n),T2(n)を求めよ。

解説

 A(n)の核と殻
K(n)=n+1,S(n)=n2n+1=n1+1n+1
に対しAbramov-Petkovšek's algorithmを実行すると
S(n)=K(n)S1(n+1)S1(n)+S2(n)
なる有理関数S1(n),S2(n)として
S1(n)=1n+1,S2(n)=1n+2+n1
が取れる。
 またWK=span{1}なのでこれはまだ簡約化することができ、実際
n=K(n)1
より
S1(n)=S1(n)+1=nn+1,S2(n)=1n+2
つまり
T1(n)=nn+1n!,T2(n)=1n+2n!
とおくとこれが求める超幾何数列となる。

総和可能性

 residual formは真に最小性を持つものとなっており、これにより定理8のようなT2(n)0であるか否かによってA(n) Gosper総和可能 であるかどうかを判別することができます。

 簡約な超幾何数列A(n)に対し(i),(ii)を満たすような核と殻を
K(n)=p(n)q(n),S(n)=u(n)v(n)
とおく。
 このときA(n)がGosper総和可能であるためにはS(n)は多項式でなければならない。

証明

 S(n)が多項式ではない、特にv(n)がある既約多項式b(n)を因数に持つものとする。
 いま
A(n)=T(n+1)T(n)
なる超幾何数列T(n)が存在する、つまり
S(n)=K(n)u1(n+1)v1(n+1)u1(n)v1(n)
なる多項式u1(n),v1(n)が存在するならば定理5(の特別な場合の証明)と全く同様にして、ある0でない整数hが存在して
b(n+h)v1(n)かつb(n+h)v1(n+1)
または
b(n+h)v1(n)かつb(n+h)v1(n+1)
が成り立つことがわかる。このときv(n)b(n+h)も因数に持たなければならないが、これはv(n)がshift-freeであったことに矛盾。よってv(n)は定数でなければならないことが示された。

 residual formはGosper総和不可能である。

証明

 residual formA(n)に対し(i)-(iv)を満たすような核と殻
K(n)=p(n)q(n),S(n)=a(n)v(n)+b(n)q(n)
を取る。このとき
K(n)=p(n)q(n+1),S(n)=a(n)q(n)v(n)+b(n)
という核と殻を考えるとこれらは(i),(ii)を満たすので、命題9よりA(n)がGosper総和可能でればS(n)は多項式となる。特にv(n)q(n)が互いに素であることとdega<degvであることからa(n)=0でなければならない。
 また
A(n)=T(n+1)T(n)
なる超幾何数列T(n)が存在する、つまり
b(n)=p(n)x(n+1)q(n)x(n)
なる有理関数x(n)が存在するならば 第二回の記事 の定理4からx(n)は多項式となる。したがってb(n)VKWKつまりb(n)=0が成り立たなければならないが超幾何数列の定義からA(n)0であったことに矛盾。よってA(n)はGosper総和不可能である。

参考文献

[1]
S. A. Abramov, M. Petkovšek, Minimal decomposition of indefinite hypergeometric sums, Proceedings of the 2001 international symposium on Symbolic and algebraic computation, 2001, 7-14
[2]
H. Huang, M. Kauers, Z. Li, Definite sums of hypergeometric terms and limits of P-recursive sequences, Linz, 2017
投稿日:202445
更新日:2024418
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子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. 概要
  3. 標準形と核・殻
  4. 有理関数の標準形
  5. 超幾何数列の核と殻
  6. Abramov-Petkovšek Method
  7. 問題の帰着
  8. 分解の最小性
  9. 分解の構成
  10. Abramov-Petkovšek's Algorithm
  11. Residual Form
  12. WKの求め方
  13. 総和可能性
  14. 参考文献