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雑記:部分分数分解

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{Aut}[0]{\operatorname{Aut}} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{c}[0]{\cdot} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{F}[4]{{}_2F_1\left(\begin{matrix}#1,#2\\#3\end{matrix};#4\right)} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{FF}[6]{{}_3F_2\left(\begin{matrix}#1,#2,#3\\#4,#5\end{matrix};#6\right)} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{H}[0]{\mathbb{H}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{La}[0]{\Lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{M}[4]{\begin{pmatrix}#1& #2\\#3& #4\end{pmatrix}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{o}[0]{\omega} \newcommand{O}[0]{\Omega} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{Res}[0]{\operatorname{Res}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事では部分分数分解についての基本事項についてまとめていきます。
 部分分数分解とは多項式$f,g,h$に対して
$$\frac{f(x)}{(x-a_1)(x-a_2)\cdots(x-a_n)} =\frac{\a_1}{x-a_1}+\frac{\a_2}{x-a_2}+\cdots+\frac{\a_n}{x-a_n}$$

$$\frac{f(x)}{g(x)h(x)}=\frac{f_1(x)}{g(x)}+\frac{f_2(x)}{h(x)}$$
のように高次の分数式を低次の分数式の和に分解することを言います。
 高校数学では分母を両辺に掛けて係数比較することで$\a_1,\a_2,\ldots,\a_n$$f_1,f_2$を決定するのが常套手段となっていますが、ここではより発展的な話をしていきましょう。

分解の存在性と一意性

 一般の分数式を考えていくにあたって、そもそもどのようなときにどのような部分分数分解が存在するのかということを確かめておく必要があります。そのことについては以下のような事実として記述することができます。

Ver. 1

 多項式$f,g,h$について、$g,h$が互いに素つまり共通因子を持たず、また
$$\deg f<\deg g+\deg h$$
が成り立つとき
$$\deg f_1<\deg g,\quad\deg f_2<\deg h$$
および
$$\frac{f(x)}{g(x)h(x)}=\frac{f_1(x)}{g(x)}+\frac{f_2(x)}{h(x)}$$
を満たすような多項式$f_1,f_2$が一意に存在する。

 この命題を示すにあたって
$$f(x)=f_2(x)g(x)+f_1(x)h(x)$$
という恒等式を考える必要がありますが、これは不定方程式
$$c=ax+by$$
の整数解$(x,y)$を考えるのと同様の手法が使えます。
 それは整数同士の割り算と同様に多項式同士にも除法の原理が考えられることに起因しています(このことは専門的な用語を使うと、整数環$\Z$と体係数多項式環$K[x]$は共にユークリッド整域である、と言い換えられます)。
 詳しいことについては以下の証明を見てみればわかると思います。

証明(冗長なので折り畳み)

 多項式同士の割り算により
\begin{align} g(x)&=q_1(x)h(x)+r_1(x)&&(\deg r_1<\deg h)\\ h(x)&=q_2(x)r_1(x)+r_2(x)&&(\deg r_2<\deg r_1)\\ r_1(x)&=q_3(x)r_2(x)+r_3(x)&&(\deg r_3<\deg r_2)\\ &\;\;\vdots\\ r_{n-1}(x)&=q_{n+1}r_n(x)+r_{n+1}(x)&&(\deg r_{n+1}<\deg r_n) \end{align}
と計算していくと$g,h$は互いに素であったことからいずれ$\deg r_{n+1}=0$、つまり$r_{n+1}(x)$は定数となる。
 このときこの計算を遡っていくことで
$$1=q(x)g(x)+p(x)h(x)$$
なる多項式$p,q$が存在することがわかる。そしてこの$p,q$を用いることで恒等式
$$f(x)=s(x)g(x)+r(x)h(x)$$
を満たすような多項式は($g,h$が互いに素であることから)
$$(r,s)=(-gk+fp,hk+fq)\quad(k=k(x)\ \mbox{は任意})$$
で尽くされることもわかる。
 いま$fp$$g$で割ることで
$$fp=gk+f_1\quad(\deg f_1<\deg g)$$
となるような多項式$k,f_1$を取り$f_2g=f-f_1h$とおくと
$$\deg(f_2g)\leq\max\{\deg f,\deg(f_1h)\}<\deg g+\deg h$$
つまり
$$\deg f_1<\deg g,\quad\deg f_2<\deg h$$
とできることが示された。
 またその他の解$(r,s)\neq(f_1,f_2)$に対しては
\begin{align} \deg r&=\deg(-gk+f_1)\geq\deg g\\ \deg s&=\deg(hk+f_2)\geq\deg h \end{align}
が成り立つのでそのような$f_1,f_2$は一意であることも示された。

Ver. 2

 上の命題を使うことによってより一般に以下が成り立つことがわかります。

 それぞれ互いに素な多項式$g_1,g_2,\ldots,g_n$に対し
$$\deg f_k<\deg g_k$$
かつ
$$\frac{f(x)}{g_1(x)g_2(x)\cdots g_n(x)} =f_0(x)+\frac{f_1(x)}{g_1(x)}+\frac{f_2(x)}{g_2(x)}+\cdots+\frac{f_n(x)}{g_n(x)}$$
を満たすような多項式$f_0,f_1,\ldots f_n$が一意に存在する。
 またこのとき
$$\deg f_0=\deg f-(\deg g_1+\deg g_2+\cdots+\deg g_n)$$
が成り立つ。

 $f_0$は単に$f$をその分母で割ることで得られます。

Ver. 3

 またこれを$g_k(x)=(x-a_k)^{e_k}$とし
$$f_k(x)=\a_{k,1}(x-a_k)^{e_k-1}+\a_{k,2}(x-a_k)^{e_k-2}+\cdots+\a_{k,e_k}$$
と展開することで以下の系が得られます。

 異なる複素数$a_1,a_2,\ldots,a_n$に対し
$$\frac{f(x)}{(x-a_1)^{e_1}(x-a_2)^{e_2}\cdots(x-a_n)^{e_n}} =f_0(x)+\sum^n_{k=1}\sum^{e_k}_{j=1}\frac{\a_{k,j}}{(x-a_k)^j}$$
を満たすような複素数$\a_{k,j}$が一意に存在する。

 ちなみにこの命題は数学的帰納法によっても示せます。

 分母の次数についての帰納法で示す(次数が$0$のときは明らか)。いま任意の$f$に対して
$$\frac{f(x)}{(x-a)^eg(x)}\quad (g(a)\neq0)$$
が上のように分解できるとする。このとき
$$\a=\frac{f(a)}{g(a)},\quad h(x)=\frac1{x-a}\l(f(x)-f(a)\frac{g(x)}{g(a)}\r)$$
とおくと
$$\frac{f(x)}{(x-a)^{e+1}g(x)}-\frac\a{(x-a)^{e+1}} =\frac{f(x)g(a)-f(a)g(x)}{(x-a)^{e+1}g(x)g(a)}=\frac{h(x)}{(x-a)^eg(x)}$$
が成り立ち、この右辺は仮定より部分分数展開できるため
$$\frac{f(x)}{(x-a)^{e+1}g(x)}$$
も部分分数分解できることが示された。

ヘヴィサイドの展開公式

 上の証明から
$$\frac{f(x)}{(x-a)^eg(x)}=\frac{h(x)}{(x-a)^{e-1}g(x)}+\frac{f(a)/g(a)}{(x-a)^e}$$
のように展開係数が決定できることがわかりますが、これを繰り返すことで以下の公式が成り立つことがわかります。

 多項式$f,g\;(g(a)\neq0)$に対し
$$\a_j=\frac1{j!}\frac{d^j}{dx^j}\frac{f(x)}{g(x)}\Bigg|_{x=a}$$
とおくとある多項式$h(x)$が存在して
$$\frac{f(x)}{(x-a)^eg(x)}=\frac{h(x)}{g(x)}+\sum^e_{j=1}\frac{\a_{e-j}}{(x-a)^j}$$
が成り立つ。

 一般的な導出法を知っておいた方が有益なのでそれも書いておきましょう。

$$\frac{f(x)}{(x-a)^eg(x)}=\frac{h(x)}{g(x)}+\sum^e_{j=1}\frac{\a_{e-j}}{(x-a)^j}$$
のような展開が存在することは先で示した通り。いまこの両辺に$(x-a)^e$を掛けると
$$\frac{f(x)}{g(x)}=\frac{h(x)}{g(x)}(x-a)^e+\sum^e_{j=1}\a_j(x-a)^j$$
と表せるので、この両辺を$j$回微分して$x=a$とすることで
$$\frac{d^j}{dx^j}\frac{f(x)}{g(x)}\Bigg|_{x=a}=j!\cdot a_j$$
を得る。

 微分なども入っていて少しややこしいですが、高校数学程度なら指数がそれぞれ$1$の場合の次の形で覚えておけば十分でしょう。

 $a_1,a_2,\ldots,a_n$を異なる複素数とし$f$$\deg f< n$なる多項式とする。このとき
$$g(x)=(x-a_1)(x-a_2)\cdots(x-a_n)$$
とおくと
$$\frac{f(x)}{g(x)} =\sum^n_{k=1}\frac1{x-a_k}\frac{f(a_k)}{g'(a_k)}$$
が成り立つ。

 この展開公式は係数比較や互除法などの面倒な手順を省略できるだけでなく、一般の抽象性の高い有理式の部分分数分解も与えることができるという点で非常に便利な公式となっています。

具体例

$$\frac1{x(x+1)(x+2)\cdots(x+n)}$$
の部分分数分解を考える。これの$1/(x+k)$における展開係数は
$$\frac1{-k(-k+1)\cdots(-1)\cdot1\cdot2\cdots(n-k)}=\frac{(-1)^k}{k!(n-k)!}$$
と計算できるので
$$\frac{n!}{x(x+1)(x+2)\cdots(x+n)}=\sum^n_{k=0}(-1)^k\frac{{}_nC_k}{x+k}$$
と展開できることがわかる。

$$\frac1{(x-\a)^{n+1}(x-\b)^{n+1}}$$
の部分分数分解を考える。これの$1/(x-\a)^{n-k+1}$における展開係数は
$$\frac{(n+k)!}{k!n!}\frac{(-1)^k}{(\a-\b)^{n+k+1}}$$
と計算できるので
$$\frac1{(x-\a)^{n+1}(x-\b)^{n+1}} =\sum^n_{k=0}(-1)^k\frac{{}_{n+k}C_n}{(\a-\b)^{n+k+1}} \l(\frac1{(x-\a)^{n-k+1}}+\frac1{(\b-x)^{n-k+1}}\r)$$
と展開できることがわかる。

 ちなみに私は とある記事 のコメントにて
\begin{eqnarray} &&\frac{z^4}{(4z^5+z+1)(z^5+z^4+4)} \\&=&\frac1{3672}\l(\frac{1060z^4+76z^3+4z^2-20z-19}{4z^5+z+1} -\frac{265z^4+284z^3+20z^2-4z-76}{z^5+z^4+4}\r) \end{eqnarray}
という展開を導出したことがありますが、こういう有理数の範囲で因数分解できず、しかも次数が高いような場合ばっかりは展開公式でゴリ押すのはおすすめできません(不可能ではないですが...)。こういうのをいい感じに処理できる方法とかないですかねぇ。

おまけ:留数定理による部分分数分解

 上では分数式が部分分数分解を持つことやその展開係数が留数のように計算できることを示しましたが、何か、こう、もう少し有理関数特有の性質を利用した証明というのが欲しくなります。
 ここで有理関数とはリーマン球面$\hat{\C}=\C\cup\{\infty\}$上の有理型関数であるという特徴付けがあります。そしてコンパクトリーマン面上の微分形式の留数の和は$0$であるという定理があります。ということで有理関数$f(z)$に対し
$$\o=\frac{f(w)}{z-w}dw$$
という微分形式を考えてみましょう。するとコンパクトリーマン面上の留数定理より
$$0=\Res_{w=z}\o+\sum_{f(\a)=\infty}\Res_{w=\a}\o+\Res_{w=\infty}\o$$
が成り立ちます。
 いま簡単のため$f(\infty)=0$、つまり分子より分母の次数の方が高いものとします。このときこのそれぞれの留数は以下のように計算できます。

$\Res_{w=z}\o=-f(z)$

 自明。

$\Re_{w=\infty}\o=0$

 $w'=1/w$とおくと$\o$$w=\infty$つまり$w'=0$周りで
$$\o=\frac{f(1/w')}{z-1/w'}\cdot-\frac{dw'}{w'^2}=\frac{f(1/w')}{w'(1-zw')}dw'$$
と表せるのでこの$w'=0$における留数は
$$f(\infty)=0$$
と求まる。

 $f(z)$$z=\a$における位数を$e_\a$とおくと、十分小さい$r>0$に対し
$$\Res_{w=\a}\o=\sum^{e_\a}_{k=1}\l(\frac1{2\pi i}\int_{|w-\a|=r}(w-\a)^{k-1}f(w)dw\r)\frac1{(z-\a)^k}$$
が成り立つ。

 十分小さい$r>0$に対し
\begin{align} \Res_{w=z}\o &=\frac1{2\pi i}\oint_{|w-\a|=r}\frac{f(w)}{w-z}dw\\ &=\frac1{2\pi i}\int_{|w-\a|=r}\frac{f(w)}{z-\a}\frac1{1-\frac{w-\a}{z-\a}}dw\\ &=\sum^\infty_{k=0}\l(\frac1{2\pi i}\int_{|w-\a|=r}(w-\a)^kf(w)dw\r)\frac1{(z-\a)^{k+1}}\\ &=\sum^{e_\a-1}_{k=0}\l(\frac1{2\pi i}\int_{|w-\a|=r}(w-\a)^kf(w)dw\r)\frac1{(z-\a)^{k+1}} \end{align}
を得る。

 以上より
$$f(z)=\sum_{f(\a)=\infty}\sum^{e_\a}_{k=1}\l(\frac1{2\pi i}\int_{|w-\a|=r_\a}(w-\a)^{k-1}f(w)dw\r)\frac1{(z-\a)^k}$$
という部分分数展開が得られるわけです。ここで
$$\frac1{2\pi i}\int_{|w-\a|=r_\a}(w-\a)^{e_\a-k-1}f(w)dw =\frac1{k!}\frac{d^k}{dz^k}(z-\a)^{e_\a}f(z)\Bigg|_{z=\a}$$
が成り立つことは言うまでもないでしょう。
 ちなみに同様の積分を考えることで一般の有理型関数にも部分分数展開を与えることができます。そのことについては この記事 で解説しているので興味があればそちらも合わせてお読みください。

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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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