はじめに
この記事では
前回の記事
に引き続き保型形式の基礎理論について要所を掻い摘んで解説していきます。
留数定理
リーマン面上の解析的な関数を考えるにあたって、やはりコーシーの積分定理や留数定理が非常に大きな役割を果たす。ただしリーマン面上で線積分を考えるには少し工夫しなければならない。
リーマン面上の関数が正則、または有理型であるとは、の各座標近傍に対しが上正則、有理型であることをいう。またがにおいて位の零点、極を持つことをはにおいて位の零点、極を持つという。
微分形式
リーマン面のある座標近傍系に対する有理型関数の族であって整合条件
を満たすものをの微分形式(微分1-形式)という。これは上の微分形式の族としてと表すことが多い。
またの各点において、対応するが位の零点、極を持つことをはにおいて位の零点、極を持つという。
積分
コンパクトリーマン面上の単純曲線に対して
をがのある座標近傍に含まれるように取る(コンパクト性よりこのような分割は存在する)。
このような分割に対し微分形式の積分を
によって定める。整合条件よりこの値はの分割の仕方に依らない。
コンパクトリーマン面上のでない微分形式は零点、極を高々有限個しか持たない。
もしが無限個の零点を持つとすると、コンパクト性よりその零点はある集積点を持つことになるが、のある近傍に対応するは集積した零点を持つ、つまりとなって整合条件からが成り立つことがわかる。
留数定理
コンパクトリーマン面上の微分形式に対しその留数の和はとなる。
微分形式の各極に対しその近傍を十分小さく取り、とおく。このとき
が成り立つ。
いま上では正則なので、この右辺はの適当な三角形分割によってとなることがわかる。ちなみにコーシー・リーマン方程式から上でが成り立つので一般化ストークスの定理から
とも計算できる。
有理型関数の性質
リーマン面上の有理型関数に対してと定めると
よりこれは整合条件を満たす、つまり微分形式を成すことに注意する。
偏角の原理
コンパクトリーマン面上のでない有理型関数は重複度込みで同じ個数の零点と極を持つ。
有理型関数に対し微分形式を考えることで留数定理から主張を得る。
コンパクトリーマン面上で丁度個の極を持つ有理型関数は上で任意の値を丁度回とる。特に丁度つの極を持つ有理型関数は全単射となる。
有理型関数に対しとおくとはと同じ極を持つので偏角の原理よりこれは上で丁度個の零点を持つことがわかる。
リウヴィルの定理
コンパクトリーマン面上の正則関数は定数関数に限る。
上より定数でない有理型関数は必ず極を持つので極を持たない関数、つまり正則関数は定数関数に限る。
楕円関数の性質
保型形式の話とは少し変わるが、楕円関数についてのコンパクトリーマン面を使った手法について簡単に紹介しておく。ちなみに初等的な手法については
昔の記事
で解説している。
線形独立な複素数について
を満たす有理型関数のことを楕円関数と言う。
いま複素数平面を格子による作用で割った空間および自然な写像
を考える。このとき任意のに対してその近傍を十分小さく取れば
が成り立つのでは全単射となる。これによっての座標近傍を定めるとはコンパクトリーマン面となる。
いま楕円関数に対して上の有理型関数が存在して
が成り立つので楕円関数は上の有理型関数とみなせ、更にとおくとの座標変換に対して
が成り立つので楕円関数は上の微分形式ともみなせる。
以上のことから楕円関数について以下の主張が成り立つ。なおの完全代表系を
とおく(これを基本領域という)。
- (リウヴィルの第一定理)正則な楕円関数は定数関数に限る。
- (リウヴィルの第二定理)楕円関数は上で高々有限個の極を持ち、その留数の和はとなる。
- (リウヴィルの第三定理)でない楕円関数は上で重複度込みで同じ個数の零点と極を持つ。
それぞれリウヴィルの定理、留数定理、偏角の原理より直ちに導かれる。