2
大学数学基礎解説
文献あり

保型形式入門:コンパクトリーマン面上の関数

627
0

はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続き保型形式の基礎理論について要所を掻い摘んで解説していきます。

留数定理

 リーマン面上の解析的な関数を考えるにあたって、やはりコーシーの積分定理や留数定理が非常に大きな役割を果たす。ただしリーマン面上で線積分を考えるには少し工夫しなければならない。

 リーマン面X上の関数f:XCが正則、または有理型であるとは、Xの各座標近傍(U,φ)に対しfφ1φ(U)上正則、有理型であることをいう。またfφ1z=φ(α)においてn位の零点、極を持つことをfαにおいてn位の零点、極を持つという。

微分形式

 リーマン面Xのある座標近傍系{(Uλ,φλ)}λΛに対する有理型関数fλ:φλ(Uλ)Cの族ω=(fλ(z))λΛであって整合条件
fα(z)=fβ(φβφα1(z))d(φβφα1)dz(zφα(UαUβ))
を満たすものをX微分形式(微分1-形式)という。これはC上の微分形式の族としてω=(fλ(z)dz)と表すことが多い。
 またXの各点αにおいて、対応するfλn位の零点、極を持つことをωαにおいてn位の零点、極を持つという。

積分

 コンパクトリーマン面X上の単純曲線γ:[0,1]Xに対して
0=a0<a1<<an=1
γ([ai,ai+1])Xのある座標近傍Uλiに含まれるように取る(コンパクト性よりこのような分割は存在する)。
 このような分割に対し微分形式ω=(fλ(z)dz)の積分を
γω=i=0n1γifλi(z)dz(γi=φλiγ:[ai,ai+1]C)
によって定める。整合条件よりこの値はγの分割の仕方に依らない。

 コンパクトリーマン面上の0でない微分形式は零点、極を高々有限個しか持たない。

 もしω=(fλ(z)dz)が無限個の零点を持つとすると、コンパクト性よりその零点はある集積点αを持つことになるが、αのある近傍に対応するfλ(z)は集積した零点を持つ、つまりfλ=0となって整合条件からω=0が成り立つことがわかる。

留数定理

 コンパクトリーマン面上の微分形式に対しその留数の和は0となる。

 微分形式ωの各極αに対しその近傍Uαを十分小さく取り、X0=XαUαとおく。このとき
2πiαResαω=αUαω=X0ω
が成り立つ。
 いまX0上でωは正則なので、この右辺はX0の適当な三角形分割によって0となることがわかる。ちなみにコーシー・リーマン方程式からX0上でdω=0が成り立つので一般化ストークスの定理から
X0ω=X0dω=0
とも計算できる。

有理型関数の性質

 リーマン面上の有理型関数fに対してdf=((fφλ1)dz)と定めると
fφα1=(fφβ1)(φβφλ1)
よりこれは整合条件を満たす、つまり微分形式を成すことに注意する。

偏角の原理

 コンパクトリーマン面上の0でない有理型関数は重複度込みで同じ個数の零点と極を持つ。

 有理型関数fに対し微分形式ω=df/fを考えることで留数定理から主張を得る。

 コンパクトリーマン面X上で丁度n個の極を持つ有理型関数はX上で任意の値cCを丁度n回とる。特に丁度1つの極を持つ有理型関数は全単射となる。

 有理型関数fに対しg=fcとおくとgfと同じ極を持つので偏角の原理よりこれはX上で丁度n個の零点を持つことがわかる。

リウヴィルの定理

 コンパクトリーマン面上の正則関数は定数関数に限る。

 上より定数でない有理型関数は必ず極を持つので極を持たない関数、つまり正則関数は定数関数に限る。

楕円関数の性質

 保型形式の話とは少し変わるが、楕円関数についてのコンパクトリーマン面を使った手法について簡単に紹介しておく。ちなみに初等的な手法については 昔の記事 で解説している。

 R線形独立な複素数ω1,ω2について
f(z+mω1+nω2)=f(z)(m,nZ)
を満たす有理型関数fのことを楕円関数と言う。

 いま複素数平面Cを格子L=ω1Z+ω2Zによる作用zz+ω(ωL)で割った空間C/Lおよび自然な写像
π:CC/Lzz+L
を考える。このとき任意のzCに対してその近傍Uを十分小さく取れば
(U+ω)U=(ωL,ω0)
が成り立つのでπ|U:Uπ(U)は全単射となる。これによってC/Lの座標近傍(π(U),π|U1)を定めるとC/Lはコンパクトリーマン面となる。
 いま楕円関数fに対してC/L上の有理型関数gが存在して
f=gπ
が成り立つので楕円関数はC/L上の有理型関数とみなせ、更にΩ=(f(z)dz)とおくとC/Lの座標変換zz+ωに対して
f(z+ω)(z+ω)=f(z)
が成り立つので楕円関数はC/L上の微分形式ともみなせる。
 以上のことから楕円関数について以下の主張が成り立つ。なおC/Lの完全代表系を
P={sω1+tω2s,t[0,1)}
とおく(これを基本領域という)。

  • (リウヴィルの第一定理)正則な楕円関数は定数関数に限る。
  • (リウヴィルの第二定理)楕円関数はP上で高々有限個の極を持ち、その留数の和は0となる。
  • (リウヴィルの第三定理)0でない楕円関数はP上で重複度込みで同じ個数の零点と極を持つ。

 それぞれリウヴィルの定理、留数定理、偏角の原理より直ちに導かれる。

参考文献

投稿日:2023721
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

子葉
子葉
1066
259867
主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. 留数定理
  3. 有理型関数の性質
  4. 楕円関数の性質
  5. 参考文献