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大学数学基礎解説
文献あり

保型形式入門:コンパクトリーマン面上の関数

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{H}[0]{\mathbb{H}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{La}[0]{\Lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{M}[4]{\begin{pmatrix}#1& #2\\#3& #4\end{pmatrix}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{o}[0]{\omega} \newcommand{O}[0]{\Omega} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{P}[0]{\mathcal{P}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続き保型形式の基礎理論について要所を掻い摘んで解説していきます。

留数定理

 リーマン面上の解析的な関数を考えるにあたって、やはりコーシーの積分定理や留数定理が非常に大きな役割を果たす。ただしリーマン面上で線積分を考えるには少し工夫しなければならない。

 リーマン面$X$上の関数$f:X\to\C$が正則、または有理型であるとは、$X$の各座標近傍$(U,\varphi)$に対し$f\circ\varphi^{-1}$$\varphi(U)$上正則、有理型であることをいう。また$f\circ\varphi^{-1}$$z=\varphi(\a)$において$n$位の零点、極を持つことを$f$$\a$において$n$位の零点、極を持つという。

微分形式

 リーマン面$X$のある座標近傍系$\{(U_\la,\varphi_\la)\}_{\la\in\La}$に対する有理型関数$f_\la:\varphi_\la(U_\la)\to\C$の族$\o=(f_\la(z))_{\la\in\La}$であって整合条件
$$f_\a(z)=f_\b(\varphi_\b\circ\varphi_\a^{-1}(z))\frac{d(\varphi_\b\circ\varphi_\a^{-1})}{dz} \quad(\forall z\in\varphi_\a(U_\a\cap U_\b))$$
を満たすものを$X$微分形式(微分1-形式)という。これは$\C$上の微分形式の族として$\o=(f_\la(z)dz)$と表すことが多い。
 また$X$の各点$\a$において、対応する$f_\la$$n$位の零点、極を持つことを$\o$$\a$において$n$位の零点、極を持つという。

積分

 コンパクトリーマン面$X$上の単純曲線$\g:[0,1]\to X$に対して
$0=a_0< a_1<\cdots< a_n=1$
$\g([a_i,a_{i+1}])$$X$のある座標近傍$U_{\la_i}$に含まれるように取る(コンパクト性よりこのような分割は存在する)。
 このような分割に対し微分形式$\o=(f_\la(z)dz)$の積分を
$$\int_\g\o=\sum^{n-1}_{i=0}\int_{\g_i}f_{\la_i}(z)dz\quad (\g_i=\varphi_{\la_i}\circ\g:[a_i,a_{i+1}]\to\C)$$
によって定める。整合条件よりこの値は$\g$の分割の仕方に依らない。

 コンパクトリーマン面上の$0$でない微分形式は零点、極を高々有限個しか持たない。

 もし$\o=(f_\la(z)dz)$が無限個の零点を持つとすると、コンパクト性よりその零点はある集積点$\a$を持つことになるが、$\a$のある近傍に対応する$f_\la(z)$は集積した零点を持つ、つまり$f_\la=0$となって整合条件から$\o=0$が成り立つことがわかる。

留数定理

 コンパクトリーマン面上の微分形式に対しその留数の和は$0$となる。

 微分形式$\o$の各極$\a$に対しその近傍$U_\a$を十分小さく取り、$X_0=X\setminus\bigcup_\a U_\a$とおく。このとき
$$2\pi i\sum_\a\operatorname{Res}_\a\o=\sum_\a\int_{\partial U_\a}\o=-\int_{\partial X_0}\o$$
が成り立つ。
 いま$X_0$上で$\o$は正則なので、この右辺は$X_0$の適当な三角形分割によって$0$となることがわかる。ちなみにコーシー・リーマン方程式から$X_0$上で$d\o=0$が成り立つので一般化ストークスの定理から
$$\int_{\partial X_0}\o=\int_{X_0}d\o=0$$
とも計算できる。

有理型関数の性質

 リーマン面上の有理型関数$f$に対して$df=((f\circ\varphi_\la^{-1})'dz)$と定めると
$$f\circ\varphi_\a^{-1}=(f\circ\varphi_\b^{-1})\circ(\varphi_\b\circ\varphi_\la^{-1})$$
よりこれは整合条件を満たす、つまり微分形式を成すことに注意する。

偏角の原理

 コンパクトリーマン面上の$0$でない有理型関数は重複度込みで同じ個数の零点と極を持つ。

 有理型関数$f$に対し微分形式$\o=df/f$を考えることで留数定理から主張を得る。

 コンパクトリーマン面$X$上で丁度$n$個の極を持つ有理型関数は$X$上で任意の値$c\in\C$を丁度$n$回とる。特に丁度$1$つの極を持つ有理型関数は全単射となる。

 有理型関数$f$に対し$g=f-c$とおくと$g$$f$と同じ極を持つので偏角の原理よりこれは$X$上で丁度$n$個の零点を持つことがわかる。

リウヴィルの定理

 コンパクトリーマン面上の正則関数は定数関数に限る。

 上より定数でない有理型関数は必ず極を持つので極を持たない関数、つまり正則関数は定数関数に限る。

楕円関数の性質

 保型形式の話とは少し変わるが、楕円関数についてのコンパクトリーマン面を使った手法について簡単に紹介しておく。ちなみに初等的な手法については 昔の記事 で解説している。

 $\R$線形独立な複素数$\o_1,\o_2$について
$f(z+m\o_1+n\o_2)=f(z)\quad(m,n\in\Z)$
を満たす有理型関数$f$のことを楕円関数と言う。

 いま複素数平面$\C$を格子$L=\o_1\Z+\o_2\Z$による作用$z\mapsto z+\o\;(\o\in L)$で割った空間$\C/L$および自然な写像
$\pi:\C\to\C/L\quad z\mapsto z+L$
を考える。このとき任意の$z\in\C$に対してその近傍$U$を十分小さく取れば
$(U+\o)\cup U=\emptyset\quad(\o\in L,\o\neq0)$
が成り立つので$\pi|_U:U\to\pi(U)$は全単射となる。これによって$\C/L$の座標近傍$(\pi(U),\pi|_U^{-1})$を定めると$\C/L$はコンパクトリーマン面となる。
 いま楕円関数$f$に対して$\C/L$上の有理型関数$g$が存在して
$f=g\circ\pi$
が成り立つので楕円関数は$\C/L$上の有理型関数とみなせ、更に$\O=(f(z)dz)$とおくと$\C/L$の座標変換$z\mapsto z+\o$に対して
$f(z+\o)(z+\o)'=f(z)$
が成り立つので楕円関数は$\C/L$上の微分形式ともみなせる。
 以上のことから楕円関数について以下の主張が成り立つ。なお$\C/L$の完全代表系を
$\P=\{s\o_1+t\o_2\mid s,t\in[0,1)\}$
とおく(これを基本領域という)。

  • (リウヴィルの第一定理)正則な楕円関数は定数関数に限る。
  • (リウヴィルの第二定理)楕円関数は$\P$上で高々有限個の極を持ち、その留数の和は$0$となる。
  • (リウヴィルの第三定理)$0$でない楕円関数は$\P$上で重複度込みで同じ個数の零点と極を持つ。

 それぞれリウヴィルの定理、留数定理、偏角の原理より直ちに導かれる。

参考文献

投稿日:2023721

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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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