はじめに
この記事では
前回の記事
に引き続き保型形式の基礎理論について要所を掻い摘んで解説していきます。
の成すリーマン面
この記事ではにリーマン面の構造を入れていく。
リーマン面
位相空間とその開集合上の写像が
・は連結なハウスドルフ空間
・はの被覆、つまり
・は同相写像
・ならは正則関数
を満たすとき、はリーマン面、あるいは単にはリーマン面であるという。
この各写像のことを局所座標系、のことを座標近傍、その組のことを座標近傍系という。
以下からへの自然な写像をとおき、の各点に対しその座標近傍を次のように定める。
方針
前回の記事
の補題3からの近傍であって
を満たすようなものが存在する。必要に応じてを再びと置くことではの作用に対して不変であるものとしてよい。
このときの逆像はによって与えられる。実際が成り立つとき、あるによってと表せるのでとなり、の取り方からつまりがわかる。または連続な開写像であったのでこれによって位相同型が得られる。
したがって正則写像をの作用に対して不変で、が単射であるように取れれば、これは座標近傍を成すことになる。
通常点における座標近傍
が通常点のとき、より恒等写像は上のような性質を満たすので、座標近傍が得られる。
楕円点における座標近傍
が楕円点のとき、とし、なるを取るとは
によって生成される。またの固有値はなので
と対角化できる。特に
つまり
が成り立つので
はの作用に対し不変であり、座標近傍が得られる(単射性については省略)。
尖点における座標近傍
が楕円点のとき、なるを取るとあるによって
が成り立っていたので
はの作用に対し不変であり、座標近傍が得られる。
補足
通常点近傍と基本領域との対応
前々回の記事
で紹介した領域
はが通常点であることからであり、また基本領域であることから
を満たす。
したがって✔方針のようなとしてこのが取れ、通常点近傍に定まる局所座標系はと適当な基本領域を対応付ける写像に他ならないことがわかる(これによっての境界を除くすべての通常点を包む座標近傍が定まる)。
楕円点近傍のイメージ
に対して
とおくと、上での議論からの生成元に対して
特に
が成り立っていたのではの作用に対して不変となる。また一次変換の円円対応に注意すると、を十分小さく取れば✔方針のようなとしてが取れることがわかる。
したがって楕円点近傍の局所座標は
という図式によって定まっていることがわかる。
この説明だけだと少しイメージしづらいので具体的にの楕円点(位数)の場合を考えてみよう。
画像がデカいので折りたたみ
の基本領域を以下のように取り、の周りに円を書いてみる。
Γ\ℍのイメージ
Γ\Uのイメージ
この白い円の中身はによって次のような領域に写される。
ρΓρ^-1\Wのイメージ
そしてこれはによって開円盤に写されることとなる。
Wのイメージ
これが楕円点近傍における座標近傍の大まかなイメージとなる。
尖点近傍のイメージ
における尖点の近傍(基本近傍系)はの近傍
のによる引き戻しによって定めていたのであった。
また明らかにの作用に対しては不変なのでもの作用に対して不変となる。特にを十分大きく取れば✔方針のようなとしてが取れることがわかる。
したがって尖点近傍の局所座標は
という図式によって定まっていることがわかる。
リーマン面全体としてのイメージ
結局のところはどのような図形を定めるのか、ということについてはtsujimotterさんの
この記事
や
こちらの記事
で直感的・視覚的に説明されているのでよければ参照されたい。