はじめに
この記事では
前回の記事
に引き続き保型形式の基礎理論について要所を掻い摘んで解説していきます。
商空間
には自然な写像
による商位相、つまり
を開集合系とする位相を入れることができる。
多くの場合はコンパクトにはならないが、これにの尖点を付け加えるとコンパクト化できることがある。そのことについての事実を簡単に紹介しておこう。
の位相
Fuchs群に対しその尖点全体の集合をとし
とおく。この集合に対し次のような基本近傍系によって位相を定める。
とおいておく。
- に対してはのにおける基本近傍系を取る。
- に対してはなるを取り
を基本近傍系として取る(は実軸でと接する円の内部を表す)。
はにも作用するので商空間を考えることができる。
ハウスドルフ性について
任意のに対しそれぞれの開近傍であって
を満たすようなものが存在する。
前々回の記事
の定理3より任意のの近傍であって
が有限集合となるようなものが取れる。このとき
とおき、必要に応じて順番を入れ替えることで
としてよい。
いま(のハウスドルフ性から)に対しの近傍であってなるものを取り
とおくと
が成り立つ。
からへの自然な写像をとおく。いま任意のに対し補題のような開近傍を取ると
よりはそれぞれの開近傍となる。また
が成り立つのではハウスドルフであることがわかる。
についても概ね同様にしてハウスドルフであることが示せるが、具体的に確かめるには少し手間がかかるためここでは特に解説しない。ただ補題1の系として得られる次の主張は後でも何度か使うので紹介しておく。
任意のに対しその近傍であって
を満たすようなものが存在する。
コンパクト性について
をコンパクトにするのことを第一種のFuchs群と言う。
補題3を使うとコンパクト性の必要条件として次のようなことがわかる。
からへの自然な写像をとおいたとき、における楕円点/尖点のにおける像もの楕円点/尖点という。またの楕円点でも尖点でもない点を通常点という。
が第一種のFuchs群ならの楕円点および尖点は有限個である。
任意のに対し補題3のような近傍を取る。このときがあるなる固定点を含んだとするとの取り方からでもあるが、は上で二つ個以上の固定点を持たないのでとなる。特には高々一つしか固定点を持たない。
またからコンパクト性よりとできるので主張を得る。
またコンパクト性の必要十分条件として次のような非常に強力な定理が知られている。なおその証明については非常に煩雑であるためここでは紹介しない。
(Siegel)
の基本領域をとおいたとき、が第一種のFuchs群であることと
が成り立つことは同値である。
例えばに対する基本領域として
が取れることが知られているので
と計算でき、は第一種のFuchs群であることがわかる。
また例えば
とおくと、その基本領域として
が取れるので
と計算でき、はコンパクトではないことがわかる。
第一種のFuchs群に対し、その指数有限の部分群も第一種のFuchs群となる。
をの基本領域とし、を自然な写像とする。このとき
と直和分解するとが成り立つので
を得る。
レベルの主合同部分群は第一種のFuchs群である。