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大学数学基礎解説
文献あり

左アルティン環の構造と表現論

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はじめに

この記事では群環$k[G]$がある種の行列環の直積として書けることについて,半単純左アルティン$k$代数の理論を使ってまとめる.$k[G]$のこの分解に,群$G$の全ての既約表現が現れる.

この記事における議論は基本的に『代数の基礎』 1 によるが, 1 では半単純左アルティン「環」について記述しているのに対し,この記事では半単純左アルティン「$k$代数」について記述する.$k[G]$について考える時は$k$代数の理論が必要になるのでこのようにした.しかし証明は, 1 における対応する命題の証明で「環」を「$k$代数」に書き換えるだけで通用するので,この記事では証明は省略する.

記事全体で$G$は有限群,$k$は(可換な)体とする.この記事における$k$代数$R$は,構造射$k\rightarrow R$の像が$R$の中心に含まれるとする.また,次のよく使う2つの仮定に名前をつけておく.

仮定(P1):
$\mathrm{char} k=0$または,$\mathrm{char} k$$|G|$を割らない.

仮定(P2):
(P1)かつ,$k$は代数閉体.

半単純左アルティン$k$代数の理論

半単純左アルティン$k$代数の構造

まずは,半単純左アルティン$k$代数の構造理論を用意する.

劣直積

$k$代数$R$に対して,$k$代数の族$(R_{\lambda})_{\lambda\in \Lambda}$$k$代数の単射準同型$\nu:R\to \displaystyle\prod_{\lambda\in\Lambda}R_{\lambda}$が存在して,任意の$\lambda$について射影$p_{\lambda}:\displaystyle\prod_{\lambda\in\Lambda}R_{\lambda}\to R_{\lambda}$との合成$p_{\lambda}\circ \nu$が全射であるとき,$R$は族$(R_{\lambda})_{\lambda\in \Lambda}$の劣直積であるという.

加群の劣直積についても同様に定義する.

半単純$k$代数

$k$代数$R$に対して,単純$k$代数の族$(R_{\lambda})_{\lambda\in \Lambda}$が存在して,$R$が族$(R_{\lambda})_{\lambda\in \Lambda}$の劣直積であるとき,$R$を半単純$k$代数という.

(1 の命題3.5.6の$k$代数バージョン)

左アルティン単純$k$代数$R$は,可除$k$代数$\Delta$上の有限階数の加群$M$の自己準同型のなす$k$代数$\mathrm{End}_{\Delta}(M)$$k$代数として同型である.このとき$R$$k$上有限次元なら,$\Delta$$k$上有限次元.

( 1 の命題3.5.20の$k$代数バージョン)

半単純$k$代数$R$が両側イデアルについての降鎖律を満たせば$R$は有限個の単純$k$代数の直積に同型である.

1 の命題3.5.20証明で$R_i$をどのようにして環($k$代数)とみなすのかということについてだけ書いておく.

$R^e:=R\underset{k}\otimes R^{op}$$k$代数.$R$$(a\otimes b)\cdot r:=arb$により左$R^e$加群とみなす.

1 の命題3.5.20の議論と同様にして,有限個の既約$R^e$加群$R_1,...,R_s$$R^e$加群としての同型

$\phi:R\to\displaystyle\prod_{i=1}^s R_i$

が存在する.各射影と$\phi$との合成$\phi_i:R\to R_i$は全射$R^e$加群準同型.この$\phi_i$を用いて$R_i$における積を定義し,$R_i$を環にしたい.

$x,y\in R_i$に対して,$\phi_i$の全射より$a,b\in R$が存在して$\phi_i(a)=x,\;\phi_i(b)=y$.この$a,b$を用いて$R_i$における積を$xy:=\phi_i(ab)$と定義する.

この定義がwell-definedであることを示す.
もし$x=\phi_i(a)=\phi_i(a'),\;y=\phi_i(b)=\phi_i(b')$であれば,$\phi_i(ab)=\phi_i(a'b')$となることをいう.

今,

$\phi_i(ab)=\phi_i((a\otimes 1)b)=(a\otimes 1)\phi_i(b)$
$\phi_i(ab)=\phi_i((1\otimes b)a)=(1\otimes b)\phi_i(a)$

であるから,

\begin{aligned} \phi_i(ab)&=(a\otimes 1)\phi_i(b)\\ &=(a\otimes 1)\phi_i(b')\\ &=\phi_i(ab')\\ &=(1\otimes b')\phi_i(a)\\ &=(1\otimes b')\phi_i(a')\\ &=\phi_i(a'b'). \end{aligned}

よって上記の$R_i$における積はwell-definedで,この積により$R_i$は環になり,$k$代数になる.このとき,$R_i$$R^e$加群として既約であることから,$R_i$は単純$k$代数となることを示すことができる.また,$\phi$$k$代数の同型となる.

命題1と命題2により,次の定理を得る.

(1の定理3.5.21の$k$代数バージョン)

$k$代数$R$について,次は同値である.
(1)$R$は左アルティン$k$代数であり,$0$でないべき零イデアルを持たない.
(2)$R$は半単純左アルティン$k$代数である.
(3)$R$は左$R$加群として完全可約である.
(4)$R$は有限個の$\mathrm{End}_{\Delta_i}(M_i)$ $(M_i$は可除$k$代数$\Delta_i$上の有限階数の加群)という形の$k$代数の直積に同型である.

半単純左アルティン$k$代数上の加群の構造

定理3の条件を満たす$k$代数$R$上の既約加群について見ておく.

可除$k$代数$\Delta$上の有限階数加群はある自然数$n$を用いて$\Delta^n$と書くことができ,$k$代数の同型

$\mathrm{End}_{\Delta}(\Delta^n)\cong \mathrm{M}_n(\Delta)$

が成立する.ただし右辺は$\Delta$成分の$n$次正方行列全体のなす$k$代数.よって定理3の条件下で$R=\mathrm{M}_{n_1}(\Delta_1)\times\cdots\times\mathrm{M}_{n_s}(\Delta_s)$と書ける.($\Delta_i$は可除$k$代数,$n_i$は正の整数.)

さて,行列の素朴な操作と 1 の補題3.5.23より,次の命題を得る.

可除環$\Delta$と自然数$n$について,環$R=\mathrm{M}_n(\Delta)$を考える.

このとき,$\Delta^n$は既約左$R$加群であり,既約左$R$加群はこれに同型なものしかない.

直積環上の加群の一般論( 2 を参照)と命題4により,次の命題を得る.

$R=\mathrm{M}_{n_1}(\Delta_1)\times\cdots\times\mathrm{M}_{n_s}(\Delta_s)$ ($\Delta_i$は可除環,$n_i$は正の整数)に対して,既約左$R$加群は同型を除いて$\Delta_1^{n_1},\cdots,\Delta_s^{n_s}$で全てである.

ただし命題5における$R$$\Delta_i^{n_i}$への作用は次のように定まっている.

$A=(A_1,\cdots,A_s)\in R=\mathrm{M}_{n_1}(\Delta_1)\times\cdots\times\mathrm{M}_{n_s}(\Delta_s)$と列ベクトル$\mathbf{x}\in \Delta_i^{n_i}$に対して,

$A\cdot \mathbf{x}:=A_i\mathbf{x}$

(右辺は行列と列ベクトルの積.)

表現論

表現は$k[G]$加群

表現は$k[G]$上の加群とみなせることについて見る.
可換群$V$(と$G$$k$)を固定する.集合$X,Y$を次のように定める.

\begin{aligned} &X=X_V:=\{k\text{上線形空間}V\text{と群準同型}\rho:G\to \mathrm{GL}_k(V)\text{の組}(V,\rho)\},\\ &Y=Y_V:=\{k[G]\text{加群}V\}. \end{aligned}

$X,Y$は次のように言い換えることができる.
\begin{aligned} X&=\{\text{環準同型}\tau:k\to \mathrm{End}(V)\text{と群準同型}\rho:G\to \mathrm{Aut}(V)\text{の組}(\tau,\rho)\text{であって,}\\ &\qquad\text{任意の}a\in k\text{と}g\in G\text{に対して}\tau(a)\circ\rho(g)=\rho(g)\circ\tau(a)\text{が成り立つもの}\},\\ Y&=\{\text{環準同型}\tau:k[G]\to\mathrm{End}(V)\}. \end{aligned}
この言い換えのもとで,$X$$Y$の間には全単射が存在する.

$\phi:X\to Y$を次のように定める.
$(\tau,\rho)\in X$$\displaystyle\sum_{g\in G}a_gg\in k[G]$に対して,$\phi((\tau,\rho))\left(\displaystyle\sum_{g\in G}a_gg\right):=\displaystyle\sum_{g\in G}\tau(a_g)\circ\rho(g)$

このとき,$\phi$は全単射.

$\phi$の逆写像を構成する.$\psi:Y\to X$を次のように定める.
$\tilde{\tau}\in Y$をとる.

$\tau:k\to\mathrm{End}(V)$$a\in k$に対して$\tau(a):=\tilde{\tau}(a1)$と定める.(ただし$G$の単位元を$1$と書いた.)

$\rho:G\to\mathrm{Aut}(V)$$g\in G$に対して$\rho(g):=\tilde{\tau}(1g)$と定める.

この$\tau,\rho$を用いて,$\psi(\tilde{\tau})=(\tau,\rho)$と定める.

このとき,$\phi$$\psi$とは互いに逆であることが示せる.

よって$G$$k$上の表現と左$k[G]$加群との間に1対1の対応が存在することが言えた.

部分表現,既約表現を$k[G]$上の加群の言葉で書き直しておく.

$\rho:G\to \mathrm{GL}_k(V)$$G$$k$上の有限次表現とすると,命題6により$V$は左$k[G]$加群とみなせる.

このとき,部分集合$W\subset V$について,次は同値である.
(1)$W$$V$の部分表現.
(2)$W$$V$の部分$k[G]$加群.

命題7により,次の命題が得られる.

命題7の状況下で,次は同値である.
(1)$V$は既約表現.
(2)$V$は既約$k[G]$加群.

よって$G$$k$上の既約表現と既約左$k[G]$加群との間には1対1の対応があることが言えた.

$k[G]$の構造と既約表現

半単純左アルティン$k$代数の理論を用いて$k[G]$の構造を決定する.次のマシュケの定理が中心的な役割を果たす.

マシュケの定理(1 の定理4.1.12)

仮定(P1)のもとで,$G$の任意の$k$上の有限次元表現は,既約表現の直和に同型である.

特に$k[G]$は自然に$G$$k$上の表現であるから,$k[G]$は既約表現の直和である.このことは,命題8により$k[G]$は左$k[G]$加群として完全可約であるということを意味する.よって定理3により,$k[G]$の構造についての次の定理を得る.

仮定(P1)のもとで,可除$k$代数$\Delta_1,\cdots,\Delta_s$と正の整数$n_1,\cdots,n_s$が存在して$k$代数として,$k[G]\cong \mathrm{M}_{n_1}(\Delta_1)\times\cdots\times\mathrm{M}_{n_s}(\Delta_s)$

命題5,命題8,定理10により,次の命題を得る.

仮定(P1)のもとで,定理10のように$k[G]$$s$個の行列環の直積として書かれるとき,$G$$k$上の既約表現は同値を除いて$s$個($\Delta_1^{n_1},\cdots,\Delta_s^{n_s}$)存在する.

念のため,命題11の既約表現たちがどんな表現なのか見ておこう.

$1\leq i\leq s$を1つ固定する.
$V:=\Delta_i^{n_i}$がどんな$G$の表現になっているか記述する.それは,
(1)どんな環準同型$\tau:k\to\mathrm{End}(V)$により$V$$k$上線形空間になっているか,
(2)どんな群準同型$\rho:G\to\mathrm{Aut}(V)$により$G$$V$に作用しているか,
という2点を記述するということである.

まず,定理10の$k$代数の同型を$\pi:k[G]\to \mathrm{M}_{n_1}(\Delta_1)\times\cdots\times\mathrm{M}_{n_s}(\Delta_s)$とおく.$z\in k[G]$に対して,$\pi(z)=(\pi_1(z),...,\pi_s(z))\;(\pi_i(z)\in\mathrm{M}_{n_j}(\Delta_j))$と書くことにする.$\pi$$k$代数の準同型であるから,$a\in k$に対して$\pi(a1)=(aI_{n_1},...,aI_{n_s})$を満たす.ただし$\mathrm{M}_{n_j}(\Delta_j)$における単位行列を$I_{n_i}$と書いた.よって特に$\pi_i(a1)=aI_{n_i}$である.

ここで命題5のあとに書いた作用を思い出すと,$k[G]$の左$k[G]$加群$V$への作用を表す環準同型$\tilde{\tau}:k[G]\to \mathrm{End}(V)$は,$z\in k[G]$$v\in V$に対して$\tilde{\tau}(z)(v)=\pi_i(z)v$(右辺は行列と列ベクトルの積)により定まっている.

命題6証明中の$\psi$により$\tilde{\tau}\in Y$に対応する$(\tau,\rho)\in X$を求めれば上記の(1),(2)が得られる.

(1)$\psi$の定義より$\tau:k\to\mathrm{End}(V)$$a\in k$$v=\pmatrix{v_1\\ \vdots \\v_s}\in V=\Delta_i^{n_i}$に対して$\tau(a)(v)=\tilde{\tau}(a1)(v)=\pi_i(a1)(v)=aI_{n_i}v=av=\pmatrix{av_1\\ \vdots \\av_s}$により定まっている.この$\tau$により$V$$k$上線形空間.

(2)$\psi$の定義より$\rho:G\to \mathrm{Aut}(V)$は次のように定まる.$g\in G$ごとに行列$B(g):=\pi_i(1g)\in\mathrm{M}_{n_i}(\Delta_i)$が定まり,$v=\pmatrix{v_1\\ \vdots \\v_s}\in V=\Delta_i^{n_i}$に対して$\rho(g)(v)=\tilde{\tau}(1g)(v)=\pi_i(1g)v=B(g)v$(右辺は行列と列ベクトルの積).この$\tau$により$G$$V$に作用している.すなわち$g\in G$$v\in V$に対して$gv=B(g)v$

以上で$G$の表現$V$が記述された.

定理10の同型の両辺について中心の次元を比較することで,$G$の既約表現の個数は$G$の共役類の個数以下になることを示そう.まず次の命題が成立する.

( 1 の命題4.1.23)

$G$の共役類の個数を$r$とする.
このとき,$k[G]$の中心$Z(k[G])$$k$上の次元は$r$である.

命題12により次の命題を得る.

仮定(P1)のもとで,$G$の共役類の個数を$r$$G$$k$上の既約表現の個数を$s$とする.このとき,$s\leq r$

定理10の$k$代数の同型
$k[G]\cong \mathrm{M}_{n_1}(\Delta_1)\times\cdots\times\mathrm{M}_{n_s}(\Delta_s)$
において,両辺の中心を考えることで,$k$代数の同型
$Z(k[G])\cong Z(\mathrm{M}_{n_1}(\Delta_1))\times\cdots\times Z(\mathrm{M}_{n_s}(\Delta_s))\cong Z(\Delta_1)\times\cdots\times Z(\Delta_s)$を得る.特にこの同型は$k$上線形空間の同型でもある.命題12により,両辺の$k$上の次元を考えることで,

\begin{aligned} r&=\displaystyle\sum_{i=1}^s \mathrm{dim}_k(\Delta_i)\\ &\geq\displaystyle\sum_{i=1}^s 1\\ &=s. \end{aligned}

$k=\mathbb{R}$の場合について具体例を見てみよう.

$\mathbb{C}$の乗法群の部分群$G=\{\pm 1,\pm i\}$を考える.$\mathbb{C}$の元と区別するために,$\mathbb{R}[G]$の元は$a[1]+b[i]+c[-1]+d[-i]\in\mathbb{R}[G]\;(a,b,c,d\in\mathbb{R})$と書くことにする.このとき,$\mathbb{R}$代数としての同型
\begin{array}{rccc}\pi:&\mathbb{R}[G]&\longrightarrow&\mathbb{R}\times\mathbb{R}\times\mathbb{C}\\&a[1]+b[i]+c[-1]+d[-i]&\longmapsto&(a+b+c+d,\;a-b+c-d,\;a+bi-c-di) \end{array}
がある.終域は$1$次正方行列のなす環の直積$\mathrm{M}_1(\mathbb{R})\times\mathrm{M}_1(\mathbb{R})\times\mathrm{M}_1(\mathbb{C})$とも書けるので,確かに定理10の形になっている.

この表示により,$G$$k$上で$1$次既約表現を$2$個と,$2$次既約表現を$1$個持つことがわかる.$G$は位数$4$の可換群なので共役類の個数は$4$.既約表現の個数は$3$なので,確かに共役類の個数以下になっている.

また例えば$2$次既約表現$V=\mathbb{C}$は次のように定まっている.

$i^m\in G$$x\in V=\mathbb{C}$に対して$i^m\cdot x=i^mx$(右辺は$\mathbb{C}$における積).

ハミルトンの四元数体$\mathbb{H}$を考える.$\mathbb{H}$の乗法群の部分群$G=\{\pm 1,\pm i,\pm j,\pm k\}$を考える.$\mathbb{H}$の元と区別するために,$\mathbb{R}[G]$の元は$\displaystyle\sum_{g\in G}a_g[g]$ $(a_g\in \mathbb{R})$と書くことにする.このとき,$\mathbb{R}$代数としての同型
\begin{array}{rccc} \pi:&\mathbb{R}[G]&\longrightarrow&\mathbb{R}\times\mathbb{R}\times\mathbb{R}\times\mathbb{R}\times\mathbb{H}\\ &\displaystyle\sum_{g\in G}a_g[g]&\longmapsto&\left(\displaystyle\sum_{g\in G}a_g,\;S_i,\;S_j,\;S_k,\;\displaystyle\sum_{g\in G}a_gg\right) \end{array}
がある.ただし$h\in G$に対して$S_h:=\displaystyle\sum_{g\in \langle h\rangle}a_g-\displaystyle\sum_{g\in G\setminus\langle h\rangle}a_g$とおいた.終域は$1$次正方行列のなす環の直積$\mathrm{M}_1(\mathbb{R})\times\mathrm{M}_1(\mathbb{R})\times\mathrm{M}_1(\mathbb{R})\times\mathrm{M}_1(\mathbb{R})\times\mathrm{M}_1(\mathbb{H})$とも書けるので,確かに定理10の形になっている.

この表示により,$G$$k$上で$1$次既約表現を$4$個と$4$次既約表現を$1$個持つことがわかる.$G$の共役類の個数は$5$,既約表現の個数も$5$で等しい.

また例えば$4$次既約表現$V=\mathbb{H}$は次のように定まっている.
$g\in G$$x\in V=\mathbb{H}$に対して,$g\cdot x=gx$(右辺は$\mathbb{H}$における積).

なおこの表現$\mathbb{H}$が既約表現であることは,$\mathbb{H}$が可除環であることを用いて次のように素朴に示すこともできる.(例1の$\mathbb{C}$の既約も同様に示せる.)

$0\not=W\subset V$は部分表現とする.$0\not=z\in V$$1$つとる.
任意に$x\in V$をとる.$xz^{-1}=a+bi+cj+dk\;(a,b,c,d\in \mathbb{R})$とおく.
$\mathbb{H}$の演算で
\begin{aligned} x&=xz^{-1}z\\ &=(a+bi+cj+dk)z\\ &=az+i(bz)+j(cz)+k(dz). \end{aligned}
ここで,$W$$\mathbb{H}$$\mathbb{R}$上部分線形空間であることから,$az,bz,cz,dz\in W$.また,$W$$G$の元の作用で閉じていることから,$i(bz),j(cz),k(dz)\in W$がわかる.よって$x\in W$であり,$V\subset W$が言えた.よって$W=V$であり,$V$は既約表現.

代数閉体の場合

$k$が代数閉体の場合を見る.
次の命題が成立する.

$k$は代数閉体とする.
このとき,$k$上有限次元の可除$k$代数は同型を除いて$k$のみである.

$\Delta$は可除$k$代数で$k$上有限次元とする.$k\subset\Delta$とみなす.
$a\in\Delta$を任意にとる.$k[a]\subset \Delta$は(可換な)整域であり,$k$上有限次元.よって$a$$k$上代数的であり,$k$は代数閉体であることから,$a\in k$を得る.よって$\Delta=k$

定理10(と命題11)と命題14から,$k$が代数閉体のとき,$k[G]$は,次のように表せる.

仮定(P2)のもとで,正の整数$n_1,\cdots,n_s$が存在して$k$代数として,$k[G]\cong \mathrm{M}_{n_1}(k)\times\cdots\times\mathrm{M}_{n_s}(k)$が成立する.
またこのとき,$G$$k$上の既約表現は同値を除いて$s$個($V_1=k^{n_1},\cdots,V_s=k^{n_s}$)存在する.$k[G]$は既約表現の直和として$k[G]\cong V_1^{\oplus n_1}\oplus\cdots\oplus V_s^{\oplus n_s}$と書かれる.

定理15の同型において両辺の$k$上の次元を比較することで,$|G|=n_1^2+\cdots+n_s^2$が成り立つこともわかる.

命題13の証明を見返すことで,$k$が代数閉体のときは,$G$の共役類の個数と既約表現の個数が等しくなることがわかる.

仮定(P2)のもとで,$G$の共役類の個数を$r$$G$$k$上の既約表現の個数を$s$とする.このとき,$s=r$

よって,定理15で$k[G]$は,$G$の共役類の個数の行列環の直積になっている.
($k[G]\cong \mathrm{M}_{n_1}(k)\times\cdots\times\mathrm{M}_{n_r}(k)$$r$$G$の共役類の個数.)

$k=\mathbb{C}$の場合について具体例を見てみよう.

$G=S_3$($3$次対称群)の場合を考える.$S_3$の単位元を$\mathrm{id}$と書く.このとき,$\mathbb{C}$代数の同型
\begin{array}{rccl} &\mathbb{C}[S_3]&\longrightarrow&\mathbb{C}\times\mathbb{C}\times\mathrm{M}_2(\mathbb{C})\\ &\displaystyle\sum_{\sigma\in S_3}a_{\sigma}\sigma&\longmapsto&\left(\displaystyle\sum_{\sigma\in S_3}a_{\sigma},\;\displaystyle\sum_{\sigma\in \langle(123)\rangle}a_{\sigma}-\displaystyle\sum_{\sigma\in S_3\setminus\langle(123)\rangle}a_{\sigma}, \;a_{\mathrm{id}}I_2+a_{(123)}A+a_{(132)}A^2+a_{(12)}B+a_{(23)}BA+a_{(13)}BA^2\right) \end{array}
がある.ただし,$A=\pmatrix{\omega&0\\0&\omega^2},\;B=\pmatrix{0&1\\1&0}$

$S_3$の共役類の個数と$S_3$$\mathbb{C}$上の既約表現の個数はともに$3$で等しい.

また,$2$次既約表現$V=\mathbb{C}^2$は次のように定まっている.
$\sigma=(12)^l(123)^m\in S_3$$v\in V$に対して,$\sigma v=B^lA^mv$

定理15は,左アルティン環の構造理論を用いて$k[G]$の行列環への分解を得ることにより,$G$$k$上の既約表現が得られるというものであるが,逆に何らかの方法で$G$の既約表現を全て見つけられれば,そこから定理15のような$k[G]$の分解が得られる.

$G$の共役類の個数を$r$とする.
仮定(P2)のもとで,$G$$k$上の既約表現は同値を除いて$\rho'_1,\cdots,\rho'_r$で全てであるとする.ただし$V'_i$$k$上線形空間で$\rho'_i:G\to \mathrm{GL}_k(V'_i)$は群準同型とする.

このとき,次は$k$代数の同型になる.
\begin{array}{rccc} \tau:&k[G]&\longrightarrow&\mathrm{End}_k(V'_1)\times\cdots\times\mathrm{End}_k(V'_r) \\&\displaystyle\sum_{g\in G}a_gg&\longmapsto&\left(\displaystyle\sum_{g\in G}a_g\rho'_1(g),\cdots,\displaystyle\sum_{g\in G}a_g\rho'_r(g)\right) \end{array}

$\pi:k[G]\cong \mathrm{M}_{n_1}(k)\times\cdots\times\mathrm{M}_{n_s}(k)$を定理15の同型とする.必要なら順番を入れ替えることで,$k[G]$加群として$\forall i,\;k^{n_i}\cong V'_i$となる.

この同型が$k$代数の同型$\mathrm{M}_{n_i}(k)\cong\mathrm{End}_k(V'_i)$を誘導し,これらが$k$代数の同型$f:\mathrm{M}_{n_1}(k)\times\cdots\times\mathrm{M}_{n_s}(k)\to \mathrm{End}_k(V'_1)\times\cdots\times\mathrm{End}_k(V'_r)$を誘導する.$\tau=f\circ \pi$となることを示すことができ,これは同型の合成なので,同型になる.

もし何らかの方法で$|G|=\displaystyle\sum_{i=1}^r(\mathrm{dim}_k V'_i)^2$が得られていれば,定理15を使わずとも,マシュケの定理から命題17を示せるので,別証明を書いておく.

(命題17の別証明)

$|G|=\displaystyle\sum_{i=1}^r(\mathrm{dim}_k V'_i)^2$より,$\tau$の始域と終域の$k$上の次元は等しいので,単射が言えれば同型が言える.そこで,$\tau$の単射を示す.

$z\in k[G]$$\tau(z)=0$を満たすとする.このとき,任意の$i\;(1\leq i\leq r)$に対して$\displaystyle\sum_{g\in G}a_g\rho'_i(g)=0$.命題6の対応を思い出すと,これは,$V_i$を左$k[G]$加群と見たときの$z$倍写像$V_i\to V_i$が零写像であることを意味する.今,定理9(マシュケの定理)より,$k[G]$は左$k[G]$加群として$V_i$たちの直和であるから,$z$倍写像$k[G]\to k[G],\;x\mapsto zx$も零写像である.よって特に$x=1$の場合を考えることで,$z=z1=0$を得る.よって$\tau$は単射.

命題17の具体例を見てみよう.そのためにまず既約表現の特徴づけを見ておく.

仮定(P2)のもとで,$V$$k$上線形空間で$\rho:G\to \mathrm{GL}_k(V)$$G$の表現とする.$\rho$が誘導する$k$代数の準同型を$\tau:k[G]\to \mathrm{End}_k(V)$とする.このとき次は同値.
(1)$\rho$は既約表現.
(2)$\tau$は全射.

$k[G]\cong \mathrm{M}_{n_1}(k)\times\cdots\times\mathrm{M}_{n_s}(k)$を定理15の同型とする.
(1)$\Rightarrow$(2)を示す.
ある$i$について$k[G]$加群として$V\cong k^{n_i}$なので,命題17の1つ目の証明と同様の議論で$\tau$の全射が言える.

(2)$\Rightarrow$(1)を示す.
$0\not=W\subset V$は部分表現とする.$W$$V$の部分$k[G]$加群.$w\in W$$1$つとる.命題4により,$V$は左$\mathrm{End}_k(V)$加群として既約なので,$\mathrm{End}_k(V)w=V$となる.よって$v\in V$を任意にとると,$f\in \mathrm{End}_k(V)$が存在して$f(w)=v$となる.$\tau$の全射より,$z\in k[G]$が存在して$\tau(z)=f$.よって$W$が部分$k[G]$加群であることより$v=f(w)=\tau(z)(w)\in W$$V\subset W$が得られた.よって$W=V$であり,$V$は既約表現である.

命題17の具体例を見よう.

$k=\mathbb{C}$の場合を考える.例2と同じ群$G=\{\pm 1,\pm i,\pm j,\pm k\}\;(\subset\mathbb{H})$を考える.$G=\langle i,j\rangle$であることに注意しておく.$G$の共役類の個数を$r$とする.$G$の共役類は$\{1\},\{-1\},\{\pm i\},\{\pm j\},\{\pm k\}$で全てであり,$r=5$である.よって命題16より$G$$\mathbb{C}$上の既約表現は$5$個存在する.

まず$1$次元既約表現は$4$個存在する.実際,$(s,t)\in\{\pm 1\}\times\{\pm 1\}$ごとに写像
\begin{array}{rccc}\rho_{(s,t)}:&G&\longrightarrow&\mathbb{C}^*=\mathrm{GL}_1(\mathbb{C})\\&i^lj^m&\longmapsto&s^lt^m\end{array}
はwell-definedな群準同型であり,これらが$G$$\mathbb{C}$上の$1$次既約表現を定める.

また,$2$次元の既約表現$\rho_2$を次のように定める.
\begin{array}{rccc} \rho_2:&G&\longrightarrow&\mathrm{GL}_2(\mathbb{C})\\ &i^lj^m&\longmapsto&\pmatrix{i&0\\0&-i}^l\pmatrix{0&1\\-1&0}^m \end{array}
今,$\rho_2(1)=\pmatrix{1&0\\0&1},\;\rho_2(i)=\pmatrix{i&0\\0&-i},\;\rho_2(j)=\pmatrix{0&1\\-1&0},\;\rho_2(k)=\pmatrix{0&i\\i&0}$$\mathrm{M}_2(\mathbb{C})$$\mathbb{C}$上の基底であることが示せるので,命題18で$\rho_2$に対応する$\tau_2:\mathbb{C}[G]\to \mathrm{M}_2(\mathbb{C})$は全射である.よって命題18より$\rho_2$は既約表現である.

以上で$5$個の既約表現が出揃ったので,これらを用いて命題17より次の$k$代数の同型を得る.
$\mathbb{C}[G]\cong \mathbb{C}\times\mathbb{C}\times\mathbb{C}\times\mathbb{C}\times\mathrm{M}_2(\mathbb{C})$

参考文献

[1]
清水勇二, 代数の基礎, 共立出版, 2024
投稿日:131
更新日:131
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