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アルティン・シュライアー理論

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{Aut}[0]{\operatorname{Aut}} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{c}[0]{\cdot} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{D}[0]{\Delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{FF}[6]{{}_3F_2\left(\begin{matrix}#1,#2,#3\\#4,#5\end{matrix};#6\right)} \newcommand{G}[0]{\widehat{G}} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{H}[0]{\mathbb{H}} \newcommand{Hom}[0]{\operatorname{Hom}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{La}[0]{\Lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{M}[4]{\begin{pmatrix}#1& #2\\#3& #4\end{pmatrix}} \newcommand{Map}[0]{\operatorname{Map}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{o}[0]{\omega} \newcommand{O}[0]{\Omega} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{ub}[2]{\underbrace{#1}_{#2}} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{wh}[0]{\widehat} \newcommand{x}[0]{\chi} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事ではアルティン・シュライアー理論について簡単に解説していきます。
 なお内容としてはほぼ クンマー理論の記事 のコピペとなっています(実はクンマー理論とアルティン・シュライアー理論は適当な抽象化によって統一的に議論することができますがそれはまた別のお話)。

アルティン・シュライアー拡大

 標数$p>0$の体$k$に対して写像$\wp:k\to k$$\wp(x)=x^p-x$によって定める。
 このとき$\wp$は加法に関する準同型を定め、その核は$\F_p$となる、特に
$$\wp(x)-\wp(b)=\prod^{p-1}_{i=0}(x-b-i)$$
が成り立つことに注意する。

 標数$p>0$の体の拡大$L/K$において以下は同値となる。

  1. $L/K$$p$次巡回拡大である。
  2. ある$a\in K\setminus\wp(K)$が存在して$L=K(\wp^{-1}(a))$が成り立つ。
証明

(i)$\Rightarrow$(ii)

 $\Gal(L/K)$の生成元を$\s$とおくと$L/K$の分離性からトレース
$$\Tr_{L/K}=\sum^{p-1}_{i=0}\s^i:L\to K$$
は全射なので$\Tr_{L/K}(x)=-1$なる$x\in L$が取れる。このとき
$$b=\sum^{p-1}_{i=0}i\s^i(x)$$
とおくと
$$\s(b)=\sum^{p-1}_{i=0}i\s^{i+1}(x)=\sum^{p-1}_{i=0}(i-1)\s^i(x)=b-\Tr_{L/K}(x)=b+1$$
が成り立ち、特に
$$\s^i(b)=b+i\quad(i=0,1,\ldots,p-1)$$
はそれぞれ異なる値を取るので$[K(b):K]=p=[L:K]$、つまり$L=K(b)$となる。
 また$a=\wp(b)$とおくと
$$\s(a)=\wp(\s(b))=\wp(b+1)=\wp(b)=a$$
よりこれは$\Gal(L/K)$の作用に対して不変なので$a\in K$となり$L=K(\wp^{-1}(a))$を得る。

(ii)$\Rightarrow$(i)

 $b\in\wp^{-1}(a)$を根に持つ$K$上の多項式
$$f(x)=x^p-x-a=\prod^{p-1}_{i=0}(x-b-i)$$
の他の根は全て$L$に含まれるので$L/K$は正規拡大であり、また
$$f'(x)=-1\neq0$$
が成り立つので$f$は分離多項式であり、したがって$L/K$はガロア拡大となる。
 また$a\not\in\wp(K)$に注意すると
$$\Gal(L/K)=\{\s_i:b\mapsto b+i\mid i=0,1,2,\ldots,p-1\}$$
となることがわかるので$L/K$$p$次巡回拡大となる。

指数

 群$G$に対し
$$x^n=1\quad(\forall x\in G)$$
を満たすような正整数$n$であって最小のものを$G$指数と言う。

アルティン・シュライアー拡大

 標数$p>0$の体の拡大$L/K$において以下は同値となる。

  1. $L/K$は有限次アーベル拡大であり、そのガロア群の指数は$p$である。
  2. ある$a_1,a_2,\ldots,a_r\in K\setminus\wp(K)$が存在して$L=K(\wp^{-1}(\{a_1,a_2,\ldots,a_r\}))$が成り立つ。

またこのような拡大$L/K$のことを(有限次)アルティン・シュライアー拡大と言う。

証明

(i)$\Rightarrow$(ii)

 有限アーベル群の基本定理より同型
$$\Gal(L/K)\simeq\ub{(\Z/p\Z)\times(\Z/p\Z)\times\cdots\times(\Z/p\Z)}r$$
が存在する。このとき
$$H_i\simeq\ub{(\Z/p\Z)\times\cdots\times(\Z/p\Z)}{i-1}\times \{0\}\times\ub{(\Z/p\Z)\times\cdots\times(\Z/p\Z)}{r-i}$$
なる部分群$H_i$を取り、その固定体を$M_i$とおくと
$$\Gal(M_i/L)\simeq\Gal(L/K)/H_i\simeq\Z/p\Z$$
が成り立つので命題2よりある$a_i\in K$が存在して$M_i=K(\wp^{-1}(a_i))$と表せる。
 また
$$K(\wp^{-1}(\{a_1,a_2,\ldots,a_r\}))$$
の固定群は$\bigcap^r_{i=1}H_i\simeq0$となるので
$$L=K(\wp^{-1}(\{a_1,a_2,\ldots,a_r\}))$$
を得る。

(ii)$\Rightarrow$(i)

 $L$はガロア群の指数が$p$のアーベル拡大$K(\wp^{-1}(a_i))/K$の合成体であるので、$L/K$もガロア群の指数が$p$のアーベル拡大となる。

アルティン・シュライアーペアリング

指標とペアリング

指標

 アーベル群$G$から乗法群$\C^\times$への準同型$\x:G\to\C^\times$のことを$G$指標と言い、また$G$の指標全体のなす群$\Hom(G,\C^\times)$指標群と言い$\G$と表す。

 $G$の指数が$p$であるとき、$1$$p$乗根全体のなす群を$\mu_p$とおくと
$$\Hom(G,\C^\times)=\Hom(G,\mu_p)=\Hom(G,\F_p)$$
が成り立つことに注意する。

 有限アーベル群$G$に対し$G\simeq\G$が成り立つ。

  この記事 の定理2として示した。

ペアリング

 群$G_1,G_2,G_3$に対し、写像$e:G_1\times G_2\to G_3$であって双線形性
\begin{align} e(x_1\cdot x_2,y)&=e(x_1,y)\cdot e(x_2,y)\\ e(x,y_1\cdot y_2)&=e(x,y_1)\cdot e(x,y_2) \end{align}
を満たすようなものをペアリングと言う。
 またペアリング$e$が誘導する準同型
\begin{align} G_1&\to\Hom(G_2,G_3),&x&\mapsto e(x,\,*\,)\\ G_2&\to\Hom(G_1,G_3),&y&\mapsto e(\,*\,,y) \end{align}
がそれぞれ単射/全単射となることを$e$非退化/完全であると言う。

 有限アーベル群$G_1,G_2$から$\C^\times$へのペアリング$e:G_1\times G_2\to\C^\times$に対し、$e$が非退化であることと完全であることは同値である。

証明

 完全であれば非退化であることは明らか。
 また$e$が非退化であるとき
$$G_1\to\G_2,\quad G_2\to\G_1$$
の単射性から
$$|G_1|\leq|\G_2|,\quad|G_2|\leq|\G_1|$$
が成り立ち、また上の補題より
$$|G_1|=|\G_1|,\quad|G_2|=|\G_2|$$
が成り立つことに注意すると$|G_1|=|G_2|$、つまり全射性
$$|G_1|=|\G_2|,\quad|G_2|=|\G_1|$$
を得る。

アルティン・シュライアー理論の基本定理

アルティン・シュライアーペアリング

 標数$p>0$の体$K$とその加法部分群$\wp(K)\subseteq R\subseteq K$に対し
$$(a+\wp(K),\s)\mapsto\s(b)-b\qquad(b\in\wp^{-1}(a))$$
によって定まる写像
$$R/\wp(K)\times\Gal(K(\wp^{-1}(R))/K)\to\F_p$$
アルティン・シュライアーペアリングと言う。

 $K(\wp^{-1}(R))/K$が有限次拡大であるとき、アルティン・シュライアーペアリングは完全ペアリングとなる。

証明

 簡単のため$L=K(\wp^{-1}(R)),\ G=\Gal(L/K)$とおく。

ペアリングであること

 第一変数に関する線形性
$$e(a_1+a_2,\s)=e(a_1,\s)+e(a_2,\s)$$
は明らか。また第二変数に関しては$G$$\F_p$の元を固定することから
$$e(a,\s)+e(a,\tau) =\s(b+e(a,\tau))-b =\s(\tau(b))-b =e(c,\s\tau)$$
とわかる。

完全であること

 $e$が非退化性であることを示せばよい。実際そうであれば$G$の有限性と$R/\wp(K)\to\G$の単射性から$R/\wp(K)$は有限であることがわかるので補題5より完全性がわかる。
 いま$\s\in G$が任意の$a\in R$に対し
$$\s(b)-b=0$$
を満たすならば$\s$$L$の元を固定するので$\s=1$でなければならない、つまり$G\to\wh{R/\wp(K)}$は単射となる。
 また$a\in R$が任意の$\s\in G$に対し
$$\s(b)-b=0$$
を満たすならば$b\in K$つまり$a\in\wp(K)$となるので$R/\wp(K)\to\G$は単射となる。

アルティン・シュライアー理論の基本定理
  • $K$上の有限次アルティン・シュライアー拡大$L/K$
  • $\wp(K)\subseteq R\subseteq K$なる加法群$R$であって$R/\wp(K)$を有限群とするもの
    (あるいは単に$K/\wp(K)$の有限部分群$R/\wp(K)$を考えてもよい)

の間には一対一対応
\begin{align} L&\longrightarrow K\cap\wp(L)\\ K(\wp^{-1}(R))&\longleftarrow R \end{align}
が成り立ち、特に
$$\Gal(L/K)\simeq R/\wp(K)$$
が成り立つ。

証明

 アルティン・シュライアー拡大$L/K$に対し
$$R'=K\cap\wp(L)$$
とおくと命題2より$L=K(\wp^{-1}(R'))$が成り立つので命題5より
$$R'/\wp(K)\simeq\wh{\Gal(L/K)}$$
特に$R'/\wp(K)$は有限群となる。
 またある$R$に対し$L=K(\wp^{-1}(R))$が成り立つとすると命題5より
$$R/\wp(K)\simeq\wh{\Gal(L/K)}\simeq R'/\wp(K)$$
が成り立ち、また明らかに$R\subseteq R'$なので$R=R'$を得る。
 したがって上の対応は互いに逆対応を与えることがわかり、また補題3より
$$R/\wp(K)\simeq\wh{\Gal(L/K)}\simeq\Gal(L/K)$$
を得る。

投稿日:1日前
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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