この記事ではクンマー理論について簡単に解説していきます。
群$G$と体$k$に対し、集合$\Hom(G,k^\times)$は$k$-線形空間$\Map(G,k)$の中で線形独立である。
相違なる任意の元$\x_1,\x_2,\ldots,\x_n\in\Hom(G,k^\times)$が線形独立であることを$n$に関する数学的帰納法によって示す。$n=1$のときは明らかであり、$n-1$においてこれが成り立つとする。
このとき$n$において
$$\sum^n_{i=1}a_i\x_i=0\quad(a_i\in k)$$
が成り立つとすると、任意の$g,h\in G$に対し
\begin{align}
\sum^n_{i=1}a_i\x_i(gh)&=0\\
\x_n(h)\sum^n_{i=1}a_i\x_i(g)&=0
\end{align}
が成り立つのでこの差を取ることで
$$\sum^{n-1}_{i=1}a_i(\x_i(h)-\x_n(h))\x_i(g)=0$$
が成り立つ。
いま$g\in G$は任意であったので帰納法の仮定より
$$a_i(\x_i(h)-\x_n(h))=0\quad(i=1,2,\ldots,n-1)$$
が成り立つが、$h\in G$は任意であったこと、および各$i$に対し$\x_i(h)\neq\x_n(h)$なる$h\in G$が存在することから
$$a_i=0\quad(i=1,2,\ldots,n-1)$$
となり、したがって$a_n=0$となることもわかるので$\x_1,\x_2,\ldots,\x_n$は線形独立であることが示された。
$K$が$1$の原始$n$乗根$\z$($n$は$K$の標数で割り切れないような正整数)を持つとき、体の拡大$L/K$に対し以下は同値となる。
$$d=[L:K],\quad\eta=\z^{n/d},\quad\Gal(L/K)=\langle\s\rangle$$
とおくとデデキントの補題($G=L^\times,k=L$)より写像
$$f=\sum^{d-1}_{i=0}\eta^{-i}\s^i\quad\in\Map(L^\times,L)$$
は$0$でないのである$x\in L$が存在して$f(x)\neq0$が成り立つ。
このとき$b=f(x)$とおくと$\s(\eta)=\eta$より
$$\s(b)=\sum^{d-1}_{i=0}\eta^{-i}\s^{i+1}(x)=\eta\sum^{d-1}_{i=0}\eta^{-(i+1)}\s^{i+1}(x)=\eta b$$
が成り立ち、特に
$$\s^i(b)=\eta^ib\quad(i=0,1,\ldots,d-1)$$
はそれぞれ異なる値を取るので$[K(b):K]=d=[L:K]$、つまり$L=K(b)$となる。
また$a=b^d$とおくと$\s(b^d)=(\eta b)^n=b^d$よりこれは$\Gal(L/K)$の作用に対して不変なので$a\in K$となり$L=K(\sqrt[d]a)=K(\sqrt[n]{a^d})$を得る。
$\sqrt[n]a$を根に持つ$K$上の多項式
$$f(x)=x^n-a=\prod^{n-1}_{i=0}(x-\z^i\sqrt[n]a)$$
の他の根は全て$L$に含まれるので$L/K$は正規拡大であり、また$K$の標数は$n$を割り切らないことから$x\neq0$に対し
$$f'(x)=nx^{n-1}\neq0$$
が成り立つので$f$は分離多項式であり、したがって$L/K$はガロア拡大となる。
また
$$I=\{m\in\Z\mid\exists\s\in\Gal(L/K),\ \s(\sqrt[n]a)=\z^m\sqrt[n]a\}$$
とおくとある正整数$d$が存在し$I=d\Z$が成り立ち、このとき$\Gal(L/K)$は
$$\s(\sqrt[n]a)=\z^d\sqrt[n]a$$
なる元$\s$によって生成される位数$n/d$の巡回群となる。
群$G$に対し
$$x^n=1\quad(\forall x\in G)$$
を満たすような正整数$n$であって最小のものを$G$の指数(exponent)と言う。
群$G$とその部分群$H$に対し定まる指数(index)$|G:H|$とは異なる概念であることに注意する。なおindexとの混同を避けるためexponentを冪数と呼ぶこともある(らしい)。
$K$が$1$の原始$n$乗根$\z$($n$は$K$の標数で割り切れないような正整数)を持つとき、体の拡大$L/K$に対し以下は同値となる。
またこのような拡大$L/K$のことを(有限次)クンマー拡大と言う。
一般に無限次のクンマー拡大も考えることができるが、ここでは詳しくは触れない。
有限アーベル群の基本定理より同型
$$\Gal(L/K)\simeq(\Z/n_1\Z)\times(\Z/n_2\Z)\times\cdots\times(\Z/n_r\Z)$$
が存在する(両辺の指数を考えると各$n_i$は$n$の約数となることに注意する)。
このとき
$$H_i\simeq(\Z/n_1\Z)\times\cdots\times(\Z/n_{i-1}\Z)\times(\Z/n_{i+1}\Z)\times\cdots\times(\Z/n_r\Z)$$
なる部分群$H_i$を取り、その固定体を$M_i$とおくと
$$\Gal(M_i/L)\simeq\Gal(L/K)/H_i\simeq\Z/n_i\Z$$
が成り立つので命題2よりある$a_i\in K$が存在して$M_i=K(\sqrt[n]{a_i})$と表せる。
また
$$K(\sqrt[n]{a_1},\sqrt[n]{a_2},\ldots,\sqrt[n]{a_r})$$
の固定群は$\bigcap^r_{i=1}H_i\simeq0$となるので
$$L=K(\sqrt[n]{a_1},\sqrt[n]{a_2},\ldots,\sqrt[n]{a_r})$$
を得る。
命題2の証明で見たように$L$の生成元$\sqrt[n]a$は分離的であり、また$L$はその共役元を全て含むので$L/K$はガロア拡大である。
また任意の$\s,\tau\in\Gal(L/K)$に対し
$$\s(\sqrt[n]{a_i})=\z^{e_i}\sqrt[n]{a_i},\quad
\tau(\sqrt[n]{a_i})=\z^{f_i}\sqrt[n]{a_i}\quad(i=1,2,\ldots,r)$$
とおくと
$$\s^n(\sqrt[n]{a_i})=\sqrt[n]{a_i}$$
より$\Gal(L/K)$の指数は高々$n$であり、また
$$\s\tau(\sqrt[n]{a_i})=\tau\s(\sqrt[n]{a_i})=\z^{e_i+f_i}\sqrt[n]{a_i}$$
より$\Gal(L/K)$はアーベルである。
アーベル群$G$から乗法群$\C^\times$への準同型$\x:G\to\C^\times$のことを$G$の指標と言い、また$G$の指標全体のなす群$\Hom(G,\C^\times)$を指標群と言い$\G$と表す。
$G$の指数が$n$の約数であるとき、$1$の$n$乗根全体のなす群を$\mu_n$とおくと
$$\Hom(G,\C^\times)=\Hom(G,\mu_n)$$
が成り立つことに注意する。
有限アーベル群$G$に対し$G\simeq\G$が成り立つ。
この記事 の定理2として示した。
群$G_1,G_2,G_3$に対し、写像$e:G_1\times G_2\to G_3$であって双線形性
\begin{align}
e(x_1\cdot x_2,y)&=e(x_1,y)\cdot e(x_2,y)\\
e(x,y_1\cdot y_2)&=e(x,y_1)\cdot e(x,y_2)
\end{align}
を満たすようなものをペアリングと言う。
またペアリング$e$が誘導する準同型
\begin{align}
G_1&\to\Hom(G_2,G_3),&x&\mapsto e(x,\,*\,)\\
G_2&\to\Hom(G_1,G_3),&y&\mapsto e(\,*\,,y)
\end{align}
がそれぞれ単射/全単射となることを$e$は非退化/完全であると言う。
有限アーベル群$G_1,G_2$から$\C^\times$へのペアリング$e:G_1\times G_2\to\C^\times$に対し、$e$が非退化であることと完全であることは同値である。
完全であれば非退化であることは明らか。
また$e$が非退化であるとき
$$G_1\to\G_2,\quad G_2\to\G_1$$
の単射性から
$$|G_1|\leq|\G_2|,\quad|G_2|\leq|\G_1|$$
が成り立ち、また上の補題より
$$|G_1|=|\G_1|,\quad|G_2|=|\G_2|$$
が成り立つことに注意すると$|G_1|=|G_2|$、つまり全射性
$$|G_1|=|\G_2|,\quad|G_2|=|\G_1|$$
を得る。
$1$の原始$n$乗根を持つ体$K$とその乗法部分群$(K^\times)^n\subseteq R\subseteq K^\times$に対し
$$(c(K^\times)^n,\s)\mapsto\frac{\s(\sqrt[n]c)}{\sqrt[n]c}$$
によって定まる写像
$$R/(K^\times)^n\times\Gal(K(\sqrt[n]R)/K)\to\mu_n$$
をクンマーペアリングと言う。
$K(\sqrt[n]R)/K$が有限次拡大であるとき、クンマーペアリングは完全ペアリングとなる。
簡単のため$L=K(\sqrt[n]R),\ G=\Gal(L/K)$とおく。
第一変数に関する線形性
$$e(c_1c_2,\s)=e(c_1,\s)e(c_2,\s)$$
は明らか。また第二変数に関しては$G$が$\mu_n$の元を固定することから
$$e(c,\s)e(c,\tau)
=\frac{\s(e(c,\tau)\sqrt[n]c)}{\sqrt[n]c}
=\frac{\s(\tau(\sqrt[n]c))}{\sqrt[n]c}
=e(c,\s\tau)$$
とわかる。
$e$が非退化性であることを示せばよい。実際そうであれば$G$の有限性と$R/(K^\times)^n\to\G$の単射性から$R/(K^\times)^n$は有限であることがわかるので補題5より完全性がわかる。
いま$\s\in G$が任意の$a\in R$に対し
$$\frac{\s(\sqrt[n]a)}{\sqrt[n]a}=1$$
を満たすならば$\s$は$L$の元を固定するので$\s=1$でなければならない、つまり$G\to\wh{R/(K^\times)^n}$は単射となる。
また$a\in R$が任意の$\s\in G$に対し
$$\frac{\s(\sqrt[n]a)}{\sqrt[n]a}=1$$
を満たすならば$\sqrt[n]a\in K^\times$つまり$a\in(K^\times)^n$となるので$R/(K^\times)^n\to\G$は単射となる。
の間には一対一対応
\begin{align}
L&\longrightarrow K^\times\cap(L^\times)^n\\
K(\sqrt[n]R)&\longleftarrow R
\end{align}
が成り立ち、特に
$$\Gal(L/K)\simeq R/(K^\times)^n$$
が成り立つ。
クンマー拡大$L/K$に対し
$$R'=K^\times\cap(L^\times)^n$$
とおくと命題3より$L=K(\sqrt[n]{R'})$が成り立つので命題6より
$$R'/(K^\times)^n\simeq\wh{\Gal(L/K)}$$
特に$R'/(K^\times)^n$は有限群となる。
またある$R$に対し$L=K(\sqrt[n]R)$が成り立つとすると命題6より
$$R/(K^\times)^n\simeq\wh{\Gal(L/K)}\simeq R'/(K^\times)^n$$
が成り立ち、また明らかに$R\subseteq R'$なので$R=R'$を得る。
したがって上の対応は互いに逆対応を与えることがわかり、また補題4より
$$R/(K^\times)^n\simeq\wh{\Gal(L/K)}\simeq\Gal(L/K)$$
を得る。
クンマー理論の基本定理は「集合$S$の$n$乗根によって生成される体は、$S$のなす群$R=\langle S\rangle$に含まれない元の$n$乗根を持たない」ことを示唆している。
例えば$\Q$上のクンマー拡大体$\Q(\sqrt2,\sqrt3)$に含まれる平方根は$\sqrt2,\sqrt3,\sqrt6$(とその有理数倍)に限り、したがって
$$\sqrt5\not\in\Q(\sqrt2,\sqrt3)$$
のような事実が即座に従うのである。
また次のような事実も興味深い。
$K^\times/(K^\times)^n$の有限部分群$R/(K^\times)^n$とその完全代表系$\{a_1,a_2,\ldots,a_r\}$に対し
$$\sqrt[n]{a_1},\sqrt[n]{a_2},\ldots,\sqrt[n]{a_r}$$
は$K$-線形独立である。
$R/(K^\times)^n$は積について閉じていることに注意すると$K$-線形空間
\begin{align}
L&=K(\sqrt[n]R)\\
&=K(\sqrt[n]{a_1},\sqrt[n]{a_2},\ldots,\sqrt[n]{a_r})\\
&=K[\sqrt[n]{a_1},\sqrt[n]{a_2},\ldots,\sqrt[n]{a_r}]\\
&=K\sqrt[n]{a_1}+K\sqrt[n]{a_2}+\cdots+K\sqrt[n]{a_r}
\end{align}
の次元$[L:K]$は$r$以下であり、また
$$[L:K]=|\Gal(L/K)|=|R/(K^\times)^n|=r$$
であったことから$\sqrt[n]{a_1},\sqrt[n]{a_2},\ldots,\sqrt[n]{a_r}$は$K$-線形独立でなければならないことがわかる。
特に$1\in R/(K^\times)^n$より$a_r=\sqrt[n]{a_r}=1$としてよく、このとき非自明な線型結合
$$x_0+x_1\sqrt[n]{a_1}+x_2\sqrt[n]{a_2}+\cdots+x_{r-1}\sqrt[n]{a_{r-1}}\quad(x_i\in K)$$
は$0$でないことから
$$x_1\sqrt[n]{a_1}+x_2\sqrt[n]{a_2}+\cdots+x_{r-1}\sqrt[n]{a_{r-1}}\neq-x_0$$
特に$x_0\in K$は任意であることから
$$x_1\sqrt[n]{a_1}+x_2\sqrt[n]{a_2}+\cdots+x_{r-1}\sqrt[n]{a_{r-1}}\not\in K$$
が言える。
これは$\sqrt[n]{a_1},\sqrt[n]{a_2},\ldots,\sqrt[n]{a_{r-1}}$の線型結合は全て$K$上の無理数となることを示唆している。
例えば$\langle2,3,5,7\rangle/(\Q^\times)^2$において$2,3,5,7$は互いに異なる剰余類を定めることから、$\sqrt2,\sqrt3,\sqrt5,\sqrt7$の線型結合、例えば
$$\sqrt2+\sqrt3+\sqrt5+\sqrt7$$
は無理数となることが即座に従うのである。
同様に$\Q(\z_n)$上のクンマー拡大を考えることで一般に有理数の$n$乗根に関する無理性を議論することもできるが、有理数の$\Q^\times/(\Q^\times)^n$における振る舞いと$\Q(\z_n)^\times/(\Q(\z_n)^\times)^n$における振る舞いは微妙に異なること、つまり$\Q(\z_n)$にはいくつかの冪根$\sqrt[n]r\ (r\in\Q)$が含まれていることには注意しなければならない。
例えば$n=12$のとき
$$\z_{12}=\frac{\sqrt3+\sqrt{-1}}2,\quad\z_{12}+\z_{12}^{-1}=\sqrt3$$
から$3^6\in(\Q(\z_{12})^\times)^{12}$が成り立つので
\begin{align}
\langle2,3\rangle/(\Q^\times)^{12}
&=\{2^l3^m\mid 0\leq l<12,\ 0\leq m<12\}\\
\langle2,3\rangle/(\Q(\z_{12})^\times)^{12}
&=\{2^l3^m\mid 0\leq l<12,\ 0\leq m<6\}
\end{align}
のような違いが生じる。
しかし
$$\sqrt[12]{2^l3^m}\quad(0\leq l<12,\ 0\leq m<6)$$
の$\Q(\z_{12})$-線形独立性、ひいては$\Q(\sqrt3)$-線形独立性が言えることと$\Q(\sqrt3)=\Q\oplus\Q\sqrt3$から結局
$$\sqrt[12]{2^l3^m}\quad(0\leq l<12,\ 0\leq m<12)$$
の$\Q$-線形独立性は導くことができる。
実は同様にして一般に$[\Q(\sqrt[n]R):\Q]=|R/(\Q^\times)^n|$という主張が示せることに気付いたので
この記事
に簡単にまとめておいた。