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大学数学基礎解説
文献あり

正則素数におけるフェルマーの最終定理:ファーストケース

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はじめに

 この記事では皆さんおなじみフェルマーの最終定理をその指数nが正則素数である場合について証明していきます。
 フェルマーの最終定理とは以下の主張のことを言いました。

フェルマーの最終定理

 方程式xn+yn=zn3以上の自然数nについて非自明な整数解(x,y,z)を持たない。

 また正則素数とは以下のような素数のことを言います。

正則素数

 素数pが円分体Q(ζp)の類数hを割り切らないときpは正則素数であると言う。

 ご存じの通り、一般の自然数nに対しフェルマーの最終定理を示すことは非常に難しいですが、n=pが正則素数のときは比較的簡単な議論によって示すことができます。

正則素数に対するフェルマーの最終定理

 正則素数pに対し方程式xp+yp=zpは非自明な整数解(x,y,z)を持たない。

 なおフェルマーの最終定理はpxyzである場合とpxyzである場合の2つのケースに場合分けされ、前者はファーストケース、後者はセカンドケースと呼ばれます。この記事ではpxyzのファーストケースについて解説し、セカンドケースについては 次回の記事 で解説していきます。
 以下簡単のため1の原始p乗根ζpを単にζと表します。

証明のあらすじ

 pxyzであることからZ[ζ]のあるイデアルaがあって
(x+ζy)=ap
と表せれることを示し、pが正則素数であることからaは単項イデアルであること、つまりあるZ[ζ]の単数εとあるαZ[ζ]があって
x+ζy=εαp
と表せることを示す。
 またある整数rがあってε=ζrεと書けることから合同式
(x+ζy)ζr(x+ζ1y)0(modp)
が成り立つこと、特にp|xまたはp|yまたはp|(xy)が成り立つことを示す。
 しかしp5, pxyzにおいてp(xy)とできることから矛盾を得る(p=3の場合については別途証明する)。

補題

 以下pを正則素数とし、x,y,zは互いに素な整数であって
xp+yp=zp,pxyz
を満たすものとする。

 Z[ζ]の単項イデアル(x+ζiy)(i=0,1,2,,p1)は互いに素である。

 0i<jp1なるi,jに対しa|(x+ζiy)かつa|(x+ζjy)なるイデアルaを任意に取ると
a((x+ζiy)(x+ζjy))=(1ζji)(y)(py)
が成り立つ。もしa(1)とすると
a(xp+yp)=(z)p
であるのでこれはpzあるいはgcd(y,z)=1に反する。
 よってgcd((x+ζiy),(x+ζjy))=(1)を得る。

 Z[ζ]のイデアルaに対し、apが単項イデアルならばaも単項イデアルとなる。

 類数hの定義からahは単項イデアルであり、phであったのでpX+hY=1なる整数X,Yが存在し
a=(ap)X(ah)Y
が成り立つのでaは単項イデアルであることがわかる。

 任意のαZ[ζ]に対しαppを法としてある有理整数と合同である。特に
αpαp(modp)
が成り立つ。

α=k=0p2akζk
とおくと(多項定理より)
αpk=0p2(akζk)p=k=0p1akp(modp)
となるので主張を得る。

 ある整数rが存在して
x+ζyζrxζr1y0(modp)
が成り立つ。

 Z[ζ]において
(z)p=(xp+yp)=i=0p1(x+ζiy)
と分解すると補題3より各iに対しあるイデアルai|(z)が存在して(x+ζiy)=aipを満たす。
 このとき補題4からai=(αi)、つまりある単数εがあって
x+ζiy=εαip
が成り立つ。
 また この記事 の補題4の証明からある整数rが存在しε=ζrεが成り立つので、上の補題から
x+ζy=εα1pζrεα1p=ζr(x+ζ1y)(modp)
つまり
x+ζyζrxζr1y0(modp)
を得る。

 p|(xy)が成り立つ。

 上の補題
x+ζyζrxζr1y0(modp)()
において1,ζ,ζr,ζr1がすべて異なれば(その独立性から)明らかにp|x,yとなり矛盾。
 よって1=ζrまたは1=ζr1またはζ=ζr1であり、そのそれぞれの場合において
1=ζr1のとき、()=ζyζp1y0(modp)つまりp|y
1=ζr1のとき、()=(xy)ζ(xy)0(modp)つまりp|(xy)
ζ=ζr1のとき、()=xζ2x0(modp)つまりp|x
が成り立たなければならないのでpxyであったことから主張を得る。

証明

 p5においてx,y,zを(符号と共に)適当に入れ替えるとp(xy)とできる。特にファーストケースは成り立たない。

 p(xy)とする。このとき
xyz(modp)
であるとすると
zp=xp+yp2zp(modp)
となるがp5よりp|zでなければならず矛盾。
 したがってxz(modp)となるので(X,Y,Z)=(x,z,y)とおくと
Xp+Yp=xpzp=yp=Zp
かつp(XY)が成り立つ。
 しかし補題7よりp(XY)でなければならないため矛盾。よってp5においてファーストケースは成り立たないことがわかる。

 p=3のときファーストケースは成り立たない。

 3Xなる整数に対してX3±1(mod9)が成り立つことに注意すると、3xyzにおいて
x3+y3z3(mod9)
は成り立ち得ない、特にx3+y3z3となることがわかる。

 以上より正則素数pに対しファーストケースは成り立たないことが示された。

参考文献

投稿日:2020121
更新日:2024110
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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