この記事では皆さんおなじみフェルマーの最終定理をその指数$n$が正則素数である場合について証明していきます。
フェルマーの最終定理とは以下の主張のことを言いました。
方程式$x^n+y^n=z^n$は$3$以上の自然数$n$について非自明な整数解$(x,y,z)$を持たない。
また正則素数とは以下のような素数のことを言います。
素数$p$が円分体$\Q(\z_p)$の類数$h$を割り切らないとき$p$は正則素数であると言う。
ご存じの通り、一般の自然数$n$に対しフェルマーの最終定理を示すことは非常に難しいですが、$n=p$が正則素数のときは比較的簡単な議論によって示すことができます。
正則素数$p$に対し方程式$x^p+y^p=z^p$は非自明な整数解$(x,y,z)$を持たない。
なおフェルマーの最終定理は$p\nmid xyz$である場合と$p\mid xyz$である場合の2つのケースに場合分けされ、前者はファーストケース、後者はセカンドケースと呼ばれます。この記事では$p\nmid xyz$のファーストケースについて解説し、セカンドケースについては
次回の記事
で解説していきます。
以下簡単のため$1$の原始$p$乗根$\z_p$を単に$\z$と表します。
$p\nmid xyz$であることから$\Z[\z]$のあるイデアル$\mathfrak{a}$があって
$$(x+\z y)=\mathfrak{a}^p$$
と表せれることを示し、$p$が正則素数であることから$\mathfrak{a}$は単項イデアルであること、つまりある$\Z[\z]$の単数$\e$とある$\a\in\Z[\z]$があって
$$x+\z y=\e\a^p$$
と表せることを示す。
またある整数$r$があって$\e=\z^r\ol\e$と書けることから合同式
$$(x+\zeta y)-\zeta^r(x+\zeta^{-1}y)\equiv0\pmod{p}$$
が成り立つこと、特に$p|x$または$p|y$または$p|(x-y)$が成り立つことを示す。
しかし$p\geq5,\ p\nmid xyz$において$p\nmid(x-y)$とできることから矛盾を得る($p=3$の場合については別途証明する)。
以下$p$を正則素数とし、$x,y,z$は互いに素な整数であって
$$x^p+y^p=z^p,\quad p\nmid xyz$$
を満たすものとする。
$\Z[\z]$の単項イデアル$(x+\zeta^iy)\quad(i=0,1,2,\ldots,p-1)$は互いに素である。
$0\leq i< j\leq p-1$なる$i,j$に対し$\mf a|(x+\zeta^iy)$かつ$\mf a|(x+\zeta^jy)$なるイデアル$\mf a$を任意に取ると
$$\mf a\mid((x+\z^iy)-(x+\z^jy))=(1-\z^{j-i})(y)\mid(py)$$
が成り立つ。もし$\mathfrak{a}\neq(1)$とすると
$$\mf a\mid(x^p+y^p)=(z)^p$$
であるのでこれは$p\nmid z$あるいは$\gcd(y,z)=1$に反する。
よって$\gcd((x+\z^iy),(x+\z^jy))=(1)$を得る。
$\Z[\z]$のイデアル$\mf a$に対し、$\mf a^p$が単項イデアルならば$\mf a$も単項イデアルとなる。
類数$h$の定義から$\mf a^h$は単項イデアルであり、$p\nmid h$であったので$pX+hY=1$なる整数$X,Y$が存在し
$$\mf a=(\mf a^p)^X(\mf a^h)^Y$$
が成り立つので$\mf a$は単項イデアルであることがわかる。
任意の$\a\in\Z[\z]$に対し$\a^p$は$p$を法としてある有理整数と合同である。特に
$$\a^p\equiv\ol{\a^p}\pmod{p}$$
が成り立つ。
$$\a=\sum^{p-2}_{k=0}a_k\z^k$$
とおくと(多項定理より)
$$\a^p\equiv\sum^{p-2}_{k=0}(a_k\z^k)^p=\sum^{p-1}_{k=0}a_k^p\pmod{p}$$
となるので主張を得る。
ある整数$r$が存在して
$$x+\zeta y-\zeta^rx-\zeta^{r-1}y\equiv0\pmod{p}$$
が成り立つ。
$\Z[\z]$において
$$(z)^p=(x^p+y^p)=\prod^{p-1}_{i=0}(x+\z^iy)$$
と分解すると補題3より各$i$に対しあるイデアル${\mathfrak{a}}_i|(z)$が存在して$(x+\zeta^i y)={\mathfrak{a}}_i^p$を満たす。
このとき補題4から$\mf a_i=(\alpha_i)$、つまりある単数$\e$があって
$$x+\zeta^iy={\varepsilon}\alpha_i^p$$
が成り立つ。
また
この記事
の補題4の証明からある整数$r$が存在し$\e=\z^r\ol\e$が成り立つので、上の補題から
$$x+\z y=\e\cdot\a_1^p
\equiv\z^r\ol\e\cdot\ol{\a_1^p}=\zeta^r(x+\zeta^{-1}y)\pmod{p}$$
つまり
$$x+\zeta y-\zeta^rx-\zeta^{r-1}y\equiv0\pmod{p}$$
を得る。
$p|(x-y)$が成り立つ。
上の補題
$$x+\zeta y-\zeta^rx-\zeta^{r-1}y\equiv0\pmod{p}\quad\cdots(*)$$
において$1,\zeta,\zeta^r,\zeta^{r-1}$がすべて異なれば(その独立性から)明らかに$p|x,y$となり矛盾。
よって$1=\zeta^r$または$1=\zeta^{r-1}$または$\zeta=\zeta^{r-1}$であり、そのそれぞれの場合において
・$1=\zeta^{r\phantom{{}-1}}$のとき、$(*)=\zeta y-\zeta^{p-1}y\equiv0\pmod{p}$つまり$p|y$
・$1=\zeta^{r-1}$のとき、$(*)=(x-y)-\zeta(x-y)\equiv0\pmod{p}$つまり$p|(x-y)$
・$\zeta=\zeta^{r-1}$のとき、$(*)=x-\zeta^2x\equiv0\pmod{p}$つまり$p|x$
が成り立たなければならないので$p\nmid xy$であったことから主張を得る。
$p\geq5$において$x,y,z$を(符号と共に)適当に入れ替えると$p\nmid(x-y)$とできる。特にファーストケースは成り立たない。
$p\mid(x-y)$とする。このとき
$$x\equiv y\equiv -z\pmod{p}$$
であるとすると
$$z^p=x^p+y^p\equiv-2z^p\pmod{p}$$
となるが$p\geq5$より$p|z$でなければならず矛盾。
したがって$x\not\equiv-z\pmod p$となるので$(X,Y,Z)=(x,-z,-y)$とおくと
$$X^p+Y^p=x^p-z^p=-y^p=Z^p$$
かつ$p\nmid(X-Y)$が成り立つ。
しかし補題7より$p\mid(X-Y)$でなければならないため矛盾。よって$p\geq5$においてファーストケースは成り立たないことがわかる。
$p=3$のときファーストケースは成り立たない。
$3\nmid X$なる整数に対して$X^3\equiv\pm1\pmod{9}$が成り立つことに注意すると、$3\nmid xyz$において
$$x^3+y^3\equiv z^3\pmod{9}$$
は成り立ち得ない、特に$x^3+y^3\neq z^3$となることがわかる。
以上より正則素数$p$に対しファーストケースは成り立たないことが示された。