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大学数学基礎解説
文献あり

正則素数におけるフェルマーの最終定理:セカンドケース

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はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続き正則素数に対するフェルマーの最終定理の証明を行っていきます。

正則素数に対するフェルマーの最終定理

 正則素数pに対してxp+yp=zpは非自明な整数解(x,y,z)を持たない。

 今回はp|xyzのセカンドケースについて解説していきます。
 また前回の記事では正則素数というものを

正則素数

 素数pが円分体Q(ζp)の類数hpが割り切らないときpは正則素数であると言う。

によって定めていましたが、セカンドケースにおいては正則素数の持つ次のような性質が重要となってきます。

 正則素数pはベルヌーイ数B2,B4,,Bp3(の分子)を割り切らない。

 実はこの命題はpが正則素数であることと同値であること(Kummerの判定法)が知られており、場合によってはこちらを正則素数の定義とすることもあります。ちなみにKummerの判定法については この記事 この記事 において解説しています。
 この性質は本記事の中では利用されませんが、途中で使用するKummerの補題を示す際(具体的に言えば この記事 の定理13を示す際)に重要な役割を果たすこととなります。
 そしてそのKummerの補題とは次のような主張のことを言うのでした。

Kummerの補題

 正則素数pについてZ[ζp]の単数εpを法としてある有理整数と合同であるとき、ある単数εが存在してε=(ε)pが成り立つ。

 最終的にp乗が出てくるあたりいかにも、って感じですね。
 以下前回の記事に引き続き1の原始p乗根ζpを単にζと表すこととします。

証明のあらすじ

 p|xyzであることとxp+yp+(z)p=0であることを変形して
αp+βp+ε(1ζ)pnγp=0((1ζ)αβγ)
という方程式のZ[ζ]上の解(α,β,γ)を考える。
 このときβに適当にζrを掛けたものζrβを改めてβとおくことで、ある単数εiとあるtiQ(ζ)を用いて
α+ζiβα+β=εiti(1ζ)p(n1)
と表せることを示す。するとこれを適当に変形することで
cp1p+ϵc1p+ε(1ζ)p(n1)c0p=0
という形の式が得られ、Kummerの補題からϵ=(ϵ)pとできることに注意すると最初の方程式
cp1p+(ϵc1)p+ε(1ζ)p(n1)c0p=0
が再び現れることとなる。
 いま方程式があるnに対して解を持つとするとこのようにnを下げていくことができ、最終的にn=1の解が得られることになるが、この方程式はn2においてしか解を持たないことを示すことで矛盾が得られる。

補題

 x,y,zZに関する方程式
xp+yp=zp(pxyz)
α,β,γZ[ζ]に関する方程式
αp+βp+ε(1ζ)pnγp=0(εZ[ζ]×,n1,(1ζ)αβγ)
の特殊な例として埋め込める。

 方程式
xp+yp=zp(pxyz)
xp+yp+(z)p=0とも表せるので対称性よりpxy,p|zとしてよく、このとき
ϵ=k=1p11ζk1ζ=p(1ζ)p1z=pez=ϵe(1ζ)e(p1)z(pz)
とおくと
xp+yp+(ϵpe)(1ζ)pe(p1)(z)p=0(pxyz)
と変形できる。
 これは方程式
αp+βp+ε(1ζ)pnγp=0((1ζ)αβγ)

(α,β,γ,ε,n)=(x,y,z,ϵpe,e(p1))
の場合となっている。

 以下方程式
αp+βp+ε(1ζ)pnγp=0((1ζ)αβγ)
の満たすべき性質について考えていく。

 あるrが存在し、ir (0i<p)においては
(1ζ)|(α+ζiβ),(1ζ)2(α+ζiβ)
が成り立ち、i=rのときは
(1ζ)2|(α+ζrβ)
が成り立つ。特に
(1ζ)p+1|(αp+βp)=(1ζ)pn(γ)p
が成り立つのでn2でなければならない。

(αp+βp)=i=0p1(α+ζiβ)=(1ζ)pn(γ)p
および
α+ζiβα+β(mod1ζ)
が成り立つことからα+ζiβはそれぞれ少なくとも一回は1ζで割り切れる。
 またある0i<jp1について
α+ζiβα+ζjβ(mod(1ζ)2)
が成り立つとすると
(1ζ)β0(mod(1ζ)2)
でなければならないが、これは(1ζ)βに矛盾。
 したがって
α+ζiβ1ζ(i=0,1,2,,p1)
Z[ζ]/(1ζ)においてそれぞれ異なる剰余を持ち、|Z[ζ]/(1ζ)|=pに注意すると
α+ζrβ1ζ0(mod1ζ)
を満たすi=rがただ一つ存在することがわかる。

 0i<jp1に対し
gcd((α+ζiβ),(α+ζjβ))=(α,β)(1ζ)
が成り立つ。

 (α+ζiβ),(α+ζjβ)の最大公約イデアルをaとおく。このとき
a((α+ζiβ)(α+ζjβ))=(1ζ)(β)
および同様にa(1ζ)(α)が成り立つので、(α),(β)の最大公約イデアルは(α,β)であることからa(α,β)(1ζ)がわかる。
 また
(1ζ)(α,β),(α,β)(1ζ)|(α+ζkβ)
に注意すると(α,β)(1ζ)aもわかるのでa=(α,β)(1ζ)を得る。

 補題5のようなrについてζrβを改めてβとおくことで(1ζ)2|(α+β)とする。
 このときある単数εiord(1ζ)ti=0なるあるtiQ(ζ)があって
α+ζiβα+β=εitip(1ζ)p(n1)
が成り立つ。

 o=(α,β)とおくと補題5,6から
(α+β)=o(1ζ)p(n1)+1c0p(α+ζiβ)=o(1ζ)cip(i0)
なる互いに素なイデアルciが取れる。
 このときi0に対し
(cic01)p=(α+ζiβ)(α+β)1(1ζ)p(n1)
は単項分数イデアルであるので、pは正則素数であったことから 前回の記事 の補題4よりcic01も単項分数イデアルとなる。
 したがって
cic01=(ti)(tiQ(ζ))
とおくと(1ζ)ckよりord(1ζ)ti=0であり、また
(α+ζiβ)(α+β)1=(ti)p(1ζ)p(n1)
よりあるεiZ[ζ]×によって
α+ζiβα+β=εitip(1ζ)p(n1)
と表せることがわかる。

証明

 あるεZ[ζ]×n1に対し
αp+βp+ε(1ζ)pnγp=0((1ζ)αβγ)
を満たすようなα,β,γZ[ζ]は存在しない。

 補題7のi=1の場合を恒等式
α+ζβ=(1+ζ)(α+β)ζ(α+ζp1β)
を用いて整理すると
ζεp1tp1p+ε1t1p(1+ζ)(1ζ)p(n1)=0
となり、これに適当な(代数的)整数と単数をかけると
cp1p+ϵc1p+ε(1ζ)p(n1)c0p=0(ϵ,εZ[ζ]×)
と変形できる。このときtiの取り方から(1ζ)cp1c1c0とできることに注意する。
 いま補題5からn2であったので
(1ζ)pn0(modp)
となり、また 前回の記事 の補題5からある整数a,bがあってcp1pa,c1pb0(modp)
となるので、ϵab1(modp)が成り立つ。
 したがって Kummerの補題 からϵ=(ϵ)pなるϵZ[ζ]×が存在し、ϵc1を再びc1とおくことで
cp1p+c1p+ε(1ζ)p(n1)c0p=0
を得る。
 さて方程式
αp+βp+ε(1ζ)pnγp=0
があるnに対して解を持つとするとこのようにn1における解が得られ、同様にしていくことでn=1の解も得られることになるが、補題5からこの方程式はn2においてしか解を持たないので矛盾を得る。

 以上より正則素数pに対してセカンドケースは成り立たないことが示された。

参考文献

投稿日:2020122
更新日:2024110
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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