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第1回
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第2回
第3回は環論の基礎について学ぶこととする。
$G$は二項演算$+$(加法)による群。さらに$G$上に別の二項演算$\cdot$(乗法)が定義されているとする。$G$と2つの二項演算$+$,$\cdot$が環であるとは,以下を満たすときのことである。
整数全体の集合$\mathbb Z$は加法($+$)と乗法($\cdot$)により(可換)環となる。加法の単位元は$0$,乗法の単位元は$1$である。
また,乗法については逆元が存在しない($2\cdot \dfrac{1}{2}=1$だが,$\dfrac{1}{2} \notin \mathbb Z$である。)。
2つの環$R$,$R'$とその間の写像$f:R \rightarrow R'$が以下を満たすとき,$f$を環準同型という。
また,この$f$が全単射であるとき,$f$を環同型といい,$R$,$R'$の間に環同型写像が存在するとき,$R$と$R'$は同型であるといい,$R\simeq R'$とかく。
(注)3.を条件に含めない場合もある。
環($R,+,\cdot$)の部分集合$I\subset R$が,次の2条件をを満たすとき,$I$を$R$のイデアルという。
注)($R,+,\cdot$)は$R$上に2つの二項演算$+$,$\cdot$が定義されており,加法($+$)により群になっていることを表す。
整数環$\mathbb Z$の部分群$n\mathbb Z = \{ nm | m \in \mathbb Z\}$は$\mathbb Z$のイデアルである。
例えば$2 \mathbb Z$は偶数全体の集合であり,1.偶数同士の和は必ず偶数。2.任意の整数を2倍したものは必ず偶数になっている。この2つ性質は$2 \mathbb Z$が$\mathbb Z$におけるイデアルであることを意味する。
2つの環$R$,$R'$とその間の準同型写像$f:R \rightarrow R'$に対し
$$ \ker f := \{x \in R \ | \ f(x) = 0 \}$$
とし,これを$f$の核という。($0$は加法の零元)
$\ker f$は$R$のイデアルである。
まず,$\ker f$が$R$の部分加法群であることを確認する。
次にイデアルであることを示す。
環$R$の(左)イデアル$I$,$J$に対し,$I\cap J$,$I+J$,$IJ$もまた$R$の(左)イデアルである。ただし,$I+J := \{ x+y \ | \ x \in I, y \in J \}$,$IJ := \{ \Sigma _{\mbox{有限和}} x_i y_i \ | \ x_i \in I,y_i \in J \}$とする。
$I\cap J$,$I+J$における証明とほぼ同様にできる。
環$R$とその部分集合$S = \{ x\}$に対して,$RS = \{ \Sigma _{\mbox{有限和}} ax\ | \ a \in R \} $を$S$(または$x$)の生成する($R$)の単項生成イデアルという。$(x)$とかくこともある。
$n\mathbb Z = \{ nm \ | \ m\in \mathbb Z \} = (n)$
環$R$とその両側イデアルを$I$とする。$I$は加法群として$R$の部分群になるので,剰余群$R/I$を考えることができる。つまり$ \bar{x} := x + I \ (x\in R)\ $とかくとき,$R/I =\{ \bar{x}=x+I \ \ | x\in R \}$は演算 $\bar{x} + \bar{y} := \bar{x} + \bar{y}$により加法群になる。さらに乗法を
$$\bar{x}\bar{y} := \bar{xy}$$
と定めることで,$R/I$は環になる。
環$R$とその両側イデアル$I$による剰余類$R/I$は上記の加法と乗法により環になる。これを($R$の両側イデアル$I$による)剰余環という。
加法については[以前の記事]( 中国式剰余定理を理解する(第2回) | Mathlog )を参照のこと。
乗法について示す。つまり$x_1$,$x_2$,$y_1$,$y_2\in R$に対して$\overline{x_1} = \overline{x_2}$,$\overline{y_1} = \overline{y_2}$のとき$\overline{x_1 y_1} = \overline{x_2 y_2}$を示す。
$\overline{x_1} = \overline{x_2}$とすると,$x_1-x_2 \in I$なので(そもそもこのような同値関係が入っていた),$a:=x_1-x_2\in I$とすると,$x_2 = a-x_1$。同様に,$y_2 = b-y_1$とする。すると,$x_2y_2 = (a-x_1)(b-y_1) = ab-ay_1-bx_1+x_1y_1$。$a\in I$,$b\in I$なので,$ab\in I$。また,$a\in I$で,$y_1 \in R$なので$-ay_1 \in I$。同様に$-bx_1 \in I$である。したがって,$ab-ay_1-bx_1 \in I$がわかるので$\overline{x_1y_1} = \overline{x_2y_2}$がいえる。
分配法則は$R$の分配法則から従う。
剰余環$R/I$の零元は$\overline{0} = I$,単位元は$\overline{1} = 1+I$である。
$f:R\rightarrow R'$を環準同型とする。$\mathrm{Im} f$は$R'$の部分環で,両側イデアル$\ker f$に関する$R$の剰余環$R/\ker f$に対して自然な同型$\overline{f}:R/\ker f \rightarrow \mathrm{Im} f \qquad (\overline{f}(\overline{x}) = f(x))$
が存在する。
群準同型定理から,加法群の同型が与えられることはわかる。したがって,$\overline{f}(\overline{x}\overline{y}) = f(x)f(y)$が成り立つことと,$\overline{f}(\overline{1}) = 1'$を示せばよい。
任意の$\overline{x}$,$\overline{y}\in R/\ker f$をとる。剰余環の定義から$\overline{x}\overline{y} = \overline{xy}$であるから,$\overline{f}(\overline{x}\overline{y}) = \overline{f}(\overline{xy}) = f(xy) = f(x)f(y)$となる。また$\overline{f}(\overline{1}) = f(1)= 1'$。以上より示された。
2つの環$R$,$S$に対し,直積群$R\times S:=\{(r,\ s) \ | \ r\in R, \ s\in S\}$に乗法を$(r,\ s)(r', \ s') := (rs, \ r's')$と定めると,$R\times S$は環になる。単位元は$(1_R,\ 1_S)$である。3つ以上の環の直積についても同様に定義する。
最後にイデアルにおける以下の定理を述べて第3回の記事を終える。
環$R$とそのイデアル$I$について,次が成り立つ。
$$I = R \Leftrightarrow 1\in I$$
ただし,$1$は$R$の乗法における単位元である。
$(\Rightarrow)$$I \subset R$より明らか。
$\quad (\Leftarrow)$ $1\in I$なので任意の$r\in R$に対して$r1 = r\in I$が成り立つ。よって,$R\subset I$となる。また$I\subset R$であるから$I=R$となる。
次回はやっと準同型定理について述べる。