はじめに
中国式剰余定理については、名前はよく聞くが正直よくわかっていないという印象であった。そのため,自分の理解のために中国式剰余定理についてまとめてみることを考えた。
当初は1つの記事で高校数学における中国式剰余定理と,一般の中国式剰余定理およびその関係について紹介しようと考えていたが,書き始めるといろいろとボリュームが増えてきたため記事を分割することとした。目標は全4回である。
- 高校数学における中国式剰余定理(本記事)
- 群論および環論の基礎
- 整数環における中国式剰余定理
- 一般の環における中国式剰余定理
2020/12/07 追記
とりあえず第4回まで終えた。
第2回
,
第3回
の記事は群論と環論の定義や命題等の紹介なのでめんどくさい方は
第4回
までジャンプしてほしい。
高校数学における中国式剰余定理
7で割ると1余り,5で割ると2余る整数をすべて求めよ。
この問題は以下の連立合同式の解を求めることと同じである。
第式を満たすはの形でかけるものだけである。
これを第式に代入すると ()つまり,()である。これを満たす整数は,(は任意の整数)である。
従って,求めるものは(は任意の整数)となる。
中国式剰余定理(高校数学)
を互いに素な整数,を任意の整数とする。このとき,次を満たす整数がにただ1つ存在する。
,,を整数で 1,,とする。このとき,はちょうど個の互いに合同でない解をもつ。
補題2
の解を見つけるには,となる整数を見つければよい。つまり,
が解をもつ が解をもつ
ということである。いま,であるから,は常に解をもつ。さらに,ユークリッドの互除法から解,が見つかる。だから,両辺に整数 をかけて,を得る。これはは合同式の解であることを意味している。
次にから個の合同でない解を作る。
をとは異なる解とする。このとき,となるのではを割り切る。つまり,はを割り切る。また,なのでとは互いに素。したがって,はを割り切る。つまり,ある整数が存在して,と表せる。
しかし,どの2つの解もの倍数の違いに関しては同一の解とみなすので,の個の異なる解を得る。
定理1
問題1と同様の手法により証明できる。
第1式を満たすはを任意の整数として,の形にかけるもののみ。これを第2式に代入するととなる。このときは互いに素であるから,これを満たす整数がにただ1つ存在する(補題2)。このときは元の合同式の解となる。の一意性はの一意性から従う。
最後に,このがを満たすことを示す。だから,である。ここで,はで割ったときのあまりなのでであるからとなり,が成り立つ。
なお,定理1を本の互いに素でない連立合同式に拡張することもできるが,本記事では割愛する(気が向いたら追記します)。
参考文献
ジョセフ・H・シルヴァーマン:はじめての数論 原著第3版 発見と証明の大航海―ピタゴラスの定理から楕円曲線まで(訳,鈴木 治郎)