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大学数学基礎解説
文献あり

素数の逆数和が発散することの4種類の証明!

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計算上素数の逆数和は収束しそう

実数xに対して, P,Pxをそれぞれ素数全体, x未満の素数全体とする. まず, 素数の逆数和について有限和で考えてみよう.
12=0.5,12+13=0.83˙,12+13+15=1.03˙
値が小さいし, 収束しそう...?そこで, pythonを使ってがばっと計算してみる(コード作りに慣れていないので見にくいかもしれませんがお許しください><).

素数 素数

上のコードを使って, 整数k未満の素数の逆数和を求めると,
pP1001p=1.802,pP10001p=2.198,pP100001p=2.483,pP1000001p=2.705
となる. どれだけkを大きくしようと, 10すら超えそうにない. よって収束する, と安易に決めつけてはいけない. 実際,
pPx1p=loglogx+O(1)(x)
が成り立つのである(O(1)は, xで定数に収束するxの関数, と思ってくれればよい). 従って, x>e(e10)ととればx以下の素数の逆数和が10を越えるだろうと考えられる.
9565<log10e(e10)<9566
だから, e(e10)9566桁の数である. 上で求めた逆数和は5桁程度なので, いかに膨大な量を計算しなければ10に到達しないかが分かる. 話を戻すが, 理論上は素数の逆数和pPp1は正の無限大に発散するのである. この級数は収束しそうで発散する代表的な例であり, 計算だけで判断するなという戒めにもなる.

そこで, この級数が発散することの証明を, Eulerの方法(1737?),Erdősの方法(1938),Clarksonの方法(1966), Vandeneyndenの方法(1980)の4パターン紹介する. 実はもう一つ簡単な示し方があるが, それは逆数和が発散することを示すのが目的ではないので, 次の機会にでも記事にしたいと思う. まず, 準備として次を示しておく.

n=1nσσ>1で収束し, σ1で正の無限大に発散する.

σ>1とすると
n=11nσ1+1xσdx=1+1σ1<
より収束する. またσ1の場合は, 対象が正項級数ゆえσ=1のときのみ示せば十分である. そこで収束すると仮定すると,
n=11n1x1dx=logx|1=.
これは矛盾である.

ゼータ関数のEuler積表示

n=11nσ=pP(1pσ)1(σ>1)

それでは, 本題に入っていく.

理論上素数の逆数和は発散する

素数の逆数和pPp1は正の無限大に発散する.

Eulerの方法・・・厳密には無限積の話や絶対収束の話が必要だが, 感覚的には命題1,2と対数関数のテイラー展開を知っていればすぐに理解できる証明.

Euler(1737?)

x>1とする.
logζ(x)=logpP11px=pPlog(1px)=pPm=11mpmx(logのテイラー展開)=pP1px+pPm=21mpmx
と変形できる. ここで
|m=21mpmx|<12m=2(1px)m=121p2x11px12p2x1112=1p2x
だから, 二項目は
|pPm=21mpmx|<pP1p2x<n=21n2x<n=11n2.
と評価でき, 収束が確認できる. 従って, 素数の逆数和の収束発散はlogζ(x)x1+での収束発散に置き換えられる. しかし, 命題1よりζ(x)x1+で正の無限大に発散するので, logζ(x)も発散する. 以上より, 素数の逆数和は発散する.

Erdősの方法・・・非常にエレガントな証明. 証明を追ったすべての人を虜にしたに違いない. 自然数の性質をうまく利用している.

Erdős(1938)

n番目の素数をpnと書く. 素数の逆数和が収束すると仮定すると, ある自然数kが存在して
i=k+11pi<12
が成り立つ. N22k+2以上の自然数としてとり, N1pkより大きな素因子をもつN以下の自然数の個数, N2pk以下の素因子を持つN以下の自然数の個数とする. 即ち, Z0で非負整数全体を表わすとすれば,
N1=#{nN:n=i=1piei,i=k+1piei>1(eiZ0)},N2=#{nN:n=i=1kpiei(eiZ0)}.
もちろん, N=N1+N2である. 一般に, 素数pの倍数であるN以下の自然数の個数はNpだから, N1
N1i=k+1NpiNi=k+11pi<N2
と評価できる. 次に, p1,p2,,pkのみを素因子にもつN以下の自然数nをひとつとり, n=ab2のように平方因子を含まないaNと平方数b2Nの積で表わす. aの可能性は, 各pi(1ik)を含むか否かの2k通りある. 一方,
b2=naN
よりbNだから, bの可能性は高々N通りである. よって, nの可能性は高々2kN通りであり,
N22kN
と評価できる. 以上より,
N=N1+N2<N2+2kN
これを変形すると(N2)2<22kNとなり, Nについて解けば
N<22k+2
が得られる. ところが, N22k+2以上としてとっていたので矛盾が生じている. 従って, 素数の逆数和は発散する.

Clarksonの方法・・・素数の性質, 特に素因数分解の一意性をうまく利用した証明. 一見複雑だが, 難しい議論は必要ない. 有限和n=1r(1+nQ)1rに依存しない形で上から抑えるという手法はとても面白い.

Clarkson(1966)

自然数nに対しpnn番目の素数を表わすとする.
収束すると仮定し矛盾を導く. もし収束するなら, ある自然数kが存在して
m=k+11pm<12(1)
が成り立つ. Q=p1p2pkとおくと,1+nQ(nN)p1,p2,,pkのどれでも割れないので,
1+nQ=m=k+1pmam(n)(am(n)0)
と因数分解できる. もちろん, mが十分大きければ, am(n)=0である. ここで, N上の二項関係
nndefm=k+1am(n)=m=k+1am(n)
で定めれば, 素因数分解の一意性よりwell-definedである. 自然数rに対して, 商集合:
A={1,2,,r}/
Nの部分集合と同一視できるため, ANと同じ順序を入れ, Aの元を小さい順にx1,x2,,xrと書くことにする. このとき,
n=1r11+nQ=n=1r1m=k+1pmam(n)n=1r(m=k+11pm)m=k+1am(xn)l=1(m=k+11pm)l<l=1(12)l((1).)=1.
このことから,
n=111+nQ1
が成り立つ. しかし,
n=111+nQ=1Qn=11n+Q11Qn=11n+11Q1dxx+1=+.
より矛盾が生じているので, 素数の逆数和は正の無限大に発散する. 但し, 二つ目の不等式にて Euler-Maclaurinの定理 の定理1を用いた.

Vandeneyndenの方法・・・1+p1の無限積が発散することを用いた証明. よく知られた不等式1+p1<ep1を使って素数の逆数和へ繫いでいる. 証明されたのが40年前と比較的最近なのも驚きである.

Vandeneynden(1980)

任意の素数pに対して
(1+1p)n=01p2n=n=01p2n+n=01p2n+1=n=01pn
が成り立つ. そこで, x以下の素数すべてに対して積をとる:
px(1+1p)n=01p2n=pxn=01pn.
x以下の素数の積で表せる自然数全体をAxとおくと,
px(1+1p)×nAx{1}1n2=nAx{1}1n
命題1より, nAx{1}n2xで収束し, nAx{1}n1は正の無限大に発散する. 即ち,
limxpx(1+1p)=+.
ところで, 正実数αに対して1+α<eαを満たすから,
px(1+1p)pxe1p=exp(px1p).
従って, 追い出しの原理より
limxpx1p=+
が成り立つ.

さいごに

どの証明方法も美しく, かつ簡潔でいいですね. 私はErdősの証明が好きです. よくできすぎているところに神秘性を感じるのもありますが, 一番の理由は自然数の逆数和が発散することを用いずに証明できるからです. みなさんはどの証明方法がお好みですか?

[1] 素数とゼータ関数, 小山信也, 共立出版
[2] Introduction to Analytic Number Theory, T.M.Apostol, Springer.
[3] 数論2-類体論とは, 加藤和也・黒川信重・斎藤毅, 岩波書店

参考文献

[1]
小山信也, 素数とゼータ関数, 共立講座 数学の輝き6, 共立出版, 2015
[2]
Tom M. Apostol, Introduction to Analytic Number Theory, Springer
投稿日:202113
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