計算上素数の逆数和は収束しそう
実数に対して, ,をそれぞれ素数全体, 未満の素数全体とする. まず, 素数の逆数和について有限和で考えてみよう.
値が小さいし, 収束しそう...?そこで, pythonを使ってがばっと計算してみる(コード作りに慣れていないので見にくいかもしれませんがお許しください><).
素数
上のコードを使って, 整数未満の素数の逆数和を求めると,
となる. どれだけを大きくしようと, すら超えそうにない. よって収束する, と安易に決めつけてはいけない. 実際,
が成り立つのである(は, で定数に収束するの関数, と思ってくれればよい). 従って, ととれば以下の素数の逆数和がを越えるだろうと考えられる.
だから, は桁の数である. 上で求めた逆数和は桁程度なので, いかに膨大な量を計算しなければに到達しないかが分かる. 話を戻すが, 理論上は素数の逆数和は正の無限大に発散するのである. この級数は収束しそうで発散する代表的な例であり, 計算だけで判断するなという戒めにもなる.
そこで, この級数が発散することの証明を, Eulerの方法(1737?),Erdősの方法(1938),Clarksonの方法(1966), Vandeneyndenの方法(1980)のパターン紹介する. 実はもう一つ簡単な示し方があるが, それは逆数和が発散することを示すのが目的ではないので, 次の機会にでも記事にしたいと思う. まず, 準備として次を示しておく.
とすると
より収束する. またの場合は, 対象が正項級数ゆえのときのみ示せば十分である. そこで収束すると仮定すると,
これは矛盾である.
それでは, 本題に入っていく.
理論上素数の逆数和は発散する
Eulerの方法・・・厳密には無限積の話や絶対収束の話が必要だが, 感覚的には命題と対数関数のテイラー展開を知っていればすぐに理解できる証明.
Euler(1737?)
とする.
と変形できる. ここで
だから, 二項目は
と評価でき, 収束が確認できる. 従って, 素数の逆数和の収束発散はのでの収束発散に置き換えられる. しかし, 命題よりがで正の無限大に発散するので, も発散する. 以上より, 素数の逆数和は発散する.
Erdősの方法・・・非常にエレガントな証明. 証明を追ったすべての人を虜にしたに違いない. 自然数の性質をうまく利用している.
Erdős(1938)
番目の素数をと書く. 素数の逆数和が収束すると仮定すると, ある自然数が存在して
が成り立つ. を以上の自然数としてとり, をより大きな素因子をもつ以下の自然数の個数, を以下の素因子を持つ以下の自然数の個数とする. 即ち, で非負整数全体を表わすとすれば,
もちろん, である. 一般に, 素数の倍数である以下の自然数の個数はだから, は
と評価できる. 次に, のみを素因子にもつ以下の自然数をひとつとり, のように平方因子を含まないと平方数の積で表わす. の可能性は, 各を含むか否かの通りある. 一方,
よりだから, の可能性は高々通りである. よって, の可能性は高々通りであり,
と評価できる. 以上より,
これを変形するととなり, について解けば
が得られる. ところが, は以上としてとっていたので矛盾が生じている. 従って, 素数の逆数和は発散する.
Clarksonの方法・・・素数の性質, 特に素因数分解の一意性をうまく利用した証明. 一見複雑だが, 難しい議論は必要ない. 有限和をに依存しない形で上から抑えるという手法はとても面白い.
Clarkson(1966)
自然数に対しで番目の素数を表わすとする.
収束すると仮定し矛盾を導く. もし収束するなら, ある自然数が存在して
が成り立つ. とおくと,はのどれでも割れないので,
と因数分解できる. もちろん, が十分大きければ, である. ここで, 上の二項関係を
で定めれば, 素因数分解の一意性よりwell-definedである. 自然数に対して, 商集合:
はの部分集合と同一視できるため, にと同じ順序を入れ, の元を小さい順にと書くことにする. このとき,
このことから,
が成り立つ. しかし,
より矛盾が生じているので, 素数の逆数和は正の無限大に発散する. 但し, 二つ目の不等式にて
Euler-Maclaurinの定理
の定理を用いた.
Vandeneyndenの方法・・・の無限積が発散することを用いた証明. よく知られた不等式を使って素数の逆数和へ繫いでいる. 証明されたのが年前と比較的最近なのも驚きである.
Vandeneynden(1980)
任意の素数に対して
が成り立つ. そこで, 以下の素数すべてに対して積をとる:
以下の素数の積で表せる自然数全体をとおくと,
命題より, はで収束し, は正の無限大に発散する. 即ち,
ところで, 正実数に対してを満たすから,
従って, 追い出しの原理より
が成り立つ.
さいごに
どの証明方法も美しく, かつ簡潔でいいですね. 私はErdősの証明が好きです. よくできすぎているところに神秘性を感じるのもありますが, 一番の理由は自然数の逆数和が発散することを用いずに証明できるからです. みなさんはどの証明方法がお好みですか?
[1] 素数とゼータ関数, 小山信也, 共立出版
[2] Introduction to Analytic Number Theory, T.M.Apostol, Springer.
[3] 数論2-類体論とは, 加藤和也・黒川信重・斎藤毅, 岩波書店