突然ですが、Twitterに新作の数学動画をアップしたらなぜか私のアカウントが凍結されてしまいました。誤BANだと思うので現在異議申請中ですが、しばらくツイートすることができません。
それはさておき、この記事では$k$-ナッチ数列の誤差数列の無限和を求めてみたいと思います。
まず、フィボナッチ数列の漸化式を隣接 $k$ 項の和に一般化した $k$-ナッチ数列を次のように定義します。
$$ \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} a_k(0) =a_k(1) =\cdots=a_k(k-2) = 0,\\ a_k(k-1) = 1,\\ a_k(n+k) =a_k(n)+a_k(n+1)+a_k(n+2)+\cdots+a_k(n+k-1) \qquad(n \ge 0). \end{array} \right. \end{eqnarray}$$
一般項は次のように四捨五入を使って表現することができます。
k-ナッチ数列の第$n$項を $a_k(n)$ と表記する。このとき、$a_k(n)$ は次の式で求めることができる。
${\displaystyle
a_k(n)=\left\lfloor
\frac{A_k^n}{B_k}
\right\rceil
}$
ただし、$A_k,B_k$は次の定数である。
$f_k(x)=x^k-x^{k-1}-x^{k-2}-\cdots-x^2-x-1$
として、
${\displaystyle A_k\cdots\cdots f_k(x)=0\text{ の正の実数解} }$
${\displaystyle \begin{align} B_k &=f_k'(A_k) \end{align} }$
$\left\lfloor x\right\rceil$ は以前の記事と同様、四捨五入を表す関数です。すなわち
$\left\lfloor x\right\rceil=\left\lfloor x+\frac{1}{2}\right\rfloor$
ということです。
また、以下では特に断りがない限り $k$ は2以上の自然数とします。$(2\leqq k,k\in\mathbb{N})$
また、$n$ は非負整数とします。$(n\in\mathbb{Z_{\ge0}})$
$k$ -ナッチ数列と ${\displaystyle\frac{A_k^n}{B_k}}$ との誤差数列を次のように $R_k(n)$と定義します。
${\displaystyle R_k(n):=a_k(n)-\frac{A_k^n}{B_k}}$
以前の記事では
${\displaystyle\left |R_k(n)\right|<\frac{1}{2}
\qquad(0\le n)}$
であることを証明しました。
以前の記事: フィボナッチ数列を拡張したk-ナッチ数列の一般項についての予想(その4・証明完成)
この記事では、次の無限和を計算したいと思います。
${\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}R_k(n)=\qquad?}$
四捨五入によらない$k$-ナッチ数列の一般項の表現は次のようになります。
${\displaystyle a_k(n) = \sum_{i=1}^{k} \frac{\beta_i^{n}}{f_k'(\beta_i)} }$
ただし、$f_k(x)=x^k-x^{k-1}-\cdots-x^2-x-1$ として $\beta_1,\beta_2,\cdots,\beta_k$ は $x$の方程式 $f_k(x)=0$ の$k$個の解を表し、$f_k'(x)$ は $f_k(x)$ の導関数である。
ここからの議論の便宜上、$\beta_1=A_k$ と割り当てておきます。
誤差数列の一般項は次のようになります。
${\displaystyle\begin{align}
R_k(n)&=a_k(n)-\frac{\beta_1^n}{f'(\beta_1)}\\
&=\sum_{i=2}^{k}
\frac{\beta_i^{n}}{f'(\beta_i)}
\end{align}}$
${\displaystyle\left |\beta_2\right|,\left |\beta_3\right|,\ldots,\left |\beta_k\right|<1}$
であることが以前の記事で分かっています。
以前の記事: フィボナッチ数列を拡張したk-ナッチ数列の一般項についての予想(その2)
したがって、誤差数列の無限和
${\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}R_k(n)}$
は収束することがわかります。
${\displaystyle\begin{align} \sum_{n=0}^{\infty}R_k(n) &=\sum_{n=0}^{\infty}\sum_{i=2}^{k} \frac{\beta_i^{n}}{f_k'(\beta_i)}\\ &=\sum_{i=2}^{k} \frac{1}{(1-\beta_i)f_k'(\beta_i)}\\ \end{align}}$
${\displaystyle\begin{align} \sum_{n=0}^{\infty}R_k(n) &=\sum_{i=2}^{k} \frac{1}{(1-\beta_i)f_k'(\beta_i)}\\ \end{align}}$ ……(♥)
ここから少し工夫します。
$f_k(x)=x^k-x^{k-1}-x^{k-2}-\cdots-x^2-x-1$
でしたので、
$(x-1)f_k(x)=x^{k+1}-2x^{k}+1$
両辺微分して
$f_k(x)+(x-1)f_k'(x)=(k+1)x^{k}-2kx^{k-1}$
$(1-x)f_k'(x)=f_k(x)-(k+1)x^{k}+2kx^{k-1}$
${\displaystyle\begin{align}(1-\beta_i)f_k'(\beta_i) &=f_k(\beta_i)-(k+1)\beta_i^{k}+2k\beta_i^{k-1}\\ &=-(k+1)\beta_i^{k}+2k\beta_i^{k-1}\qquad\left(\because f_k(\beta_i)=0\right) \end{align}}$
これを使うと
${\displaystyle\begin{align} \sum_{n=0}^{\infty}R_k(n) &=\sum_{i=2}^{k} \frac{1}{(1-\beta_i)f'(\beta_i)}\\ &=\sum_{i=2}^{k} \frac{1}{-(k+1)\beta_i^{k}+2k\beta_i^{k-1}}\\ \end{align}}$
$(x-1)f_k(x)=x^{k+1}-2x^{k}+1$
より
$(\beta_i-1)f_k(\beta_i)=\beta_i^{k+1}-2\beta_i^{k}+1$
$f_k(\beta_i)=0$ なので
$2\beta_i^{k}=\beta_i^{k+1}+1$
$\therefore2\beta_i^{k-1}=\beta_i^{k}+\frac{1}{\beta_i}$
これを使うと
${\displaystyle\begin{align} \sum_{n=0}^{\infty}R_k(n) &=\sum_{i=2}^{k} \frac{1}{-(k+1)\beta_i^{k}+2k\beta_i^{k-1}}\\ &=\sum_{i=2}^{k} \frac{1}{-(k+1)\beta_i^{k}+k\beta_i^{k}+\frac{k}{\beta_i}}\\ &=\sum_{i=2}^{k} \frac{1}{\frac{k}{\beta_i}-\beta_i^{k}}\\ &=\sum_{i=2}^{k} \frac{\beta_i}{k-\beta_i^{k+1}}\\ \end{align}}$
というわけで、誤差数列の無限和の式がとりあえずできました。
${\displaystyle\begin{align} \sum_{n=0}^{\infty}R_k(n) &=\sum_{i=2}^{k} \frac{\beta_i}{k-\beta_i^{k+1}}\\ \end{align}}$
・・・しかし、複素数を含む式になってしまいました。
もっとシンプルな表現にできそうな気がします。
対称式の性質を使えば、$\beta_i$を使わず、$A_k$ を使った、実数だけの式にできそうですが、うまい方法を思いつきませんでした。
「こうすればできるよ!」など、情報がありましたら教えていただけると幸いです。
(2021.3.20 23:45追記)
コメント欄にて
子葉
さんから、まさに「 $\beta_i$を使わず、$A_k$ を使った、実数だけの式にする方法」を教えていただきました!
とても面白い方法ですので、以下紹介したいと思います。
$\beta_1,\beta_2,\ldots\beta_k$ の中から一つ選び、$\alpha$ とします。
$x^k-x^{k-1}-x^{k-2}-\cdots-1$ を $(x-\alpha)$ で次のように「因数分解」することを考えます。
${\displaystyle x^k-x^{k-1}-x^{k-2}-\cdots-1=(x-\alpha)\sum_{j=0}^{k-1}c_jx^j}$ ……(★)
(★)の両辺の係数を比較すると
${\displaystyle\begin{cases} 1&=c_{k-1}\\ -1&=c_{k-2}-\alpha c_{k-1}\\ -1&=c_{k-3}-\alpha c_{k-2}\\ \qquad\vdots\\ -1&=c_{0}-\alpha c_{1}\\ -1&=-\alpha c_{0}\\ \end{cases}}$
これを解いて
${\displaystyle\begin{cases}
c_{k-1}&=1\\
c_{k-2}&=\alpha -1\\
c_{k-3}&=\alpha^2-\alpha -1\\
\qquad\vdots\\
c_{1}&=\alpha^{k-2}-\alpha^{k-3}-\cdots -1\\
c_{0}&=\alpha^{k-1}-\alpha^{k-2}-\alpha^{k-3}-\cdots -1\\
\end{cases}}$
(★)に $x=1$ を代入して両辺を $(1-\alpha)f_k'(\alpha)$ で割ると
${\displaystyle\begin{align} \frac{1-k}{(1-\alpha)f_k'(\alpha)} &=\frac{1}{f_k'(\alpha)}\sum_{j=0}^{k-1}c_j\\ &=\frac{1}{f_k'(\alpha)}\left(\alpha^{k-1}-\alpha^{k-3}-2\alpha^{k-4}-3\alpha^{k-5}-\cdots-(k-3)\alpha-(k-2)\right) \end{align}}$
この式に $\alpha=\beta_1,\beta_2,\ldots\beta_k$ を代入したものを足し合わせ、${\displaystyle a_k(n)= \sum_{i=1}^{k} \frac{\beta_i^{n}}{f_k'(\beta_i)} }$ を使うと、
${\displaystyle\begin{align} \sum_{i=1}^{k}\frac{1-k}{(1-\beta_i)f_k'(\beta_i)} &=a_k(k-1)-a_k(k-3)-2a_k(k-4)-3a_k(k-5)-\cdots-(k-3)a_k(1)-(k-2)a_k(0) \end{align}}$
この式に
$$ \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} a_k(0) =a_k(1) =\cdots=a_k(k-2) = 0,\\ a_k(k-1) = 1.\\ \end{array} \right. \end{eqnarray}$$
を代入すると
${\displaystyle\begin{align} \sum_{i=1}^{k}\frac{1-k}{(1-\beta_i)f_k'(\beta_i)}
&=1
\end{align}}$
${\displaystyle\begin{align}\therefore \sum_{i=1}^{k}\frac{1}{(1-\beta_i)f_k'(\beta_i)}
&=-\frac{1}{k-1}
\end{align}}$
この記事を少し戻って、この式(♥)を思い出します。
${\displaystyle\begin{align} \sum_{n=0}^{\infty}R_k(n) &=\sum_{i=2}^{k} \frac{1}{(1-\beta_i)f_k'(\beta_i)}\\ \end{align}}$
${\displaystyle\begin{align} \sum_{n=0}^{\infty}R_k(n) &=-\frac{1}{(1-A_k)f_k'(A_k)}+\sum_{i=1}^{k} \frac{1}{(1-\beta_i)f_k'(\beta_i)}\\ &=\frac{1}{(A_k-1)f_k'(A_k)}-\frac{1}{k-1}\\ \end{align}}$
これで無事に実数だけの式を作ることができました!
${\displaystyle\begin{align} \sum_{n=0}^{\infty}R_k(n) &=\frac{1}{(A_k-1)f_k'(A_k)}-\frac{1}{k-1}\\ \end{align}}$
とてもシンプルな表現ができました!これなら計算も容易ですね。
子葉
さん本当にありがとうございました。