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大学数学基礎解説
文献あり

e^π が超越数であることの証明 (3/3)

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eπ が超越数であることを証明 の最後の記事となる。 前回 までに、eπ が超越数であることを証明するために、
0r,s<N3,0λ<N4,0μ<N
となる整数 r,s,λ,μ に対して
aλ,μ(r,s)(x)=(r+si)λ((1)rxs)μ
とし、
aλ,μ(r,s)(eπ)=(r+si)λ((1)reπs)μ=(r+si)λeμπi(r+si)
(rN3+s,λN+μ) 成分にもつ N6×N5 行列 M を構成し、前回
rankM=N5    (2)
を証明した。

よって (rj,sj)(1jN5) をうまく選んだとき、Ξ(x)
aλ,μ(rj,sj)(x)=(rj+sji)λ((1)rjxsj)μ
(j,λN+μ) 成分にもつ N5×N5 行列の行列式とすると Ξ(x)x の多項式で Ξ(eπ)=Δ0 となる。

第1回の記事に述べたように (2) と
degΞN9,h(Ξ)N4N9,|Δ|eN10    (3)
を示せば、eπ が超越数であることが示せることができる。そこで、今回 (3) を証明し、 eπ が超越数であることの証明を完結させる。

Ξ の次数と高さ

0rj,sj<N3,0μ<N であるから、各成分の次数は N4 より小さいので degΞN9 はすぐにわかる。また各成分は単項式で、係数の大きさは
|rj+sji|λ<(rj2+sj2)N4/2<(N32)N4/2
により評価できるから、N が大きいとき
h(Ξ)<(N5)!(N32)N9/2<N5N5(N4)N9/2=N4N9/2+5N5<N4N9
となる。

Δ の大きさ

したがって、残るは |Δ|eN10 を証明するのみとなる。

ζj=rj+sji,fλN+μ(z)=zλeπiμζj とおくと f0(z)=1 かつ
aλ,μ(rj,sj)(eπ)=(rj+sji)λ((1)rjeπsj)μ=ζjλeπiμζj=fλN+μ(ζj)
となる。

よって、
fλN+μ(ζjz)=(ζjz)λeπiμζjz=((rj+sji)z)λ((1)rjzesjπz)μ
(j,λN+μ) 成分にもつ N5×N5 行列を Ω(z) とおくと
Δ=||Ω(1)||
とあらわされる。

そこで ||Ω(1)|| の大きさを評価するために ||Ω(z)|| であらわされる z の関数の性質を考察する。

まず 0j<N5,0k=λN+μ<N5 に対して
fk(ζjz)=(ζjz)λ(1πiμ(ζjz)+(πiμζjz)22!+(πiμζjz)33!+)=ck,0+ck,1(ζjz)+
とべき級数展開できる。また f0(z)=1 である。

f0(1)(z)=f0(z)=1 とする。よって Ω(z) の第 0 列は
(f0(1)(ζ1z)f0(1)(ζ2z)f0(1)(ζN51z))=(111)
となる。また Ω(z) の第 k 列の成分 fk(ζjz) のべき級数展開の定数項はすべて ck,0 であるから、第 k 列から第 0 列の ck,0 倍を引いて、
fk(z)ck,0 に置き換えることで各列のべき級数展開の定数項を消すことができる。
つまり 1kN51 のとき fk(1)(z)=fk(z)ck,0 とおき fk(1)(ζjz) を第 (j,k) 成分とする行列を Ω1(z) とおくと、
||Ω1(z)||=||Ω(z)||
となる。また
Ω1(z)=(1c1,1(ζ1z)+c1,2(ζ1z)2+c2,1(ζ1z)+c2,2(ζ1z)2+cN51,1(ζ1z)+cN51,2(ζ1z)2+1c1,1(ζ2z)+c1,2(ζ2z)2+c2,1(ζ2z)+c2,2(ζ2z)2+cN51,1(ζ2z)+cN51,2(ζ2z)2+1c1,1(ζN5z)+c1,2(ζN5z)2+c2,1(ζN5z)+c2,2(ζN5z)2+cN51,1(ζN5z)+cN51,2(ζN5z)2+)
とあらわされる。

つぎに第 1 列から第 N51 列までのうち、fk(1)(z),(1kN51) のうち、べき級数展開に現れる係数が0でない項の次数の最も低いものをとって、その添え字 kk1、係数が 0 でない最初の項の次数を 1 とすると
fk1(1)(z)=ck1,1z1+ck1,1+1z1+1
と展開され
Ω1(z)=(1c1,1(ζ1z)1+c1,1+1(ζ1z)1+1+c2,1(ζ1z)1+c2,1+1(ζ1z)1+1+cN51,1(ζ1z)1+cN51,1+1(ζ1z)1+1+1c1,1(ζ2z)1+c1,1+1(ζ2z)1+1+c2,1(ζ2z)1+c2,1+1(ζ2z)1+1+cN51,1(ζ2z)1+cN51,1+1(ζ2z)1+1+1c1,1(ζN5z)1+c1,1+1(ζN5z)1+1+c2,1(ζN5z)1+c2,1+1(ζN5z)1+1+cN51,1(ζN5z)1+cN51,1+1(ζN5z)1+1+)
とあらわされる。

k0,k1 のとき fk(1)(z) のべき級数展開の、係数が 0 でない最初の項の次数はすべて 1 以上だから複素数 c をうまくとれば fk(1)(z)cfk1(1)(z) のべき級数展開の、係数が 0 でない最初の項の次数は 1 より大きくなる。そこで、fk(1)(z)fk(1)(z)cfk1(1)(z) に置き換える。さらに、fk(1) の添え字を並び替えて k11 に並び替える。ただし f0(1) はそのままとする。このようにして新たに得られたものを fk(2)(z) とおくと
f0(2)(z)=1,
f1(2)(z)=ck1,1z1+
となり、 k2 のとき fk(2) のべき級数展開の、係数が 0 でない最初の項の次数は 1 より大きくなる。そして fk(2)(ζjz) を第 (j,k) 成分とする行列を Ω2(z)とおくと
||Ω2(z)||=||Ω1(z)||=||Ω(z)||
となる。また
Ω2(z)=(1c1,1(ζ1z)1+c1,1+1(ζ1z)1+1+c2,1+1(ζ1z)1+1+c2,1+2(ζ1z)1+2+cN51,1+1(ζ1z)1+1+cN51,1+2(ζ1z)1+2+1c1,1(ζ2z)1+c1,1+1(ζ2z)1+1+c2,1+1(ζ2z)1+1+c2,1+2(ζ2z)1+2+cN51,1+1(ζ2z)1+1+cN51,1+2(ζ2z)1+2+1c1,1(ζN5z)1+c1,1+1(ζN5z)1+1+c2,1+1(ζN5z)1+1+c2,1+2(ζN5z)1+2+cN51,1+1(ζN5z)1+1+cN51,1+2(ζN5z)1+2+)
とあらわされる。

さらに一般に 2nN52 について fk(n)(k=0,1,,N51) が関数の列で、k=0,1,,n1 について fk(n) のべき級数展開の、係数が 0 でない最初の項の次数を k とおくと
0<1<<n1,
かつ kn のときfk(n) のべき級数展開の、係数が 0 でない最初の項の次数は n1 より大きいとする。

このとき fk(n)(nkN51) のうち、べき級数展開に現れる係数が0でない項の次数の最も低いものをとって、その添え字 kkn、係数が 0 でない最初の項の次数を n とすると
fkn(n)(z)=ckn,n(n)zn+ckn,n+1(n)zn+1
と展開される。 kn かつ kkn のとき fk(n)(z) のべき級数展開の、係数が 0 でない最初の項の次数はすべて n 以上だから複素数 c をうまくとれば fk(n)(z)cfkn(n)(z) のべき級数展開の、係数が 0 でない最初の項の次数は n より大きくなる。そこで、fk(n)(z)fk(n)(z)cfk1(n)(z) に置き換える。さらに、fk(n)(nkN51) の添え字を並び替えて knn に並び替え、新たに得られたものを fk(n+1)(z) とおくと k=0,1,,n について fk(n) のべき級数展開の、係数が 0 でない最初の項の次数は k で、0=0<1<<n となる。さらに fk(n)(ζjz) を第 (j,k) 成分とする行列を Ωn(z) とおくと
||Ωn(z)||==||Ω1(z)||=||Ω(z)||
となる。

このようにして得られる fk(N51)(ζj) を第 (j,k) 成分とする行列 ΩN51(z)
ΩN51(z)=(1c1,1(ζ1z)1+c1,1+1(ζ1z)1+1+c2,2(ζ1z)2+c2,2+1(ζ1z)2+1+cN51,N51(ζ1z)N51+cN51,N51+1(ζ1z)N51+1+1c1,1(ζ2z)1+c1,1+1(ζ2z)1+1+c2,2(ζ2z)2+c2,2+1(ζ2z)2+1+cN51,N51(ζ2z)N51+cN51,N51+1(ζ2z)N51+1+1c1,1(ζN5z)1+c1,1+1(ζN5z)1+1+c2,2(ζN5z)2+c2,2+1(ζN5z)2+1+cN51,N51(ζN5z)N51+cN51,N51+1(ζN5z)N511+)
とあらわされる。そして
||ΩN51(z)||=||Ω(z)||
となり、とくに
||ΩN51(1)||=||Ω(1)||=Δ
が成り立つ。

ここで注目すべきは fk(N51)(z)(k=0,1,,N51) のべき級数展開の、最初に現れる項の次数は k だが
0=0<1<<N51
だから kk となることである。よって ΩN51(z) の第 kfk(N51)(ζjz)(k=0,1,,N51) のべき級数展開の、最初に現れる項の次数は少なくとも k となるから
||Ω(z)||=uN5(N51)/2zN5(N51)/2+
とべき級数展開される。このことは ||Ω(z)||/zN5(N51)/2 が正則であることを意味している。

このことから Δ=||Ω(1)|| の大きさを評価するために、最大値の原理を用いることができる。
|z|=e3 のとき
|fλN+μ(ζjz)|=|((rj+sji)z)λeπiμζjz|<(N3|z|2)λeπμN3|z|2
となる。よって N>e2+πe32,|z|=e3 ならば
|fλN+μ(ζjz)|<(eN32)N4eπN(eN)32=N3N4e2N4+πe32N4<N4N4
となるので
|||Ω(z)||zN5(N51)/2|<(N5N4N4)N5e3N5(N51)/2<N4N9+5N5e3N5(N51)/2
となる。N が十分大きいとき (4N9+5N5)logN+3N5/2<N10/2 となるから
|||Ω(z)||zN5(N51)/2|<eN10
となる。最大値の原理から、これは |z|e3 となるすべての z について成り立つ。よって
|Δ|=|detΩ(1)|<eN10
となる。これによって (3) の条件がすべて確かめられ、eπ が超越数であることが証明された。

最大値の原理について

ある点 z0 において領域 D で収束するべき級数展開が与えられている関数 f(z) について、領域 D に関する最大値の原理はつぎのようにしてすぐにわかる。z1D の内部の点とし、z1f(z) が領域 D における最大値をとり z=z0 におけるべき級数展開
f(z)=a0+a1(zz0)+a2(zz0)2+
において a1,a2, の少なくともひとつは 0 ではないと仮定する。z=z(z1z0) を代入すれば z=z1 におけるべき級数展開
f(z)=b0+b1(zz1)+b2(zz1)2+
が得られる。また b1,b2, の、少なくともひとつは 0 ではない。

そこで bk0,k>0 となる最小の k をとることができる。θ=(arg(b0/bk))/kδ>0 を十分小さい数とすると z2=z1+δeθiD の内部に含まれ、かつ |zz1|=δ が十分小さいので
|bk+1(z2z1)+bk+2(z2z1)2+|<|b1|2
つまり
|bk+1(z2z1)k+1+bk+2(z2z1)k+2+|<|bk(z2z1)k|2=|bk|δk2
となる。

b0+bk(z2z1)k=b0+bkδkeθki であるが θ の定義から argeθki=arg(b0/bk) なので arg(bkδkeθki)=argb0 である。よって
|b0+bk(z2z1)k|=|b0|+|bk|δk
となる。したがって
|f(z2)||b0+bk(z2z1)k||bk+1(z2z1)k+1+bk+2(z2z1)k+2+|>|b0|+|bkδk||bk|δk2=|b0|+|bk|δk2>|f(z1)|
となり、z1f(z) が領域 D における最大値をとると仮定したことに矛盾する。よって f(z)z=z0 におけるべき級数展開において、定数項以外の係数は 0 でなければならない。

つまり、 f(z) が、ある点 z0 で定数ではないべき級数展開をもち、それがある領域 D で収束しているとき、 f(z)D における最大値は、 D の境界でしかとられないのである。

その後の展開

Laurent, Mignotte, Nesterenko の共著論文 [2] は、この記事で紹介したNesterenkoの方法を用いて2つの代数的数の対数の1次形式
b1logα1+b2logα2
の大きさの評価を行っている。さらに Bennett, Blass, Glass, Meronk, Steiner [3] や Mignotte [4] は、この方法を3つの代数的数の対数の1次形式
b1logα1+b2logα2+b3logα3
の大きさの評価に拡張している。ただし、これには、補助多項式を構成するための行列式が消滅しないことを証明するために代数幾何学の高度な手法([5]を参照)を用いている。

参考文献

[1]
Y. Nesterenko述, 田中孝明訳・記, $e^\pi$ の超越性について, 第5回超越数論研究集会報告集 1996年12月3-5日 於学習院創立百周年記念会館, 1996, pp. 58--63
[2]
Michel Laurent, Maurice Mignotte, and Yuri Nesterenko, Formes lin\'{e}aires en deux logarithmes et d\'{e}terminants d'interpolation, J. Number Theory, 1995, pp. 285--321
[3]
Curtis D. Bennett, Josef Blass, A. M. W. Glass, David B. Meronk, and Ray P. Steiner, Linear forms in the logarithms of three positiverational numbers, J. Th. Nombres Bordeaux, 1997, 97--136
[5]
MIchel Waldschmidt, Diophantine Approximation on Linear Algebraic Groups - Transcendence Properties of the Exponential Function in Several Variables, A Series of Comprehensive Studies in Mathematics, Springer, 2000
投稿日:2021424
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tyamada
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  1. Ξ の次数と高さ
  2. Δ の大きさ
  3. 最大値の原理について
  4. その後の展開
  5. 参考文献